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2024年度(令和6年度)に新しく森林環境税が導入された。納税者は6,000万人強であり、年間約600億円の税収が見込まれている(※1)。この記事では森林環境税について、基本的な仕組み、主な使い道、活用状況、メリット、取り組み事例を紹介する。
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森林環境税とは、2024(令和6)年度より個人に課税される国税だ。徴収された税収の全額は、森林環境譲与税として国から都道府県・市町村に贈与される。基本的な仕組みは次の通りだ。(※1)
森林環境税は、個人住民税と合わせて自治体により徴収される。
対象となる納税者は、国内に住所のある納税義務者だ。住民税非課税者は対象外。納税額は、年額1,000円である。
都道府県・市町村は、受け取った森林環境譲与税を森林整備に関する費用に充てなければならない。また、インターネットなどを利用して使い道を公表する必要がある。
森林環境税は納税者に一律の金額納付を求めるものであり、インターネットなどで誰もがその使途を確認できる税金である。
森林環境税の創設の背景には、森林の適切な整備が難しくなっている現状がある。森林を育みながら木材を生産する林業は、担い手が不足している状況だ。また所有者や境界のわからない土地があることで、経営管理に問題が起きている。間伐を行う人手も必要だ。
さらに、パリ協定で設定した環境に関する具体的な数値目標もクリアしなければならない。日本は、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減することを目標に定めている。これらを実現するためには、森林の適切な管理とこれを支える財源が必要だ。森林環境税はこうした理由から設けられた。
森林の整備は、緊急の課題である。そのため森林環境譲与税については、2019年度(令和元年度)から前倒しで譲与されている。
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森林環境税は、前述の通り森林整備に関する費用に充てられる予定だ。具体的にはどのように使われるのか、前倒しで譲与されている森林環境譲与税の主な使い道を参考に、4つの方法を確認していこう。(※1)
1つ目は、森林整備の財源確保である。間伐や境界画定、現況調査、植栽などに使用される。使い道のなかで、もっとも多く使われるのがこの項目だ。
2つ目は、人材の育成と確保である。森林を整備する担い手を確保するため、知識や技術を取得できる講座の開催や、作業員の安全装備品を支援する目的に使われる。
3つ目は、木材利用や普及・啓発だ。公共・民間の建築物に木材を利用する、生徒が授業で木製の作品を制作するといった取り組みが行われている。
4つ目は、自治体間での連携である。一例を挙げると、森林を持たない自治体は森林環境譲与税を有効活用できない。そこで、森林を持つ自治体と連携して森林整備を進める。森林を持たない自治体は、カーボンオフセットに充てることができる。
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森林環境税は令和6年度から徴収される税金である。そのため、実際に使用されるのは翌年度以降となる。ここでは前倒しで譲与されている森林環境譲与税について、これまでどのように使われてきたかを見ていこう。(※1)
令和4年度の実績では、1,741市町村が森林環境譲与税を利用して取り組みを行っている。活用額の総額は399億円だ。取り組んだ内容は、森林整備79%、人材育成と確保35%、木材利用や普及・啓発52%、基金への全額積み立て等10%であった。
譲与の始まった2019年度からの推移を見ていくと、基金への全額積み立てが大幅に減り(38%:2019年度実績)、森林整備(53%:同前)、木材利用や普及・啓発(22%:同前)、人材育成と確保(13%:同前)が増えている。年々有効に使えている状況がうかがえる。
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森林環境税は、森林を整備するための税として使われる。ここからは、森林を守ることでどのようなメリットがあるのかを確認していこう。(※2)
森林には多面的な機能がある。例えば生物多様性の保全、二酸化炭素の吸収による地球温暖化の緩和といった環境に関することから、行楽やリハビリテーションなどの保健・レクリエーション、景観や学習などの文化的側面、木材の調達といった役割までさまざまだ。森林は、私たちの生活に不可欠なものである。
森林の木の根は、土砂や岩石を固定している。そのため土石流や落石のほか、雪崩や暴風などを防止・軽減できる。また森林の土壌は雨水を一時的に蓄え、少しずつ河川に流していく。こうした性質により、洪水を緩和できる。災害の防止と軽減ができれば、経済的な効果も大きい。
森林に降った雨は、時間をかけて河川に送り出される。それにより安定的に河川の流量が得られるため、水資源の貯蓄に役立っている。また雨水が森林のある土壌を通ると、ミネラル成分がバランスよく溶け出し、おいしい水をつくる。これは水質の浄化機能と呼ばれている。(※3)
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森林環境税を活用して、どのような取り組みが行われるのだろうか。前倒しで譲与されている森林環境譲与税を使った令和4年度の取り組み事例を取り上げ、導入の翌年度以降の見通しを立ててみる。(※4)
前章の「森林環境税の主な使い道」でも取り上げたように、自治体間連携の取り組みが行われている。例えば秋田県横手市では、友好都市などの関係のある茨城県那珂市と岩手県釜石市に木製ブロック塀を設置した。森林整備の促進として、地域の木材を利用した事例である。
伐採後に苗木を植えて森林をつくる再造林に取り組んでいる自治体もある。青森県むつ市は伐採後の再造林が少なく、放置されている森林が多くあった。そこで造林や下刈りの補助率を高く設定し、森林所有者の負担を軽減した。事業者からは、再造林面積を増やせるなどの声が聞かれている。
長崎県平戸市は半島や離島地域が多いため、台風などの自然災害を受けやすい。そこで、地域の間伐材を活用した防風柵などを設置する際の支援制度を創設した。令和4年度は、防風柵の延長80メートル、木材使用量25立方メートルを設置した。災害防止と森林保全の両方を実現した取り組みである。
鳥取県八頭町では伐採期にあるスギ・ヒノキの森林面積が75%を占めているが、再造林が進んでいない。また、原木シイタケの栽培に必要なクヌギ・コナラが不足している状況だ。そこで町ではクヌギ・コナラの植栽に対して補助をすることで、再造林と植栽を同時に進めることに成功した。
森林管理は、境界がわからないことから困難な場合もある。山形県山形市では、ドローンなどを使用して境界画定や集積計画の策定を行い、森林所有者の負担の軽減を図るのと同時に、森林整備などにも取り組んだ。この結果、境界の同意取得者は74名、集積計画同意者は63名となり、森林の適正な管理につなげた。
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2024(令和6)年度より新たに導入された森林環境税。森林環境税は全額都道府県・市町村に譲与され、森林の整備に使われる。
森林には、環境保全に関することからレクリエーション、木材の調達、災害の防止、水資源の貯蓄・浄水までさまざまな役割がある。日常生活で森林を身近に感じる場面は少ないかもしれないが、私たちの暮らしには欠かせないものだ。森林環境税を通じて、森林の機能回復に役立つことを期待したい。
※1 令和4年度における森林環境譲与税の取組状況について令和5年10月総務省・ 林野庁
※2 森林の有する多面的機能について:林野庁
※3 水を育む森林のはなし:林野庁
※4 令和4年度森林環境譲与税の取組事例集(市町村・都道府県)令和6年3月
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