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いま世界において生物多様性を守るさまざまな取り組みが進められている。そのひとつとも言えるTNFDとは何か。世界で注目され、日本企業も次々と対応を始めているTNFDについて、必要とされる背景、目的、企業が対応すべき理由、開示内容などを詳しく紹介していく。
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TNFDとは、日本語で「自然関連財務情報開示タスクフォース」を意味し、企業の財務情報を開示する際の枠組みのひとつ。企業や金融機関の経済活動が自然環境や生物多様性にどのような影響を与えるか、どう関連しているかを評価し、情報開示・報告するフレームワークの構築を目指すものだ。
国連やイギリス政府、金融機関が主導して立ち上げたもので、標準化した枠組みに沿って企業が情報を開示することで金融機関の投融資を促す目的がある。そしてその先に、資金の流れをネイチャーポジティブに転換することを目的としている。
TNFDが設立された背景には、世界的な生物多様性の劣化に対する危機感の強まりが挙げられる。生物多様性劣化の指標の一つといわれているのが、野生種の絶滅問題だ。IUCN(国際自然保護連合)は絶滅のおそれがある野生生物をリスト化した「レッドリスト」を作成しており、全世界で存在している野生生物約15万種の約26%、4万2,100種以上が絶滅危惧種とされている。(※1)
生物多様性はかつてないほどのスピードで減少しており、その要因に人間の経済活動による自然資本への大きな依存が挙げられる。世界経済フォーラムの発表によると、世界の総付加価値額のうち、44兆米ドル(世界の総GDPの半分)以上が自然に依存した産業から生み出されている。(※2)それらは自然に負荷を与え、自然資本を継続的に劣化させている。
経済活動の自然資本への依存と自然資本の劣化は、社会経済の持続可能性において明確なリスクとなる。社会経済活動を持続可能なものにするためには、ネイチャー・ポジティブ経営、つまり自然の保全の概念を取り込んだ経営への移行が必要不可欠だ。(※2)
このような背景から、企業の経済活動における生物多様性への影響を評価・開示し、ネイチャーポジティブ実現のための取り組みを促進させるための枠組みとしてTNFDが誕生した。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、気候変動問題に対応するためにTNFDに先駆けて発足した。「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標・目標」の4つの柱から構成された枠組みであり、主に気候変動をテーマとして二酸化炭素の排出削減を目的とした活動がメインとなる。企業の気候変動への取り組みの開示を推奨する国際的な枠組みである。(※3)
TCFDの"生物多様性バージョン"と言えるのがTNFD。TNFDの仕組みはおおよそTCFDのそれに準拠しており、相互に補完する関係になっている。
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なぜいまTNFDが必要なのか。TNFDが必要な理由として、自然や生物多様性を減らす要因が経済活動に大きく影響している点が挙げられる。自然からの恵みをそのまま商業利用する農林水産業はもちろんのこと、資源採掘や工業地域、都市の開発、エネルギー資源の活用といった人間社会を構築するためのあらゆる経済活動も、結果的に自然や生物多様性に大きな影響を及ぼす要因になっていることが問題視されている。
したがって、TNFDの活動をとおして企業が取り組む事業が自然環境にどれほどの影響を及ぼしているかを把握させ、改善させていくことが目的である。
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TNFDを設立した目的は、生物多様性が社会や企業にもたらす影響を認知することが大きな理由として挙げられる。また、世界の金融などの流れが自然環境にどのようなリスクがあるのかを開示するための枠組みを提供することも意図している。
これらの活動をとおして、最終的には「ネイチャー・ポジティブ」に貢献できることを目的としている。「ネイチャーポジティブ」とは、日本語で訳すと「自然再興」という意味である。すなわち「自然を回復軌道に乗せるために、生物多様性の損失をできる限り食い止めて反転させること」が目的だ。(※4)
この活動をとおして、自然資本や生態系を守ることを後押しするとともに、企業側も資産評価や資本分配に関する意思決定を向上させることに繋げる目的もある。
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TNFDの開示内容は、4つの柱であるガバナンス・戦略・リスクとインパクトの管理・ 指標と目標を中心に構成される。(※5)
ここではTNFD開示推奨項目の4つの柱について解説する。
