排出量取引をわかりやすく解説 仕組みや日本の最新動向、私たちにできること

煙突から空高く出ている煙

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排出量取引とは、温室効果ガスの排出を市場の仕組みで減らしていく制度のこと。いま、2026年度の本格運用を前に注目度が高まっている。本記事では、制度の仕組み、日本の導入状況、今後の展望などをわかりやすく解説。企業・中小企業・個人がどのように備えるべきかも紐解いていく。

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2025.12.12

排出量取引制度とは

スーツ姿で握手をする手元

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排出量取引制度の定義と基本概念

排出量取引制度とは、温室効果ガスの排出に「上限(キャップ)」を設け、その範囲内で排出を減らしていくための仕組みである。ポイントは、排出量に“価値”を付けて取引できるようにすること。言い換えれば、炭素(CO2)をお金に換算する仕組みであり、カーボンプライシングの代表的な手法のひとつだ。(※1)

理解するうえで押さえておきたいのが、制度のなかで使われる基本用語である。まず、「排出量取引」は、国や自治体が企業に温室効果ガスの排出上限を割り当て、その枠を企業同士で売買できるようにした仕組み全体を指す。ここで設定される上限が「排出枠」で、言い換えれば、各企業がその期間に排出してもよい量の持ち分のようなもの。実際に市場で取引されるのは、排出枠を具体的な単位にした「排出権」であり、余れば販売でき、不足すれば購入する必要がある。(※2)

このように、温室効果ガスの排出量をコストとして可視化し、削減努力を進めやすくするのが排出量取引制度の基本的な考え方だ。

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2つの方式「キャップ&トレード」と「ベースライン&クレジット」

排出量取引制度には、代表的な方式が2つある。「キャップ&トレード方式」と「ベースライン&クレジット方式」だ。どちらも排出削減を促す仕組みだが、考え方が少し異なっている(※3)。

キャップ&トレード方式では、まず政府が、地域や産業全体の排出量の上限を決める。次に、企業ごとに排出枠を割り当てる。企業は実排出量を測定し、枠の範囲内で削減を進める。枠を余らせた企業は、その分を市場で売却でき、逆に枠が足りない企業は購入することで不足分を補う。EUが運用する「EU ETS」や、東京都の排出量取引制度もこの方式を採用している。

一方、ベースライン&クレジット方式は、企業の基準値(削減努力をしなかった場合のベースライン)よりどれだけ排出を減らせたかを評価する仕組み。基準より排出が少なければクレジットが発行され、ほかの企業へ販売することが可能である。逆に基準を上回った企業は、クレジットを購入して不足分を埋める(※4)。削減努力をした分がそのまま価値になる考え方だ。

「排出量取引制度」の仕組み

排出量取引制度の全体像は、一連の流れで理解するとわかりやすい。以下では、キャップ&トレード方式のステップを解説する。

まず、行政が全体の排出量の上限を設定し、企業に対して排出枠を配分する。企業は自社のCO2排出量を測定し、割り当てられた枠と実績を比較する。枠が余れば市場で販売でき、足りなければほかの企業から購入する。この「取引」によって、排出量が自然と削減しやすくなる仕組みである。

取引後は、企業が排出量を報告し、第三者が内容を検証する。これをMRV(測定・報告・検証)と呼び、制度の信頼性を保つ重要なステップとなる。すべての流れが透明化されていることで、削減した企業が報われる市場が成立している(※5・6)。

複雑に思えるかもしれないが、本質はシンプルだ。排出量に値段を付け、減らすほど得をし、増やすほどコストがかかる。市場の力を使って温室効果ガスの排出削減を促していく。

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なぜ「排出量取引」が注目されているのか

工場からもくもくと煙が出ている様子

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排出量取引が注目される背景には、世界全体で脱炭素の流れが加速していることがある。気候変動の深刻化により、温室効果ガスの排出削減は各国共有の優先課題となった。排出量取引は、こうした国際的な動きのなかで、市場の力で効率的に排出を減らす仕組みとして位置付けられてきた制度だ。

