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なぜ、戦争は起こるのか。イスラエルとハマス、ロシアとウクライナの先の見えない戦いなど、2024年、民間人を巻き込んだ惨劇は続いている。私たちにできることはあるのか、この機会に考える。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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スウェーデンの政治学者であるウォーレンスティーンは、紛争を「少なくとも2つ以上の主体が、希少な資源(富や権力など)を同時に獲得しようとして相争う社会状況」と定義した。(※1)
民族や宗教が異なる人々、国などの主体が、資源、領土、政治権力などを獲得しようとして争うことで戦争や紛争は起きてしまう。これらの問題は組み合わさって争いに発展することが多く、原因を特定するのは難しい。戦争や紛争の原因となるものをみていこう。
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民族の異なる人々が、考え方の違いから争いを起こすことがある。民族同士で争うことを「民族紛争」と呼ぶ。
例えば、戦後欧州で最悪の紛争といわれる「ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争」(1992年-1995年)では、セルビア人、クロアチア人、ボシュニャク人の異なる民族間で激しい戦闘が繰り広げられた。死者20万人、難民・避難民は200万人となった。旧ユーゴスラヴィア連邦からのボスニア=ヘルツェゴヴィナ独立に際して民族対立から生じた内戦であった。
16世紀末から17世紀にかけてのカトリック・プロテスタントの対立や、ヒンドゥ教徒とイスラム教徒の対立など、信じる宗教の異なる人々が、考え方の違いから「宗教紛争」を起こすことがある。
信仰が「生きること」そのものを意味し、生活のあらゆる事柄が宗教の規範によって成り立っている場合、対立が深刻化してしまう。
「インド・パキスタン分離独立戦争」(1947年8月)は、イギリス領インド帝国が解体し、ヒンドゥー教徒を主体とするインド連邦とイスラーム教徒を主体とするパキスタンの二国に分離した際にカシミール地方の帰属をめぐって起きた戦争。インド独立運動における最大の悲劇とされているできごと。
パキスタンからヒンドゥー教徒およびシク教徒が、インドからはイスラーム教徒が難民となって逃れ、1200万人以上が故郷を失った。宗教対立に伴う迫害や暴行、略奪で50万人から100万人が死亡したともいわれる。(※2)
鉱物資源(金、ダイヤモンド、石油など)を巡って争いが起こることがある。資源が原因で紛争が起きることから、鉱物のことを「紛争鉱物」と呼ぶ。鉱物がでる地域では、武力勢力が資源を独占するために一般住民を拉致したりや暴行するなど、犯罪行為が行われている。
アフリカ有数の資源国であるコンゴ民主共和国(DRC コンゴ)では、ダイヤモンド、金、コバルトを巡り長期にわたる内戦が続いており、武装勢力や軍が鉱物の利益を紛争の資金源として利用している。住民に対する暴力や生計の破壊、危険な鉱山労働などを引き起こしている。
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政府や体制に不満を持つ国民が反政府運動を起こし、内乱やクーデターが発生することがある。
2010年から2012年までの中東と北アフリカの各国で起きた一連の民主化運動「アラブの春運動」は、チュニジアで始まったジャスミン革命が全国に広がった。長期的な独裁政権に国民は不満を抱き、アラブ諸国で独裁政権が倒されたが、その後も混乱が続いており、シリアではいまでも内戦が起きている。
国境線がはっきりしないことから、国同士が領土を主張する「国境紛争」が起こることがある。
2020年に中華人民共和国とインドの間で起こった国境紛争では、中国人民解放軍とインド軍が、西部ラダック地方のガルワン渓谷で衝突したことから始まった。中国とインドは全長3440キロにわたり、事実上の国境を共有している。実効支配線(LAC)と呼ばれ、川や湖、山頂の雪などにより境界の確定が困難であり、その境界は明確ではない。
その後も衝突が起きており、両国は対話を通じて解決を模索している。
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戦争や紛争は、社会全体に深刻な影響を及ぼす。社会インフラが寸断され、人々が通常の生活をすることすらままならなくなり、貧困の増加と安全の保障の欠如が起き、さらに紛争が発生しやすくなるという悪循環に陥ってしまう。戦争や紛争が与えるこれらの問題は、国際的な危機として取り組む必要がある。