どのような姿勢で自然関連の課題を管理・検討し、それを企業の経営に反映しているのかをみる。ここでは、自然関連の依存、インパクト、リスクと機会のガバナンスによる開示が推奨される。
A. 自然関連の依存、インパクト、リスクと機会に関する取締役会の監督について説明する。
B. 自然関連の依存、インパクト、リスクと機会の評価と管理における経営者の役割について説明する 。
C. 自然関連の依存、インパクト、リスクと機会に対する組織の評価と対応において、先住民族、地域社会、影響を受けるステークホルダー、その他のステークホルダーに関する組織の人権方針とエンゲージメント活動、および取締役会と経営陣による監督について説明する。
「戦略」とは、組織が自然関連の課題を管理するために用いるアプローチを指す。 短・中・長期にわたり、企業経営にどのような影響を与えるかについて考えることである。
ここでは自然関連の依存、インパクト、リスクと機会が、組織のビジネスモデル、 戦略、財務計画に与えるインパクトについて、そのような情報が重要である場合は開示する。
A. 組織が特定した自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を短期、中期、長期ごとに説明する。
B. 自然関連の依存、インパクト、リスクと機会が、組織のビジネスモデ ル、 バリューチェーン、戦略、財務計画に与えたインパクト、および移行計画や分析について説明する。
C. 自然関連のリスクと機会に対する組織の戦略のレジリエンスについて、さまざまなシナリオを考慮して説明する。
D. 組織の直接操業において、および可能な場合は上流と下流のバリューチェーンにおいて、優先地域に関する基準を満たす資産および/または活動がある地域を開示する。
「リスクとインパクトの管理」とは、組織が自然関連の課題を特定・評価し、優先順位を決めてモニタリングするために用いるプロセスを説明すること。
A(i) 直接操業における自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を特定し、評価し、優先順位付けするための組織のプロセスを説明する。
A(ii) 上流と下流のバリューチェーンにおける自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を特定し、評価し、優先順位付けするための組織のプロセスを説明する。
B. 自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を管理するための組織のプロセスを説明する。
C. 自然関連リスクの特定、評価、管理のプロセスが、組織全体のリスク管理にどのように組み込まれているかについて説明する。
「指標と目標」とは、自然関連の依存、インパクト、危険性と機会の評価について、どのような基準を用いて判断し、目標への進捗度を評価しているのかを開示すること。
A. 組織が戦略およびリスク管理プロセスに沿って、マテリアルな自然関連リスクと機会を評価し、管理するために使用している測定指標を開示する。
B. 自然に対する依存とインパクトを評価し、管理するために組織が使用している測定指標を開示する。
C. 組織が自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を管理するために使用しているターゲットと目標、それらと照合した組織の パフォーマンスを記載する。
情報開示のプロセス「LEAPアプローチ」とは、TNFDによる自然との依存関係・接点・インパクト・リスクなどといった自然に関する課題の評価に対する総合的なアプローチとして開発されたものである。LEAPとは「発見する(Locate)」「診断する(Evaluate)」「評価する( Assess)」「準備する(Prepare)」の略である。
LEAPアプローチはTNFDが推奨するステップである。LEAPアプローチでは、スコーピングを経てLEAPの段階をこなし、TNFD情報開示に向けての準備を行う。現在LEAPアプローチは必須でないが、パイロットテストの結果からも役立つと評価されている。(※6)
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なぜいま、企業がTNFDに取り組む必要があるのか。ここでは企業がTNFDに取り組む必要性とメリットについて解説する。
東京証券取引所プライム市場でTCFD提言に沿った情報開示が実質義務化されたことで、いずれTNFDも義務化される可能性があると考えられている。そのほか、ESG投資の活発化や経済活動の環境への影響の大きさも踏まえると、すぐにでも取り組む必要があるといえる。
企業がTNFDに取り組むメリットとして、企業価値の向上や成長につながる点が挙げられる。TNFDで情報を開示することにより、自社の知名度や価値を上げる機会を得ることはもちろん、ESG投資などで競争力を獲得することにつながるといえる。またこの活動をとおして、投資家や金融機関からの信頼や評価も高められる。
