ベルリン在住のイラストレーター・KiKiさんが、自身が育った日本の村とベルリンの暮らしの共通点をつづるコラム。彼女自身はなぜベルリンに移り住むことを決めたのか。今回は、その理由を掘り下げる。
KiKi
イラストレーター/コラムニスト
西伊豆の小さな美しい村出身。京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科卒業後、同大学マンガ学科研究室にて副手として3年間勤務。その後フリーランスに。2016年夏よりベルリンに移住。例えば、…
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ドイツの首都・ベルリン。わたしはこの街に2016年の夏に引っ越してきた。
理由は、さまざまな国の人たちが住む国際都市で多様性を認め合う暮らしを体験したかったことと、アートが身近にある環境で生活を送りたかったからだ。
“村”という、とても小さな空間で生まれ育ったわたしは、“さまざまな人・文化が交差する世界で暮らしてみたい”と強い憧れを抱くようになっていた。
引っ越したばかりのころ、言語の壁はエベレストかと思うくらい高く険しく感じたが、4年経ってだいぶ人々の会話がわかるようになってきた。
いまは、きつかった言語の登山も楽しい。言語の理解によって、いつも目の前にあったモヤモヤの霧が晴れてきたころ、「この街が好きだ」と感じていた理由も、くっきりと見えてきた。
ベルリンは人口360万人、190カ国を超える海外出身者も暮らしている大都会だ。しかし自然との距離がとても近く、人と人との距離は心地よい感覚でつながっていて、それぞれが自分であること、いまを生きることを楽しんでいる。
そして何よりときどき、生まれ育った故郷から距離も、言語も、文化も、環境も、とても離れた国の街のはずなのに、なぜか懐かしさでいっぱいになるところに惹かれている。
わたしの故郷は西伊豆にある小さな小さな村で、いま住民はおそらく20人もいない。
小学校へ上がるとき、集落唯一の交通機関であるバスが採算が取れないから、という理由で廃止。小学校から中学卒業までの9年間は教育委員会からの援助を受け、ひとつ山を越えた隣の村までタクシーで通学していた。
まともにお買い物ができるお店までは、父の車で片道1時間。お買い物とお出かけは、当時のわたしにとって特別なものだった。
もちろん高校は家から通える距離には存在せず、15歳で実家と地元から巣立ち、その日から第2の故郷となるべく場所を探す旅がはじまった。
田舎で育った大体の子どもたちは、キラキラして刺激的な都会に強い憧れを抱く。わたしも同じだった。すぐ近くにある当たり前なものこそ、その魅力に気づくにはいろんなものを見て経験して“他”を知る必要がある。
大人になったいま、やっとそこは自然豊かで、とても恵まれた環境だったということに気づいた。そして世界で一番美しい場所は自分の故郷であると確信している。……少し、ひいきが入っているかもしれないけれど。
一方ベルリンは、どこでもすぐに電車にもバスにも乗れる。スーパーもショッピングモールも、おしゃれなカフェもたくさん。エアポートだって、ふたつある。近隣の街どころか、他の国にもすぐに行けてしまう。
こんなふうに、わたしの故郷はベルリンの街と全くかけ離れている。
それなのに、ご近所さんの宅配便が届いたときに不在だったら預かりあったり、スーパーの店員さんは友達のような存在だったり、ごみ分別には「生ごみ」のカテゴリーがあったり、不要なものを必要な人に送る習慣もあったり……。
生活していると懐かしくて、たまらない事にたくさん出逢うのだ。
Photo by KiKi
エコ大国ドイツの首都・ベルリンに住む人々は、エコ活動に夢中だ。
企業の取り組みから、一人ひとりの生活の行動まで。それらは、わたしが子どもの頃に過ごした小さな村での素朴な生活とよく似ている。
しかし、それはそのままではなく、現代社会に合うようにアレンジされている。この都会の生活のなかに、小さな村での生活が程よくミックスされている感じが、とても心地がいい。
この現象は、まるで都会が昔の村の生活を目指して逆走しているようだ。でも、わたしはそのように感じない。
むしろ、それは決して後退ではなく、きちんとお互いのいいところを残して、いまの時代にあった新しいカルチャーとして大進化しているのだと思う。これがわたしのエコやサステナブルへの想いを呼び起こしてくれた。
この連載では毎回ふたつの共通点をあげ、ベルリンでのエコやサステナブルな取り組みとライフスタイルを紹介いきたいと考えている。
いまの日本に、昔の村での生活を現代の形で取り入れていったら、どのようなあたらしいサステナブルでエコな社会が生まれるのか。そんなヒントになるような、あなたの心地いい生活を、みんなの地球のことを、考えるきっかけになっていったら嬉しい。
次回は、ベルリンの街中でいまでもみられる“生ごみ箱”についてご紹介する。
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