30by30(サーティ・バイ・サーティ)とは 意味や日本・世界の取り組み事例を紹介

壮大な山の景色を眺める人

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30by30(サーティ・バイ・サーティ)とは、生物多様性の損失にストップをかけるべく推進されている取り組み。地球への負荷が高い現代、このまま自然破壊が続くと、今後私たちの生活は難しくなる。そこで注目されているのが30by30だ。今回は、30by30の内容や具体的な事例を紹介する。

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2024.09.26
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30by30(サーティ・バイ・サーティ)とは

岩山と木の自然豊かな景色

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30by30(サーティ・バイ・サーティ)とは、2030年までに、陸と海の30%以上を健全な状態で保全しようとする目標だ。私たちの生活によって、地球の自然の劣化が続いている。いまのまま地球の劣化が進んでいくと、生活における地球の恵みを享受することはできなくなる。一刻も早く生物多様性の損失を止め、反転させる「ネイチャーポジティブ」を実現する必要があるのだ。

30by30の成り立ち

30by30は、これまで、さまざまな国際会議の場で議題に上がってきた。2021年6月に開催されたG7サミットでは、各国が自国における30by30を約束した。上述したネイチャーポジティブも、世界共通の認識として打ち出されている。

2022年12月にカナダ・モントリオールで開催された「生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)」では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択された。これは、2010年に愛知で開催されたCOP10の際に採択された「愛知目標」を継ぐもの。新しい枠組みのなかに、30by30が盛り込まれ、正式なグローバルターゲットになったのだ。(※1)

日本政府は、2023年3月に、「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定した。2030年までにネイチャーポジティブを達成するための手段の一つとして、30by30を位置づけた。(※2)

OECMとは

OECMとは、「Other Effective area-based Conservation Measures」の頭文字を取った言葉。「その他の効果的な保全手段」などと訳され、公的な保護地域以外で、生物多様性の保全に取り組む地域のことを指す。

日本の国土全体の生物多様性の保全を、国の取り組みのみで推進することは、不可能に近い。そこで重視されているのがOECMだ。

まず、地方公共団体や企業、民間、個人などが管理する土地で、生物多様性の価値を有する場所が「自然共生サイト」として認定される。そのなかで、保護地域と重複しない場所がOECMとして国際データベースに登録される仕組み。OECMの対象は、企業の森やビオトープ、里山、河川敷など、多岐にわたる。(※3)

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30by30の背景にある環境問題

波打ち際とサンセットの風景

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30by30、さらには、ネイチャーポジティブを推進する理由は、生物多様性の損失を食い止めないと、生態系サービスを享受できなくなるからだ。人間は、生活の多くを自然に依存している。つまり、生物多様性が失われ、生態系が崩壊すると、私たちの生活はたち行かなくなる。

SDGsの目標14には「海の豊かさを守ろう」、目標15には「陸の豊かさも守ろう」が掲げられている。いまの地球では、過去にないスピードで生物たちが絶滅しているのが現状。そこには森林開発や海洋汚染、気候変動など、人間の活動が大いに関わっている。

GDPの約半分は自然資源に由来しているといわれている。また、生物多様性の損失によって、食糧難に陥る可能性は今後さらに高くなる。(※4)生物多様性の損失が深刻化すればするほど、人間の生活も維持できなくなるのだ。

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30by30の目的と具体的な目標

山のなかで暮らすうさぎ

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日本では、30by30達成のために「30by30ロードマップ」を策定し、取り組みを推進している。以下では、そのなかで掲げられているキーメッセージに沿って、30by30の全貌を解説する。

「2030年までに陸と海の30%以上を保全」

繰り返しになるが、30by30は、2030年までに陸と海の30%以上を保全するという目標のことだ。自然の安定は、生物多様性があってこそ。生物多様性が損失し、生態系サービスが劣化傾向にあることを受けて提唱されたのが、30by30である。

自然の劣化を防ぐためには、生物多様性の回復や保全が欠かせない。世界の陸生哺乳類の絶滅リスクを下げるためには、既存の保護地域を総面積の33.8%まで拡大する必要があるとされている。(※5)日本では、保護地域とOECMの拡張を中心施策に据え、達成に努めている。

