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ゴーストギアとは、海に流出・放棄された漁具のこと。毎年最大100万トンが海洋に流出し、ウミガメや海鳥など多くの生物の命を奪っている。本記事では、ゴーストギアの定義や種類、海洋生態系への影響に加え、世界や日本の対策、私たちにできることを解説する。

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ゴーストギアとは、海に放置・流出された漁具の総称だ。具体的には、海に放棄・逸失・投棄された漁網やロープ、釣り糸、ブイ、かごなどを指す。
ゴーストギアのほとんどがプラスチック製。海洋プラスチックごみ全体の10%以上を占めると推計されており、毎年50万〜100万トンもの漁具が世界の海洋に新たに流出している。一度流出すると何十年もの間海中に残留し続けてしまうため、大きな問題になっている(※1)。
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ゴーストギアの「ゴースト(幽霊)」という名称は、持ち主の管理下を離れた後も、海中を漂い続けながら魚や海洋生物に影響を与え続ける様子が、まるで幽霊のように見えることに由来する。
漁具は本来、漁業者が意図的に操作して魚を捕獲するための道具だ。しかし人の管理下を離れ海に流出すると、誰にも制御されないまま独自に“漁”を続けてしまう。
この現象は「ゴーストフィッシング(幽霊漁業)」とも呼ばれ、人の目が届かない海中で延々と生物の命を奪い続けるため、危険視されている。
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ゴーストギアは、海洋生物にとって、とくに致命的な海洋プラスチックごみの一つとされている。
世界では、ウミガメ全種、海洋哺乳類の66%の種、そして海鳥の50%の種が、ゴーストギアを含む海洋ごみによる被害を受けていることが明らかになっている。漁網やロープに絡まった生物は、身動きが取れなくなり、呼吸困難や衰弱によって死に至るケースが多い(※2)。
流出後、数十年経ってからも絡まり被害が報告されており、その影響は長期にわたって継続する。さらに、ゴーストギアが海底を覆うことでサンゴ礁や藻場を破壊し、生物の生息域そのものを失わせるダメージも深刻だ。
ゴーストギアが海中で漁獲機能を失わず稼働し続ける現象を「ゴーストフィッシング」という。ゴーストフィッシングによって、本来の漁期や漁場とは無関係に、魚・イカ・カニ・ロブスターなどが無秩序に捕獲され、漁業資源を消耗させ続けてしまう。
ある研究では、ゴーストギアによって混獲される野生生物の90%以上が経済的価値を持つと推定されている。これは、資源として利用できたはずの生物が無駄に失われていることを意味する。漁獲量の減少は漁業者の収入減少にも直結し、地域経済にも悪影響をおよぼしてしまう。さらに、漁業資源をめぐる競争激化が、無理な操業を誘発しゴーストギアの発生をさらに増やすという悪循環も指摘されている(※3)。
ゴーストギアの問題は海洋生物にとどまらない。海面を漂う漁網やロープは、船舶のスクリューに絡まり、推進力や操作性を著しく低下させるほか、船の故障や事故を誘発する危険がある。
また、海岸に漂着した漁具は景観を損ない、観光地としての価値を下げ、地域の観光収入にも打撃を与えてしまう。リゾート地や自然保護区では、こうした海洋ごみによる景観悪化が観光客の減少につながり、地域経済の停滞を招く恐れがあるとされている。
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ゴーストギアとしてもっとも多く報告されているのが、漁網である。漁網といっても、定置網・刺し網・延縄・まき網など、漁法に応じてさまざまな種類が存在する。世界で使用される全漁網の約5.7%が海洋に流出していると推計されており、流出した漁網はナイロンやポリエチレン製のため海中でほぼ分解されずに長期残留している。
北太平洋に広がる「太平洋ごみベルト」では、漂うプラスチックごみの約46%が漁網などのゴーストギアとされており、影響の大きさが見受けられる。(※4)また、マグロやカツオ漁などで使われるFADs(人工集魚装置)もゴーストギアの一種として問題視されている。
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漁網以外にも、ロープ・ブイ・かご・壺・釣り糸なども、重大なゴーストギアとなる。
世界で使用されるかごや壺などの仕かけの約8.6%、釣り糸の約29%が海洋に流出していると推計されている。かごや壺型の仕かけは、閉じた空間に生物が入り込みやすいため、ゴーストフィッシングを長期間引き起こしやすい(※4)。また、ロープが海洋生物の体に巻きついた事例も多数報告されており、遊泳能力の低下や餌の確保困難による衰弱死する可能性がある。これらは漁網と同様にプラスチック製のものが多く、長期残留しやすいという特徴がある。
