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持続可能な漁業とは、水産資源を長期的に維持し、環境への影響を最小限に抑える漁業のことである。いま、世界の水産資源の3分の1が過剰漁獲の状態にあり、持続可能な取り組みが急務となっている。本記事では、漁業の現状や課題、私たちにできることを解説する。

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持続可能な漁業(サステナブル・フィッシング)とは、海に十分な水産資源を残すとともに、漁業活動が自然環境に与える影響を最小限に抑えるよう適切に管理された漁業のこと(※1)。また、環境面だけでなく、漁業で生計を立てる人々の生活を安定させる、という社会的側面も含まれる言葉である。
持続可能であるということは、海の環境を守りながら漁業や養殖業を行うことによって、そのサイクルが続き、将来の世代もいまの世代と同じように海の恵みを受け続けられるということ。魚を限りある水産資源と認識しないまま、生息域や生態系へ影響を与えるような漁業を繰り返せば魚の数はどんどん減ってしまう。
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水産物は世界の多くの地域において重要な食料および栄養源だ。漁業で生計を立てている人や地域も少なくない。しかし、過剰漁獲や無規制漁業、過度の混獲といった持続可能ではない漁業によって、海はいま危機に直面している。
漁獲されている海洋水産資源の状況について継続的なモニタリングを行っているFAO(国連食糧農業機関)によると、生物学的に持続可能なレベルにある資源の割合は徐々に低下しており、2017年時点で66%となっているそうだ(※2)。
水産資源の持続性は、増加し続ける人口にとって必要となる栄養豊かな食料源を確保するためにも不可欠である。食料安全保障、海洋環境保護、そして地域コミュニティの生活を守るという観点から、持続可能な漁業の推進は喫緊の課題となっている。
持続可能が求められる海と漁業の現状を、世界と日本それぞれ解説していこう。
FAOが公表した「2024年世界漁業・養殖業白書」によると、水生動物生産において養殖業が捕獲漁業を初めて上回ったそうだ(※3)。
白書によると、2022年、世界の漁業・養殖業の生産量が2億2320万トンと、2020年比で4.4%増加。しかし、持続可能なレベルで漁獲されている状態の資源の割合は減少傾向にあり、1974年には90%の水産資源が適正レベルまたはそれ以下のレベルで利用されていたが、2017年にはその割合は66%まで下がってきているという。つまり、過剰に漁獲されている状態の資源の割合は、10%から34%まで増加した。
また、世界の資源のうち、適正レベルの上限まで漁獲されている状態の資源は60%、適正レベルまで漁獲されておらず生産量を増大させる余地のある資源は6%に留まっている(※2)。
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日本の漁業も、深刻な課題に直面している。日本の漁獲量は、1984年の1,160万トンをピークに減少。2018年には442万トンにまで減っており、1984年の約3分の1にまで数字が落ち込んでいるのだ(※4)。
漁獲量が減少している理由として考えられるのが、気候変動だ。日本近海における2019年までのおよそ100年間にわたる海域平均海面水温(年平均)の上昇率は、+1.14℃。海水温が変化すると、その海域で取れる魚の種類も変わってしまう(※5)。
また、国内の漁業従事者も減少傾向にある。1988年には約39万人いた漁業者が2018年には約15万人と、半数以下になっている。そのうち4割を占めているのが65歳以上。さらに、個人経営体のうち後継者がいるのは全体の2割以下だそうで、高齢化が進んでいることも課題のひとつだ(※6)。
海洋生態系のなかでは、すべての生き物がそれぞれの役割を担っており、捕食者と被食者から成る、バランスのとれた食物網を構成している。しかし、過剰漁獲や過度の混獲によってそのバランスが崩れると、食物網全体に影響をおよぼす危険性があるのだ(※1)。
また、漁業は生態系への影響だけでなく、漁業従事者や地域コミュニティにも大きな影響を与える。過剰漁獲や過度の混獲、気候変動などによって漁獲量が減少すると、漁業者の収入減少にもつながり、地域経済の衰退を招くことにもつながっていく。
日本のみならず、世界的にも深刻な課題に直面している漁業。では、持続可能な漁業を行うためには、具体的にどうしたらいいのだろうか。
漁業が適切な管理のもと持続可能に行われているかを審査する際に用いられるのが、「MSC漁業認証」だ。MSC漁業認証は、「資源の持続可能性」「漁業が生態系に与える影響」「漁業の管理システム」の3つの原則からなる。
具体的には、「資源の持続可能性として、過剰な漁獲を行わず資源を枯渇させないこと、枯渇した資源については回復を論証できる方法で漁業を行うこと」「漁業が依存する生態系の構造、多様性、生産力等を維持できる形で漁業を行うこと」「漁業の管理システムとして、地域や国内、国際的なルールを尊重した管理システムを有すること、また、持続可能な資源利用を行うための制度や体制を有すること」が定められており、これらの原則は、持続可能な漁業を実現するための国際的な基準として広く認識されている(※7)。
