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SDGsの"ウェディングケーキモデル"とは、全17の目標をカテゴリーごとに3つの階層に分けて図式化したもの。3段からなるウェディングケーキと構造が似ていることから名付けられた。その概要や3つの階層が表す意味や課題について、わかりやすく解説する。
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SDGsの"ウェディングケーキモデル"とは、スウェーデンの首都ストックホルムにあるレジリエンス研究所のヨハン・ロックストローム博士とパヴァン・スクデフ博士らによって2016年に提唱された、“SDGsの概念”を表す構造モデルのこと。
SDGsでは気候変動や海洋汚染、貧困などのさまざまな問題の解決に向けて、17の目標と169のターゲットが定められている。SDGsの"ウェディングケーキモデル"はそれらの目標を下から「生物圏」「社会圏」「経済圏」の3つの階層に分けて図式化したもの。その構造が3段のウェディングケーキに似ていることから名付けられた。
階層の並びには意味があり、「経済」の目標達成には生活や教育などの"社会"条件の安定が欠かせず、また、人々が生活を営む「社会」は自然環境(生物圏)によって支えられる、という考え方が基になっている。つまり、一番下の土台となる「環境」の重要性がより示された図となっている。
「生物圏」「社会圏」「経済圏」の3つの階層ごとに、当てはめられる17の目標について紹介していこう。
SDGs "ウェディングケーキモデル"の最下層、土台である「生物圏」には、以下の4つの目標が含まれている。
目標6.安全な水とトイレを世界中に
目標13.気候変動に具体的な対策を
目標14.海の豊かさを守ろう
目標15.陸の豊かさも守ろう
いずれの目標も、私たちの生活に必要不可欠な水や海、森林などの自然環境に関する開発目標であり、"社会"や"経済"は豊かな自然環境に支えられることを意味する。
近年の人口増加や大規模農業、近代化による工業用水のニーズなどにより、水の必要量は増している。国連の報告によると、2050年までに世界の4人に1人が水にアクセスできなくなるとされている(※1)。また、世界の人口のうち16億人以上の人々が生計を森林に頼っているにも関わらず、毎年平均520万ヘクタールもの面積の森林が破壊され続けているというデータもある(※2)。
1974年には90%だった生物学的に持続可能なレベルの海産魚資源の割合は、2017年には65.8%まで減少した(※3)。この状況が続けば、近い将来、私たちが利用できる海洋資源は枯渇してしまうかもしれない。
中間層の「社会圏」や最上段の「経済圏」を支えていくためにも、持続可能な社会を実現するためにも、すべての活動の土台となる「生物圏」の各目標の達成が目指される。
SDGs "ウェディングケーキモデル"の中間層に位置する「社会圏」は、以下の8つの目標で構成されている。
目標1.貧困をなくそう
目標2.飢餓をゼロに
目標3.すべての人に健康と福祉を
目標4.質の高い教育をみんなに
目標5.ジェンダー平等を実現しよう
目標7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに
目標11.住み続けられるまちづくりを
目標16.平和と公正をすべての人に
上記には、私たち人間が不自由なく生活し、働けるような社会をつくることを目標としたものが含まれている。
現在、世界人口のおよそ10%の7億人以上が、極度の貧困のなかで暮らしている(※4)。毎年900万人が餓死や飢餓に関連する病気で亡くなり(※5)、学校に通えない子どもの数は3億300万人にのぼるというデータもある(※6)。
目標とされるのは、すべての人に健やかな生活を送るための環境が整えられ、差別・偏見なく、だれもが公平で質の高い教育を受けられる社会。持続可能な社会の実現は「経済圏」の基盤をつくるためにも必要不可欠だ。
「生物圏」と「社会圏」の2層に支えられている「経済圏」は、以下の4つの目標で構成されている。
目標8. 働きがいも経済成長も
目標9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
目標10.人や国の不平等をなくそう
目標12.つくる責任 つかう責任
これら4つの目標は、すべての人々が働きやすい社会になり、人や国に対する差別や偏見をなくすことが、国や世界の経済発展につながるとされている。
