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建築業界でSDGsが注目されているのは、さまざまな産業のなかでも建築業が大量のエネルギーを消費するためである。またSDGsの取り組みによって、これまでになかった価値の創出にもつながっている。この記事では建築業界とSDGsの関連性について解説していく。
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持続可能な開発目標、通称SDGs(Sustainable Development Goals)は2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、地球上で起こっているあらゆる課題を解決するための国際目標だ。
2030年までに地球上の誰一人も取り残さずに持続可能でよりよい世界にすることを目指し、2000年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として策定された。
SDGsは17のゴールと169のターゲットから構成されており、経済、社会、環境の3つの側面で持続的な開発を行う。また発展途上国と先進国どちらも取り組むべき普遍的なものとされている。
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建築や建設業界とSDGsには強い関連性がある。家を建てるための原材料、それらを運ぶためのエネルギーやコスト、建物を立てた後の持続可能性などのさまざまな側面で関わってくる。
ここではSDGsの目標のなかで建築と関わりの強い「7.エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」、「11.住み 続けられるまちづくりを」、「12.つくる責任、つかう責任」についてそれぞれ解説していく。
建築と関わりの強いSDGsのひとつである目標7では、エネルギーのインフラ確保と、クリーンな再生エネルギーへの移行を目指している。建築業界は省エネルギー可能な断熱性能の高い建材や設計を取り入れることで、建物のエネルギー消費を減らすことを目指している。(※1)
また太陽光発電などの再生可能エネルギーを利用した施設を増やすことで、クリーンなエネルギーの普及を促進している。各家庭でのエネルギー創出を行うことを課題としており、建物の消費するエネルギー収支をゼロにするための試みとして、高断熱の素材と太陽光発電を設置した「ZEH住宅」の普及が進められている。
目標11の「住み続けられるまちづくりを」は、都市や地方の持続可能な発展を促進し、安全で快適な生活環境を提供することを目指している。この目標の直接的な課題として、日本では自然災害への対策と地方の過疎化が取り上げられている。
日本は地震や洪水などの自然災害も多く、仮に人口の多い都市部で災害が起こった際に、被害を最小限に食い止めるための適切な防災対策やインフラの整備が必要となる。反対に地方では人口減少が進んでおり、地方創生や地域の活性化が求められている。
SDGsでは持続可能な開発を行うことはもちろん、これまでの価値を見直すことも必要だ。日本全国で、さまざまな理由から居住者のいなくなった空き家が問題となっている。建築業界ではこの空き家をリフォームしたりインフラを整備したりして、新たに人が住めるようにする試みが行われている。
すでにある空き家を活用することで、建設にかかる新たなエネルギー消費を減らせるのはもちろん、消費者が手頃な価格で家を購入できる。
また、つくり手側はCO2の排出量が少ない、廃棄物を少なくするなど、持続可能な方法での建築を考える必要があり、使用する側もひとつのものを長く使うといったことも考えなければならない。
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SDGsに対応した建築のメリットについて解説する。
建築業界は、環境負荷の大きな産業の一つだ。資源の消費やCO2排出などの影響が大きいため、SDGsへの取り組みを行うことで環境への負荷を減らせるだろう。例えば省エネルギー設計や再生可能エネルギーの導入、廃棄物の削減などの取り組みが行われることで、地球環境への貢献が期待される。
ZEH住宅のようなエネルギー効率の高い建築物や、長期的に使用することを考慮した設計が行われることで、建物の運用コストが削減される。高性能な断熱材や省エネ設備の導入により、エネルギー消費が抑えられランニングコストが低減する。また省エネ設備の導入には、政府や自治体から補助金が支給されるケースもある。エネルギー消費が抑えられれば、排出されるCO2の量も軽減できる。