近年の投融資の判断基準には、財務と非財務の両方の観点が重視されつつあることからも、生物多様性に対してどのような配慮を行っているのかは、これからさらに重要視されるだろう。どの分野の企業であっても、大なり小なり資源や水などを利用していることから、生物多様性に関して全くの無関係とはいえない。
したがって、企業がTNFDをとおして生物多様性保全の活動に取り組むメリットは大いにあるといえる。逆に、取り組まないことに対してのリスクは大きい。
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ここではTNFDの現状とこれからの動向について解説する。
TNFDは23年9月に公表されたばかりだが、24年ですでに早期開示宣言をした320社のうち、金融機関は100社を超える結果となった。このことからも、投資家たちの本気度が伺える。たとえば、アセットマネジメントOneやノルウェー銀行インベストメント・マネジメント(NBIM)なども名を連ねており、資産運用総額は14兆ドル(約2070兆円)に達すると想定される。
2024年に行われたダボス会議にて、世界で320社が、TNFDの枠組みに沿って早期開示宣言をしたと発表された。もっとも多かった国は日本であり、80社にものぼった。宣言した企業は、23〜25年の事業について開示しなければならない。
「TNFDレポート」を発行した企業は投資家たちに好印象であったため、海外では米ダウや英アストラゼネカなども情報開示に乗り出している。すでにレポートを発行している世界企業は数多く、TNFDへの対応が世界で活発になってきているのが伺える。(※7)
日本でもその動きは活発で、TNFDレポートを発行した企業も出てきている。国内では住友商事、ニッスイ、三井住友フィナンシャルグループ、KDDI、キリンホールディングス、積水ハウスなど、名だたる企業が情報開示に乗り出した。
たとえば三井住友フィナンシャルグループでは、SMBCグループとして2022年1月にTNFDフォーラムに参画し、2023年4月には「SMBCグループ TNFDレポート」を公表。「指標・目標」において2030年に累積50兆円 うちグリーンファイナンス20兆円のサステナブルファイナンスの実行を掲げている。(※8)
企業が投資家たちがTNFDに対して積極的な理由は、主に2つあると考えられる。
1つ目は、生物多様性に関する国連の目標が、企業に自然の情報開示を求めていることから、気候変動と自然は切っても切れない関係であり、対策すべきといった認識が強まったためだ。
2つ目は、情報開示に対して標準化や規制の動きが見られるためである。たとえばEUでは域内外の大企業・上場企業に対してサステナビリティ情報の開示を義務付けるCSRDの開示が適用されたことからも、開示基準に気候変動が含まれつつある。
そのほか、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)や企業の環境情報開示のグローバルなプラットフォームを運営する非営利団体「CDP」もTNFDと一貫性を取ると表明しており、TNFD開示に取り組むことで、結果的にISSBの開示やCDPの回答にも活用できるというわけだ。日本では東京証券取引所プライム市場にてTCFD提言に沿った情報開示が実質義務化されたことも踏まえると、のちにTNFDも義務化される可能性があるといえる。(※9)
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世界中でTNFDが浸透しつつあり、日本でも名だたる企業がTNFDレポートを発行するなどして注目されている。
しかしながら、未だ多くの企業がTNFDレポートを発行するまでには至っておらず、どのようにして行動を後押ししていくかがこれからの課題といえる。TNFDをとおして生物多様性の劣化に対する危機感の強まりをどれだけ意識し実施していけるかが、これからの私たちに求められる。
※1IUCN|RED LIST|IUCN
※2 ネイチャーポジティブ経済移行戦略 参考資料集|環境省
※3TCFDとは|TCFDコンソーシアム
※4ネイチャーポジティブ|環境省
※5 自然関連財務情報開示タスクフォースの提言|tnfd.global
※6 LEAP/TNFDの解説|環境省
※7TNFD早期開示に日本企業80社|日経BP
※8自然資本の保全・回復への対応(TNFDへの取組)|SMBC
※9サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて|経済産業省
参考
・自然関連財務情報開示タスクフォースの提言|tnfd.global
・TNFDとは何かわかりやすく解説 開示内容や参加している日本企業も|朝日新聞SDGs ACTION!
・CDP は、TNFD フレームワークと連携しグローバル経済全体で TNFD 導入を推進する意向を表明|CDP
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