核兵器に関する条約とは? NPT・TPNWの違いと日本の立場を解説

広島原爆ドームのイメージ

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核兵器に関する条約には、NPT・TPNW・CTBTなど複数の国際ルールがある。本記事では、それぞれの内容や違いを紹介。さらに、日本が核兵器禁止条約に署名しない理由やSDGs、人道問題との関係まで説明していく。

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2026.03.26

核兵器に関する条約とは何か

核兵器条約の基本的な役割

核兵器に関する条約とは、核兵器の開発・保有・使用・拡散を防ぐための国際ルールである。条約とは、国と国が正式に結ぶ法的な合意のことで、一度締結すると参加した国はその内容を守る義務を負う。

核兵器は、ひとたび使われれば都市を一瞬で破壊し、放射能汚染によって長期にわたる被害をもたらす「大量破壊兵器」である。だからこそ国際社会は、核兵器の拡散を防ぎ、最終的には廃絶することを目的として、さまざまな条約や枠組みを積み上げてきた。

現在も世界には約1万2,000発以上の核兵器が存在するとされており、核兵器をめぐる国際ルールの整備・強化はいまもなお重要な課題であり続けている(※1)。

なぜ条約が必要とされてきたのか

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核兵器への国際的な規制の必要性は、1945年8月に広島・長崎への原子爆弾投下という人類史上最初の核兵器使用によって痛烈に示された。広島では推定14万人、長崎では約7万人が死亡したとされており(年末までの推計)、生き残った被爆者も、生涯にわたる放射線障害や差別に苦しんだ(※2)。

第二次世界大戦後は、米ソ冷戦を背景に核軍拡競争が激化。1962年のキューバ危機では核戦争一歩手前まで緊張が高まった。こうした経験の積み重ねが、核兵器を国際法のもとで規制しようとする動きを生み出してきた。世界的な核軍縮の実現は、国連にとってもっとも古くからある目標のひとつ。核兵器廃絶を最優先目標に掲げており、核兵器をめぐる条約の歴史は、核兵器そのものの歴史とほぼ同じ長さを持つ(※3)。

なぜ「核兵器条約」がいまも重要なのか

冷戦が終結してから30年以上が経過した現在も、核兵器をめぐるリスクは消えていない。2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻では、ロシアが核兵器の使用を示唆する発言を繰り返し、国際社会に衝撃を与えたのも記憶に新しい。北朝鮮は核・ミサイル開発を続けており、中国も核戦力の増強を進めている。

こうした状況の中で、核兵器を国際法の枠組みで規制する条約の役割は、いまも非常に大きい。とくに一般市民への無差別的な被害をもたらす核兵器は、人道的観点からも強く問題視されており、核廃絶を求める声も国際的に広がっている。

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核兵器不拡散条約(NPT)とは

核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Nonproliferation of Nuclear Weapons)は、1968年7月に署名のために開放され、1970年3月に発効した条約だ。2021年5月時点で191か国・地域が加盟する軍縮条約である(※4)。

NPTは「核不拡散」「核軍縮」「原子力の平和的利用」の3本の柱から成る。「核不拡散」では、米・ロ・英・仏・中の5か国を「核兵器国」として認め、それ以外の国が核兵器を持つことを禁止。「核軍縮」では、核兵器国が誠実に核軍縮交渉を行う義務を定めた(第6条)。そして「原子力の平和的利用」では、すべての加盟国が原子力の平和利用を行う権利を持つ。

核兵器国と非核兵器国の扱いに差があるため「不平等条約」との批判もあるが、世界最大規模の核軍縮・不拡散の枠組みとしていまも機能している。日本は1970年2月に署名、1976年6月に批准している。

核兵器禁止条約(TPNW)とは

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核兵器禁止条約(TPNW:Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)は、核兵器を包括的に禁止する内容を定めた史上初の国際条約である。2017年7月7日に国連総会で122か国の賛成多数により採択され、2021年1月22日に発効された。

TPNWの特徴は、核兵器の開発・実験・生産・製造・取得・保有・貯蔵・使用、そして使用の威嚇(おどし)まで、核兵器に関わるあらゆる行為を全面的に禁止している点にある。さらに、自国の領土内への核兵器の配備を容認することや、他国による禁止行為への援助・支援も禁じている(※5)。

