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デマンドレスポンスとは、日本語で「需要応答」を意味する言葉で、電力の需要を調整して供給とのバランスを保つ仕組みのことだ。本記事では、デマンドレスポンスが注目される背景や実施の流れ、メリットやデメリットなどを詳しく解説していく。

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「デマンドレスポンス(Demand Response)」とは、電力消費者が電力使用量をコントロールすることで電力需要パターンを変化させ、電力の需要と供給のバランスをとる仕組みのことだ。日本語では「需要応答」と訳され、略称として「DR」という表記が使われることが多い(※1)。
本来、電力システムでは、供給側(発電事業者)が火力発電などで発電量を調整し、需要に応じて供給を合わせる方式が主流だが、デマンドレスポンスでは、需要側を動かして電力をコントロールする。ではなぜ、需要側が調整する必要があるのだろうか。
その理由のひとつに、「生産した電力を貯めておけない」という電気の特性にある。需要と供給を常に一致させることが求められる。開発が進んでいる蓄電池でも、電気を大量に蓄えるには相当の量を確保しなければならないのだ。
また、電力は常に需給バランスをとる必要があり、このバランスが崩れると周波数が変動し、大規模停電などのリスクがある。一方で、太陽光・風力などの再生可能エネルギーの導入が進むと、発電量は天候に応じて大きく変動し、需給バランスが不安定になりやすい。こうした背景から、需要側が電力を制御する必要があるのである。(※2)。
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デマンドレスポンスが注目される背景には、エネルギーを取り巻く社会的な変化がある。
近年は、脱炭素やSDGs、エネルギー効率化といった世界的な潮流が強まっており、太陽光発電や風力発電など、天候に左右される再生エネルギーの導入が拡大している。これらの不安定な電源を安定的に運用するには、需給バランスを柔軟に保つ手段が必要であり、デマンドレスポンスはその重要な仕組みとして期待されている(※3)。
さらに、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響による燃料調達コストの上昇も、デマンドレスポンスが注目される理由としてあげられる。電気使用量を抑えたり、再エネ由来の電力を有効に使ったりすることで、比較的価格変動が大きいスポット市場での燃料の追加購入を減らすことができ、日本全体として燃料調達コストを削減することができるのだ(※4)。
デマンドレスポンスは、需要制御のパターンによって、需要を減らす「下げDR」と、需要を増やす「上げDR」の2つに区分される。
下げDRは、電力需要を減らす仕組みのことで、電力の需要に対して供給量が少ないときに発動される。需要がピークになる時間帯に節電を行うよう需要家(電力消費者)へ要請し、電力需要を抑制することで需要と供給のバランスを図るのだ。
具体的には、夏の猛暑日の夕方や冬の寒波時など、電力需要がピークになる時間帯に、空調や照明などの負荷設備を調整・停止させたり、工場の生産ラインの稼働を調整したり、自家発電機を稼働させることで、電力会社からの電力購入量を削減する(※5)。
上げDRは、需要を増やす仕組みのこと。電力需要に対して供給量が多いときに発動される。供給量が電力需要を上回る時間帯に電気使用量を増やしたり、蓄電池への充電を行うよう需要家に要請したり、電力の需要を増加させることで需要と供給のバランスを図る(※1)。
たとえば、春や秋の晴天時には太陽光発電の出力が大きくなる一方、冷暖房需要が少ないため、電力が余る状況が生まれる。このとき、蓄電池や電気自動車(EV)への充電、工場の生産設備の稼働を増やすことで、余剰電力を有効活用できる。
デマンドレスポンスにおける需要制御の方法は、大きく分けて2つのタイプがある。
電気料金型デマンドレスポンスは、電気料金設定により電力需要を制御するもので、ピーク時の電気料金を高く設定し、それによって各家庭や事業者に電力需要の抑制を促す仕組みだ。
