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世界で深刻化しつつある水不足問題。降水・降雪量が比較的多く、水に恵まれた印象の日本でも、近年では水不足による問題が度々引き起こされている。ここでは、日本における水資源の現状から、日本で水不足が起きる原因と解決に向けた政府や企業の取り組みまでを詳しく解説する。
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「水不足問題(水問題)」とは、地球上に存在する水のうち、人間が生活や活動に必要な水が十分に得られない状況を指す。ここでいう生活や活動に必要な水とは、料理やトイレなどの生活用水に加え、農業や工業、発電など、人間の生命活動に欠かせないものも含まれる。
世界には、とくに発展途上国や乾燥地帯など、水に関するインフラが整っていないために安全な水を手に入れることが難しい地域が多く存在する。ユニセフによると、2022年時点で世界では22億人が安全に管理された飲み水を利用できていない。このうち1億1,500万人は、湖や河川、用水路などから確保した未処理の水を使用しているという。(※1)国連によると、2050年までには世界の4人に1人が水にアクセスできなくなると言われている。(※2)
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日本において水資源はどのような状況にあるのだろうか。特徴を挙げて紹介しよう。
日本は、上水道普及率が約98%、下水道も約79%が普及しており、国土のほぼ全域にわたって清潔な水を気軽に利用できる環境が整っている。また降雨・降雪量が多く、森林面積も広いため、水資源に恵まれた国と言える。
水道インフラも整っており、降雨・降雪量も比較的多い日本だが、実は莫大な量の「水」を輸入している。それは「バーチャルウォーター」と言われるものの存在だ。
バーチャルウォーターとは、食料を輸入する国が、それらを自分の国で生産した場合に使ったと仮定される水の消費量のこと。例えば、食パン1斤の原料となる小麦粉300グラムをつくるには、630Lの水が必要だ(※3)。その小麦粉が国外から輸入されたものだと、現地の水630Lを使ったことになる。
これは日本の食料自給率が40%程度と低く、食糧の多くを輸入に頼っていることから発生する。日本は、世界のバーチャルウォーター輸入国上位10位に入る。(※4)自国で安全な水を使用できるにもかかわらず、間接的に他国の水資源を使用していることになるのだ。
国連食糧農業機関の公表データを基に国土交通省が2022年まとめたものによると、「一人当たり年降水総量」は日本は約 5,000㎥/人・年で、世界の一人当たり年降水総量約20,000㎥/人・年の4分の1程度だ。
さらに、理論上人が最大限利用可能な水の量を示す「一人当たり水資源賦存量」を世界と比較すると、世界平均が約 7,100㎥/人・年に対して、日本では約 3,400㎥/人・年と2分の1以下であり、首都圏だけで見ると北アフリカや中東諸国と同程度になる。(※5)
これは人口の多さと、日本は地形が急峻で河川が短く、梅雨期や台風期に降雨が集中するため、多くの部分が水資源として利用されないまま海に流出してしまうことが原因として挙げられる。(※6)
なお、農業や工業、飲料・食糧を含め人ひとりの生活に必要な水資源量は年間1,700㎥とされている。利用可能な水の量が1,700㎥を下回る場合は"水ストレス"にさられた状態にあるとされるため、日本は"水ストレス"にさらされていないと言える。
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世界平均より下回るものの、"水ストレス"下にあると判断される水資源量の約2倍を有する日本。そんな日本においても、水不足(渇水)は存在する。その原因をみていこう。
地球温暖化による気候変動が大雨や干ばつ、洪水といった異常気象を引き起こし、水資源に大きな影響を与え、世界における水不足の原因の一つとなっている。
日本においても気候変動によって降雨量のバランスが崩れつつある。昭和40年頃から少雨の年が多くなっており、とくにこの20~30年では、少雨の年と多雨の年の年降水量の差がしだいに大きくなっている。その結果、少雨の年は貯水ダムや河川の渇水が問題になり、多雨の年は大雨による被害が増加。短期間に集中して降るゲリラ豪雨が増える一方で、雨が降らない日数も延びており、安定的な水の利用が困難になりつつある。
また、気候変動の影響により、100年後の期別降水量は増加するところと減少するところに2極化し、渇水や洪水のリスクが高くなる可能性が示唆されている。(※7)
日本は大陸の国々と比べて土地が狭いため、河川が急勾配で距離も短いという特徴がある。そのため、多量の雨が降ってもすぐに海へと流れ出てしまい、水資源として利用されにくい。さらに、こうした地形の特徴に加え、季節によって雨や雪が降らないことで水不足になる「渇水問題」が生じている。
日本は国の面積に対して人口が多いため、年間降水量を一人当たりに換算すると世界平均の約4分の1になる。その一方で、日本人が使用する生活用水は一日あたり220リットルで世界で2番目に多いとされる。(※8)
