日本人にとっても、実は身近な紛争鉱物。そこから派生する人権問題も無視できない。紛争鉱物とはどのようなもので、どういった問題が発生しているのだろうか?コンゴ共和国が抱える現状や問題、紛争鉱物に対する各国の取り組みについて解説する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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紛争鉱物とは、紛争地域で採掘され、武装勢力の資金源となる鉱物のこと。紛争地域とはとくに、コンゴ民主共和国をふくむ、アフリカ諸国を指し示している。
まずしいアフリカ諸国にとっての鉱物資源とは、外貨を獲得するための重要な手段である。おおくの労働者が採掘現場で働く一方で、紛争や人権侵害、搾取など、さまざまな問題が絡んでいるのだ。
紛争鉱物が国際的にも大きな問題として捉えられるようになったきっかけは、ダイヤモンドだ。美しくきらめく宝石だが、アンゴラやシエラレオネの内戦では、戦争のための資金源として使われた。
「紛争ダイヤモンド(Conflict Diamond)」「血塗られたダイヤモンド(Blood Diamond)」という言葉を、耳にした経験もあるのではないだろうか。著名な映画によって紛争ダイヤモンドは世に知られるようになったが、問題はそれだけではない。
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紛争鉱物が問題視される理由は、先進国の企業や消費者が、採掘国が抱えるトラブルを後押ししてしまうからだ。鉱物を取引すれば、お金が動く。そのお金が原因で、紛争や人権侵害、搾取といった問題を悪化させてしまう。こうした状況を防ぐために世界的にも規制の動きが進んできた。
2010年7月にアメリカでは金融規制改革法(ドッド・フランク・ウォール街改革および消費者保護に関する法律)1502条が成立、OECD(経済協力開発機構)でも「紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」が公表された。2021年にはEUにおいても「紛争鉱物資源に関する規則案」が適用された。
アメリカの金融規制改革法では、「自社製品に紛争鉱物を使用しているSEC(米国証券取引委員会)に登録している製造企業は、その原産国を合理的な調査手段により開示しなくてはならない」と定めている。紛争鉱物開示制度を設けることにより、実質的に紛争鉱物の使用を禁止したのである。
対象となるのは、コンゴ民主共和国と周辺国から採掘されるスズ、金、タンタルおよびタングステンの4種類の金属を、紛争鉱物と位置付けている。これら4つの鉱物の頭文字をとって「3TG」と表現される。
ドッド・フランク法が対象としているのは、以下の9つの国だ。(※1)
コンゴ共和国、スーダン共和国(南スーダン共和国を含む)、中央アフリカ共和国、ウガンダ共和国、ルワンダ共和国、ブルンジ共和国、タンザニア共和国、アンゴラ共和国、ザンビア共和国。
どの国も豊富な資源を持っているが、保健・教育・所得の3つの側面から算出される人間開発指数(HDI)は、まだまだ低い。(※2)その原因の一端が、紛争鉱物および流通の仕組みにあることは明らかだ。
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現代日本で暮らす私たちにとって、紛争鉱物問題は「遠い外国のできごと」のように思えるかもしれない。しかし3TGを使った製品は、おどろくほど身近だ。紛争鉱物が抱える問題は、決して他人事ではない。より身近にとらえるために、紛争鉱物と人権侵害について、コンゴ共和国を例にあげて解説しよう。
1960年、ベルギーからの独立によってコンゴ共和国が誕生。アフリカ第3位の面積と豊富な天然資源を持つ国である。しかしその歴史は、内戦の絶えないものであった。
1960年の独立直後に勃発したのが、第一次コンゴ動乱(1960~63年)、第二次コンゴ動乱(1964年)。さらに1996年には第一次コンゴ内戦、1997年には第二次コンゴ内戦を経験した。コンゴ共和国政府が発表した数値によると、内戦の死者は300万人超。死者380万人、国内避難民240万人、さらには40万人の難民が発生した。
内戦の原因はさまざまであり、コンゴ共和国の内政問題や歴史、隣国との関係性もふかく絡んでいる。そんな内戦の資金源として使われたのが、3TGであった。軍と反対勢力、それぞれが豊富な資源を資金源としたために、紛争は長期化したのである。
紛争鉱物が生み出した問題は、それだけではない。コンゴ共和国の東部地域は、「世界のレイプの中心地」と言われるほど、女性の人権侵害が日常的に行われているエリアだ。
この地において性暴力は、戦争の武器として組織的に用いられている。性暴力によって女性の心と身体、さらには所属するコミュニティーまでをも破たんに導く。性暴力は女性たちの心にトラウマを与え、妊娠・出産が不可能になるほど傷つけられるケースも後を絶たない。
女性がたずさわる農業や商業を壊滅させることで経済的に追い込み、さらに身体を傷つけることで人口を減少させる。女性をターゲットにすることで、地域全体を掌握する狙いもある。コンゴ東部の性被害犠牲者は25万人以上。1997年以降、女性の3人に2人がレイプ被害を受けた。(※3)
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過酷な現状があるなか、問題を解決するため、世界各国で規制への動きが強まっている。いくつかの国を例に挙げて紹介しよう。
先ほども挙げたドッド・フランク法のもと、実質的な紛争鉱物の取引制限をおこなっているのがアメリカ合衆国である。
この法律によって、自社製品に3TGが含まれる企業は、紛争鉱物が使用されているかどうか調査する義務を負う。調査結果は米国証券取引委員会(SEC)に報告したうえで、ホームページで開示するよう義務付けられている。調査の結果、使用鉱物が紛争に関与していないことがわかれば、「DRCコンフリクト・フリー」と証明される。
EUにおいては、2014年に欧州委員会が「紛争鉱物資源に関する規則案」を発表している。その後欧州理事会および欧州議会との話し合いがおこなわれ、2016年11月22日、非公式な形ではあるものの合意にいたった。適用は2021年からの見通しだ。
EUが提示した規則案では、規制対象となるのは3TGをふくむすべての金属鉱物だ。対象地域についても、特定の国だけに限定されない。世界全体の紛争地域や高リスク地域で採掘される鉱物に対して、事前調査の実施が義務付けられる。
日本には、紛争鉱物取引を規制する法律はない。アメリカやEUと比較すると、国としての対応は遅れていると言えるだろう。
とはいえ日本の企業が、紛争鉱物に対してまったく対策をおこなっていないわけではない。アメリカのSEC上場企業と取引する場合にはドッド・フランク法に基づいた手続きが必要となり、EUの場合も同様である。
「DRCコンフリクト・フリー」に対する意識が高まるとともに、日本企業のなかにも、積極的に事前調査を実施するケースが増えてきている。2012年には、電子情報技術産業協会(JEITA)が「責任ある鉱物調達検討会」を設立。多くの企業が参加し、人権侵害に加担する鉱物を使用しないよう、さまざまな対策を検討・実施している。
コンゴ共和国をはじめ、世界には数多くの紛争地域・高リスク地域が存在している。そこからもたらされる豊かな天然資源は、先進国に豊かさを与えてきた。しかしその裏には、内戦の悪化や女性の人権侵害など、現地の人々が多くの問題を抱えてきたという歴史がある。
鉱物を使って製品をつくる各企業はもちろんだが、一消費者の立場で、「コンフリクト・フリー」について意識することが重要だ。
※1
https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07001719/07001719.pdf
※2
http://www2.jiia.or.jp/kokusaimondai_archive/2010/2019-06_003.pdf?noprint
※3
https://www.jica.go.jp/activities/issues/gender/reports/ku57pq00002hdvy2-att/drc_2017.pdf
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