ベルリン在住のイラストレーター・KiKiさんが、自身が育った西伊豆の日本の村とベルリンの暮らしの共通点をつづるコラム。毎月14日と28日に公開中。今回は、2020年の10月から自作コンポストに挑戦していた様子のレポートだ。
KiKi
イラストレーター/コラムニスト
西伊豆の小さな美しい村出身。京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科卒業後、同大学マンガ学科研究室にて副手として3年間勤務。その後フリーランスに。2016年夏よりベルリンに移住。例えば、…
Vol.1の「生ゴミは”ゴミ”ではなく”畑の宝”」で紹介したとおり、ベルリンで回収された生ごみは、2つのルートを辿る。1つは堆肥化され、地元の農家さんたちに送られる。もう1つはバイオガス化され、ごみ収集車の燃料になるのだ。
この街では、決められた方法に沿ってコンテナに捨てれば自動的にコンポストに送られるので、わざわざ自分でつくる必要はない。でも、生ごみがどのように分解されていくのかこの目で見てみたい。
そこで「実験」を目的に、自分でコンポストをつくってみることにした。
コンポストとは、家庭から出る生ごみを微生物たちの力によって分解と発酵することで、堆肥として生まれ変わらせて再利用すること。訳すと、動詞で「堆肥化する」。名詞で「堆肥」だ。
家庭でコンポストをつくる方法を調べてみると、庭や畑などで大きな木箱を自作して行う方法、ミミズを投入する方法などがあることがわかった。
わたしが住んでいるアパートメントには中庭があるが、共有スペースなので大掛かりなコンポストを勝手に設置することはできない。ということで室内でできる方法を模索する。
近所のドラッグストアで「麦ぬか」というものを発見
ミミズに生ごみの分解を手伝ってもらうミミズコンポスト(※1)は、同居人が嫌がったため最初に却下。その他、設置環境や手軽に始められる方法を検討した。
最終的には、コンポストは窓の外側の出っ張り(30cm幅)に設置して、そこに置ける容器を選ぶことにした。基材は、土と米ぬか(発酵剤)を基材にするというシンプルな方法(※2)を試すことにした。
※1 Kompostieren ohne Garten: So baust du eine Wurmkiste!https://www.smarticular.net/wurmkiste-selber-bauen-bauanleitung-fuer-die-wurmfarm-auf-dem-balkon/
※2 【生ごみゼロ】バケツコンポストを自宅のベランダで(ほぼ無料!)ビフォーアフター有https://www.youtube.com/watch?v=zNgzyCcVR6U
米ぬかはベルリンでも通販で購入できるみたいだが、高額だった。その代わりに、近所のドラックストアで「麦ぬか」というものを発見した。0.98ユーロ(約123円)とお手頃な価格なので、麦ぬかで代用してみることにした。
自作コンポストに取り組む人には、プラスチック製のバケツや使わなくなった植木鉢を活用する人もいるらしい。しかしプラスチック製のものは使いたくないし、使わない植木鉢も手元にない。ちょうど良さそうな容器がないかと散歩してみたが、道端にも落ちていなかった。
しかたないので新しく買うことにしたが、どうせなら愛着を持って育てたい。とびっきりお気に入りを選ぶことにして向かった先は、「o.k.-Versand 」という大好きな雑貨屋さんだ。
ここには世界中、主に発展途上国から集められた、カラフルでへんてこなアイディア溢れる雑貨がずらりと並んでいる。売上金の一部を発展途上国などの支援プロジェクトにも寄付しているお店だ。
店頭で見かけた黄色いミルクポットが、形も色も可愛いと一目惚れして即決。直径15cm、高さ20cmと、窓際に置くのにもちょうどいいサイズだ。
最後に、基材の一つである土だ。ベルリンに自分の畑はないので、近所のガーデニングセンターに行って土を買うことにする。店頭には驚いたことに、土にはたくさんの種類があり、ずらりと並んでいた。
どれにしたらいいのか全くわからず、「コンポストをつくるための土はどれですか?」と店員さんに聞いてみる。
すると店員さんからは「いまの時期(秋から冬)はコンポストをつくるシーズンじゃないわよ。春になるまで待たないと」との答えが。一方わたしは、冬でも時間はかかるがコンポストづくりは可能という記述を読んでいたので、「とりあえずチャレンジしてみたいんです。土を教えてもらえませんか?」と熱意を伝える。
食いさがって案内されたのは、「Komposterde」。訳すと「コンポストの土」でそれっぽい……! ひとまずこれを購入して帰宅。でもよくよくパッケージ写真をみてみると、もしかしてこれはすでに堆肥化された土なのでは……?と不安がよぎる。
ドイツで園芸についての職業訓練を受けた友人に聞いてみると、家庭菜園などの土壌を改善するために使うものだと教えてくれた。つまりこれは、やはり完成された堆肥だったのだ。
Photo by Markus Spiske on Unsplash
ところでコンポストについて調べる課程で、「使い終わった家庭菜園の土をコンポストして再生させよう!」という記述を見つけた。
土は常に畑にあるものではないのだろうか…? と思ったが、土探しの一件で、農家の孫娘として恥ずかしいことに、土について全く知らなかったのだと認識した。
「使い終わった家庭菜園の土をコンポストして再生させよう!」とは「育つ野菜に栄養を吸い取られきった土をコンポストに入れて、生ごみの栄養で土を生まれ変わらせよう!」ということだったのだ。
わたしの実家には、販売していたみかんとお米のほか、自分たちが食べるための野菜や果物を育てていた畑もあった。そのうちのいくつかは、行政の方針で道路工事のために潰さなくてはならなかったり、祖父が歳をとり世話をできれなくなったりして、荒れてしまった。
その畑をみて「一度荒れた畑を元に戻すのは何十年もかかるんだぞ…」と、祖父がつぶやいていたのが強く印象に残っている。いまやっと、あのとき祖父が言った言葉を理解した。畑の土は私たちと同じで生きていて、絶えず栄養を与えて育てていく必要があるのだ。
だから、祖父は家で出た生ごみをバケツに溜めて畑に運んでいっていたのだ。あの畑たちは秘伝のタレのように、何十年も栄養を継ぎ足して継ぎ足して生まれたものだったのだ。
コンポストの土探しを続けるも結局、案内された「Komposterde(コンポストの土)」以外の候補は上がらなかった。これに生ごみの栄養をさらに継ぎ足ししていけないかと、実験を開始してみることにした。
実験の様子を、これからレポートしていく。
ELEMINIST Recommends