環境教育とは? 定義や目的・実践方法と今後の展望を解説

授業を受けている子どもの後ろ姿のイメージ

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環境教育とは、環境問題を理解し持続可能な社会を実現するための教育活動のこと。本記事では環境教育の定義や目的、学校や企業での実践方法、ESDやSDGsとの関係、具体的な取り組み事例など詳しく解説。さらに環境教育の重要性について紹介する。

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2025.12.18

環境教育とは何か

勉強している手元のイメージ

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「環境教育」の定義

環境教育とは、地球環境の現状やさまざまな環境問題について学び、持続可能な社会を築くために必要な知識や行動力を身につけるための教育活動のこと。環境省では「人間と環境とのかかわりについて理解と認識を深め、責任ある行動が取れるよう国民の学習を推進すること」と定義している(※1)。

環境教育は単に知識を教えるだけでなく、問題解決能力や批判的思考を養い、積極的な行動を促すことを目的としている。

なぜ「教育」なのか。環境教育の目的とは

手で小さな苗を持ち上げているイメージ

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現代社会において、気候変動や生物多様性の喪失、資源の枯渇などの環境問題は年々深刻化している。これらの問題に対処し、持続可能な社会を実現するためには、一人ひとりが環境への理解を深め、責任ある行動を取ることが求められている。

文部科学省の指針では、豊かな環境を維持しつつ、持続可能な発展ができる社会を構築するためには、広く国民全体で環境の保全に取り組むことを必要としている。学校、家庭、地域が連携し、子どもから大人まで一人ひとりが、知識だけでなく体験活動を通じ、環境保全に対する理解と関心を深め、具体的な行動に結びつけられるよう環境教育を推進することが重要だ(※2)。

環境教育の構成要素

環境教育を重要と考えているのは日本だけではない。米国でも政府が環境教育の重要性について言及している。

米国環境保護局では、“環境教育とは、個人が環境問題を調査し、問題解決に取り組み、環境改善のための行動を起こすことを可能にするプロセス”としており、環境教育の構成要素として、
・環境と環境課題に対する意識と感受性
・環境と環境課題に関する知識と理解
・環境に対する関心と環境の質を改善または維持する意欲
・環境課題を特定し、解決を支援するスキル
・環境課題の解決につながる活動への参加
の5つを挙げている(※3)。

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環境教育の背景と時代的な位置付け

環境教育のこれまでの流れ

アメリカでは1800年代後半から、学校、YMCA や YWCA、ボーイスカウトやガールスカウトなどの各団体などにキャンプが行われるようになっていた。1930〜40年代になると、キャンプは効果的な教育方法のひとつとして認知されるようになり、1943年には「野外教育の父」と称される L.B.シャープが「Outdoor Education(野外教育)」と名付けた。その後1970年以降は、環境教育と冒険教育を軸として発展してきた(※4)。

日本においても、自然保護教育や野外活動を通じた体験的な学びが、環境教育の基礎を築いてきたとされており、こうした自然教育やアウトドア教育が、現代の環境教育へと発展する土台となっている。

日本で環境教育が注目されるようになったのは、1960年代。深刻な公害や自然破壊の問題が顕在化し、その解決法として環境教育が注目されるようになった。環境問題に対する市民の知識・関心の低さが指摘され、教育の必要性が認識されたのだ(※5)。

また、環境教育という用語が国際的に広まったのは、1972年にストックホルムで開催された国連人間環境会議がきっかけとされている。この会議を契機に、全世界で環境問題への関心が一気に高まっていった。

今日の課題としての気候変動や資源枯渇

地球温暖化による山火事のイメージ

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21世紀に入り、環境問題はさらに深刻さを増し、地球温暖化による気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、海洋プラスチック汚染など、地球規模での課題が山積している。

たとえば気候変動においては、現時点を超える政策的な緩和策(温室効果ガス排出削減対策)を行わない場合、21世紀末には、世界の年平均気温が、3.3~5.7℃上昇する可能性が高いと予測されている(※6)。