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世界には、紛争地帯で暮らしている、または紛争地帯から逃れようとしている子どもが4億人もいる。2005年から2022年の間に、紛争地域で31万5000件以上の子どもへの重大な権利侵害があったと報告されている。多くの学校が攻撃・破壊され、子どもたちは武装勢力に徴兵・徴用され、重傷を負ったり、命を奪われている。(※3)
女の子は、紛争や移動の過程で、性的暴力や早婚などの危険にもさらされる。紛争や災害により、学校や家を離れることを余儀なくされた子どもたちに教育を受ける機会を提供できなければ、搾取や貧困、差別のサイクルを断ち切れない。
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ウクライナ危機では、貧困の中で暮らす子どもの割合が倍増し、経済的な困難が深刻化している。戦争に端を発したエネルギー危機とともに、家庭の収入は激減、子どもたちや家族の健やかな暮らしに壊滅的な打撃を与えている。貧困の中で暮らす子どもの割合が43%から82%へとほぼ倍増している。(※4)
砲撃や空爆により医療施設が破壊され、子どもを含む患者や医療従事者が死傷し、治療を受けることが困難に。国内のあちこちで起きている戦闘から逃れてきた何千人もの子どもたちは、命にかかわる病気や感染症から身を守るために不可欠なワクチンを接種する機会も失う。
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紛争や戦争による環境破壊が発生し、土壌や水質汚染、森林伐採、水資源の枯渇、生物多様性の喪失など、環境に深刻なダメージを与えている。これらの環境破壊は、人々の健康や生活にも悪影響を及ぼし、紛争の長期化や再発のリスクを高める。
環境保護は、紛争の予防や解決、平和構築、持続可能な開発にとって不可欠だ。しかし、紛争地域では、環境保護のための法的枠組みや資金、能力、データが不足している。また、環境問題は、紛争当事者や国際社会の優先順位の低いものと見なされがちだ。
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紛争地では学校が破壊され、子どもたちが教育を受ける機会を失う。兵士として子どもが動員されてしまうこともある。
2018年のユニセフの報告によれば、紛争や自然災害の影響を受ける国に暮らす15歳から17歳の子どもの5人に1人は、これまで一度も学校に通ったことがなく、5人に2人は小学校を修了していない。(※5)
ウクライナでは戦争によって500万人以上の子どもたちの教育が中断された。(※4)
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ウクライナ紛争が続くなか、イスラエルとイスラム組織ハマスが衝突し、世界は2つの戦争を抱えて2024年を迎えた。現在の状況は緊迫しており、世界的な危機となっている。
2022年2月24日、ロシアの軍事侵攻が始まり、ロシアはウクライナの首都キーウを含む6地域にミサイルや無人機で攻撃を加えた。
ウクライナは旧ソヴィエト連邦の一部であり、ロシアとは社会的、文化的につながりが深い。2022年の軍事侵攻は、2014年に親ロシアの大統領をウクライナ国民が追放し、ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を併合したことに遡る。この併合は、ウクライナの法律および国際法では認められていない。
クリミアの併合が起きた直後、ウクライナ東部に位置するドンバスにおいて、親露派のウクライナ分離主義グループによる抗議があり、ロシアが支援する形で「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」が宣言された。2022年のロシア軍事侵攻の直前には、この地域を独立国家としてロシアが承認している。
2024年1月時点でウクライナ軍の死者数は3万人以上、市民の死者数は数万人におよぶとされている。侵入や侵攻は続いており、ウクライナ国土の約18%はいまだにロシアの支配下にある。
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2023年10月7日、パレスチナのイスラム組織ハマスが前例のない規模の攻撃をイスラエルに対して開始。大規模なロケット攻撃とガザ地区に近いイスラエル領内に侵入し戦闘を行なった。イスラエル政府によると、少なくとも1300人の死亡が確認され、200人近い兵士や民間人(女性や子どもを含む)が拉致され、ガザ地区へ連行されたという(※6)。
