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森林生態系における生物多様性の保全に必要とされているのが「緑の回廊」だ。この緑の回廊には、どのようなメリットや課題があるのか。国内や海外での事例とともにみていこう。
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緑の回廊とは、森林生態系保護地域を中心にほかの保護林のネットワークを形成し、野生動植物の移動経路を確保する取り組みのことを指す。これは野生動植物の生息・生育地の拡大と相互交流に役立てることを目的にしており、適切な維持管理によって分断された自然を繋ぎ、野生動物の移動を可能にし、生物多様性を保全することが期待される。
野生動植物の生息地の孤立化が問題となっている。これは人間活動による自然環境の破壊や開発が大きな原因となっており、森林生態系の分断化が進んだ結果だ。生物多様性の保全のためには、生育・生息地の拡大と相互交流を促す効果が期待できる緑の回廊が必要と考えられている。
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緑の回廊には、どのような特徴や役割があるのか説明しよう。
緑の回廊は、分断された動植物の生息地となる保護林をつなぎ、連続的な緑地帯にするのが特徴だ。連続的な緑地帯にすることでネットワークが形成され、動植物が移動しやすくなり、生態系の連結性を強化できる。
緑の回廊によって、動物の生息地が拡大する。また移動できない植物の種子を動物が運んで散布する役割を果たしていることから、動物の生息地が拡大すれば植物の生育地も拡大する。さらに緑の回廊では、動植物の生育に適した環境の維持・管理を行うため、生態系保護の役割も果たす。
緑の回廊は、生物の個体群の分断化を防ぐことができる。これは、ある生物種のなかで個体間に見られる遺伝子の差異である「遺伝的多様性」の確保にもつながり、生物の進化や絶滅の防止に役立つ。
緑の回廊においては、継続的なモニタリングが行われる。このモニタリングにより、野生生物の移動実態や森林施業の効果などを把握し、結果を緑の回廊の設定や取り扱いに反映できる。
緑の回廊は、二酸化炭素の吸収や都市の気温上昇の抑制、洪水や土砂災害の防止など、気候変動への適応策としても機能している。これにより、地域の気候を安定化へと導く。
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緑の回廊には、どのようなメリットがあるのかみていこう。
緑の回廊は分断された生息地をつなげる役割を果たし、動植物が自由に移動できるようになる。これにより異なる個体群が交流し、遺伝的多様性が保たれるため、種の存続が助けられ生態系の安定につながる。
絶滅危惧種となっている野生動物は、個体数が少なく、生息範囲が狭いケースが多い。緑の回廊により、絶滅の危機にある種が安全に移動できる経路を提供することで、生息地がより広がり存続の可能性が高まる。
緑の回廊に植えられた樹木や植物は、二酸化炭素を吸収し酸素を放出する。また周囲の空気を浄化する効果や、都市部のヒートアイランド現象を緩和し周辺地域の温度を下げる効果もある。これによりエネルギー消費を減少させ、温室効果ガスの排出が抑えられるといった地域環境の改善が期待できる。
緑の回廊に植えられた植物の根は、土壌を安定させ浸透を促進する。このことから雨水を吸収し、水の流出を抑えることができて洪水を防げる。また農薬や化学物質の流出を防ぎ、水質を保護するフィルターとしても機能する。これにより、河川や地下水の汚染を軽減できるのもメリットだ。
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緑の回廊は、メリットがある一方で課題もある。どのような課題に直面しているのだろうか。
緑の回廊をつくるためには、土地が必要となる。その際、農地や産業用地との土地利用のバランスを取る必要があるのが難点だ。また土地の開発を優先する地域では、土地の確保が難しいケースもある。
緑の回廊を計画・整備・維持するためには、高額な資金が必要となる。その資金をどのように捻出するのかが課題となっている。
緑の回廊の維持管理には、植物の適切な伐採、保育、保残、管理、野生動植物の巡視、保護などがある。これらを行うための人員や資源、資金が必要となり、不足すると緑の回廊の機能低下を引き起こす恐れがある。
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日本で行われている緑の回廊の事例を紹介しよう。
四国山地緑の回廊は、石鎚山地区と剣山地区の2か所の国有林に設定されている。石鎚山地区の回廊には、希少な天然ヒノキがある。剣山地区は、絶滅危惧種に指定されているツキノワグマの生息地となっている。
四国は森林が占める面積が高いが、人為的な利用が進んでいること、絶滅危惧種のツキノワグマが生息し保全が必要になっていることから、緑の回廊が求められている。(※1)
