これまでの大量消費から脱却する脱消費主義とは

ショッピングバッグ

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資本主義に根差した大量生産・大量消費からの脱却を意味する「脱消費主義」。注目される背景やその現状、また脱消費主義のメリットやデメリット、課題、脱消費につながる現代文化やトレンドを踏まえ、今後の社会への影響について予想する。

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2025.01.29
SOCIETY
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脱消費主義とは

並んだリンゴ

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多種多様な「モノ」が流通し、売買される現代社会。そのような大量生産・大量消費の循環からの脱却を目指す考え方のひとつとして「脱消費主義」が挙げられる。(※1)脱消費主義とは過度な物的消費の批判や、そのような消費形態からの脱却を意味する言葉だ。

大量生産・大量消費を良しとする消費主義、とくに行き過ぎた「大量消費主義=consumerism」への対義語として「anti-consumerism」「de-consumerism」とも呼ばれ、とくにヨーロッパでいち早く定着し始めた。(※2)近年のサステナブル志向も相まって、脱消費主義は「モノ」的消費への観点のひとつとして論じられることが多い。

消費主義が抱える問題点と「脱消費主義」が注目される理由

工場

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物資の豊富さが、社会全体の豊かさや経済成長の象徴とされる時代があった。しかしある程度市場が成熟するにつれて、大量生産・大量消費の良し悪しについての議論が散見されるようになった。問題視されている消費社会の短所と、それに対する脱消費主義への注目の背景を紹介する。

環境問題

商品を生産することはすなわち資源を消費することであり、購入されなかったものは廃棄される。また消費された結果として、廃棄物になるものも存在する。環境問題への関心の高まりにつれてこのような消費サイクルが疑問視され、資源問題や廃棄物問題として語られるようになった。とくに近年は食品や化粧品、服などの廃棄が注目されており、このような浪費を防ぐことがメーカー/消費者ともに求められている。(※3、※4)

心理的な満足感の欠如

製品を購入・所有することに豊かさを見出す時代が続いた結果としての、心理的負担も存在する。日々多様な製品が発売されるなかで、自分にとって価値あるものを選択し購入し続けることに疲弊する「消費疲れ」がその例だ。現実の消費ペースに対して各種製品の供給サイクルは加速しており、さらに情報過多によって選択の幅は広がっている。そのなかで「自分で満足のできるものを選択し、所有する」というハードルは高くなり、結果的に消費への疲弊・無関心化が進んでいるとの見方もある。(※5)

経済的不平等の拡大

消費主義によって社会全体の経済は発展したが、すべての人に経済的な豊かさをもたらしたわけではない。経済成長の過程で発生した貧富の偏り、地域・業種・雇用形態・ジェンダーによる所得の不平等など、経済格差は重大な社会問題である。(※6)また不景気が続くなかで利益が労働者の賃金に還元されないなど、さまざまな要因により購買力の低減、ひいては消費に対する意欲の低下につながるケースも多い。

多様な価値観の否定

消費主義はモノの所有によって財力や地位、趣味・嗜好等のアイデンティティを表現するものといえる。社会ではモノを持っているかどうかによって人の価値を判断すること、それを煽って消費させるといった販売戦略も行われてきた。しかし人間の本質は所有物・消費量の多さやその種類によって可視化されるものばかりではなく、持ち物によって単純に相手を判断することは個人の価値観の否定にもなりかねない。

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脱消費主義のメリット

棚田

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脱消費主義が、個人や社会に対してもたらすメリットを解説する。

個人の利点

経済的な自由

大量消費を見直すことで、支出の減少が期待できる。これまで使い捨てていた物を繰り返し使える製品に置き換えること、本当に必要なもの・長く使えるものを吟味して購入することが有効だ。単純な購入単価は高くなるかもしれないが、適切な選択によって長期的な経済性を得られるだろう。

持続可能な生活

頻繁に買っては捨てるサイクルから脱却することで、よりサステナブルな生活へもシフトできる。例えば使い捨てのカップやボトル飲料を減らしマイボトルを活用することで、捨てる手間が省けてごみの減量や資源の節約にもつながる。自分の生活圏内で持続的に活用できるアイテムを選ぶことで生活の質を上げ、さらに環境負荷低減も期待できる。

内面的な幸福感の向上

物的消費について吟味することにより、個人の幸福感の向上も期待できる。期間限定品や入手困難品といった理由ですぐに商品を買おうとすることはないだろうか。「買わなければならない」という思考からの解放で、本当に満足できるものを選べるかもしれない。また買いすぎを抑えることで「捨てる」ストレスの低減も見込める。

空間の有効活用

基本的に、居住地域に関わらず自分が快適に過ごせるスペースの確保にはコストがかかる。良く考えず所有物を増やし続けると空間を圧迫し、さらにその解決にも手間取ってしまう。過剰な買い物・貰い物を避けることで省スペースにつながり、快適な生活も期待できるだろう。

