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日本の漁獲量は、長期的な減少傾向が続いている。本記事では、漁獲量減少の実態と主な原因を解説。さらに、漁獲量減少がもたらす影響や、持続可能な漁業を実現するためにわたしたちができることについても言及する。

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日本の漁獲量は、1984年に1,282万トンのピークを記録して以降、長期的な減少傾向が続いている。2022年には、392万トンと、ピーク時の3分の1以下にまで減少。さらに、漁獲量に加えて消費量も減少し、水産業や古くから育まれた豊かな魚食文化にも影響をおよぼしかねない状況だ。
漁獲量減少の原因のひとつと考えられているのが、地球温暖化による海水温の上昇である。1980年の日本近海の平均海面水温平年差マイナス0.5°Cに対し、2020年は0.5°Cと1°Cも上昇している。これが原因となり、魚の生息環境に変化が起こっているのだ(※1)。
日本の漁獲量が減少している一方で、世界全体の漁業・養殖業生産量は増加傾向にあり、2020年には2億1,402万トンに達している。このうち、漁業の漁獲量は1980年代後半以降横ばい傾向となっている一方、養殖業の収獲量は急激に伸びている。
漁獲量を主要漁業国・地域別に見ると、EU(欧州連合)・英国、米国、日本などの先進国・地域が横ばい、または減少傾向で推移している一方、インドネシア、ベトナムといったアジアの新興国をはじめとする開発途上国の漁獲量が増大しており、中国が1,345万トンで世界の15%を占めている(※2)。
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漁獲量の減少は、サンマやスルメイカ、サケなど人気の魚種も例外ではない。2014年には3種合計で54.8万トンあった漁獲量が、2019年には14.2万トンと約75%も減少しているのだ。
このように、従来獲れていた魚が獲れず、獲れていなかった魚が獲れるといった状態が複数年にわたり継続し、短期的な不漁とは異なる状況が生まれている。こうした変化は地球温暖化や海洋環境変化などに起因するものともみられており、今後長期に継続する可能性があるのだ。
たとえば、サンマやサケの不漁は親潮の弱化と海洋環境の変化が主な原因とされている。気候変動の影響を受け、常磐沖に暖水塊が発生し黒潮の流路が変化したことで、サンマの回遊経路が沖合化したり、サケ稚魚のオホーツク海への回遊が阻害されたり、サケ稚魚に適した水温帯が継続する期間の短縮・形成時期の変化が起きたりしているのだ(※3)。
また、スルメイカの不漁の主な要因として、産卵場の水温が温暖化の影響によって、産卵や生育に適さない状態になったことが指摘されている。そのほか、日本以外の国も漁獲を始めたことや、違法・無報告・無規制(IUU)漁業も減少の一因と考えられている(※4)。
ここからは、漁獲量が減少している主な原因についてみていこう。
漁獲量減少の主な原因のひとつが、自然・環境要因である。気候変動による海水温の上昇は、水産資源に深刻な影響を与えている。海水温が上昇すると、その海域で取れる魚の種類も変化してしまうのだ。
先述のサンマやサケのように、冷たい海水を好む魚が海水温上昇によって回遊ルートを変更し、より北へ向かってしまうケースや適切な海水温の時期が短く稚魚の生き残り数が減ってしまうケースも見受けられている。このように、海洋環境が変わることで魚の生育・回遊に影響が出て、漁獲量減少につながっていると考えられる。
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乱獲や過剰漁獲も、水産資源減少の重要な要因のひとつだ。とくに未成熟の小さい魚を漁獲し続けることは、資源の再生産を妨げ、急速な資源状態の悪化を招いてしまう。
そのほか、漁場の縮小も要因と考えられる。昭和後期、日本の遠洋漁業は最盛期を迎え、その生産量は、ピークとなった1973年には400万トンに迫り、漁船漁業生産量全体の約4割を占めるまでになった。しかし、1977年には、米国、ソビエト連邦などが200海里水域の設定に踏み切り、事実上200海里時代が到来したことにより、日本の多くの遠洋漁船が米国200海里水域等の既存の漁場から撤退を余儀なくされたのだ(※5)。
環境要因や過剰漁獲による水産資源の減少に対応するためには、適切な資源管理、つまりは漁獲管理が必要不可欠だ。そのため2020年に施行された改正漁業法では、漁獲量の8割を占める魚種においてTAC(最大漁獲可能量)による管理を行う目標が定められた。しかしながら、漁獲量の制限による収入減などの不安から漁業関係者の反対の声もあり、思うように進んでいないのも現状だ。(※6)
そのほか、漁業従事者の高齢化と後継者不足も深刻な問題だ。漁業者数は減少を続けており、技術の継承や漁業の持続性に課題を抱えている。一時的な増加はあるものの、調査を開始した1961年に約70万人を記録していた漁業就業者は、2019年には約14.5万人と、約5分の1にまで減少している(※7)(※8)。