ゴーストギアが発生する原因の一つは、台風・高波・強風などの悪天候による不可抗力の流出や、ほかの漁具・船舶との衝突事故による逸失である。漁業者が意図せず漁具を失うケースがこれに当たる。
漁具は漁業者にとって高価な生産道具であり、本来は紛失を避けたいはずだが、急変する海上の気象条件の前では万全の対策も限界がある。漁具は耐久性を重視してプラスチック製が使われることが多く、一度流出すると容易には回収できない(※5)。
適切な漁具管理や廃棄のための体制が整っていないことも、ゴーストギア発生の大きな要因となっている。使用済み漁具を産業廃棄物として適正処理するには費用がかかる上、地域によっては受け入れ施設が不十分な場合もある。コストや人手不足を背景に、漁具が岸壁や海中に放置されてしまうケースも少なくないのだ。
日本においても、ゴーストギア対策を漁業に直接関わる問題として認識し、具体的な取り組みを行っている自治体はまだ多くないとされている。
ゴーストギアとIUU漁業(Illegal, Unreported and Unregulated Fishing:違法・無報告・無規制漁業)は密接に関係している。
IUU漁業者は、証拠隠滅のため意図的に漁具を投棄・放棄することがある。また、陸上に適切な処分場がないこと、あるいは処分費用を惜しんで漁具を海に捨てるケースも国際的な課題として指摘されている。このような意図的な漁具の放棄や投棄は、国際的な取り締まり強化が求められているにもかかわらず、拘束力のある枠組みが十分に整備されていないのが現状だ(※6)。
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現在使用されている漁網や釣り糸、ロープの多くは、耐久性の高いナイロンやポリエチレン、化学繊維などのプラスチック素材でつくられている。これらは海の塩分・紫外線・波浪といった過酷な環境条件に耐えるよう設計されているため、海中に流出しても長期間にわたって分解されず残留する。
モノフィラメントの釣り糸は劣化するまでに600年かかると推定されているほどであり、ゴーストギアは放置されれば放置されるほど、被害の対象範囲と期間が広がり続けるのだ(※7)。
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海中に残留したプラスチック製漁具は、紫外線や波浪の作用で徐々に細分化し、5mm以下の「マイクロプラスチック」へと変化する。さらにマイクロプラスチックは魚やプランクトンが誤飲するサイズとなり、食物連鎖を通じて生態系全体に拡散。
マイクロプラスチックにはPCBやダイオキシンなどの有害化学物質が吸着しやすく、これを体内に取り込んだ生物は有害物質を蓄積してしまう。人間が食べる魚介類の体内にもマイクロプラスチックが取り込まれており、人間の健康への影響も懸念されている。
いったんマイクロプラスチックになると回収はほぼ不可能。これもゴーストギアの早期回収・流出防止が強く求められる理由の一つでもある(※8)。
ゴーストギア問題の解決に向けた世界最大のイニシアチブが、2015年に設立されたGGGI(Global Ghost Gear Initiative:グローバル・ゴーストギア・イニシアチブ)である。水産業界・民間企業・NGO・学術機関・政府など多様なセクターが参加し、グローバルとローカルの両面からゴーストギア問題の解決を目指している。
国連食糧農業機関(FAO)は、2018年に「漁具マーキングのための自主的ガイドライン(VGMFG)」を水産委員会で承認し、どのようにゴーストギアを削減・根絶し、回収するかについての指針を示した。さらに、国連環境計画(UNEP)や国際海事機関(IMO)なども連携しながら、ゴーストギア問題への取り組みを強化している(※5)。
日本では、水産庁が2019年に「漁業におけるプラスチック資源循環問題対策協議会」を開催。「漁業におけるプラスチック資源循環問題に対する今後の取組」を取りまとめた(※9)。また、環境省も「漁業系廃棄物処理ガイドライン」を策定し、適正処理の枠組みを整備している。
2025年2月にはWWFジャパンが報告書「日本におけるゴーストギア対策の現在地」を発表。日本の海岸に漂着するプラスチックごみの5〜6割が漁業系プラスチックごみであるという実態を明らかにし、各セクターの連携強化と政策的支援の必要性を提言した(※5)。
漁業の現場では、ゴーストギア対策として漁具への管理番号(マーキング)の付与が重視されている。マーキングによって所有者を特定できれば、流出漁具の回収・返却が容易になるとともに、IUU漁業との識別にも役立つのだ。
また、操業前後の漁具点検や悪天候前の漁具移動、密集水域での操業回避なども現場での重要な取り組みとして推奨されている。帝人と木下製網が展開する漁具の循環利用プロジェクト「Re:ism」や、WWFジャパンとテラサイクルジャパンが連携した廃棄漁網の回収・リサイクル事業なども、漁業現場とビジネスをつなぐ取り組みとして注目されている(※10)。
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ゴーストギア問題は、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の目標14「海の豊かさを守ろう」と直接的に結びついている。