制度の起点は、1997年の「京都議定書」に遡る。ここで排出量取引の考え方が国際的に認められ、排出削減を進める選択肢として整理された(※7)。さらに、2005年に運用がはじまったEU ETS(EU排出量取引制度)は、現在も世界最大規模のキャップ&トレード制度として機能しており、域内の排出量を確実に減らしてきた代表例である(※8)。

日本でも2050年カーボンニュートラルを掲げ、企業や自治体に、脱炭素の取り組みが求められている。排出量取引は、単に排出量を制限するだけでなく、削減した企業が経済的なメリットを得られる仕組みであるため、実効性が高く、持続的な削減を促せる制度として注目されている。

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「排出量取引制度」のメリット・デメリット

MAKE LOVE NOT CO2のプラカード

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排出量取引制度導入のメリット

排出量取引制度のメリットとしてまず挙げられるのは、社会全体として効率的に排出量を減らせることだ。削減コストが低い企業が多く削減し、高い企業が市場から枠を購入することで、全体の負担を最小限に抑えながら温室効果ガスの削減を進められる。

さらに、排出削減が利益につながるため、企業の省エネ投資や技術革新が促されることも大きい。設備更新や省エネ改善に積極的に取り組む企業が増え、結果として企業の環境意識そのものが底上げされることも期待されている。

また、排出量に上限を設けるため、政府としても削減量の見通しが立てやすく、政策の計画性が高まるだろう。

排出量取引制度導入のデメリット・課題

一方で、制度には課題も残る。排出規制が厳しい国では、コスト増を懸念して生産拠点が規制の緩い国へ移転してしまう「カーボンリーケージ」が問題視されている(※9)。

また、クレジット価格が市場で変動するため、企業にとっては長期的な投資判断が難しくなることもある。制度設計の複雑さから、上限の設定やMRVの精度をどう高めるかも重要な論点だ。

成功事例と失敗のポイント

成功例としては、EU ETSがよく挙げられる。制度開始から改善を重ね、段階的な上限の引き下げにより確実に排出量を減らしてきた。一方で、過去には世界情勢や需給バランスの変化により、制度が機能しづらくなった時期もあり、改訂を行いながら、制度を成熟させてきた歴史がある(※10)。

日本国内では、東京都や埼玉県の制度が先行事例であり、対象となる大規模事務所で省エネや排出削減の成果が確認されている(※11)。

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日本における導入状況と今後の展望

オフィス街の大きなビル群

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日本では、排出量取引制度はまだ本格的に全国的な制度としては立ち上がっていないものの、複数の自治体制度やクレジット市場、国による制度設計が進んでいる段階だ。

現時点での日本の制度導入ステータス

日本国内で実際に稼働しているのが、東京都と埼玉県による地域単位の排出量取引制度だ。いずれも一定規模以上の大規模事業所(オフィスビル・商業施設・工場など)を対象としており、省エネや排出削減の効果が確認されている。

東京都のキャップ&トレード制度では、制度開始以来、義務対象となる事業所がすべて義務を履行してきたことから、国内における都市型排出量取引の先行事例として注目されている(※11)。

一方、国レベルでは、排出削減量をクレジットとして発行・売買できる「J-クレジット制度」が広く利用されており、再エネ導入や省エネ改善を進める企業の後押しとなっている(※12)。

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今後のスケジュールと注目ポイント

日本の排出量取引をめぐる大きな流れを形づくっているのが、2023年に閣議決定された「GX推進戦略」だ。ここでは、日本が導入するカーボンプライシングとして「排出量取引制度」と「化石燃料賦課金(カーボンチャージ)」の導入が明確に位置づけられている。

排出量取引の制度化は、以下の3段階で進められる予定だ(※13)。

第1フェーズ(2023年〜):約700社が参加する自主的な枠組み「GXリーグ」。企業が自主的に排出削減目標を掲げ、市場メカニズムの施行を行う。

第2フェーズ(2026年度〜):一定規模以上の排出事業者を対象に、排出量取引が義務化される。対象者は、CO2の直接排出量が、前年度までの3カ年度平均で10万トン以上の事業者となる(※14)。