適正な漁獲量の設定は、持続可能な漁業を行ううえで不可欠だ。科学的な資源評価に基づいて、資源を枯渇させない範囲で漁獲可能な量を算出し、それを遵守することが求められる。
具体的な管理手法としては、漁獲制限(Total Allowable Catch:TAC)、産卵期の保護、禁漁区の設定、使用できる漁具の制限、漁船数や操業日数の制限などが挙げられる。
水産資源は、卵から生まれ育った稚魚が親となり、次の世代も安定して育っていくことで、将来にわたって漁業の対象として利用することができる。資源を大切に維持・管理するために、これらの手法が重要だ(※8)。
MSC漁業認証を取得した漁業は、持続可能な漁業という点において、国際的に最良な漁業基準を満たしているという証明になる。認証取得済みの水産物には、消費者への目印としてMSC「海のエコラベル」を付けることができる。
このようなMSC認証や、環境と社会への影響を最小限に抑えた「ASC認証」を取得した養殖場で育てられた水産物を、「サステナブル・シーフード」と呼ぶ。サステナブル・シーフードが市場に増え、さらにそれを選択する消費者が増えることで、持続可能な漁業が広がり、水産資源や海洋環境を守ることにつながっていく(※9)。
ここからは、持続可能な漁業を妨げる課題について考えていこう。
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過剰漁獲が起こる要因としてまず挙げられるのが、水産物消費量の増加である。世界の人口は2022年11月に80億人に達し、2050年までにはほぼ100億人に達すると予測されている。水産物の消費量は世界人口が増加するスピードの2倍の速さで増えているそうで、この世界的な水産物需要の増加が過剰漁獲につながっているのだ(※10)。
そのほか、漁業技術の革新による漁獲能力の向上や、資源管理制度の不十分さも挙げられる。
違法・無報告・無規制(IUU:Illegal, Unreported, Unregulated)漁業は、無許可操業、不正確および過少報告の漁業、旗国なしの漁船による漁業、地域漁業管理機関(RFMOs)の対象海域での認可されていない漁船による漁業など、各国の国内法や国際的な操業ルールに従わない漁業のこと。
水産資源の持続可能な利用に対する深刻な脅威であり、国連持続可能な開発目標(SDGs)14-4に位置づけられる国際社会の共通の課題である(※11)。
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先述のように、日本近海における2019年までのおよそ100年間にわたる海域平均海面水温(年平均)の上昇率は、+1.14℃。海水温が上昇すると海洋生物はそれぞれ適温の場所に北上したり、回遊ルートを変更したりする。2050年にはオホーツク海が鮭にとっては高温となり、日本周辺の回遊ルートが消失するという予測もされている。また、海水温の上昇は稚魚の隠れ場や餌場となる藻場が著しく消失する“磯焼け“も引き起こす。
そのほか、気候変動が海に与えるもうひとつの影響が、海水が大気中の二酸化炭素を吸収することによる酸性化だ。酸性化が進むと、炭酸カルシウムの形成がむずかしくなり、炭酸カルシウムで骨格や殻をつくるホタテやアサリなどの貝類、カニやエビなどの甲殻類、サンゴ、プランクトンの成長に悪影響をおよぼしてしまう(※12)。
さらに、産卵時期のずれや生息地の破壊など、さまざまな形で環境変化や気候変動は漁業に影響を与えているのだ。
漁業者の高齢化と後継者不足は、日本の漁業が直面する深刻な課題だ。さらに、漁獲量の減少による収入の不安定さや、燃料費や資材費の高騰、地域コミュニティの衰退なども、持続可能な漁業を実現する上での障壁となっている。
ここからは、持続可能な漁業を実現するための、国内外の成功事例や革新的な技術、消費者・企業の役割について紹介する。
ノルウェーでは、かつて乱獲によって水産資源が枯渇寸前に陥ったが、1970年代に漁獲規制、漁獲割当、漁具の規制などの漁業管理制度を導入し、資源の回復に成功した事例がある。いまでは資源の持続性を最優先にしつつ、高収益な漁業を実現している(※13)。
また、養殖魚の持続可能な飼料づくりに取り組み続けているスクレッティングス社は、「魚を魚の餌にする」という持続性のない養殖法に問題意識を向け、従来の養魚飼料の主成分である「魚粉」の使用料を抑えた独自の養魚飼料の開発に取り組んできた。魚粉含有率を30%まで抑えることに成功した飼料は大ヒットし、日本でも2012年以降、ASC認証取得に取り組む養殖会社の多くに同社の飼料が導入された。(※14)
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漁業はさまざまな課題を抱えているが、一方で持続可能な漁業を支える技術革新も進んでいる。たとえば、混獲を減らすために、網目のサイズを調整したり、特定の魚種だけを獲る漁具を開発したりする選択的漁具の開発が進められている。