社会の利点

環境負荷の軽減

大量生産・大量消費社会においては、その生産・流通・破棄に関しても環境負荷が問題となってくる。大量の商品を生産する際の資源の消費やCO2の排出、輸送する際や使用後の破棄時に焼却などで排出されるCO2もそのひとつだ。消費主義を前提とした社会ではこのような問題が頻繁に発生するが、適正スパンでの生産・販売に努めることで是正が期待されている。

資源の持続可能な利用

商品の生産にはさまざまな素材が使用されており、それらはすべて限りある資源である。過剰な消費主義によって短いスパンでの消費が行われ続けるとまた新たな資源が必要となり、いずれは枯渇を招いてしまう。消費のスピードを緩やかにすることや循環的な利用により、資源の持続可能性を上げることもできる。

廃棄物の減少と環境保全

消費主義的経済活動のなかでは、商品を大量生産し余った在庫を廃棄するのは避けられない。このサイクルを見直して適正量の把握・生産に努めることで、廃棄物を削減し処理コストの低減やCO2排出量など環境負荷の低減が期待できる。

経済活動の新たなモデルの促進

消費主義を一要因とする現在の社会経済は「消費離れ」「貯蓄志向」といった流れにより停滞を迎えることが予想される。(※5)脱消費主義を視野に入れて消費拡大のみに頼らない経済成長を目指すこと、モノではなくサービスの提供へシフトするなど、新たな経済システムへの移行促進も望まれる。

モノに対する価値の見直し

大量生産・大量消費を前提とせずに商品を提供することで消費者側の意識をも変えうる。ものを大量生産して安く提供する販売方法から、社会全体がその価値に見合った価格での提供にシフトすることで、製品への正当な評価がなされる。ひいては生産基盤の安定化による持続性、メーカーや労働者にとっての誇りや正当な対価への寄与が期待される。(※7)

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脱消費主義のデメリットと課題

米と肉

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現実として、現代社会において脱消費主義を実践することは厳しい挑戦だろう。ここでは脱消費主義で直面する課題やデメリットについても解説する。

個人のデメリット

消費社会での実践の難しさ

既存の消費社会のなかで大量消費を避けるのは難しい。日々の食品や日用品の選択の際にも、ひとつひとつの商品の生産から消費/廃棄までのライフスタイルを考えるのは現実的でない。商品によってはメーカー・小売店の取り組みも進みつつあるが、まだまだ消費について考えるコストは高いといえよう。

必要なものを見極める判断力の必要性

「消費疲れ」としても触れたように、さまざまな商品があふれるなかで必要なものを選択することは難しく、心理的負担を伴う。またそれを判断するための価値観、判断基準も人によって多様であり外部化することも困難だ。そのうえで個人の消費活動としてある程度納得できるものを選ぶという行為は容易でなく、強い意志や熟考を必要とする。

社会的な付き合いでの孤立感

社会的に生きるなかでは、物を買って人に贈る/贈られることはコミュニケーションのひとつであり、例え必要なプレゼントではなくとも他人とのつながりを得ることができる。時節や儀礼に際しての贈り物も同様で、モノ以上の付加価値を有する場合もある。(※8)こういった消費行動を一概に不必要とすると、人や社会とのつながりが絶たれたと感じて孤立感に苛まれてしまう恐れがある。

社会におけるデメリット

経済成長への影響

現代社会のシステムは消費社会による経済成長を続けることを前提としており、脱消費により経済成長の停滞・中断が発生しうるリスクがある。これまで経済成長により保たれてきた生産や雇用の仕組みが崩れてしまう可能性もあるのだ。それはたとえ一時的な事象だとしても、人々には大きな負の影響である。「脱成長」という考えも提唱されているが、大規模な変革は時間のかかるものであり、その是非の議論も途上である。

資本主義への影響

脱消費主義による緩やかな消費サイクルと、競争を推進力とする資本主義との相性はよくない。消費が停滞すれば、メーカーの利益も一時的あるいは恒常的に低減し得る。そのような状況に陥ると、まず存亡の危機にさらされるのは競争力の低い中小企業だ。急激な脱消費により既存の資本主義において優位な立場にある組織のみが生き残って、結果的に製品の選択肢がなくなる可能性もある。

災害への対応力

脱消費主義で危惧されることのひとつとして、急な需要への対応不可能性がある。地震や感染症という社会的災害時において、予測し得ない突然の物資需要が高まることは良く知られているだろう。もちろん自治体・企業・個人を問わず災害に備えての備蓄は必要だが、そのキャパシティを超えて物的支援が必要となる場合も多い。このような場合に食品・日用品・医薬品をはじめとする物品の急増産や生産体制の切り替えは、通常のコストを度外視して行われることがほとんどだ。それに耐えるためにはある程度の冗長性≒大量生産が可能である必要がある。メーカー側が脱消費に向けて生産体制を見直す場合には、共生社会における存在意義についても検討を重ねることが重要だ。