第3フェーズ(2033年度〜):カーボンニュートラルの要となる発電部門において、有償オークション方式の排出枠配分を導入予定。

このように、日本の排出量取引は、自主型→義務型→本格的市場と、段階を践む形で拡大していく見通しだ。

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企業・事業者がいまから備えておくべきこと

制度が本格化する前のいまこそ、企業にとって大きな準備期間となる。まず必要なのは、自社の排出量を正確に把握することだ。排出量取引制度では、「どれだけ削減できたか」「どれだけ不足したか」が直接的に経営コストへ影響するため、算定の精度はそのまま競争力に直結する。

さらに、サプライチェーン全体の排出をどう管理し、取引先と連携していくかも重要。多くの企業では、サプライチェーン全体の排出が全体の排出の大半を占めるとされており、早めに体制を整えておくことで、将来的な負担を大きく減らせるだろう。

制度が義務化されれば、排出削減の取り組みが喫緊のテーマとなる。だからこそ、いまから省エネ投資を進めたり、削減余力を把握したりなど、経営戦略として脱炭素を組み込むことで、制度開始時に大きなアドバンテージを持つことが可能だ(※15)。

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個人事業主や中小企業も知っておきたいポイント

食品工場での検品の様子

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サプライチェーン全体での排出量削減が課題となるなか、中小企業も自社の排出量把握と対策が必須になってきている。

中小企業/個人事業主が知るべき制度の影響

排出量取引は、「直接規制されるのは大企業だから関係ない」と思われがちだが、実際には取引先の排出量報告や削減計画の提出を求められるなど、サプライチェーンを通じて影響がおよぶ。今後は、取引条件として排出量データの提出が必須になる可能性も出てくる。小規模事業者にも準備が求められる(※16)。

具体的にどう行動すればいいか

まずは、自社の排出量を把握することが第一歩。簡易ツールや電力会社の情報でも算定は可能だ。

次に、削減できる項目を洗い出し、省エネ設備や業務の見直しを検討する。クレジット制度や補助金の活用をはじめ、今後の市場動向をウォッチすることで、制度開始後のビジネスチャンスにも備えられる。

よくある誤解

「お金を払えば解決できる制度」という誤解は大きい。実際には、排出量を減らさなければコストが増える構造で、削減努力なしに乗り切ることは難しい。また、「まだ先の話」という認識も危険だ。サプライチェーンでの要請はすでにはじまっており、早めの準備が将来の負担軽減につながるだろう。

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「排出量取引制度」を取り巻く今後の動き

ノートにメモを取りながら話を聞く人々

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今後は、制度の詳細設計とともに、クレジット市場の統合や対象範囲の拡大が進むと予想される。日本政府によるGX-ETSの設計では、国際カーボン市場との接続を視野に入れており、国際水準を意識した制度設計が進んでいる。これにより、将来、日本の制度が世界のETSと整合する可能性がある(※17)。

また、計測技術の高度化やデジタルMRVの普及により、排出量の把握がより正確かつ低コストになることも予想される(※18)。制度の成熟は加速しており、企業は動きに敏感である必要がある。

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消費者・個人の視点からできること

紙袋の持ち手のアップ

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排出量取引制度は企業向けの仕組みだが、私たち消費者の選択も大きく関わる。省エネ家電や再エネ電力を選ぶことは、間接的に企業の排出削減を後押しする行動といえる。また、企業の環境情報開示が進むことで、環境への配慮を重視した購買判断がしやすくなっている。

私たちが個人としてできるのは、「どの企業が本気で脱炭素に取り組んでいるのか」に目を向けること。そして、日々の選択を通じて、環境に配慮した製品やサービスを応援することだ。

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排出量取引は未来を変える仕組み 今後の動向に注目を

排出量取引は、企業だけの制度ではなく、社会全体で脱炭素を進めていくための新しい土台だ。制度が本格化するこれからは、企業も個人も、減らす努力が正しく評価される仕組みをどう活かすかがカギとなる。私たち一人ひとりが関心を持ち、よりよい選択を積み重ねていくことが重要だ。

※掲載している情報は、2025年12月12日時点のものです。

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