さらに、漁業就業者を年齢別に見ると65歳以上がとくに多く、さらに高齢者の退職により今後も減少が続き、令和32(2050)年頃には約7万人まで減少することが想定されている。高齢化や人手不足が深刻なことがわかる。(※9※10)
漁獲量の減少は、多方面に影響をもたらす。具体的にどのような影響があるのだろうか。
漁獲量の減少は、漁業者の収入減少に直結する。とくに、遠隔地や半島、島嶼地域では、漁業が地域経済を支える基幹産業となっており、漁獲量減少の影響は地域全体の活力低下にもつながってしまうのだ。
さらに漁場の沖合化による燃料消費の増大などもあり、収支は悪化しているという。(※3)
食料安全保障の観点からも、水産物の安定供給は重要な課題だ。日本は水産物の消費大国でありながら、漁獲量は減少傾向にある。輸入に頼る部分が増えているが、世界的な需要増加により、海外勢に買い負ける状況も生じているのだ(※11)。
また、魚介類の供給減少は、価格上昇と消費パターンの変化をもたらす。日本人の魚介類消費量は、2001年の40.2キログラムをピークに減少を続け、2020年には23.4キログラムとほぼ半減している。さらに2011年には魚介類と肉類の消費量が初めて逆転し、その差は広がる一方だ(※12)。
漁獲量が減少すると、魚価にも影響を与える。たとえば、サンマの価格は、2008年と比べて2020年には7倍に上昇。スルメイカも同様に価格が高騰し、身近な存在であった食材が高級品となりつつあるのだ(※3)。
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気候変動や乱獲による魚資源の枯渇は、その種が減るだけでなく、生態系・海洋環境・生物多様性に影響をおよぼす。魚を食べる生物(鳥類、海洋哺乳類など)の餌が不足し、生態系全体のバランスが崩れるおそれがあるのだ(※13)。
漁獲量回復を目指すには、適切な資源管理が不可欠だ。日本国内では「漁獲可能量制度(TAC)」や「個別割当制度(IQ)」といった制度が導入され、漁獲量を科学的根拠に基づいて制限する仕組みが徐々に整備されている(※14)。
また、水産庁は「資源管理の推進のためのロードマップ」を策定。漁業者をはじめとした関係者の理解と協力を得た上で取り組みを進め、適切な資源管理を通じた水産業の成長産業化を図り、2030年度に444万トンまで漁獲量を回復させることを目標としている(※15)。
北海道では、2003年ごろから値上がりしたナマコが、乱獲で減ったとみられるケースが相次ぎ、留萌市の新星マリン漁協では対策を実施。漁業者らは、2008年から稚内水産試験場やはこだて未来大などの研究者と協力し、地元のナマコ資源の実態を調査した。さまざまなデータを分析し、近海にナマコ資源の量がどれだけあるか、どれだけ漁獲を抑えるべきかを計算。漁獲枠を漁船ごとに配分し漁獲サイズや漁期などのルールも厳格化したところ、2008年に106トンだった推定資源量は2011年にいったん69トンまで減ったが、取り組みの本格化後、2017年には98トンと4割回復したそうだ(※16)。
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ノルウェーでは1950年代末から60年代にかけて漁業技術が発展したことで、海のニシンをほとんど獲ってしまいニシンが枯渇したこともあった。そこでニシンの量を調べ、次の世代に魚を残すために、どれだけの魚を収穫できるか、科学的根拠に基づいた厳しい資源管理を実施。
現在では漁船ごとに漁獲量が定められている上、獲得した魚はすべて水揚げするように徹底的に管理されているため乱獲がなく、最先端技術を駆使したサステナブルな漁業を実施している。(※17)。
企業や自治体は、持続可能な水産物の調達を推進することが重要だ。MSC(海洋管理協議会)認証やASC(水産養殖管理協議会)認証などの水産認証を取得した水産物の調達や、透明なサプライチェーンの構築、持続可能な漁業を支援する取り組みなど、積極的に行っていく必要がある。
そのほか、漁業者に対して適正な価格で水産物を買い取ることや、持続可能な漁法への転換を支援する投資を行うことも、企業の重要な役割といえるだろう。
ここからは、わたしたち消費者が豊かな海を守り、持続可能な漁業を支援するためにできることについて考えてみよう。
まず、消費者として取り組みやすいアクションのひとつが、「サステナブル・シーフード」を選ぶことだ。サステナブル・シーフードとは、環境や水産資源に配慮した方法で漁獲・養殖された水産物のことで、「MSC認証」や「ASC認証」を取得した製品がその代表例である。これらの認証は、厳格な環境保全や資源管理の基準を満たした水産物にのみ付与されている。日々の買い物で、青い魚のマークが目印のMSC「海のエコラベル」や、緑色のASCラベルを意識して商品を選ぶことで、サステナブル・シーフードを選択することができる。
また、輸送時に排出されるCO2の削減や地域漁業の支援につながるという点で、地元や、できるだけ近い場所で獲れた魚を選ぶことも有効な選択肢のひとつだ。
