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イカ漁獲量は近年激減している。本記事では、日本と世界のイカ漁獲量の動向を整理し、海水温上昇や気候変動、国際的な漁業競争といった減少要因について解説する。さらに、持続可能な漁業の実現に向けた資源管理の取り組みと、消費者にできることを紹介する。

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「漁獲量」とは、一定期間内に漁業によって海域から採捕された総量を指す。水産統計における「漁獲量」は、漁船が実際に海から水揚げした生物の重量であり、漁業活動の成果を示す基本的な指標である。
一方、「水揚げ量」は港湾や市場において記録された量を指し、実際の漁獲量とは若干の差異が生じる場合がある。これは、洋上での消費や廃棄、船上加工による重量変化などが影響するためである(※1)。
日本近海で漁獲されるイカ類は多様であるが、主な種は以下の通りである。
1つ目がスルメイカ。日本のイカ漁獲量の大部分を占める重要種である。スルメイカは寿命約1年と短いため、資源量が年によって大きく変動しやすい特徴がある。2つ目が、ヤリイカ。沿岸域で漁獲される種であり、刺身用としての需要が高い。3つ目が、アオリイカ。釣り漁業の対象として人気が高く、高級食材として扱われる。そのほか、コウイカやアカイカだ。
これらのイカ類は、それぞれ異なる生態特性を有しており、漁獲方法や加工用途も多様である。スルメイカは塩辛、さきいか、するめなどの加工原料として広く利用される一方、ヤリイカやアオリイカ、コウイカは鮮魚としての流通が主である。アカイカは加熱調理に向いており下処理済みの冷凍ロールイカとして流通している(※2)。
日本におけるイカ類の漁獲量は、過去40年間において減少傾向を示している。スルメイカだけを見てみても、1968年に約67万トンを記録するもその後は年間数十万トンほどで推移。2000年代以降の減少は著しく、2018年には約10万トン、23年には2万1248トンとピーク時の約30分の1まで落ち込んだ(※3)。
この長期的な減少トレンドは、スルメイカだけでなく、アカイカやそのほかのイカ類においても共通して観察される現象だ。1950年代以降、2000年頃までおおむね50万トン水準を維持してきた実績を考えると、近年の急激な減少は極めて深刻な事態であるといえるだろう。
2020年以降のイカ漁獲量は低水準で推移しており、年によっては若干の回復がみられることもあるが、全体としては依然として厳しい状況が続いている。2020年の漁獲枠は過去最低の5.7万トン程度に設定されたが、実際の漁獲量はこれを下回ったと報告されている。
2025年には、一部海域(とくに三陸沖)で漁獲量の一時的な増加が見られたが、これは局所的な現象であり、資源全体の回復を示すものではないと考えられている。水産庁は2025年度漁期に漁獲枠の拡大を実施したが、資源管理の観点から慎重な意見もある。また、不漁の長期化に伴い、イカ釣り漁船の数は減少傾向にあり、大型漁船の廃業が相次いでいるとされる。(※4)。
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世界全体のイカ類漁獲量は、1980年代以降おおむね増加傾向にあり、2000年代には年間約400万トン規模に達したと推定されている。背景には、中国など新興国の遠洋漁業の活発化や、南米沖やアフリカ沖などで新たな漁場の開発があると考えられる。(※5)
とくに中国は、1990年代以降漁獲量を拡大しており、2023年のデータでは約111万トンとされ、世界全体の約3割を占めると報告されている。また、第2位はペルー(約62万トン)で、ペルー沖ではアメリカオオアカイカが漁獲の中心とされる。(※6)
地域によって漁獲対象種は異なり、北太平洋ではスルメイカ、東部太平洋ではアメリカオオアカイカ、南西大西洋ではアルゼンチンマツイカが中心となるなど、各海域の生態系に応じた漁業が行われている。
2023年の日本のイカ漁獲量は、世界で第15位(※6)。かつて日本は世界有数のイカ漁獲国であったが、近年の漁獲量減少により、国際的な存在感が低下している。
この順位の低下は、単に日本の漁獲量が減少したというだけでなく、他国の漁獲量が増加した影響も考えられる。
資源管理の枠組みにおいて、日本は漁獲可能量(TAC)制度を導入し、科学的根拠に基づく管理を進めているが、一部の国では資源管理が十分に機能していない状況も指摘されている。とくに、違法・無報告・無規制(IUU)漁業が問題視されており、公海や排他的経済水域(EEZ)における無許可操業が後を絶たないそうだ(※7・8)。