条約名にある「TPNW」の「T」はTreaty(条約)、「P」はProhibition(禁止)、「NW」はNuclear Weapons(核兵器)の略。2025年3月時点で、70か国以上が批准しており、国際社会における核廃絶規範の確立に向けた重要な一歩と位置づけられている(※6)。

その他の関連条約・枠組み

核兵器をめぐる国際ルールは、NPTとTPNWだけではない。代表的なものとして、「包括的核実験禁止条約(CTBT:Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty)」がある。CTBTでは、宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間における核兵器の実験的爆発および他の核爆発を禁止。ただし、発効の条件として必要な国(米、印、パキスタンなど)がまだ批准していないため、2025年時点でも正式発効には至っていない(※7)。

また「部分的核実験禁止条約(PTBT)」は、大気圏・水中・宇宙空間での核実験を禁止する条約。さらに、ラテンアメリカ、南太平洋、東南アジア、アフリカ、中央アジアなどで締結された「非核地帯条約」は、特定地域内での核兵器配備・実験を禁じる地域的な取り組みである。

これらの条約が重なり合いながら、核兵器をめぐる国際的なルールの網が形成されている。

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どんな行為が禁止されているのか

TPNWが禁止している行為を整理すると、以下のようになる。

まず「開発・実験・生産・製造・取得・保有・貯蔵」という、核兵器そのものの存在に関わるすべての行為。もちろん、実際に核兵器を使うことも禁止されている。さらに「核兵器を使うぞ」と脅す、「使用の威嚇」も禁止だ。加えて、他国の核兵器を自国の土地に置かせることを指す「自国領域内への配備の容認」も禁じられる。

そして、これらの禁止行為を他国が行うことを助けたり、促したりする「援助・奨励・勧誘」も禁止対象となっている。このようにTPNWは、核兵器に関わるあらゆる行為を「入口から出口まで」包括的に禁止している点が特徴といえるだろう(※8)。

被爆者・被害者支援と環境回復

TPNWのもうひとつの重要な特徴が、核兵器の「被害者への支援」と「環境回復の義務」を明記していることである。

広島・長崎の被爆者だけでなく、世界ではこれまでに2,000回を超える核実験が行われ、マーシャル諸島やカザフスタン、アメリカ先住民居住区など、各地に甚大な健康・環境被害をもたらしてきた。条約前文には「Hibakusha(ヒバクシャ)」という言葉が直接使用されており、これは国際条約に日本語がそのまま組み込まれた珍しい例である(※9)。

各締約国は、核使用や核実験によって被害を受けた個人への医療・経済的な援助を提供し、汚染された環境を修復する義務を負う。これは、核兵器を単なる「安全保障の問題」ではなく「人間の尊厳と環境保護の問題」として位置づける、TPNWの人道的アプローチの核心といえる。

条約発効までの経緯

TPNWが生まれる背景には、NPTの枠組みのなかで約束されていた核軍縮がなかなか進まないことへの国際的な不満と失望があった。

2010年代に入り、ノルウェー、メキシコ、オーストリアで核兵器の非人道的影響に関する国際会議が相次いで開催され、「人道アプローチ」と呼ばれる核廃絶に向けた新たな動きが広がった。この流れを受けて2017年にニューヨークの国連本部で交渉会議が開かれ、約130か国と多くの市民社会(NGO)代表が参加。同年7月賛成122か国、反対1か国(オランダ)、棄権1か国(シンガポール)で、TPNWは採択された(※8)。

なお、核兵器保有国9か国(米・ロ・英・仏・中・インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮)と「核の傘」の下にある同盟国(日本・NATOなど)は、交渉自体に参加しなかった。その後、2020年10月に批准国が50か国に達し、2021年1月22日に正式発効した(※10)。

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核兵器禁止条約と核兵器不拡散条約(NPT)の違い

目的とアプローチの違い

NPTとTPNWは、どちらも「核兵器のない世界」を目指すという最終目標を共有しているが、そのアプローチは根本的に異なる。

NPTは核兵器の「管理・抑止」を軸にしている。1967年以前に核兵器を保有していた5か国(米・ロ・英・仏・中)を「核兵器国」として定義し、それ以外の国への拡散を防ぎ、核兵器国には将来的に核軍縮交渉を行う義務を課す、というバランスの上に成り立っている。これは「段階的・現実主義的なアプローチ」といえる。