また、ノルウェーの漁業販売組合のホームページでは、どの漁船が、いつ、どの海域で何トンの魚を捕ったのか。一匹当たりの平均サイズは何グラムか。など、漁船ごとの詳細な漁獲情報が全世界にリアルタイムで表示されている。このように、透明性の高い漁業管理システムを導入することで違法漁業を防ぎ、資源管理の精度を高めているのだ(※15)。
消費者が果たす役割として考えられるのが、MSC「海のエコラベル」がついた製品など、持続可能で適切に管理された漁業による製品を選ぶこと。
また、企業は持続可能で適切に管理され、環境に配慮した天然水産物を取り引きし、購買するという商慣行を築いていくことが必要である。認証取得した水産物の調達や透明なサプライチェーンの構築、持続可能な漁業を支援する取り組みなど、積極的に行っていく必要がある。
持続可能な漁業の実現は、政府や漁業者だけの課題ではない。消費者、地域、企業、政府それぞれが役割を担い、行動することが求められる。いま私たちにできることを考えてみよう。
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消費者としてまず起こしやすいアクションが、「サステナブル・シーフード」を選ぶこと。エコラベルを参考に選ぶことで、個人として持続可能な水産物を利用することができる。
また、食べ残しを減らすことも重要だ。せっかくの魚を無駄にしないよう、適量を購入し、調理し食べきることで、水産資源を大切に使うことができる。
さらに、特定の人気魚種ばかりに需要が集中するとその魚種への圧力が高まるため、さまざまな魚種を楽しみ、資源への負担を分散されることも意識するといいだろう。
漁業者としてまず大切なのが、漁獲ルールの遵守。科学的根拠に基づいたTACや、産卵期の保護など、定められたルールを確実に守ることが、資源の持続性を保つ基盤となる。
また、魚の産卵場所や稚魚の成育場所として重要な藻場や、干潟などの漁場の環境保全活動に参加するのも持続可能な漁業の実現につながっていく。
企業は、MSC認証やASC認証を取得することで、自社の水産物が持続可能であることを証明し、消費者に安心を提供できる。
また、トレーサビリティシステムを導入し、水産物が「いつ、どこで、誰が、どのように獲ったか」を明確にすることも、IUU漁業由来の製品排除を目指す上で重要だろう。
そのほか、漁業者に対して適正な価格で水産物を買い取ることや、持続可能な漁法への転換を支援する投資を行うことも、企業の重要な役割である(※11)。
政府・政策レベルでの支援策としては、科学的根拠に基づいたTACの設定、IUU漁業への厳しい取り締まり、漁獲データの透明化など、資源管理の枠組みを整備することが重要だ。
また、漁業者が持続可能な漁業に転換するための補助金制度や認証取得支援、漁船の近代化支援など、政策的なサポートも必要である。
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持続可能な漁業の実現は、魚を守るだけではなく、私たちの未来を守ることにもつながる。持続可能な漁業を実践することで、水産資源は長期的に維持され、将来の世代もいまと同じように海の恵みを享受できるのだ。
増加する人口に対して、安定したタンパク質供給源を確保するためには、水産資源の持続性が不可欠。持続可能な漁業は、食料安全保障という観点からも重要な意味を持つのだ。
また、持続可能な漁業の実現によって安定した漁獲量と収入が見込めることで、若い世代が漁業に参入しやすくなり、地域コミュニティの活性化にもつながるだろう。
持続可能な漁業とは、この先も現在と同じように海の恵みを受け続けられるということ。いま、世界の水産資源の3分の1以上が過剰漁獲の状態にあり、すぐに行動が求められている。消費者としてサステナブル・シーフードを選ぶことや、企業として認証取得や透明なサプライチェーンを構築することなど、それぞれの立場でできることを考え、行動していこう。
※1 持続可能な漁業とは|Marine Stewardship Council
※2 (1)世界の漁業・養殖業生産|水産庁
※3 1046. 2024年 世界漁業・養殖業白書|JIRCAS
※4 日本では年々漁獲量が減少も、知っておきたい3つの対策|GYOGOO
※5 (2)漁場環境をめぐる動き|水産庁
※6 これからの日本の水産業はどうなる?水産業の現状から見る未来|マイナビ農業
※7 環境ラベル等データベース_MSC認証制度|環境省
※8 TAC(漁獲可能量制度)を知る(1ページ目)|水産庁
※9 「サステナブル・シーフード」とは?|Marine Stewardship Council
※10 過剰漁獲|Marine Stewardship Council
※11 違法・無報告・無規制(IUU)漁業の現状と対策(1ページ目)|経済局漁業室
※12 気候変動が水産業に与える影響|Seafood Legacy Times
※13 海と共に生きるノルウェーが目指す高収益なサステナブル・シーフード|サステナブル・シーフードの未来をつくる海のリーダーたち
※14 漁業における持続可能性とその評価 |クオンクロップ株式会社 cuoncrop inc.
※15 ジム付き漁船、ノルウェーの贅沢な漁師たち|日経ビジネス電子版
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