イスラエル軍は、ガザ空爆を開始。イスラエルはガザ地区を完全封鎖し、生活必需品の供給を遮断。イスラエル軍は3万人以上の予備役を招集し、地上部隊のガザ侵攻が必至とされる中、住民に退避を通告。ガザ地区の保健省によると、イスラエルの攻撃でこれまでに少なくとも2万5490人が殺されており、その大半は女性や子どもだという(※6)。
パレスチナとイスラエルの対立は長年にわたり、国連の分割案や戦争を経て続いている。イスラエル建国により多くのパレスチナ人が故郷を追われ、難民問題が生じた。現在も領土問題や入植地の問題などが続いている。
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私たちが、紛争や戦争などの国際問題の解決に力を尽くすことは、外国のためだけでなく、自国の安全を考えるうえでも大変重要なことだ。私たちにできる、具体的なアクションとは何か。
始めにするべきことは、現状を知り、問題に関する理解を深めること。その際に注意すべきことは、ファクトチェックを徹底することと、複数の媒体で情報を調べることだ。発信元に有利な発言や脚色、誇張、利益が反映されていることもある。
偏った情報にならぬよう、動画サイトやSNSのみならず、新聞やテレビ、インターネット上のさまざまなサイト、書籍などで総合的に調べるようにし、情報の正確性を確認しよう。
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戦争や紛争の歴史を知ることは、私たちの社会と世界をより良く理解し、平和を築くための基盤を築る重要なステップだ。過去の戦争や紛争から学ぶことで、同じ過ちを繰り返さないための教訓を得たり、異なる文化や背景を持つ人々との共感や理解が深まり、平和を推進し、人権を守るための行動を起こすことができる。
政治家や意思決定者は、過去の戦争や紛争の教訓を考慮して政策を立てる必要があり、歴史的な知識は、適切な政策決定に寄与する。
国や国連機関のほかに、国際問題解決にとりくむNGOやNPOがある。それらの団体に寄附を行ったり、ボランティアとして参加したりすることでも国際問題解決に貢献できる。
たとえば、世界の難民の保護と支援を行う国連の機関UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の公式支援窓口である国連UNHCR (※7) や、日本ユニセフ協会(※8) に寄付したりすることも一つの支援方法だ。
また、JICA海外協力隊として、海外でボランティア活動することも支援活動の一つ。環境問題や格差の問題、医療・農業などさまざまな問題に取り組んでいるため、国際問題解決に広く貢献できる。
紛争によって被災した国や地域で生活する難民の子どもたちを支援するワールド・ビジョンのチャイルド・スポンサーシップでは、 教育や健康など幅広い分野で支援を行うことができる(※9)。
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紛争や戦争の原因は多岐にわたるが、ひとたび紛争や戦争が発生すれば、貧困・教育・人権・難民・食糧・健康などの問題が一気に悪化する。
国際問題の解決は、一国だけでは難しいため、多くの国々が話し合い協力して取り組まなければならない。しかし、国際会議や国連機関による支援は、必ずしもうまくいっているとは言えない状況だ。
世界的に人権を重視する傾向も強まってはいるが、紛争や戦争による暴力の連鎖をどこかで断ち切らなければ、この先も戦争や紛争による犠牲者は減らないだろう。
※1 JICA|用語の定義
※2 BBC news JAPAN|印パ分離・独立から70年 混乱、傷痕、そして遺産
※3 日本ユニセフ協会|紛争下の子ども、世界で4億人「武力紛争下の子どもの保護に関する国際会議」ユニセフ事務局長、国際社会へ行動を呼びかけ
※4 日本ユニセフ協会|ウクライナ危機、戦い激化から間もなく1年 貧困の中で暮らす子ども、8割へと倍増 150万人の子どもがこころの病気の危険に
※5 UNICEF|世界の就学状況報告書発表
※6 BBC news JAPAN|イスラエル軍、兵士24人が殺害されたと発表 1日の死者として最多
※7 国連UNHCR協会|ご寄付でできること
※8 日本ユニセフ協会|ご寄付による支援例
※9 国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン|世界の難民危機と子どもたち
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