環境負荷を減らす農法「環境保全型農業」の可能性 農業の事業性から考えるデメリットとは

小麦の束を運ぶトラクター

消費者の環境意識の高まりは、農業にも及んでいる。そこで注目されているのが環境保全型農業だ。食料を供給するだけでなく国土や環境保全の重要な役割を担う農業だが、そこには根深い問題もある。環境保全型農業の概要と事例、課題を解説する。

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2021.03.16

環境保全型農業とは

レタスを収穫しようとする手

Photo by PHÚC LONG on Unsplash

環境保全型農業とは、一般的にはできるかぎり環境への負荷を減らした農業、農法のことを指す。政府は1999年に持続農業法を制定し、農林水産省は「農業の持つ物質循環機能を生かして、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業」と定義している。

環境保全型農業には、さまざまな立場がある点に注意が必要だ。厳格なものには、化学肥料や農薬の使用をまったく認めない立場もあれば、対象資材を基準にしたがって適切な利用をしていれば認める減農薬、減化学肥料の立場もある。

環境保全型農業が求められている背景

農業には食料の供給だけでなく、国土や環境保全などの多面的な機能がある。食料供給という側面だけを見れば、化学肥料や化学的に合成した農薬を使えば生産性を向上させることが可能だ。

しかし、そのために化学肥料や農薬を使いすぎると土壌や河川などを汚染し、生態系バランスを崩す可能性がある。回り回って人間の健康にも悪影響を及ぼすこともあるだろう。

そこで近年高まっているのが環境保全型農業への関心だ。 国による持続農業法の制定や、エコファーマー制度、環境保全型農業への取り組みを背景に環境保全型農業でつくられた農産物は消費者にも少しずつ受け入れられつつある。

農林水産省による推進・支援

国は1999年に持続農業法を制定し「持続性の高い農業生産方式」とは「土壌の性質に由来する農地の生産力の維持増進その他良好な営農環境の確保に資すると認められる合理的な農業の生産方式」と定義した。

具体的には次の3点を取り入れた生産計画を策定した農業者を各自治体がエコファーマーとして認定し、農業改良資金の貸付や農業機械の課税に対して、特例措置を行っている。

・たい肥などの有機質資材の施用に関する技術で土壌改良効果の高いもの
・肥料の施用に関する技術で化学合成肥料の施用を減少させる効果の高いもの
・雑草、害虫等の防除に関する技術で化学合成農薬の使用を減少させる効果の高いもの

また、有機農産物の表示ルールなどを有機JASとして定め、2006年に有機農業の推進と普及を目指す「有機農業の推進に関する法律」、2015年に「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」を施行した。

環境保全型農業の3つの具体例

地平線まで続く、畑を貫く農道

Photo by Natalia Terskaya on Unsplash

環境保全型農業にはさまざまなアプローチの方法があるが、もっともよく見られるのは耕畜連携だろう。耕畜連携とは牛や豚、鶏などの糞尿を発酵させてたい肥化し、それを畑に還元する方法のこと。

畑で育った穀物などを家畜の飼料とし、糞尿を穀物の肥料とする循環型の考え方を採用している。実際の現場でも多く見られており、農水省は事例集を公開している。

牛糞たい肥を使ったブロッコリーづくり
埼玉県のJA榛沢管内のブロッコリー農家は、昭和60年頃から肉用牛の肥育農家から提供されるたい肥を活用してブロッコリーを生産し、「菜色美人」の認証を受けている。JA榛沢管内のブロッコリー農家は100戸あまり。たい肥の投入で水はけがよくなり、甘みが増すなど、品質向上につながっている。

合鴨農法
田植えが終わった田んぼに合鴨を放ち、除草、防虫効果や糞尿による肥料効果が得られる農法。地域に限定なく米の産地で多く取り入れられている。合鴨は最終的に人間の食料となる。

アクアポニックス
魚やエビ、巻き貝が排泄した糞尿を微生物に分解させ、それを栄養源として水耕栽培で植物を育てる。一般的な農法である土耕栽培につきものの、土づくりや水やりが不要で病害虫を抑えることが可能。地球にもっともやさしい農法として、世界中で注目されている。

推進の成果と見えてきたデメリットや課題

耕畜連携のメリットは、それにより農水省が定める環境保全型農業の条件をクリアできることだ。動物を投入することで、肥料代が抑えられる。その糞尿が再び土壌となり、土壌改良にも役立つ。地域のブランド化につながるケースも少なくない。

環境保全型農業のデメリットは事業性だ。循環型農業を行うと少なくとも短期的には、生産性が落ちる。上述のアクアポニックスの場合、設備の導入費用やメンテナンス費用も高額となる。

特別な農法を採用していることに対して適切な価格が設定できればよいが、市場を形成できないと手間やコストがマイナスとなってしまう。

環境保全型農業を進めていくために

一面の畑の奥にたたずむ民家

Photo by Laurent Gence on Unsplash

環境保全型農業の目指す姿は、これからの社会にとって必要な考え方だ。しかし、問題となるのは、その事業性だろう。持続性の概念は農業にも当てはまる。

労働集約型であり、薄利多売を強いられている農業を持続可能なものにしていくために、近年この分野にもAIやICTを活用する動きが広まっているが、まだそれはほんの一部だ。

農業従事者の資金、能力などの問題のほか、流通や市場の価格形成の問題もある。環境保全型農業を推進していくには、国や自治体は法律や補助金などの制度づくりに加えて、問題を全方位からとらえ制度設計していくことが求められていると言えるだろう。

※ 参照サイト
環境保全型農業関連情報|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/
”資源循環型農業”ってなあに?|独立行政法人農畜産業振興機構
https://www.alic.go.jp/koho/mng01_000044.html

※掲載している情報は、2021年3月16日時点のものです。

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