一方TPNWは、核兵器を「どんな国が持っても許されない非人道的な兵器」と位置づけ、保有・使用・開発のすべてを「全面禁止」することで核廃絶を目指す。核保有国の参加を前提とせず、まず「核兵器は違法である」という規範(ルール意識)を世界に広めることを優先した「人道・規範形成アプローチ」である。

参加国・非参加国の特徴

NPTには191か国・地域が加盟しており、事実上「全世界的な条約」に近い広がりを持つ。ただし、インド・パキスタン・イスラエル・南スーダンは未加入であり、北朝鮮は2003年に脱退を宣言している。

一方TPNWは、2025年現在、70か国以上が批准・加入。TPNWに参加しているのはおもに中南米・アフリカ・東南アジア・太平洋の非核保有国が多く、核兵器保有9か国はいずれも不参加である。

また、アメリカの「核の傘」に守られているとされる国々、日本・NATO加盟国(オランダのみ交渉参加したが反対票)・オーストラリア・韓国などもTPNWに参加していない。

こうした「核を持つ国・核に頼る国」と「核廃絶を求める国」の間の分断が、TPNWをめぐる構造的な課題となっている。

対立か補完か

NPTとTPNWは「対立する条約」なのか、それとも「互いを補い合う条約」なのかは、国際社会でも議論が続いている。

TPNWを支持する非核保有国やNGOは、「TPNWはNPT第6条(核軍縮交渉義務)を具体的に実行するものであり、NPTを補完する」と主張する。

一方、核保有国やその同盟国は「TPNWはNPTを蝕み弱体化させる危険性がある」と批判している。TPNWは「使用の威嚇の禁止」を明記しているため、核抑止(核兵器の存在によって相手が攻撃を思いとどまること)と両立しない性格を持っており、「核の傘」の下にある国々にとっては自国の安全保障と相容れないと考えられている。

ただし、TPNWが核兵器を「許されないもの」とする規範意識を国際社会に広げることで、NPTの枠組みにも間接的に影響を与えていくという見方もある。

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日本と核兵器条約の関係

日本の立場と政府見解

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日本は「唯一の戦争被爆国」として核廃絶を訴えながらも、TPNWに署名も批准もしていない。その理由として日本政府が一貫して示しているのが、「日米同盟に基づくアメリカの拡大核抑止(核の傘)に依拠した安全保障」である。

日本は、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍拡など、東アジアの厳しい安全保障環境のなかで、アメリカの核抑止力なしには自国の安全確保が難しくなる可能性があるという立場をとっている。

TPNWは「使用の威嚇の禁止」を含むため、核の傘に頼る日本が署名すると、その義務と日米同盟との間で整合性がとれなくなる可能性がある。政府の論理は「TPNW一本に頼るより、核保有国も含むNPTの枠組みで地道に核軍縮を進める方が現実的だ」というものである。2025年3月の第3回TPNW締約国会議にも、日本政府はオブザーバーとしての参加を見送った(※11)。

被爆国としての役割

「唯一の戦争被爆国」として、日本には核廃絶に向けた特別な責任と役割が国際社会から期待されている。被爆者(ヒバクシャ)の証言は、核兵器が人間にどれほどの苦しみをもたらすかを伝える生きた証拠であり、TPNWの前文にも「ヒバクシャ」という言葉が明記されたほど、国際的な核廃絶運動においてその存在は大きい。

広島市・長崎市は「平和首長会議」を通じて核廃絶を訴え続けており、各市の市長や市議会議長はTPNW締約国会議にも参加してきた。一方で、市民社会・被爆者団体・ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)などのNGOは、政府が条約に参加しないことへの批判を続けており、2019年のNHK世論調査ではTPNW参加を「すべきだ」と答えた人が65.9%に達しているという報告もある(※12)。

国内での議論と課題

日本国内では、核兵器条約をめぐって「安全保障」と「人道・平和」という対立的な議論が続いている。政府は「現実の安全保障環境を踏まえた段階的な核軍縮」を主張し、TPNWへの参加には否定的である。これに対し、被爆者団体・野党・市民社会は「被爆国としての道義的責任を果たすべき」「せめてオブザーバー参加を」と求める声を上げ続けている。また、「核の傘に依存しながら核廃絶を訴えるのは矛盾だ」という指摘も見られる。