秩父山地緑の回廊は、甲武信岳周辺にある秩父山地生物群集保護林を中心に、稜線に沿った国有林に設定されている。着目する野生生物種は、森林生態系の食物連鎖の頂点に立つ動物種ツキノワグマだ。ツキノワグマは広い行動範囲をもつことから、幅2km、長さ20kmを目安に設定されている。(※2)
白山一帯には、ブナ林からダケカンバ林、ハイマツ林、高山草原まで豊かな自然が広がり、ツキノワグマやニホンカモシカ、イヌワシやクマタカなどにとって良好な生息地となっている。白山山系緑の回廊は、富山県、石川県、福井県、岐阜県にわたり設定されており、野生動物の移動範囲や生息地を広げ、貴重な森林生態系を守ることを目的としている。(※3)
埼玉県朝霞市のエコロジカルネットワークは、中核地区、拠点地区、回廊地区、緩衝地区で構成されている。回廊地区の位置づけは、市域を縦横に流れる荒川、新河岸川、黒目川、越戸川と、台地や河岸段丘の斜面上の落葉広葉樹林だ。定義としては、中核地区と拠点地区を結び、動植物種の移動空間となる河川や緑道等の緑地とされている。(※4)
長野県の最北部の山岳地帯に、雨飾・天狗原山生物群集保護林と戸隠山生物群集保護林を連結した緑の回廊がある。ここはブナ林が大半を占め、トガクシナズナなどの植物や、ツキノワグマなどの大型ほ乳類などの野生動物が生息している。設定の目的は、森林生態系の構成者である野生生物の多様性の保全を図ることだ。(※5、※6)
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世界でも、緑の回廊の取り組みが行われている。事例を3つ紹介しよう。
タンザニアにあるセレンゲティ国立公園には、中心部を縦断するように緑の回廊が設定されている。この回廊により、大型草食動物のヌー、シマウマ、大型肉食動物のライオン、ハイエナなど多くの動物が自由に移動できるようになっている。(※7、※8)
タイとミャンマーの国境地帯にあるダナ・テナセリム・ランドスケープ(DTL)は、インドシナトラの生息地として知られている。その多くが北部の西部森林地帯に集中しており、個体数は安定しているものの、増加しないことが課題となっている。そこで野生生物が西部森林地帯からほかの地域に安全に移動し、生息域を拡大できるよう、コリドー(緑の回廊)をつくるプロジェクトをWWFが進めている。(※9)
ドイツの環境省は、国内6州に点在する分断された森林を、最大50メートル幅の森林帯で結ぶヨーロッパ・ヤマネコ保全のための緑の回廊を設定。将来的に、ヨーロッパ最大級の国内総延長2万kmの森林ネットワークを目指している。(※10)
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生物多様性を維持するために、私たちにできることを紹介する。
緑化活動は、自然保護、環境保護の意識を高め、森林の再生や改善に貢献できる。地元の自然保護団体や環境保護団体の活動に参加し、緑を守ろう。こうした活動が、生物多様性の維持に寄与する。
環境に配慮した商品を選ぶことは、生物多様性の維持や生態系をサポートすることにつながる。商品を選ぶときには、適切に管理された森林から生産された木材を使用した木・紙製品を認証する「FSC認証」、水産資源と環境に配慮した天然の水産物であることを示す「MSC認証」などのサステナブル・ラベルがついたものを購入するようにしよう。
水は人間が生きていくうえで欠かせないものだが、それは生物も同じだ。水がなくなれば、生き物も減っていくだろう。生物多様性の維持のためには、水を大切に使うことも重要だ。蛇口を開きっぱなしにしない、洗濯はまとめて行い回数を減らす、汚れた食器は拭き取ってから洗うなど、節水を心がけよう。
海洋生物に深刻な影響を与えるプラスチックごみや、燃焼時に二酸化炭素が発生するごみを減らすことで、生態系への負担を軽減することが可能だ。再利用可能な製品を使う、ごみの分別を正しく行う、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を心がけるなどの工夫をしよう。
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緑の回廊には、生物多様性や生態系の保全の役割がある。私たちも生物多様性を維持するために、自然保護、環境保護の意識を高めよう。緑化活動に参加するなどし、地球環境にやさしい生活を心がけて貢献することが大切だ。
※1 「緑の回廊」政策の現状と今後の課題|J-stage
※2 秩父山地緑の回廊設定方針|関東森林管理局
※3 白山山系緑の回廊|中部森林管理局
※4 都市のエコロジカルネットワークの形成に関するケーススタディ|国土交通省
※5 緑の回廊雨飾・戸隠|中部森林管理局
※6 緑の回廊雨飾・戸隠設定方針|中部森林管理局
※7 Map of the western corridor of the Serengeti Ecosystem|ReserchGate
※8 大移動|セレンゲティ国立公園
※9 タイの森をつなぐ緑の回廊づくり | WWF
※10 ドイツ、ヨーロッパ・ヤマネコ保全のため、緑の回廊プロジェクト第2期を開始|環境展望台
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