「生物多様性の損失を止め、人と自然との結びつきを取り戻す」

30by30の目標達成に向けて取り組みを推進するなかで、人と自然の結びつきを取り戻すことも掲げられている。

近年、都市への人口集中や生活様式の変化、産業構造の変化によって、人と自然の結びつきは希薄化している。自然からの恩恵を実感できる機会が減り、課題意識が下がっていることも懸念されている。(※6)人と自然が結びつき、共生できる未来の実現も大きなゴールといえる。

「地域の経済・社会・環境問題の同時解決につながるNbS」

NbS(Nature-based Solutions)とは自然を活用した解決策のこと。NbSを行うには、健全な生態系が確保できているのが大前提だ。30by30の目標達成は、健全な生態系が一定確保できていることを意味する。そうすることではじめて、NbSが適用可能となる。30by30の推進は、地域の経済・社会・環境問題を同時に解決することにつながっている。

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30by30の達成によってもたらされるメリット

紅葉している森林

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私たちの生活が生態系サービスありきで成り立っている現状を踏まえると、30by30の達成によってもたらされるメリットは多い。以下では、主要なメリットを紹介する。

生態系の回復と保全

まず一番に挙げられるのは、生態系の回復・保全だ。動植物は、豊かな自然のなかで育まれ、それによって生態系が維持される。さまざまなエリアの自然を保全することで、生態系が健全な形で保たれる。

琉球大学とシンクネイチャー研究チームの論文では、30by30の実効性を科学的に検証している。保護区を国土面積の30%まで拡大すると、維管束植物・脊椎動物種の相対絶滅リスクを7割低減できる可能性があるという。公的保護区とOECMを同時に拡大していくことで、効果を最大化できることも指摘された。(※7)

豊かな自然の恵みの回復

自然の生態系サービスを適切に享受できるようになることも大きい。森林があることによって、私たちに必要な空気や水が供給される。また、防災や減災において高い役割を果たすと同時に、鳥獣被害も軽減する。

食材や木材の生産など、生活の身近な部分で自然の恵みをいただく機会は多い。美しい景観を維持し、私たちの心を癒すのも、また自然である。

気候変動対策への貢献

森林を保全することは、気候変動対策につながっている。森林は、CO2を吸収し、固定する役割を果たしている。温室効果ガスを減らし、地球温暖化を防止するのに一役買っている。また、自然が保たれ、空気や水が適切な形で循環することで、気候変動にポジティブな影響を与える可能性もある。

地域活性化

30by30の取り組みを進めるなかで、地域の定住人口や交流人口の増加が期待されている。また、国立公園をはじめとする国定公園は、観光資源としても地域に貢献する。アドベンチャーツーリズムやアウトドア事業などの産業規模は拡大傾向だ。

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30by30の課題

苔で覆われた森林

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2030年に30by30の目標を達成するためには、課題も残されている。以下では、主要なものを紹介する。

OECMの拡大と質の確保

OECMの認定は進みつつあるものの、目標を達成するためには、さらなる拡大が必要だ。とくに海域の沖合域に関しては、ほかと比較して進捗が鈍い。(※8)また、管理の質の向上も必要だと考えられている。

資金と人材の確保

OECMは、制度の性質上、主体的な取り組みに頼っている現状がある。補助金や助成金の活用が進みつつあるが、活動の自走のためには増額が必要だ。

OECMに関する有識者が不足しているのも課題。認定に関わる手続きの困難を理由に、認定申請を諦めるケースも存在する。政府は、令和7年度から有識者マッチングを運用するとして、試行を開始している。(※9)

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30by30の日本の現状

日本では、2021年時点で、陸域20.5%、海域13.3%が保護地域として保全されている。(※10)2020年までの「愛知目標」は達成しているが、30by30を達成するにはまだ努力が必要な状況だ。

2022年3月には、国内における達成に向けた「30by30ロードマップ」が策定された。現在、2026年の中間評価に向けて、OECMの認定を進めている。同時に、国立・国定公園の拡張や質の向上を推進する方針だ。(※11)