イカ漁獲量減少の要因の一つとして、海水温上昇と気候変動の影響が指摘されている。スルメイカの産卵には19℃から23℃の水温が適しているとされるが、近年の海水温変動により、産卵場である東シナ海の環境が産卵や幼生の生育に適さない状態となっているのだ。
海水温の上昇は、イカの生息域や回遊ルートにも変化をもたらしている。従来、スルメイカは東シナ海で産卵した後、黒潮に乗って北上し、三陸沖や北海道沖で成長する回遊パターンを示していたが、海水温の変化により、この回遊ルートが変化している可能性があるそうだ。水産研究・教育機構の研究では、温暖化により日本海におけるスルメイカの分布密度が変化する予測が示されており、将来的には現在の主要漁場が漁獲に適さなくなる恐れがある(※9・10)。
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日本近海における海流変動も、イカ資源に大きな影響をおよぼしている。黒潮は、日本の太平洋側を北上する暖流であり、スルメイカの幼生を産卵場から成育場へと運ぶ重要な役割を果たしている。しかし、近年は黒潮の流路が大きく変動し、いわゆる「黒潮大蛇行」と呼ばれる現象が頻発。黒潮大蛇行が発生すると、通常の流路から大きく南に蛇行するため、イカ幼生の輸送経路が変化し、成育場への到達率が低下する可能性がある(※10・12)。
また、親潮(千島海流)も重要な役割を担っている。親潮は栄養豊富な冷たい海水を運ぶため、プランクトンの生産性が高く、イカの餌となる小魚やオキアミが豊富に生息する。しかし、親潮の勢力や南下範囲も年によって変動し、これがイカの成長や分布にも影響している可能性があるのだ(※11・12)。
スルメイカ資源の減少については、海洋環境の変動に加え、漁獲の影響も指摘されてきた。1980年代から1990年代にかけて、日本のイカ漁業は高い水準の漁獲を維持していたが、近年の資源評価によれば、スルメイカの親魚量は目標管理基準値および限界管理基準値を下回る水準にある。一方で、2024年漁期の漁獲圧は最大持続生産量(MSY)を実現する水準を下回ると評価されており、現在は資源回復を意識した管理が行われている(※13・14)。
2018年の漁業法改正により、MSYを基準とする資源管理が制度化された。これにより、科学的根拠に基づく漁獲シナリオの設定が進められている。また、日本海の大和堆周辺では、外国漁船による操業が問題となっており、水産庁は退去警告や取締りを実施している。海域をまたぐ回遊資源であるイカ類については、マグロ類のように明確な地域漁業管理機関の枠組みが十分整備されているとはいい難く、関係国間の協調的な管理が課題とされている(※15)。
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2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の目標14は、「海の豊かさを守ろう」として、海洋資源の持続的利用を掲げている。イカ漁業は、まさにこの目標と深く関わる分野だ。SDGs目標14のターゲット14.4では、「2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業および破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する」ことが求められている。
イカ資源の減少の一因は、過剰漁獲と不十分な資源管理とも考えられており、SDGsの達成にはまだ遠い状況にある。FAO(国連食糧農業機関)が発表しているデータによると、28%の水産資源が枯渇、または深刻な乱獲状態にあり、また50%強が現状以上の増産が困難であり、適切な管理体制の構築が必要、とされている(※16)。イカ漁業においても、科学的根拠に基づく漁獲制限、IUU漁業の撲滅、国際的な協調体制の構築が急務である。
日本では2018年の漁業法改正を契機として、最大持続生産量を基準とする資源管理の強化が進められている。TAC(漁獲可能量)制度についても運用の見直しが行われ、科学的な資源評価に基づく管理がより重視されるようになった。
また、魚種や海域によっては、休漁期間の設定や禁漁区の設置などの技術的規制が導入されている。水産研究・教育機構などの研究機関は、資源量調査や海洋環境のモニタリングを継続的に実施し、科学的知見の提供を実施。持続可能な漁業の実現には、行政、研究機関、漁業者が連携して取り組むことが重要とされている。
持続可能なイカ漁業を実現するためには、いくつかの課題が指摘されている。まず挙げられるのが、科学的資源管理の精度向上である。イカ類は寿命が短く、環境変動の影響を受けやすい特性を持つことから、資源量の変動が大きいとされる。より精度の高い資源評価を行うためには、調査体制の充実やモニタリング技術の高度化が重要となるのだ。