また、私たちの生活や経済活動を支えている資源の枯渇も深刻だ。化石燃料やミネラル、金属・鉱物など、地球上の資源は限られた量しかない。自然のプロセスによる再生にも時間がかかる再生不能資源と、水や木材のような自然や人間の活動により再生・回復が可能な再生資源があるが、いずれの資源も、地球や自然が補充するよりもはやく、人間が過剰に消費することによって量が減少している。

このように、地球温暖化や自然環境の破壊をはじめとした環境問題は、人類の生存と繁栄にとって緊急かつ重要な課題だ。恵み豊かな環境を守り、私たちの子孫に引き継いでいくためには、持続的発展が可能な社会を構築する必要がある。こうした社会を構築するためにも、国民が自主的・積極的に環境保全活動に取り組むとともに、環境教育が重要なのである(※7)。

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ESD(持続可能な開発のための教育)やSDGsとの関係

ESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)は、2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」で日本が提唱した概念だ。現代社会のさまざまな問題を自らの問題として主体的に捉え、持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・教育活動を指すものである。環境教育は、このESDの重要な一部として位置づけられている(※8)。

環境教育はSDGsとも強く関係している。たとえば、SDGsの目標4「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯教育の機会を促進する」や、目標12「つくる責任 つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標11「住み続けられるまちづくりを」など、多くの目標の実現に寄与するものとして認識されている。

環境教育の実施場面と手法

学校教育における環境教育の取り組み

子どもたちが学校で勉強しているイメージ

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学校教育では、児童生徒の発達段階に応じて、さまざまな形で環境教育が実践されている。

幼稚園では、自分と身近な動物や植物などの自然とのかかわりに関心をもち、自然のすばらしさに気づき、動植物への親しみをもつことが目標とされている(※9)。

また、小学校低学年では、身近な自然を観察したり、季節ごとの変化を感じ取ったりする活動を通じて、環境への興味・関心を育てている。中学年では、飲料水、電気、ガスの確保や廃棄物の処理と自分たちの生活や産業とのかかわりを学習。そして高学年では、公害から国民の健康や生活環境を守ることの大切さや、国土の保全などのための森林資源の働きおよび自然災害の防止について学習し、環境問題をより広い視野で捉え、自分たちにできることを考える力を育てている。

中学生になると、学習指導要領において各教科で環境教育の指導方針が定められている。たとえば、社会科では自然環境が地域の人々の生活や産業に関連していることや、環境保全の取り組みの大切さを学び、理科では、生物と環境の関係、エネルギー資源の有効利用などについて科学的に理解する、などがある。

高等学校では、より専門的な視点から環境問題を学び、持続可能な社会の実現に向けた探究学習を実施。科学的な知識を基に環境問題を多角的に分析し、解決策を提案する力を育成している。(※10)

企業・地域・社会人向けの環境教育

パソコンを操作しているイメージ

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環境教育は学校だけでなく、企業や地域社会でも積極的に実践されている。

従業員向けの環境教育システムを整備し、環境経営を推進している企業も数多く存在する。こういった企業は、全社員を対象とした環境研修やe-learningの実施、環境関連資格の取得支援、環境保全活動への参加促進などを通じて、従業員の環境意識を高め、事業活動における環境負荷の低減を図っている。

また、自治体、NPO、企業などが連携して、さまざまな環境教育プログラムを提供している地域もある。自然観察会や環境学習講座の開催や地域の環境保全活動への住民参加促進など、地域ぐるみの環境教育推進が実施されている。

環境教育の実践手法や活動例

環境教育には、さまざまな手法や活動がある。自然体験活動や環境保全活動への参加を通じて、実際に体を動かしながら学ぶ「体験型学習」や、課題を設定し、情報を収集・分析し、解決策を考えるプロセスを通じて学ぶ「探究学習」。タブレット・PCやデジタル教材などICT・デジタル技術を活用した学習も広がっている。