一方、安全保障の専門家からは「TPNWへの批判には正確な知識に基づく議論が必要」と求める声がある。唯一の戦争被爆国として核廃絶の旗を掲げながら、現実の安全保障にどう向き合うか、この問いは、日本社会がこれからも真剣に向き合い続けなければならない課題である。

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核兵器条約の意義と限界

核兵器条約の意義

TPNWが持つ最大の意義は、核兵器を国際的に禁止すべき対象として明確に位置づけた点にある。これまでの国際法では、核兵器の「使用」が一定の状況下で合法か否かさえ明確ではなかった(国際司法裁判所は1996年に「核兵器の使用は一般的に国際法に違反する」との勧告的意見を出したが、極端な自衛の場合については判断を留保している)。(※13)

TPNWが発効したことで、核兵器は締約国において明確に違法とされ、化学兵器・生物兵器と並び、国際的にも違法化の規範が強まることとなった。核兵器に強い否定的評価を与えることで、その使用・保有の正当性を失わせ、将来的な核軍縮への圧力を高めるという規範形成上の意義は大きい。

たとえ核保有国が参加していなくても、「国際社会の多数派が核兵器を許さない」というメッセージを発し続けること自体に価値があると、支持国やNGOは主張している。

実効性への批判と課題

TPNWへの批判としてよく挙げられるのが、「実効性の問題」である。核兵器保有9か国はいずれも条約に参加しておらず、条約は非締約国に対して法的拘束力を持たない。そのため、実際に核兵器を保有する国々に対して、直接的に削減を義務づける仕組みにはなっていないのが現実である(※8)。

また、核の傘に依存するNATO加盟国や日本・韓国・オーストラリアなども不参加であり、現在の核抑止体制そのものに直ちに変化をもたらすものではないと指摘されている。さらに、核兵器の廃棄や検証の具体的な手続きについては、今後の枠組みづくりに委ねられている部分が多いとの見方もある。

加えて、TPNWが核保有国と非核保有国の間の立場の違いを際立たせ、NPTの下での議論を複雑にする可能性があるとの指摘もある。こうした点から、TPNWを「象徴的な条約」にとどまると評価する見方も一部に存在する。

それでも条約が持つ影響力

核保有国が参加していないTPNWにも、政策や社会に影響を与える動きが見られている。

まず「規範形成」の面では、核兵器を違法とする認識が国際的に広がることで、核兵器の使用に伴う政治的・道義的コストが高まる可能性が指摘されている。次に「金融・投資」の面では、TPNWを根拠のひとつとして、核兵器関連企業への投資を見直す機関投資家が増加しているとされる。さらに「世論形成」の面では、条約の存在が各国の市民社会や議会における核廃絶の議論を促し、政府への圧力として作用する側面もある。

このようにTPNWは、法的拘束力にとどまらず、「核兵器は許されない」という規範を育てていく長期的なプロセスとして評価されている。

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核兵器条約とSDGsや人道問題との関連

SDGsとの関係

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核兵器条約は、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)と複数の形で結びついている。もっとも直接的なのは目標16「平和と公正をすべての人に」との関係だ。平和で包摂的な社会の実現、あらゆる形態の暴力の減少、武器取引の削減などをターゲットとしており、核兵器の廃絶は、目標16と深く関係していると考えられている。

また、国連がSDGsの前文で掲げる「5つのP」のひとつ「Peace(平和)」の実現なくして持続可能な開発は成り立たないという原則は、核兵器の廃絶と密接に関係しているとされている。核軍縮が実現すれば、世界の核兵器への軍事費を教育・医療・環境問題の解決に充てることができ、SDGs1(貧困撲滅)やSDGs3(健康)の達成にも貢献するという視点もある。

人道法・国際人権との関係

TPNWは、国際人道法と国際人権法の観点からも重要な意義を持つ。国際人道法の基本原則である「区別の原則」(戦闘員と一般市民を区別して攻撃する義務)や「均衡性の原則」(攻撃による民間人被害が軍事目的に対して過大であってはならない原則)に照らすと、核兵器は都市全体に甚大な被害をおよぼす特性を持つため、これらの原則との整合性が長年にわたり問題視されてきた。