目標14は「海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」ことを掲げており、海洋プラスチックごみの削減や、違法漁業の根絶、持続可能な漁業の実現などをターゲットに含んでいる。ゴーストギアによる海洋生態系の破壊や漁業資源の減少は、これらのターゲット達成を直接的に阻害する要因となる(※11)。
さらに、水産資源の減少は漁業で生計を立てる人々の雇用を脅かすため、SDGs1(貧困の撲滅)やSDGs8(働きがいも経済成長も)ともつながる複合的な課題でもある。
ゴーストギア問題は、SDGs12「つくる責任 つかう責任」とも深く関わっている。プラスチック製漁具の製造・使用・廃棄というライフサイクル全体を責任ある形で管理することが求められており、漁具メーカー・漁業者・自治体・消費者が連携した取り組みが不可欠だ(※12)。
持続可能な漁業の国際認証「MSC(海洋管理協議会)」は、漁業認証規格のなかでゴーストギアの管理方策を設定し、すべての認証漁業に対して漁具の流出とその影響を最小限に抑えることを求めている。漁業を持続可能なものにするためには、認証制度の活用や漁具のリサイクル、新素材の開発など、サプライチェーン全体での責任ある取り組みが不可欠である(※13)。
ゴーストギア問題は漁業者や政府だけが取り組むべき課題ではなく、消費者である私たち一人ひとりの行動にも解決の鍵がある。
もっとも直接的かつ実践しやすい行動の一つが「サステナブル・シーフード」を選択すること。MSC(海洋管理協議会)認証の「海のエコラベル」やASC(水産養殖管理協議会)認証のラベルがついた水産物を選ぶことで、適切に管理された漁業・養殖業を経済的に支援することができる(※14)。
こうした認証商品への需要が高まれば、持続可能な漁業の拡大とゴーストギアの発生抑制にもつながるはずだ。また、廃棄漁網をリサイクルした素材を使った製品を購入することも、漁網の適正回収・処理の促進に貢献する取り組みとなる。
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個人の行動に加え、社会全体での組織的な取り組みも欠かせない。たとえば、ビーチクリーンや海岸清掃活動への参加は、漂着したゴーストギアの回収に直接貢献する。ゴーストギア問題を社会的な課題として広く認知させるため、SNSや口コミを通じた情報発信も有効な手段となる。
政策面では、漁具の適正回収・廃棄を支援する制度整備や、廃棄漁具の受け入れ体制の拡充を求める声を政策担当者に届けることが重要だ。WWFジャパンも指摘するように、ゴーストギア対策は「自主性のみに依存した取り組みには限界がある」ため、法的・制度的な枠組みを整えていく政策支援が、問題の根本的解決に向けた重要な柱となる(※10)。
ゴーストギアは、人の管理下を離れた漁具が幽霊のように海に漂い続け、生態系や漁業資源、そして私たちの食卓にまで影響を与える深刻な問題だ。その解決には、国際機関・政府・漁業者・企業・そして消費者一人ひとりが連携した包括的なアプローチが不可欠である。まずはゴーストギアの実態を正しく知り、できるところからサステナブルな選択をする意識から始めてみよう。
※1 環境特集:海洋生物の命を脅かすゴーストギア|中部経済新聞 愛知・岐阜・三重・静岡の経済情報
※2 ゴーストギア発生予防対策・地域プロジェクト|WWFジャパン
※3 深刻な海洋プラスチック問題の原因「ゴーストギア」を無くそう!|WWFジャパン
※4 【キャンペーン】ストップ!「ゴーストギア」~プラスチックごみから海を守ろう|WWFジャパンのプレスリリース
※5 日本における ゴーストギア対策の現在地 漁業系プラスチックごみの解決に向けて|PADIジャパン
※6 ゴーストギアとは|Seafood Legacy Times
※7 ゴミが分解されるまでにどれだけかかる?|プロジェクトAWARE
※8 提言「マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンス」ポイント|日本学術会議
※9 漁業におけるプラスチック資源循環問題に対する今後の取組|漁業におけるプラスチック資源循環問題対策協議会
※10 WWFジャパン、ゴーストギア問題の報告書を発表。漁業系プラスチックごみ解決に向けて提言|Circular Economy Hub
※11 14.海の豊かさを守ろう|日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)
※12 12.つくる責任、つかう責任|日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)
※13 MSC (海洋管理協議会)|Marine Stewardship Council
※14 サステナブル・シーフード とは|Seafood Legacy Times
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