トラが絶滅の危険に 減少の理由と世界の動向について解説

先を見つめるトラ

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動物園やサファリパークで人気の動物であるトラが、絶滅の危険に瀕している。森林破壊や密猟など、人間の活動が与えるトラの生息地や生態系への影響に焦点を当て、世界規模でのトラの個体数の減少について解説する。また、トラの保護につながる、私たちが日常でできることもみていこう。

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2024.05.22

絶滅危惧種「トラ」とはどんな生き物

ホワイトタイガー

Photo by Juan Camilo Guarin P on Unsplash

日本では動物園などで見ることのできるトラ(学名: Panthera tigris)は、哺乳類の一種でありネコ科最大の動物だ。アジア大陸に生息しており、その分布域は広大だったが、人間の活動による生息地の破壊や密猟などにより、野生のトラの数は減少している。

日本では干支の一つに数えられているように、身近とは言い難いがポピュラーな動物のひとつである。この記事では、トラの生態や減少している理由について詳しく掘り下げていく。

「トラ」の暮らし

トラは、子どもの頃は母親と一緒に生活するが、基本的には単独生活を送る動物だ。オスとメスはともに縄張りを持っているものの、オスの行動圏は広い一方で、メスは子育てを行うために狭い範囲で縄張りを持つ。

「トラ」の繁殖

トラの繁殖期は地域によって異なるものの、北方では冬、熱帯では一年中繁殖する。妊娠期間は100日ほどで、1回の出産で3~4頭の子どもを出産する。子育ては主にメスが行い、生後1年半ほどの間は母親からの世話を受ける。その後、子どもは自分の行動圏を確保するために独立していく。

「トラ」の狩り

トラは単独で狩りを行う動物である。獲物に向かって跳び出し、前足と肩の筋肉、そしてかぎ爪や牙を使って獲物を捕らえる。トラは小動物から大型動物まで幅広い獲物を捕食し、大型動物を捕らえた場合は時間をかけて食べる。攻撃的であるものの狩りの成功率は低く、10回に1回程度しか獲物を捉えられない。

野生のトラの生息地は

幾何学模様の世界地図

Photo by Marjan Blan on Unsplash

野生のトラの生息域は、かつてアジアに広く分布していた。現在の生息域は、中国北部やロシアなどの亜寒帯や、インドやベトナム、タイ、カンボジア、ラオス、ネパール、マレーシア、インドネシアなどの熱帯から亜熱帯が中心である。生息環境も多様で、密林や湿地、マングローブ、サバンナ、標高3,000m以上の高山などのさまざまな環境に適応している。またトラには多様な亜種があり、それぞれ分布域が異なる。

20世紀初頭にはトラの生息数は約10万頭と推定されていたが、現在は約4,500頭前後にまで減少している。

日本に野生のトラはいない

日本はトラの自然分布域から海を隔てた島国であり、トラが生息するアジア大陸から離れている。日本とアジア大陸を結ぶ陸橋が存在しないため、トラが自然に日本に移入することはない。

アフリカに野生のトラはいない

アフリカ大陸には、ライオンやチーターなどの大型猫科動物が生息している。もしトラが同じ地域に共存していたとすると、衝突を引き起こし、どちらかが淘汰される可能性がある。また同じ猫科であるライオンやチーターは、アフリカの土地での狩りに対応する形で進化している。

「○○トラ」は何種いる?

草原のトラ

Photo by Tapan Kumar Choudhury on Unsplash

トラは生息域によっていくつかの種類にわかれる。すでに絶滅した亜種も踏まえて紹介する。

・現在残っている亜種
1. ベンガルトラ
生息地: インド亜大陸(インドやバングラデシュ、ネパール。スリランカを除く)
特徴: 全体的に赤黄色または褐色で、耳には白斑があり、縞は比較的少ない。

2. シベリアトラ(アムールトラ)
生息地: 中国東北部、ロシア沿海地方のアムール川流域
特徴: 現存ネコ類の中で最大のトラであり、冬毛は赤みがかった黄色で、夏毛は赤みが強い。