比較的簡単に大多数に適用可であることがメリットである一方で、そのときどきの需要家の反応により変化しやすいため、効果が不確実であることがデメリットといえる(※1)。
インセンティブ型デマンドレスポンスは、電力会社との間であらかじめピーク時などに節電する契約を結んだ上で、電力会社からの依頼に応じて節電した場合に報酬(インセンティブ)を得る仕組みのこと。
契約によるため効果が確実だが、比較的手間がかかり、小口需要家への適用が困難というデメリットがある。
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デマンドレスポンスの実施には、需要家、小売電気事業者、送配電事業者など複数のプレイヤーが関わっている。
まず需要家がアグリゲーター(電力需給を調整する事業者)や小売電気事業者とデマンドレスポンス契約を結び、その後、電力需給がひっ迫すると予測される場合、事業者から需要家に対してデマンドレスポンス実施の要請が通知される。
それを受け、需要家が節電や自家発電機の稼働などにより、電力使用量を調整。スマートメーターなどにより、実際の削減量が測定され、削減実績に応じて、需要家に報酬やインセンティブが支払われる流れになっている。
この仕組みを支える技術的な要素として、電気使用量の自動検針や30分毎の電気使用量を計測できるスマートメーター、家庭や施設全体のエネルギーを最適に管理するEMS(エネルギーマネジメントシステム)、蓄電池などが重要な役割を果たしている(※6)。
ここからは、デマンドレスポンスのメリットとデメリットを確認していこう。
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デマンドレスポンスには、社会全体、企業、家庭それぞれにメリットがある。
まず社会全体として挙げられるメリットが、需給バランスの安定化によって、電力需給のひっ迫時に大規模停電を防ぐことができ、社会インフラの安定性が向上すること。
また、デマンドレスポンスは、再生可能エネルギー活用の促進やCO2排出量削減支援にもつながる。再生可能エネルギーは、火力発電と比較すると大幅に温室効果ガスを削減できる。デマンドレスポンスは再生可能エネルギーをより有効活用することが可能なため、再生可能エネルギーの普及を拡大し、脱炭素にも大きく貢献することが期待されているのだ。
さらに、デマンドレスポンスは、電力の需給バランスを調整するだけでなく、電力使用量を抑えることで、高騰する天然ガスのLNGスポット市場での追加購入量を減らし、日本全体として、発電のための燃料調達コストを抑制できるのだ(※1)。
企業や家庭においては、電気料金の負担抑制に加え、インセンティブ型デマンドレスポンスの場合、電力会社からの報酬が得られるというメリットがある。
デマンドレスポンスは、エネルギー効率を高め、限られた資源を有効活用する仕組みであると同時に、企業にとっては、脱炭素経営やESG投資の観点からも評価される取り組みとなり、企業価値の向上につながるとされている。家庭にとっても、環境配慮型のライフスタイルを実践できる機会となるなど、社会全体・企業・家庭における「持続可能性」の向上に寄与すると考えられている(※7)。
メリットがある一方で、デメリットや導入上の課題も存在している。
デマンドレスポンスは、電力会社やアグリゲーターからの要請に応じて実施する必要があり、削減要求が出る時間帯や頻度、報酬の計算方法など、契約内容をよく理解する必要がある。また、契約期間中は一定のルールに従う必要があり、途中で契約を解除すると補助金の返還を求められる場合もあるのだ。
企業の場合、生産計画の変更が困難であったり、削減できる電力量が限られていたりすると、期待したほどの報酬が得られないこともある。家庭の場合、在宅時間や生活パターンによっては、削減要請時間帯に十分な節電ができないなど、参加のハードルが高いことも課題として挙げられる。
さらに、デマンドレスポンスに参加するには、スマートメーター、蓄電池などの設備導入が必要になる場合があり、とくに蓄電池は高額な投資となるため、初期費用の負担も課題となっている(※6)。
メリットや導入への課題を理解したところで、企業や家庭でのデマンドレスポンスの活用と実践ポイントを見ていこう。