そのほか、都市への急激な人口増加と産業の集中、さらに都市域が拡大していることや多消費型社会への変化も、水の消費量を増やしている。これは平常時の河川流量の減少や地下水位の低下、湧水枯渇、地盤沈下といったさまざまな問題を引き起こし、渇水の要因のひとつとなっている。(※6)
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水不足の問題を受け、日本では2014年7月に「水循環基本法」が施行された。健全な水環境を維持・回復させるための理念に基づいた施策を行うことを目的とし、再生水利用の促進、河川の整備、森林保護をはじめとする自然環境の保全活動など、各地でさまざまな取り組みが行われている。
国土が狭く河川が急勾配で短い日本では、降った雨が陸地に滞留する時間が短く海に流れ出てしまうという弱点がある。それを緩和させるのが、水源林だ。森林が持つ水を蓄える力により、川に流れる出る水の量を緩やかにし、河川の急激な増水や渇水を緩和する機能がある。さらに森林には、水をろ過する機能、土の流出を防ぐ機能、地下水を生み出す機能が備わっている。
東京都水道局では、多摩川上流に広がる森林を水道水源林として管理している。計画的な間伐や枝打、植栽や下刈り、獣害・病虫害対策を行い保全することで、水源林の機能を効果的に発揮させている。また、個人が所有し手入れが行き届かなくなった民有林を買い取り、再生する取り組みも行っている。
大手素材メーカーの東レ株式会社は、地球の70%以上を占める海水から飲料水をつくる装置「海水淡水化装置」を完成させた。これまで、海水の淡水化は海水を蒸発させる方法が一般的だったが、蒸発にかかるエネルギーが膨大であり、環境破壊にもつながることが懸念されていた。しかし、東レ株式会社の技術は、蒸発させずに塩素イオンを除去し、淡水化させる画期的な技術だ。
トイレをはじめとする製品の製造販売を手がけるTOTO株式会社は、2005年に「TOTO水環境基金」を設立。日本各地で水にかかわる環境活動に継続して取り組む団体への支援を続けている。そのほか、ベトナムやフィリピンなど、水不足に苦しむ地域へのトイレや給水タンクの設置・修理などの取り組みも積極的に行なっている。
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日常生活で使用する水の量を意識して減らすことは、将来的に想定される水不足を緩和するためにも重要なアクションだ。手洗いのときに水を1分間流しっぱなしにすると約12リットル、食器洗いで5分間流しっぱなしにすると約60リットル、シャワーで3分間流しっぱなしにすると約36リットルもの水が消費されてしまう。(※9)
手洗いやシャワーを浴びる際には水を出しっぱなしにせずこまめに止める、お風呂の残り湯を活用する、節水シャワーヘッドや節水リングを活用して水の量を抑えるなど、少し意識すれば実践できることはたくさんある。
生活するなかで、汚れを安易に流さないことも重要だ。排水が汚れると水の浄化に多大なコストがかかる。日常生活の中でできる限り綺麗な状態で排水することで水質の保全が容易になり、結果として限られた水資源を効率的に利用することができる。例えば、食器や調理器具についた油汚れは紙で拭き取ってから洗う、洗剤やシャンプーは適量を意識して使用するなど、小さな工夫を取り入れることが大切だ。
地球温暖化が水不足へ及ぼす影響は大きい。そのため、一人ひとりが日常生活で温暖化対策を実践することは、水不足問題の解決に向けた重要な一歩となる。
私たちが身近にできることとして、冷暖房の温度設定を適切に調節する、エコバッグやマイボトルを活用し使い捨てプラスチックの使用を控える、家庭の電力を再生可能エネルギーに変えるなどがあげられる。これらの行動は、CO2の発生を抑えたり、電気などのエネルギー資源の使用量を減らす効果がある。
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日本は水に恵まれた国というイメージがあるが、一方で水不足(渇水)の問題も近年浮き彫りになっている。水不足問題の緩和に向けて、国や企業だけでなく、私たち一人ひとりが日常生活の中で意識し、対策を行なっていくことが重要だ。小さな行動の積み重ねが、水資源の保護と持続可能な未来につながっていく。
※1 ユニセフの主な活動分野|水と衛生|ユニセフ
※2 目標6|国連広報センター
※3 1日3リットルの水を飲み、300リットルの水を使い、3000リットルの水を食べる日本人|YAHOO!ニュース
※4 隠れた水 世界水の日報告書2019|WaterAid
※5 令和4年版日本の水資源の現況|国土交通省
※6 第Ⅱ編 日本の水資源と水循環の現況|国土交通省
※7 水危機(気候変動等による渇水・塩水障害)|国土交通省
※8 水と生活・文化|ミツカン
※9 水の上手な使い方|東京都水道局
参考:
・国土交通省|日本の水資源の現状と課題
・NEC|世界の水不足問題とは?現状や原因、テクノロジーによる解決策
・水源林のはたらき|東京都水道局
・TORAY|海水淡水化とは
・TOTO株式会社|TOTO水環境基金
・TOTO株式会社|2022年度助成先団体活動報告
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