SDGsに取り組む企業は、社会的責任を果たしているとして、世間的なイメージが高まる。環境に配慮した建築を行うことはもちろん、地域社会との関わり、従業員の幸福度向上など、持続可能なビジネスを展開する姿勢は顧客や投資家からの評価が高まり、企業価値の向上につながるだろう。
建築プロジェクトにおいては、地域社会との協力やコミュニケーションも必要だ。地域社会に配慮しない開発によって、地元の住民たちと諍いが起こった事例も少なくない。SDGsを取り入れた建築プロジェクトでは、地域の特性や自然に配慮した設計や地元の人材・資源を活用した取り組みが行われ、地域社会との良好な関係を築くことも目指している。
SDGsに基づいたイノベーションや取り組みは、新たなビジネス機会を創出する。建築業界では再生可能エネルギーの開発や持続可能な建材の研究開発、地域資源の活用などがすでに進められている。新しいビジネスが誕生することで、新たな市場が開拓され、より豊かな社会の実現につながる。
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SDGsを取り入れた建築の事例を紹介する。
東京都立川市にある「ふじようちえん」は、SDGs11「住み続けられるまちづくりを」に対応した建築の一例である。ふじようちえんは、子どもの創造性や好奇心を刺激する環境を目指して設計されている。建物のデザインは子どもたちの視点に立ち、円形の構造や低い天井、子どもたちが自由に動き回れるスペースが設けられている。
また自然環境との調和を大切にし、屋上の広々としたスペースには木々が残置され、子どもたちと自然とのふれあいを促している。さらに地域の子育て支援の一環として、子どもだけでなく保護者にとっても居心地のいい場所であることを意識して設計されている。共有スペースの設置により保護者同士の交流や情報共有が促され、地域コミュニティの形成に貢献している。
岡山県真庭市にある「GREENable HIRUZEN(グリーナブル 蒜山)」は、自然や緑と調和した建築コンセプトを持つミュージアムだ。建物のデザインや設備の配置は、周囲の自然環境に配慮し、地域の景観や自然と調和しつつ、人と自然が共存する空間がデザインされている。
ミュージアムでは、環境保護や地域振興に重点を置いた取り組みを行っており、地域ならではのアクティビティも楽しめる。さらには地元の文化や芸術と密接に関わりながら、地域コミュニティの活性化にも貢献している。地域や自然とのつながりをテーマにした展示やイベントを通じて、地域住民や観光客との交流を促進している。
コスメブランドSHIROの「みんなの工場」は、地域との連携を大切に「開かれた工場」を目指して、北海道砂川市に建築された。SHIROの設計は自然環境への負荷を抑え、資源を大切にすることをコンセプトに行われている。
例えば建物内外の資材には、間伐材やリサイクル材などの再利用を積極的に取り入れており、環境に配慮した工夫を施している。またSHIRO「みんなの工場」は、単なる生産工場ではなく地域の人々が集まり交流するコミュニティの場としても機能している。
ショップやラウンジ、カフェ、キッズスペースなどが併設され、地域住民や訪れる人々がさまざまな活動や交流を楽しめる空間となっている。
大阪府大阪市にある「こども本の森 中之島」は建築家の安藤忠雄氏が設計し、地域の子どもたちの豊かな感性や創造力を育むための空間を提供している。図書館内では、テラスに安藤氏の大きな「青いりんご」のオブジェが展示されたり、木の温もりが感じられるオリジナルスツールが設置されてたりと開放的な空間でゆったりと読書を楽しめる。
また中之島公園内にあるため、晴れた日には外での読書も楽しめる。授乳室やベビーチェア、多目的トイレなどの設備が整えられ、誰もが快適に利用できるよう配慮されている。
秋田県横手市の雄物川(おものがわ)小学校の校舎は、SDGsを取り入れたものだ。地域の地下水や森林資源を活用し、融雪設備や内装に地域材を使用するなど、持続可能な建築を実現している。
また外断熱や高断熱化などの工夫によりエネルギー効率を向上させ、環境への負荷も低減している。さらに校庭や学校園を活用し、地域の自然環境を学びの場として統合する取り組みも行っており、地域の生涯教育の場にもなっている。
SDGsは、建築業界にこれまでになかった価値をもたらしている。環境保護やエネルギー効率の向上、地域社会との連携強化、さらには経済的持続可能性を両立させている。ここで紹介したような公共の施設から始まり、最近では一般住宅でもSDGsをテーマにした建築が行われている。SDGsを取り入れた住宅が普及することで、さらに私たちの生活は変わっていくだろう。
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