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企業がデマンドレスポンスに参加するには、まず自社の電力使用パターンを把握することが重要だ。契約内容には、削減要請に応じる時間帯、目標削減量、報酬の計算方法などが含まれるため、どの時間帯にどのくらいの電力を使用しているのか、どの設備が多くの電力を消費しているのかを分析した上で、削減可能な電力量を見積もり、アグリゲーターや電力会社と契約を締結する必要がある。
EMSを導入することで、施設全体のエネルギー使用状況を可視化し、最適な制御が可能になる。さらにIoT技術を活用すれば、遠隔からの制御や自動化も実現可能だ。加えて、自家発電設備や蓄電池を保有している企業は、それらを活用することで、平常時のコスト削減および有事時の柔軟性強化を図ることができる。(※8)。
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家庭でのデマンドレスポンスは、日常生活の中で無理なく実践できる方法から始めることが大切だ。ピーク時間帯(夏の夕方や冬の朝晩など)にエアコンや照明の使用を工夫し、節電を図ることや、洗濯機や食洗機の稼働を深夜や早朝にシフトするピークシフトの導入も有効だ。
また、デマンドレスポンスの一環として自家発電・蓄電池を活用できるというメリットがある。たとえば電力需給がひっ迫した時には自家発電機を稼働したり、蓄電池に充電した電気を活用することで、電力会社からの供給電力量を減らしたりすることが可能(※9)。その他、EVを蓄電池として活用するV2H(Vehicle to Home)も注目されている。
現在、多くの電力会社や小売電気事業者が、家庭向けのデマンドレスポンスサービスを提供している。たとえば、東京都では家庭の節電マネジメント事業として、節電に応じてポイントが付与される仕組みがある。再生可能エネルギー100%の電気事業者と契約している場合は、より多くのポイントが付与されることも。大手電力会社や新電力各社も、それぞれ独自のデマンドレスポンスサービスやキャンペーンを展開しているので、自分に合ったサービスを選ぶことで、無理なく参加することができるだろう(※10)。
デマンドレスポンスを導入する際は、初期投資と期待できる報酬を比較し、コスト対効果を検証することが重要だ。とくに蓄電池などの設備投資が必要な場合は、補助金の活用も含めて検討するといいだろう。
また、契約条件について、削減要請の頻度、時間帯、報酬、報酬の計算方法、契約期間、達成できなかった場合のペナルティがあるかなど、事前に十分確認しておくことが大切だ。
デマンドレスポンスは、一度参加したら終わりではなく、継続的に運用していく必要があるため、運用体制の整備や、担当者が変わっても継続的に運用できる体制を整えられるようマニュアル化を行っておくことも重要である(※4)。
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デマンドレスポンスは、今後さらに進化し、需要側の柔軟性(DSF:Demand Side Flexibility)という概念へと拡大していくと考えられている。これは、単に需要を削減・増加させるだけでなく、時間をまたいで需要をシフトさせたり、さまざまな需要機器を統合的に制御したりする、より高度な需給調整を目指すものである。
EVは「動く蓄電池」として、今後のデマンドレスポンスにおいて重要な役割を果たすことが期待されている。日中の太陽光発電が豊富な時間帯にEVを充電し、夕方のピーク時間帯には、EVから家庭や電力網に電力を供給するV2G技術が実用化されつつあるのだ。
今後、太陽光発電、蓄電池、EVなどの分散型エネルギーリソース(DER)が各家庭や事業所に広く普及していくと、これらを統合して制御するVPP(仮想発電所:Virtual Power Plant)という概念が重要になってくる。VPPは、多数の小規模な分散型エネルギーリソースを束ねて、あたかも一つの大きな発電所のように制御する仕組みのこと。デマンドレスポンスは、このVPPの中核を担う技術として、今後ますます重要性を増していくと同時に、地域単位で電力を自給自足するマイクログリッドにおいても、需給バランスを保つために不可欠な要素となると考えられている(※11)。