そのほか、学校施設自体を環境教育の教材として活用する取り組み「エコスクール」もある。太陽光発電パネルや雨水利用システム、ビオトープなどを整備したエコスクールでは、児童生徒が日常的に環境配慮技術に触れながら学ぶことができる。文部科学省では1997年からエコスクールパイロット・モデルの認定を進めており、全国で1,000校以上が認定を受けている(※11)。

成功のポイントと注意すべき課題

環境教育を効果的に進めるためには、いくつかのポイントがある。知識をインプットするだけでなく、体験活動を重視し実践につなげることや、児童生徒の発達段階に応じた指導を行うこと、地域の実態や環境問題と結びつけて学ぶこと、などが挙げられる。

注意すべき課題としては、環境問題は学校教育だけでなく家庭や地域社会との連携が必要ということだ。また、教員の多忙化や専門知識の不足、予算や人材の確保、継続性の維持なども課題として挙げられる。

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環境教育の効果や評価

ここからは、環境教育によって個人と社会、それぞれどのような変化や効果が期待されているのか、またその評価手法について紹介しよう。

どんな変化が期待されるか

自然のなかで遊ぶ子どものイメージ

Photo by Kahar Erbol on Unsplash

国立教育政策研究所の指導資料では、環境教育を通して身につけさせたい能力として、「環境に対する豊かな感受性」や「環境に関する思考力・判断力」、「環境に働きかける実践力」が示されている(※12)。このように、個人レベルでの効果としては、環境問題に関する知識と理解や、環境を大切にする態度や価値観の形成、環境保全に配慮した行動の実践、自然とのふれあいによる心身の健康増進などが期待されている。

社会や組織レベルで期待される変化は、地域の環境保全活動の活性化や企業の環境経営の推進、資源・エネルギーの効率的利用によるコスト削減、環境ビジネスの創出などがある。

教育効果を測る指標や評価手法

環境教育の効果を測定するには、さまざまな指標や手法が用いられる。環境問題に関する基本的な知識の習得度のような、知識・理解の評価のほか、持続可能な社会に貢献しようとする意欲などの態度・価値観の評価。さらに、実際の環境保全活動への参加状況や日常生活における環境配慮行動の実践度といった行動・参加の評価が挙げられる。

実践事例から見る“効果のある”取り組み

実際に、どのような取り組みが“効果のある”取り組みなのだろうか。国内外の事例をみていこう。

国内では、「低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)による家庭等の自発的対策推進事業」において平成29年度から令和2年度まで実証実験を実施した、「新学習指導要領に対応した小学校・中学校・高等学校向け省エネ教育プログラム」が、効果を定量的に明らかにしている。この取り組みを行い、教育後に各世帯平均で5.1%のCO2削減効果(電気・ガスの合計)があったほか、教育後に環境配慮行動を実践できていた生徒・児童の95.1%において、教育後1年後においても環境配慮行動が持続していたことなど効果が発表されている(※13)。

イギリスでは、生徒が主体となり学校や地域社会で持続可能性の取り組みをリードする力を育むスクール「Eco-Schools」が、環境教育の効果を発表している。Eco-Schoolsのプログラムでは、7つのステップフレームワークを提供し、幼稚園、学校、大学が環境学習をカリキュラムと日常活動に統合する簡単な方法を提案。2024/25年度だけでも、プログラム参加校は、埋立処分を回避した廃棄物が203万キログラム、創出・維持した自然生息地が130万箇所などの成果を達成している(※14)。

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今後の展望とチャレンジ

これから求められる環境教育の姿

今後の環境教育では、2050年カーボンニュートラルへの対応や、気候変動適応教育の強化などが重要なテーマになるだろう。

2024年5月に改正された基本方針では、環境保全活動、環境保全の意欲の増進および環境教育並びに協働取組の推進に必要な視点のひとつとして、カーボンニュートラルの実現が挙げられている(※15)。脱炭素社会づくりに貢献する製品への買換え、サービスの利用、ライフスタイルの選択など、具体的な行動変容を促す教育が求められているのだ。