3. アモイトラ
生息地: 中国華南地方
特徴: 中国南部に広く分布していたが、毛皮は赤みがかった黄土色で、縞は幅が広く短い。野生ではすでに絶滅している可能性が高い。

4. インドシナトラ
生息地: ベトナム、ラオス、カンボジア、タイなどのインドシナ半島
特徴: ベンガルトラよりも小型で、毛色は明色で、縞は太く数が少ない。

5. スマトラトラ生息地: スマトラ島(インドネシア)
特徴: スマトラの熱帯雨林に生息し、ベンガルトラよりも小型で、縞模様の間隔が狭い。

・すでに絶滅したとされる亜種
1.バリトラ
生息地: バリ島(インドネシア)
特徴: 絶滅したトラの亜種で、バリ島に生息していた。1940年代に絶滅。

2. ジャワトラ
生息地: ジャワ島(インドネシア)
特徴: 小型で縞が細かった。1980年代に生息地の熱帯林の減少や狩猟によって絶滅。

3. カスピトラ
生息地: 中央アジア地域、ヒルカニア地方(カスピ海沿岸周辺部)
特徴: ベンガルトラよりも小型で、縞模様の間隔が狭い。1970年代に絶滅。

絶滅危惧種に指定された「トラ」

濡れたトラ

Photo by Frida Lannerström on Unsplash

ここまでトラの生態について解説してきたが、どの種類も現在大きく数を減らしており、国際自然保護連合 (IUCN)により絶滅の恐れがあるとしてレッドリストに登録されている。

また2010年には、トラの数を倍にするという目標を掲げた「トラサミット」がロシアで開催されるなど、国際的な対策が行われている。

10万頭から3000頭あまりに減少

20世紀初めにはトラの個体数は世界中で約10万頭と推定されていたものの、2010年にはその数は約3000頭にまで減少した。この驚異的な減少は、森林の開発や自然破壊、密猟などが主な要因となって引き起こされた。(※1)

4亜種が絶滅、3亜種が危機的状況

トラの亜種のうち、アモイトラを含む4つの亜種が絶滅し、3つの亜種が危機的な状況にある(※1)。この危機的状況は、生息地の喪失、密猟、生息地の断片化、そして人間による乱獲が原因となっている。

生息国は26カ国から11カ国に

トラの生息地は、20世紀初頭から現在にかけて26カ国から11カ国にまで減少した(※1)。トラが生息する自然環境が失われることで生息地が断片化し、トラの生存にとってさらに厳しい状況が生まれている。

日本の絶滅危惧種を紹介 絶滅の背景や保護するための取り組みも解説

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「トラ」が絶滅危惧種になった原因

猟銃と硝煙

Photo by Paul Einerhand on Unsplash

トラが絶滅危惧種となった主な原因について説明する。

森林破壊・農地開発による生息地の減少

トラの主な生息地である森林やジャングルは、人間の経済活動によって急速に減少している。森林破壊や農地開発、人口増加による人間の生息域拡大によって、トラの生息地は急速に失われ現在の状況につながっている。

毛皮や「スポーツ・ハンティング」の対象

トラはかつて、スポーツや娯楽の一環として行われていたハンティングの対象であった。また毛皮や剥製は高値で取引され、非合法な密猟者に狙われることで急速に数を減らしている。

漢方薬としての需要

トラの体の一部は、伝統的な中国医学で使用される漢方薬の原料として需要がある。この需要に応えるためにトラは密猟され、その個体数が減少した。

トラの絶滅を止める世界の動き

Plan make

Photo by Brett Jordan on Unsplash

トラの絶滅を食い止めるために、世界各国が動きを見せている。ここでは、その具体的な取り組みと成果を紹介する。

2010年開催 世界トラ保護会議「トラサミット」

2010年に開催された世界トラ保護会議「トラサミット」は、トラの保護と生息地の維持に焦点を当てた国際的な会議だ。このサミットは、トラの個体数が急速に減少している現状に対処するため、世界各国のリーダーや専門家が集まり開催された。参加国でトラが生息する国は、トラの数を倍増させる目標に合意した。中心であったロシアが離脱したものの、以下のような成果を上げている。