また、核実験によって生じる土地汚染や放射線被害は、地域住民の生存権や健康権に深刻な影響を及ぼすものであり、国際人権法の観点からも重大な課題とされている。

さらに、核爆発により大量の煤が大気中に放出されることで「核の冬」が引き起こされる可能性が指摘されており、食料生産への深刻な影響を通じて、世界規模の飢餓につながるリスクも懸念されている。

持続可能な社会と核兵器

核兵器の存在は、持続可能な社会の実現と両立が難しいと指摘されることが多い。核兵器に投じられる資金は世界全体で年間数百億ドル規模とされており、これを気候変動対策や感染症対策、貧困解消に充てることができれば、SDGsの多くの目標達成に貢献し得ると考えられている。(※14)

また、核戦争が起きた場合には、「核の冬」とそれに伴う世界的な食料危機により、数十億人規模の死者が生じる可能性があると指摘されている。これは、SDGsが想定するさまざまな危機のなかでも、極めて深刻なシナリオのひとつといえる。

私たちにできること

市民としてできる関わり方

学校で勉強しているイメージ

Photo by Kenny Eliason on Unsplash

核兵器条約の問題は、外交や安全保障の専門家だけが考えるものではなく、私たちの生活や社会とも関わりのあるテーマである。

最初の一歩は「正しく知ること」だ。NPTとTPNWの違いや、「日本がなぜ署名していないのか」、「被爆者の声が国際社会でどのように受け止められているのか」などを知ることで、複雑な問題を自分なりに考えるための土台ができる。

知ったことを家族や友人と話し合う、SNSで発信する、学校の授業やイベントで取り上げるなど、「情報を共有し議論に参加する」行動は、社会全体の関心を高め、結果として政治や政策への関心の広がりにつながる可能性がある。

投票行動も重要な関わり方のひとつである。候補者や政党が核廃絶やTPNWについてどのような立場をとっているのかを確認することは、民主主義の中で市民が持つ基本的な意思表示の手段といえる。

教育や地域・企業の役割

広島平和都市記念碑(原爆死没者慰霊碑)のイメージ

Photo by T L on Unsplash

平和教育は、核廃絶に向けた社会的意識を育てるうえで重要な役割を果たしている。広島・長崎をはじめとする多くの学校や自治体では、被爆の記憶と教訓を次世代に伝える取り組みが続けられており、こうした実践は核廃絶に関する国際的な規範意識を支える基盤のひとつとなっている。

また、地方自治体レベルでは、「非核宣言自治体」として核兵器の廃絶を掲げる動きが広がっており、日本非核宣言自治体協議会には2025年現在、全国の多くの市区町村が参加している(※15)。さらに企業の分野でも、ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視した投資)の観点から、核兵器関連企業への投資を見直す動きが、欧米の機関投資家を中心に広がっている。日本の企業や年金基金に対しても、こうした投資行動の見直しを求める声が高まりつつある。

若い世代への継承

広島・長崎への原爆投下から約80年が経ち、直接の被爆体験を持つ「ヒバクシャ」の高齢化が進んでいる。

被爆体験の記憶をどのように次の世代に伝えていくかは、核廃絶をめぐる取り組みにおいて、重要性と緊急性の高い課題のひとつとなっている。記憶の継承は、証言映像や書籍、デジタルアーカイブ、平和ミュージアムなど、多様な形で試みられている。

若い世代がこうした記憶と向き合い、「核兵器のない世界の実現は自分たちの世代の課題でもある」と認識することは、将来の核廃絶に向けた国際的な取り組みを担う人材の育成にもつながると期待されている。

2025年3月に開催されたTPNW第3回締約国会議でも、若者の参画や平和教育の強化が重要な課題として取り上げられた。広島・長崎の経験は日本にとどまるものではなく、人類共通の記憶として、今後も世界に発信していくことが求められている。

条約はゴールではなくプロセス

核兵器禁止条約は、ゴールではなくプロセスである。核保有国が参加していない現実があるなかでも、「核兵器は許されない」という規範を少しずつ広げていくことに意味がある。条約は、核に依存する安全保障か核なき世界かという問いを、私たち一人ひとりに投げかけている。こうした問いに向き合い続けることが、核廃絶への歩みにつながっていくはずだ。

※掲載している情報は、2026年3月26日時点のものです。

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