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デマンドレスポンスは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)とも密接に関連している。とくに関連しているのが、7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」と13「気候変動に具体的な対策を」だ。デマンドレスポンスを実施することで、火力発電よりも温室効果ガスの排出を削減できる再生可能エネルギーを有効活用することが可能なため、脱炭素にも大きく貢献する。また、電力の需給調整を効率化することで、化石燃料による火力発電の稼働を抑制し、CO2排出量の削減にも貢献するのだ。
また、日本政府は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げているが、この大きな目標を達成するためには、再生可能エネルギーの大量導入が不可欠だ。しかし、先述のように太陽光や風力などの再エネは天候に左右されるため、発電量が不安定。この変動をカバーするために、デマンドレスポンスが重要なのだ。(※12)
日本では、資源エネルギー庁を中心に、デマンドレスポンスの普及促進に向けた政策が進められている。とくに需要の大きい夏季や冬季において、小売電気事業者がデマンドレスポンスプログラムを実施している(※13)。
デマンドレスポンスは、欧米を中心に先行して普及しているが、ヨーロッパでも再生可能エネルギーの大量導入に伴い、デマンドレスポンスの重要性が高まっている。とくにドイツやデンマークなど、風力発電が盛んな国では、需要側の柔軟性を高めるための政策や技術開発が積極的に進められているという(※14)。
今後重要性がますます高まると予想されるデマンドレスポンスだが、普及に向けて、いくつかの課題が残されている。
規制面の課題としては、電力市場の制度設計や、デマンドレスポンスに参加できる主体の範囲、報酬の算定方法など、ルールの整備が引き続き必要だ。技術面の課題としては、住宅等に設置される機器が標準的に具備される「DRready」環境の創出が必要だ。(※11)
さらに普及促進の課題としては、デマンドレスポンスの認知度向上や、参加のメリットのわかりやすい説明、参加手続きの簡素化などが挙げられる。とくに家庭向けには、日常生活に無理なく取り入れられる仕組みづくりが重要である。
デマンドレスポンスは、電力の需要側を調整することで需給バランスを保つだけでなく、再生可能エネルギーの導入拡大や脱炭素社会の実現に向けて、これからの社会に不可欠な仕組みだ。
企業にとっては電気料金削減やBCP(事業継続計画)対策、家庭にとっては光熱費節約や環境貢献というメリットがある。技術の進歩や制度の整備により、今後さらに参加しやすい環境が整っていくことを期待したい。
※1 ディマンド・リスポンス(DR)について|資源エネルギー庁
※2 デマンドレスポンスとは|環境市場でんき
※3 電力需給ひっ迫への処方箋:デマンドレスポンス(DR)とは何か |WWFジャパン
※4 【2024年最新】デマンドレスポンスとは?基礎知識から種類、仕組み、参加方法と注意点まで詳しく解説|伊藤忠エネクス株式会社
※5 デマンドレスポンス(DR)とは?仕組みや種類、メリットを解説!| Q.ENEST(キューエネス)グループ
※6 デマンドレスポンスの意味やメリット・デメリットを徹底解説|丸紅新電力
※7 デマンドレスポンスとは?仕組みやメリット、参加方法をわかりやすく解説!|しろくま電力
※8 電力の需給バランスを調整する司令塔「アグリゲーター」とは?|資源エネルギー庁
※9 デマンドレスポンスとは?仕組みやメリットまでわかりやすく解説!|地球未来図
※10 家庭の節電マネジメント(デマンドレスポンス)事業|東京都環境局
※11 蓄電池、給湯器などを活用したDRready対応の新たなビジネス創出、2029年度にはDR対応のヒートポンプ給湯器が導入見込み|新電力ネット
※12 2050年カーボンニュートラルの実現に向けて|環境省
※13 <終了しました>2025年DR補助金について概要から補助金額、要件までわかりやすく解説!|エコでんち
※14 上げDR・余剰電力活用の全貌 国内外40事例の徹底分析から導く、日本の次世代エネルギー戦略と未開拓アイデア12選|エネがえる
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