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脱消費主義を支える新しいトレンドと文化

船の舵

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近年はさまざまな需要や技術発展から、脱消費に寄与する文化やトレンドが普及しつつある。すでに利用している方も多いかもしれないが、脱消費にもつながり得る文化の例を紹介する。

ミニマリズムの考え方

生活におけるミニマリズムとは、必要最小限のものだけを所有するライフスタイルのことである。(※9)身の回りの生活品を吟味して不必要なものは除去する(もしくは購入しない)ことで、スマートかつ快適な暮らしを目指すものとされている。

シェアリングエコノミー

物品の有形・無形を問わず、インターネットを通じてサービスの提供を行うことで既存資産を有効活用するものである。(※10)例えばカーシェアや民泊といったサービスのマッチング、衣類のサブスクリプション利用なども含まれる。これまでの「消費=所有して利用」とは異なり所有せずに利用するといった消費方法で、デジタル化の恩恵を受けた共有型コミュニティの発展形ともいえるだろう。

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ゼロウェイスト運動

ゼロウェイスト運動は企業や家庭からのごみをなくそうという取り組みであり、日本では徳島県上勝町でその実践が行われている。(※11)もちろん企業活動や生活でごみの発生は避けられないものだ。しかし上勝町ではごみをまとめて収集することをやめ、町民自らが収集センターに持ち込んだごみを分別して回収することにより、資源としての再利用を進め最終的な廃棄物の低減に成功している。

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サステナブルファッション

衣服の生産から使用、廃棄に至るプロセス全体で社会や自然環境の持続可能性を目指す取り組みを指す。(※12)例えば服を買う際の観点としては、1シーズンだけでなく長く使えること、生産・廃棄において環境負荷が少ないことが重視される。またメーカーにおいては廃棄までのライフサイクル全体での環境負荷低減策、余剰在庫を予防するための生産管理なども重要である。

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リユース・リサイクルの促進

新品にこだわらず中古品を買うことも、脱消費を支える取り組みのひとつだ。新しく資源を消費せず、廃棄までのライフサイクルを延ばすことから環境負荷低減にも寄与する。また長く使える品質や修理して使えることや、分別して再資源化しやすいことなども求められる。

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フードドライブ

すでに買った/もらった食品で、不必要と判断したものを救う取り組みがフードドライブである。(※13)未開封かつ賞味期限の残っている食品・食材を回収拠点に持ち寄り、集まったものが福祉施設や子ども食堂などに寄付される仕組みだ。全国各地で不定期的に開催されており、寄付という社会貢献である以上に、食品の過剰な購入がないかという意識の定着にもなり得る取り組みである。

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トレーサビリティの活用

商品の生産から消費者の手に渡るまでの記録を残し確認可能であることが「トレーサビリティ」であり、とくに市販品では食品分野において実践されている。(※14)どこで生産・加工されどのように流通したかが明確になることで、製品のサステナビリティや安全性が調べられる。また生産者側からも流通・販売の状況を追跡することで在庫やロスの量を把握し、生産量管理につなげることが可能だ。

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脱消費主義の未来とその可能性

荒野と黄色のバン

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グローバルな視点でも脱消費主義はいまだ浸透しきっておらず、北欧以外ではその普及も限定的だ。しかしサステナビリティをはじめとする価値観は浸透しつつあり、その一種として脱消費主義を推進することが考えられる。

とくに日本の若者においてはSDGsへの興味は高いものの実践には至っていない層も多いとされ、今後の動向によって消費行動への大きな変化は十分にあり得る。(※15)従来より浸透している体験重視の価値観も影響し、物質的な消費よりも体験を購入するシェアリング・サブスクリプション利用は今後も普及が加速するだろう。さらに個々のニーズに合わせた消費の仕方として、AIやビッグデータ分析による「自分らしい」製品やサービス提案が消費行動を左右することも予想される。(※16)

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動き始めたばかりの脱消費主義

水族館

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脱消費主義は発展途上の概念であり、実践の盛んなフランスにおいても「完全に行うこと」が推奨される訳でなく少しずつ生活に取り入れるものとしている。デメリットや課題もあり、その是非についても議論がわかれるところである。また「脱消費」といっても単純に不買を行うことではなく、本人の選択が重要とされるものだ。これに賛同するか否かに関わらず、余裕があればまずは買い物の際に自分の納得できる商品であるかを一考することが、快適な生活への第一歩となるだろう。

※掲載している情報は、2025年1月29日時点のものです。

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