2018年の時点で、世界人口の約半数が1日およそ5ドル以下相当の生活を送っている。彼らが、権利が保護され、適切な賃金を得ることができる仕事に就けたなら、いまよりも豊かで、幸福な経済発展を続けることができるだろう。
また、産業の多様化と商品の価値向上のために開発途上国における技術開発、研究、イノベーションが目指されるなか、衛生施設、水道、電力などの基礎インフラさえ普及していない現状がある。上下水道では、衛生的な水を利用できない人口は2017年時点で世界の約11%、約8億4,400万人にのぼる(※7)。
持続可能な社会を実現するために、環境なくして社会は成り立たず、社会なくして経済は成り立たない。開発目標の達成には、それぞれが密接に関わるということがSDGs "ウェディングケーキモデル"で示されている。
SDGs "ウェディングケーキモデル"の頂点には、目標17の 「パートナーシップで目標を達成しよう」が設定されている。これは、国や自治体、企業、個人など世界の人々が協力し合い、パートナーシップを組むことで、持続可能な社会を実現することを目標とするものだ。
下層が安定することで上層が発展するという概念の"ウェディングケーキモデル”だが、目標17は3層の軸に位置する。「経済圏」「社会圏」「生物圏」それぞれの層において世界の人々が責任や役割を理解し、協力し合うことで、持続可能な地球の実現に向かうことができる。
SDGs達成に向けて、国連加盟国の進捗状況を評価・確認するための研究レポート「Sustainable Development Report」が毎年発表されている。2023年6月に発表された「Sustainable Development Report 2023」より、2023年の日本の達成度と課題を"ウェディングケーキモデル"にあてはめて解説する。
2023年の発表では、日本は世界166カ国中21位だった。
上記の図は、アイコンの色で達成度合いが表されており、赤は「最大の課題」、オレンジは「重要課題」、黄色は「課題が残っている」、緑は「SDGsが達成できている」ことを意味している。
SGDs "ウェディングケーキモデル"の「社会圏」に含まれる「目標4:質の高い教育をみんなに」と、「経済圏」に含まれる「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」では緑の評価を得ている。
一方で、最大の課題と評価された以下5つの目標のうち、「目標13:気候変動に具体的な対策を」「目標14:海の豊かさを守ろう」「目標15:陸の豊かさも守ろう」は「生物圏」に含まれている目標だ。
・目標5:ジェンダー平等を実現しよう
・目標12:つくる責任、つかう責任
・目標13:気候変動に具体的な対策を
・目標14:海の豊かさを守ろう
・目標15:陸の豊かさも守ろう
このことから、日本は"持続可能な地球"の土台であり、SDGs "ウェディングケーキモデル"を支える「生物圏」に多くの課題を抱えているということが読み取れる。この結果は過去3年間においても大きな改善が見られていない。
そのほか、「社会圏」では「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」、「経済圏」では「目標12:つくる責任、つかう責任」が最大の課題と評価されているため、全体的に取り組んでいく必要があると言えるだろう。
なお、「Sustainable Development Report 2023」において、上位10カ国は順にフィンランド、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、オーストリア、フランス、ノルウェー、チェコ共和国、ポーランド、エストニアだ。フィンランドは3年連続で達成度1位となり、教育や技術革新、ジェンダー平等、気候変動対策など多岐にわたる領域での取り組みの成果が評価されている。
また、世界の主要国であるアメリカは39位、中国は63位、インドは112位、そのほか、韓国は31位だった。未だ世界全体のSDGs達成度は低い水準にとどまっており、とくに高所得国と低所得国間の格差は拡大する可能性が指摘されている。持続可能な発展を達成するためには、この格差を縮めるための国際的な協力が不可欠だ。世界全体のSDGs達成度を向上させるために、これからさらにグローバルな視点での取り組みが求められるだろう。