日本における30by30の取り組み事例

メモをとりながら話を聞く人

Photo by The Climate Reality Project on Unsplash

以下では、日本における具体的な取り組みと、企業の事例を紹介する。

「生物多様性のための30by30アライアンス」の発足

「30by30アライアンス」は、30by30の取り組みをオールジャパンで推進するために、2024年4月に発足。環境省を事務局に、複数団体が発起人となり、地方公共団体や民間企業、地域金融などの賛同を得る形で活動している。

アライアンスに参加するには、OECMの登録や管理支援、保護地域の拡大支援などに取り組む必要があり、かつ、取り組みを積極的に発信することが求められる。(※12)

「天然水の森」の保全|サントリー

サントリーでは、地下水の持続可能性を育むために、工場の水源涵養エリアの森で水を育む活動を行っている。水源涵養力の高い森を生物多様性に富んだ森として、さまざまな方法で森林整備を推進している。

活動場所は、天然水の森。工場周辺の水源涵養エリアを特定し、行政や森林所有者と協定を結ぶことで、天然水の森を設定している。2003年に熊本県・阿蘇からスタートし、現在は15都道府県の21箇所にまで拡大した。今後も、美しい森づくりを続けていく。(※13)

社有林の維持・向上|住友林業

住友林業は、国内に国土面積の約800分の1ともなる約4.8万ヘクタールの社有林を持っている。その全エリアにおいて、森林認証制度「SGEC」を取得し、生物多様性の保全に関する第三者機関の評価を受けている。

社有林内に生息する可能性がある絶滅危惧種のリスト「住友林業レッドデータブック」を独自に作成し、関係者に配布。専門家と連携し、適切に対処するよう努めている。

2022年〜2024年の中期経営計画においては、30by30と合わせ、社有林のうち保護林の割合を30%以上確保することを目標にしている。(※14)

「昆布の森再生プロジェクト」|SHIONOGIグループ

SHIONOGIグループでは、30by30に関する複数のプロジェクトを推進している。なかでも、ガゴメ昆布を利用した健康食品を製造している「シオノギヘルスケア」では、天然のガゴメ昆布が絶滅の危機に瀕している状況を受けて、2024年までに天然ガゴメ昆布の使用をゼロにすることを目標に掲げている。

函館市、大学、企業と連携し、養殖の研究を進めている。天然ガゴメ昆布の保護や再生を通して、豊かな海の回復に寄与していく。(※15)

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世界で行われている30by30の取り組み事例

海を泳ぐカメ

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30by30は、日本だけでなく、国際的に推進されている目標だ。以下では、世界の取り組み事例を紹介する。

コスタリカの海洋保護区拡大

コスタリカ政府は、2021年12月に、手つかずの美しい海を強く守っていくことを発表した。1982年から海洋保護区に指定しているココ島国立公園の面積を27倍に拡大。さらに広い海域を保護するために、新たな海洋保護区として「バイセンテニアル海洋管理エリア」を設置した。コスタリカ本土の約3倍の海域が保護されることになり、海洋の保護範囲が30%に達した。(※16)

イギリスの生物多様性ネットゲイン法制化

イギリスでは、開発事業者に対して、開発前と比べて生物多様性を10%増加させることを義務づける「生物多様性ネットゲイン」を国レベルの規模では世界ではじめて法制化した。

従来、新規開発の際には、損失と同等の価値を生み出す「ノーネットロス」の原則が求められていた。しかし、これからは、環境価値を創出する「ネットゲイン」が当たり前となる。2024年2月以降、段階的に施行されており、国際的にも注目されている。(※17)

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30by30はあくまで通過点

30by30達成に向けた課題も残されているが、30by30は決してゴールでない。ネイチャーポジティブを実現し、よりよい地球を取り戻すための通過点でしかないのだ。私たちがこれからも地球での生活を続けていくには、30by30を達成し、豊かな自然を守っていくことが必須条件だろう。

まずは現状を知り、危機感を覚えることがスタート。ぜひ、個人でできることも探してみてほしい。

※掲載している情報は、2024年9月26日時点のものです。

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