ネパール|5つの国立公園でパトロールを実施

ネパールでは、トラサミットの目標達成に向け、国立公園でのパトロール活動が強化された。森林保護官が国立公園内を巡回し、密猟や違法な活動を監視することで、トラやその生息地を保護するための努力が行われた。結果としてネパールにおいてはトラの数が回復に転じており、トラサミットが行われた当時、推定数121頭(2009年)と比較し、2022年には355頭と約3倍に増えている(※2)。

マレーシア|森林地域の罠の撤去活動を強化

マレーシアは、トラの減少がとくに深刻な地域である。その大きな理由は、密猟者が設置した違法な罠にある。マレーシアではこの罠の撤去活動に投資を行い、トラの数を保っている。

インド|保護区を53カ所に拡大

インドは、トラサミットにとくに注力している国である。9カ所だった保護区を53カ所に拡大し、密猟を厳しく取り締まった。結果として2006年時点で1400頭前後だった数も、現在では3000頭以上まで回復している(※3)。

WWF(世界自然保護基金)の活動

WWF(世界自然保護基金)は、トラの保護に向けて「オペレーションタイガー」という取り組みを行っている。100万ドルもの資金を投じて、保護区の拡大や密猟の防止、生息地の生態系の回復などあらゆるアプローチを行っている。

またトラの数が回復することで、地域住民に被害をもたらすケースも発生している。こういったトラブルを回避し、健全な形で共生できるような環境を整える活動も行っている。

トラを絶滅から守るために私たちができること

トラの親子

Photo by Waldemar on Unsplash

トラの数は回復しているといっても、継続してレッドリストに登録されており、危機的な状況であることに違いない。ここでは、私たち一人ひとりができるトラを絶滅から守る方法について模索していく。

RSPO認証のパーム油を使った商品を選ぶ

パーム油の生産は、トラの生息地である森林を破壊する原因となっている。RSPO(持続可能なパーム油協議会)は、持続可能なパーム油の生産と消費を促進するための国際的な認証制度だ。

RSPO認証を受けたパーム油は環境への悪影響が最小限に抑えられ、トラの生息地を守ることにつながっている。商品を選ぶ際には、RSPO認証のパーム油を使用している製品を選択することで、トラの生態系を守ることができる。

FSC認証のある商品を選択する

FSC(森林管理協議会)は、森林の持続可能な管理を推進するための国際的な認証制度だ。FSC認証を受けた製品は、森林が適切に管理され、その生態系が保護されていることを示している。製品を選択する際には、FSC認証のある木材製品や紙製品を選ぶことで、トラ生息地の維持につながる。

保護活動を行う団体へ寄付する

トラの生息地や保護活動を支援する団体に寄付することで、トラの保護に直接関われる。寄付を通じてトラの保護活動を支援し、生息地の維持やトラの生存環境の改善に貢献可能だ。

密猟や違法取引による商品を購入しない

密猟や違法取引は、トラの生息を脅かす最大の要因だ。違法に取引された動物製品の需要を減らすために、これらの商品を購入してはならない。

二酸化炭素の排出量を減らす暮らしをする

気候変動は、トラの生息地の生態系にも影響を与える。地球温暖化や気候の変動をゆるやかにするためには、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーの利用や省エネ生活を心がけることが大切である。

SNSでのロビー活動

自然保護団体の多くはSNSを運用しており、現地の情報やトラに関する情報を日々更新している。これらの投稿を拡散することが、より多くの人がトラの保護に賛同し、その輪を広げることにつながる。

FSC認証とは? 再生紙との違いや購入するメリットを解説

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トラの数は回復傾向にあるものの油断は禁物

何かを見つめるトラ

Photo by Stacey Martin on Unsplash

トラは私たち人間の経済活動の拡大や、娯楽によって100年足らずで97%もの数を減少させた。ここ10年は各国の努力によって回復傾向にあるものの、元の数に戻すためにはまだまだ時間がかかるだろう。

またレッドリストへの登録も継続しており、いまだに絶滅の危機にあることに変わりない。日本ではトラは身近な動物ではないが、私たちひとりひとりの行動がトラや生息圏の保護につながるため、できることから取り組んでいきたい。

※掲載している情報は、2024年5月22日時点のものです。

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