IUU漁業とはいったいなにを指す言葉なのだろうか。その言葉の意味についての説明はもちろんのこと、世界の海洋資源を脅かすとされるIUU漁業の問題点はどこにあるのか。日本と海外の対策の違い、この先にどのような解決策があるのかなどについても解説していく。
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WWFジャパン(公益財団法人世界自然保護基金ジャパン)の公式サイトによれば、IUU漁業とは「Illegal, Unreported and Unregulated漁業、つまり、『違法・無報告・無規制』に行われている漁業のこと」と記されている。
具体的には、下記の通りだ。
1) 漁獲量や漁法について、国内または国際法に反している漁業
2) 漁獲量について報告そのものが行われない、もしくは、報告されても不正確であったり、過小に報告されている漁業
3) 旗国を示さない漁船による漁業
4)漁業管理をするための条約に基づいて設置される国際機関である、地域漁業管理機関(RFMOs)の対象海域で、認可されていない漁船による漁業
Photo by Lawrence Hookham on Unsplash
「違法・無報告・無規制」漁業が引き起こす問題点とは、具体的にどんなものだろうか。
そもそも、漁業の「違法」行為と聞いても、ピンとこないかもしれない。だが、海の国境線ともいうべき領海を、漁業者が意図しているいないに関わらず、侵犯するケースは決して少なくないという。
たとえば、2019年の1年で800隻以上の中国漁船が、北朝鮮領海の内側でイカ漁を行っていたケースもそれにあたる。
これは、人工衛星データなどから、世界の漁船の動きを追跡する民間団体「グローバル・フィッシング・ウオッチ(GFW)」と、漁業に関連する犯罪行為をウォッチするNGO組織「アウトロー・オーシャン・プロジェクト(OOP)」が明らかにした事例(※1)。
越境で法を犯すだけでなく、「無報告」で「無規制」な漁ということもありうる。
2020年9月、英ガーディアン紙は公式Twitterで、「300隻以上の中国籍の船が、船名を変え、GPS追跡機能を停止した状態でペルーに向かっている」と警告。
続いて、「乱獲は生態学的、および経済的に大きな被害をもたらす」と発信した。
実はこの船は、直前までガラパゴス諸島の周辺海域で乱獲をしていたと指摘されていた(※2)。
現在、残念ながら世界中の海で、このIUU漁業が横行。そして、それらは海の環境を悪化させる1つの大きな要因とみなされている。
IUU漁業は、世界中の水産資源に大きな打撃を与え続けている。1974年から2013年までの、水産資源の状態を比較した「世界の水産資源ストックグローバルトレンド」を見てみよう。
健全な資源状態の水産資源が全体に占める比率は右肩下がりで、10%程度にまで落ち込んでいる。一方で、乱獲などにより枯渇の危機(過剰に利用)に陥っているものは増えている。
WWFなどの国際機関は、規制と取り締まりの支援に取り組んでいるが、その効果はいまのところ限定的と言わざるを得ない。
そのなかで、IUU漁業規制に乗り出したのがEUだ。世界一の水産物輸入量を誇るEUは、IUU漁業規制に対して3つの原則を打ち出しており、2010年から施行している。
その原則は、下記の通り。
1つは、正当に漁獲された水産物であることを漁船籍国が証明する書類提出を求める「漁獲証明書スキーム」
2つ目は、IUU 漁業を防止、抑止および廃絶するための義務を果たさない国はEU諸国より「非協力的第三カ国」とみなされる
3つ目は、EU圏内の国がビジネスなどなんらかの形でIUU漁業に加担した場合、厳しい罰則が課せられる「EU圏内での罰則」
また、2018年1月からは、アメリカでも米国輸入水産物モニタリングプログラム(SIMP)が施行された。
カツオ、マグロ類、メカジキ、サメ類、エビ類など特定の魚種の製品を輸出する際に、漁獲や陸揚げ情報を、米国の輸入業者への提供が必要となった。
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海に囲まれたわが国、日本はどうだろうか。日本は漁獲量が375万トン(2014年)で世界7位、水産物の輸入金額では156億ドル(2013年)で世界2位と、輸出入いずれも高い水準にある。
WWFジャパンは、日本の水産市場におけるIUU漁業リスクを調査。なかでもIUUリスクが高いとされるサケ・マス類、ヒラメ・カレイ類、ウナギ類、ニシン類・ズワイガニ類など、10の魚種を重点的に調べた。
その際に、6つの基準(1.漁船、2.漁業、3.旗国、4.沿岸国、5.寄港国、6.市場国)を用いて、詳細なIUUリスクアセスメントを実施。
その結果、ウナギ類とヒラメ・カレイ類、サケ・マス類が日本の市場でハイリスクな魚類と分類。
ズワイガニ類・タラバガニ類は、中程度のリスクがあると分析。日本の水産物市場は全体的に、中程度からハイリスクの状態にあることがわかった。
その原因に大きく関与しているのが、複雑なサプライチェーンであることもわかってきた。同時に、サプライチェーンにおける監査やチェックのレベルが低いことも問題視。
また、漁で獲られても商品として採用される魚類が偏っていること(採用されないで最悪の場合は破棄される魚類もある)。
ほとんどの魚種で、IUU漁業を排除できる海のエコラベルとして知られる「MSC認証」が取得されていない、などがハイリスクのおもな原因となっているようだ。
WWFジャパンの報告で、水産物市場にIUU漁業由来の水産物が流入していると警鐘を鳴らされた日本。
なかでも、ウナギ類の資源枯渇は深刻だ。二ホンウナギが絶滅危惧種としてレッドリスト入りしニュースになった記憶も新しいだろう。
ウナギ類は世界に16種、亜種を含めて19種が確認されているが、近年個体数が減少。ウナギは現段階で、人工うかから養殖の成功に至っておらず、稚魚(シラスウナギ)を外海で採取し、養殖する方法しかない。
このシラスウナギの出どころが、実に不明瞭であり、法や規制から逸脱しているとの見方が大半だ。
そのため、日本人が大好きなウナギの流通に関わる企業は、IUU漁業に由来するウナギ類の流入に加担していると言わざるを得ない。
このままの状態が続けば、ワシントン条約によってウナギ類の貿易が規制対象になることも考えられるという。
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まずは、我が国の評価、現実をしっかりと受け止めよう。2019年1月に公開された、IUU漁業に由来するリスクおよび対策の状況を数値で表した「IUU漁業指数」(IUU Fishing Index)からも、現実を知ることができる。
日本は、世界152か国のなかで、なんと133位と低位置。リスクを評価した「脆弱性」で世界ワースト2位。IUU漁業に関する港湾取引における責任では、最低点で最下位の評価。
この残念な結果、どうにかしなければならない大切な問題を解決に導くにはどうすればよいか。
WWFジャパンは、先のリスク調査分析の結果を受け、6つの基準(1.漁船、2.漁業、3.旗国、4.沿岸国、5.寄港国、6.市場国)に基づいた具体的な提言している(※3)。
実現するには、透明性の高いシンプルなサプライチェーン実現を早急に整備されることが求められる。
また、EU漁獲証明スキームや米国輸入水産物モニタリングプログラム(SIMP)などにならって、日本で扱われる水産物のトレーサビリティの確保が重要なカギとなるだろう。
※1
中国イカ釣り船による違反操業の実態明らかに(上)
http://www.alterna.co.jp/31703
※2
Chinese fishing armada plundered waters around Galápagos, data shows
https://www.theguardian.com/environment/2020/sep/17/chinese-fishing-armada-plundered-waters-around-galapagos-data-shows
※3
IUU漁業について|WWFジャパン
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/282.html
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