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SDGs "ウェディングケーキモデル"の「生物圏」「社会圏」「経済圏」の3つの階層は、それぞれの要素が調和することでSDGsの目標達成に近づくとされている。ここでは、日本が抱える課題である「生物圏」を強化し、そのうえで地域の「社会」と「経済」の統合的向上を目指す、環境省が推奨する取り組み「ローカルSDGs(地域循環共生圏)」の事例を紹介する。
有明海に面し、豊富な水産物に恵まれた佐賀県鹿島市。一方で、近年では有明海の水質や底質の悪化などの原因により、干潟の生き物の減少に伴い、漁業従事者も減少。追い討ちをかけるように、時代の変化によって人々のライフスタイルも変化し、地域住民と干潟との関わりも希薄になっていた。
これらの課題解決を行うため、鹿島市では肥前鹿島干潟が2015年にラムサール条約湿地に登録されたことをきっかけに、干潟等を保全することを目標とし、地域循環共生圏の構築の取り組みに着手。 社会や経済への働きかけとして、「地域住民の干潟への関与の増加」や「地域住民、地域外住民からの寄付等の応援強化」などの活動に取り組んでいる。
さらに、 鹿島市内でイベントを開催し、人々が干潟に触れる機会を創出したり、海産物や農産物の販売利益を干潟保存活動に還元する取り組みなどを実施。これらの取り組みにより、干潟保全の必要性の認知が拡大し、干潟の環境は少しずつ回復の兆しが見えつつある。
石川県珠洲市は、2011年6月に「能登の里山里海」が世界農業遺産(GIAHS)に認定されたことをきっかけに、里山的環境の保全に取り組んできたが、市の社会や経済の統合的な解決を図る仕組みづくりが必要とされ、2016年から新たな取り組みが始まった。
3年の実証事業として行われたのが、環境に配慮した農作物の栽培や、コミュニティの活性化につながる活動など、各市区における支援だ。これにより、環境を守りつつ社会や経済への効果を波及させるには、市の予算や人材の確保の根拠を明確にする必要性が認識された。
そして、珠洲市では2018年3月に「生物文化多様性基本条約」を制定。これにより珠洲市の生物文化多様性の保全と持続可能性や、各主体の責任を定めて自然と共生できる持続可能なまちづくりを進めることを目的に、市の責務や事業者の責務などが明確化された。
これらの珠洲市の取り組みは、生物多様性をまちづくりの基盤・財産として位置づけ、生物多様性による文化や生業などを含めて保全する姿勢を明確にした条例として、全国初の事例となっている。
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SDGs "ウェディングケーキモデル"の3つの階層は、カテゴリー分けされているとはいえ、それぞれが独立して存在しているわけではない。縦につながり、「生物圏」が「社会圏」を、「社会圏」が「経済圏」を支え、3層が密接に関連している。
一見、複雑で多岐にわたるSDGsの開発目標も、SDGs "ウェディングケーキモデル"を通して図式化してみることで、理解が進むのではないだろうか。"持続可能な地球"を実現するためには、環境、社会、経済すべてに目を向け、総合的に取り組みを行っていく必要がある。そして、そのことを一人ひとりがより深く理解し、行動していくことが重要だ。
※1 目標6|国連広報センター
https://www.unic.or.jp/files/Goal_06.pdf
※2 世界の森林を守るために|環境省
https://www.env.go.jp/nature/shinrin/index_1_2.html
※3 FAO『世界漁業・養殖業白書2020』にみる世界の水産動向SEAFOODLEGACYTIMES
https://times.seafoodlegacy.com/archives/6975
※4 世界の貧困に関するデータ|世界銀行https://www.worldbank.org/ja/news/feature/2014/01/08/open-data-poverty
※5 国連報告書: パンデミックの年に世界の飢餓が急増|国連WFP
https://ja.wfp.org/news/un-report-pandemic-year-marked-spike-world-hunger
※6 世界の就学状況報告書発表|UNICEF
https://www.unicef.or.jp/news/2018/0155.html
※7 世界の水・衛生に関する新たな報告書|WaterAid
https://www.wateraid.org/jp/news/jmp-stats-release
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