未来の水産資源については、さまざまな予測が発表されている。
日本財団のネレウスプログラムによる研究では、2050年には赤道周辺など一部地域で商業魚種の漁獲高が40~60%まで低下する危険性があると報告している(※18)。
また、21世紀の間、世界全体で海洋は昇温し続けると予測されており、2100年までにRCP2.6シナリオで約0.6°C、RCP8.5シナリオで約2.0°Cの上昇が予測されている(※19)。
これまで地球温暖化による海水温の上昇が水産資源に深刻な影響を与えてきたことを鑑みれば、今後も魚の生息環境を含む海洋生態系への影響が拡大していく可能性は高い。2050年、さらには2100年の漁業の姿は、気候変動の進行度合いや資源管理のあり方によって大きく左右されると考えられ、将来を見据えた長期的な視点での対応が不可欠となるだろう。
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水産庁は、漁業・養殖業生産量の減少や漁業就業者の高齢化・減少といった厳しい現状に直面するなか、水産業を将来にわたって持続可能な成長産業へと転換していくためには、近年技術革新が著しいICT、IoT、AIといった情報技術や、ドローン、ロボットなどの新技術を、漁業・養殖業の現場へ導入・普及させていくことが重要だとしている(※20)。
新技術の導入が進むことで、電子的なデータを活用した効率的な操業や、省人化・省力化による収益性の高い漁業の実現が期待されている。とりわけ水産資源の評価・管理の分野では、生産現場から直接水揚げ情報を収集し、より多くの魚種について資源状態を迅速かつ正確に把握するため、漁協や産地市場の販売管理システムの改修など、電子的な情報収集体制の構築が進められている。
さらに、資源状態の悪い魚種については、科学的根拠に基づいた適切な管理措置を講じることで、水産資源の持続的な利用を図っていくことが目指されている。
漁獲量の減少は、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」と深く関係している。同目標では、過剰漁業やIUU漁業の抑制・終了、海洋汚染の防止、海洋酸性化への対処などが重要な課題として位置づけられてきた。
また、持続可能な漁業の実現は、水産資源を将来世代に引き継ぐことにつながるだけでなく、安定的な食料供給を通じて目標2「飢餓をゼロに」に、さらには雇用の確保や地域経済の維持を通じて目標8「働きがいも経済成長も」など、複数のSDGsの達成にも貢献すると考えられる。
日本の漁獲量は、1984年のピーク時と比べて、すでに3分の1以下にまで減少している。状況は深刻だが、科学的根拠に基づく資源管理の強化や国際協力、技術革新、そして消費者の意識改革を進めることで、持続可能な漁業の実現に近づくことは可能だ。まずは私たち一人ひとりが、MSC・ASC認証商品を選ぶなど、日々の消費行動を通じて、未来の海を守る選択をしていくことが重要である。
※1 漁獲量、消費量ともに減少している原因とは!? 知りたい!魚の今|農林水産省
※2 (1)世界の漁業・養殖業生産|水産庁
※3 不漁問題に関する検討会とりまとめについて|水産庁
※4 スルメイカが獲れない理由。獲り過ぎ?温暖化?クロマグロ?|魚食普及推進センター(一般社団法人 大日本水産会)
※5 (1)漁業生産の状況の変化|水産庁
※6 【連載】第1回:日本の水産資源減少の理由と必要な4つの施策-これからの日本の水産資源管理を考える|シーフードレガシータイムズ
※7漁業構造動態調査 漁業就業動向調査 確報 平成29年漁業就業動向調査報告書総括表編 2 累年統計(漁業就業者数・漁業経営体数・世帯員数(全国)(昭和36年~)|政府統計の総合窓口
※8(3)水産業の就業者をめぐる動向|水産庁
※9 令和6年漁業構造動態調査結果(令和6年11月1日現在)|農林水産省
※10 水産政策の改革について|水産庁
※11 (1)水産物の輸入における影響と対応|水産庁
※12 (2)水産物消費の状況|水産庁
※13 環境省_海のめぐみって何だろう?|海洋生物多様性保全戦略公式サイト
※14 TACを知る!!(1ページ目)|社会法人 漁業情報サービスセンター
※15 資源管理の推進のための新たなロードマップ(1ページ目)|水産庁ホームページ
※16 【第1回】獲りすぎなければ魚は増える。北海道から沖縄まで、実を結びだした努力(提供:EDF)|サストモ by LINEヤフー - 知る、つながる、はじまる。
※17 サステナブルな漁業は本当にある?ノルウェーがニシン枯渇から復活し、世界トップの水産物輸出国であり続ける理由|ハフポスト これからの経済
※18 2050年、食卓から6割の魚が消える国も日本はどうなる?|日本財団
※19 日本の気候変動とその影響(2ページ目)|環境省 文部科学省 農林水産省 国土交通省 気象庁
※20 (5)スマート水産業の推進等に向けた技術の開発・活用|水産庁
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