また、気候変動による影響が多く現れているなか、緩和策だけでなく適応策についても学ぶことが重要になっている。防災教育と環境教育を統合した取り組みも進めていく必要があるだろう。

VR/AR・ゲームを活用した環境教育

VRを体験する子どものイメージ

Photo by Jessica Lewis 🦋 thepaintedsquare on Unsplash

近年、VR/AR・ゲームなど、最新技術を活用した環境教育の事例も増えている。

2022年には、環境省が「バーチャルマーケット2022 Winter」に出展し、脱炭素と豊かな暮らしがともに実現された「未来の家庭のモデルルーム」を展示。脱炭素や環境対策が我慢ではなく、環境にやさしい製品・サービスを選択することにより、快適でお得、さらに便利で自分らしい豊かな暮らしが実現でき、脱炭素も両立可能であることが体験・体感することができるものであった(※16)。

そのほか、環境問題をテーマとしたゲームやシミュレーションを通じて、楽しみながら環境について学ぶ取り組みも広がっている。VRやゲームは高い没入感で当事者意識を芽生えさせたり、リアルに環境問題の深刻さを学んだりすることができるツールとして、高い効果を発揮することが期待されているのだ。

気候変動適応・脱炭素シナリオを教育にどう取り込むか

気候変動適応・脱炭素シナリオなど今後重要なテーマをどう教育に取り込んでいけばいいのだろうか。

気候変動問題においては、これ以上状況を悪化させないための緩和策が重要なイメージがあるが、すでに起こっている気候変動の影響に対する適応策についても学ぶことも重要だ。防災、健康、農業、生態系など、さまざまな分野での適応策を理解し、地域の実情に合わせた対策を考える力を育成する必要があるだろう。

また、環境省は「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動(デコ活)」を展開しており、脱炭素は決して我慢ではなく、環境にいい製品・サービスを選ぶことで、家計が浮き、自由に使える時間が生まれ、さらにCO2の削減にもつながる新しい豊かな暮らしとして提案している。このように、2050年カーボンニュートラルに向けた具体的なシナリオや、そこに至る過程での技術革新、社会システムの変革について学ぶことが重要だ(※17)。

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教育現場・地域・企業それぞれでの役割と連携

持続可能な社会を実現するためには、学校、家庭、地域、企業、行政の各ステークホルダーが連携することが不可欠。

たとえば、学校では体験活動や探究学習を充実させ、家庭では学校での学びをアウトプットできるよう、子どもと一緒に環境問題について話し合う。そして、地域や企業は環境保全活動の場(体験の機会の場)を提供し、行政は各主体をつなぐ中間支援機能を充実させるなど、それぞれの役割を果たしながら連携していくことが大切だ。

環境教育について個人でできること

ごみ分別のイメージ

Photo by Nareeta Martin on Unsplash

環境教育は、個人としても取り組むことができる。

ごみの分別とリサイクルの徹底や、省エネルギーを意識した生活(照明のこまめな消灯、エアコンの適切な温度設定など)といった日常生活での実践もできることのひとつだ。また、環境に関する書籍や記事を読んだり、NPOや環境団体のイベントに参加したり、学びの機会を積極的に活用するのも環境教育といえる。

そのほか、地域の清掃活動やリサイクル活動に参加する、家族や友人と環境問題について話すなど、まずは興味を持ち、身近なところ、始めやすいことからスタートして、自分ごと化していくことが大切だ。

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できることから実践し、持続可能な未来につなげる

環境教育は、体験活動やICT活用など、多様な手法で実践されており、気候変動やカーボンニュートラルなど新たな課題に対応するため、さらに進化を続けている。

まずは、環境問題を遠い国の話ではなく、自分の生活と直結している問題と認識することが大切だ。その上で自分に何ができるのかを考え、できることから実践していくことが、持続可能な未来につながっていくだろう。

※掲載している情報は、2025年12月18日時点のものです。

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