次に、国際的な協調の強化も挙げられる。イカ資源は国境を越えて回遊するため、関係国間の協力が不可欠とされる。包括的な国際管理枠組みの構築や、共通ルールの整備が今後の課題とされているのだ。
そして、IUU(違法・無報告・無規制)漁業への対応も課題の一つ。国際的な監視体制の強化や漁獲証明制度などの取組が進められており、実効性の確保が求められている。
イカ資源の将来動向については、不確実性が大きいとされる。イカ類は寿命が短く、海洋環境の変化に強く影響を受けるため、資源量は年ごとの変動が大きい特性を持つ。過去にも増減を繰り返してきた経緯があり、環境条件が改善すれば一定の回復がみられる可能性があるとの見方もあるのだ。
一方で、近年の資源低迷については、海水温の上昇など長期的な環境変化が影響している可能性も指摘されている。気候変動の進行が続けば、産卵場や回遊経路に影響がおよぶ懸念もある。また、国際的な漁獲圧の動向も資源回復に影響を与える要因の一つとされる。このため、資源の将来を見通すうえでは、科学的知見の蓄積と慎重な資源管理、さらには関係国との協調が重要な課題となるといえるだろう。
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イカ漁獲量の減少は、消費者の食生活にも影響をおよぼす可能性がある。価格面では、不漁が続くとスルメイカなどの供給が減るため、販売価格の変動が生じやすい。スーパーマーケットや飲食店では、イカ商品の価格が高めに推移する傾向がみられる。
供給面では、国産イカが不足する場合、輸入イカへの依存度が高まることが考えられる。しかし輸入イカも価格の変動を受けやすく、安定した供給を確保することが課題とされている。また、イカを使った郷土料理や伝統的な食文化への影響も懸念されている。函館のイカそうめん、青森のイカメンチ、山陰のイカの一夜干しなど、地域に根付いたイカ料理の提供や普及が、漁獲状況や価格の変動に左右される可能性があるのだ。
消費者も、持続可能なイカ漁業の支援に貢献できる方法がある。たとえば、水産エコラベルの付いた商品を選ぶこと。MSC(海洋管理協議会)やASC(海産養殖管理協議会)の認証を受けた水産物は、持続可能な方法で漁獲・養殖されることを目的として基準を満たした商品である。こうした商品を購入することは、持続可能な漁業に取り組む事業者を応援する一助となる。
また、食品ロスを減らすことも大切だ。せっかく漁獲された水産物を無駄にしないことは、資源の有効活用につながる。
そして、海洋環境保全への関心を持つことも重要。海洋プラスチックや気候変動は、イカ資源に影響を与える可能性がある。日常生活でできることから取り組むことが、間接的に資源保全に寄与する。また、資源管理の重要性について理解を深め、持続可能な漁業政策を支援することも、消費者にできることである。
日本のイカ漁獲量は長期的に低下傾向にあり、スルメイカを中心に資源管理が課題となっている。環境変動や国際的な漁獲圧も影響するなか、科学的管理と消費者の支援が持続可能な漁業の鍵となるだろう。エコラベルの選択や食品ロス削減、海洋保全など、豊かな海を守るために、できることから始めていこう。
※1 「生産量」と「漁獲量」、「水あげ量」の違いについて|東京書籍FAQサイト
※2 イカは世界に450種類!日本でよく食べられているイカの種類は?|MARUHA NICHIRO
※3 スルメイカ漁獲量、ピークの30分の1で高級化…コンニャク粉使い刺し身再現「まるでイカ」も登場|読売新聞
※4 「イカがいねぇ」不漁底なし 20年漁獲枠も過去最低に|日本経済新聞
※5 イカ産業の概観|全国いか加工業協同組合
※6 世界のイカ類の漁獲量 国別ランキング・推移|GLOBAL NOTE
※7 (5)資源の持続的利用の取組|水産庁
※8 イカ類の資源の現状と持続可能性への課題|WWF ジャパン
※9 スルメイカが獲れない理由。獲り過ぎ?温暖化?クロマグロ?|魚食普及推進センター
※10 (1)我が国周辺海域における水産資源及び漁業・養殖業への影響|水産庁
※11 2025年漁期のヤリイカの漁況予測|宮城県水産技術総合センター 環境資源チーム
※12 海洋環境の変化による水産業への影響と対応|水産庁
※13 スルメイカ秋季発生系群令和7年度資源評価結果について|水産庁
※14 令和 7(2025)年度スルメイカ冬季発生系群の資源評価|国立研究開発法人 水産研究・教育機構
※15 日本海大和堆周辺水域における外国漁船への対応状況について|水産庁
※16 水産資源の持続可能な利用とMSCについて|WWFジャパン
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