エシカルでサステナブルなライフスタイルを送る先人から、一歩を踏み出すヒントを学ぶインタビュー連載企画「ELEMINIST TALK」。今回はフェムケア業界に注目し、サニタリーブランド「limerime(ライムライム)」の創業者・須藤紫音さんが登場。ブランド誕生から製品に込めた想い、「ジェンダーロールに縛られない生き方を提案したい」という取り組みについても聞きました。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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エシカルなサニタリーブランドといえば、「limerime(ライムライム)」を思い浮かべる読者も多いはず。シートの表面は竹素材、中央の吸収体にはウッドパルプ、外側の包装にとうもろこし由来のバイオフィルムを採用したという、筋金入りのエシカルブランドです。従来品に使用されている石油由来のプラスチックを削減しているため、生分解性97〜99%(※)を実現しているといいます。
使う人の体や環境に配慮した製品の素晴らしさもさることながら、それだけではありません。創業者である須藤紫音さんによると、「単なる消費財ではなく、考えるきっかけや、対話が生まれるきっかけにしてほしい」というメッセージが込められているとか。5月28日「月経衛生デー(Menstrual Hygiene Day)」にも、サニタリー用品を贈ろう!という、ポップアップイベントを実施したばかり。
ここ数年、女性の社会進出とともに、にわかに盛り上がりをみせているフェムケア、フェムテック市場。女性の健康や体のケアにフォーカスした、さまざまな製品やサービスが誕生しています。そんななかにあって、なぜナプキンのブランドを立ち上げたのか、どんな社会の実現に向けて啓発活動を行っているのか。まだはじまったばかりだという、須藤さんの静かなチャレンジについて話を聞きました。
※ショーツとの接着面に使用されている糊は生分解性ではありません。製品により使用面積が異なるため、比率に差があります。
コスメやファッションと同じように、サニタリー用品もお気に入りのデザインを選びたい。
————ブランドを立ち上げたのが2023年。ファッション・コスメのマーケティング職という、華やかな世界からの転身だとお聞きしました。
もともとは、ファッションやコスメのマーケティング・ブランディングに携わっていました。販促のプランニングなどを企画するのが主な仕事です。かれこれ20年近く働いていたのですが、限界を感じはじめていたんです。ものを売るのが仕事ですから、常に売れ続けなきゃいけない、収益がすべての世界でした。
同じころ、新規でコスメを立ち上げたいという会社さんから依頼があったんです。最初はお受けするつもりだったのですが、製品の原料検討やコンセプトづくりをする過程で、すんなり動けない自分がいて。結局、コロナ禍などいろんなタイミングがクロスしたこともあり、辞退するに至りました。
————そこから生理用品の会社を立ち上げることになったのは、どんな経緯があったのでしょうか?
新しくブランドを立ち上げるときって、必ず定性調査という市場調査のようなものを行うんですね。そのときは女性7〜8人を集めた座談会で、ちょうどよい機会だからコスメ以外にもいろいろ聞いてみようと思いました。「いま、満足していない商品やサービスってなんですか?」と質問したところ、「サニタリー用品」って答えた方がいて。それを聞いて、「たしかに!」と、わたし自身も腑に落ちるところがあり衝撃を受けたんです。
オーガニックコスメの領域に携わっていたので、コスメの裏側はぜったいチェックするし、息子が重いアレルギー持ちなこともあって、食品の成分表示も隅から隅まで見て買うのが習慣になっていました。にもかかわらず、サニタリー用品については意識的に見たことがなかった。そのことに自分自身驚いてしまって。
たとえ見ていたとしても”オーガニック”と書かれているか?くらい。また、それがどこでどのようにつくられたものかという情報もありませんでしたし、それ以外の選択肢はほぼありませんでした。購入するのもコンビニかドラッグストア、オンラインサービスだとAmazonの定期便くらいしかありません。これは改善する余地があるんじゃないか、そう思ったらワクワクしてきたんです。これは自分でやるしかないと思いました。
海外のサニタリー用品。おしゃれなだけではなく、パッケージに啓発的なメッセージが入っているものも。
————はじめるにあたって、海外製品のマーケティングリサーチもされたと伺いました。日本と比べてどうでしたか?
サニタリー用品の分野なら、衛生観念の高い日本が一番だろうと思っていたんです。ところが、蓋を開けてみたらそれがひっくり返った。まずデザインひとつとっても、まるでお菓子のパッケージのようなおしゃれなものが多くてびっくりしました。
体や環境に配慮した製品も盛んで、素材もオーガニックコットンだけじゃない。竹やヘンプ(麻)、面白いところでは、バナナの繊維や苔なんかもありました。それに比べると、日本には天然素材を使ったサニタリー用品が少ない。もっと選択肢があってもいいのでは、と感じたんです。
ほかにも、海外の支援制度は先進的でした。多くの女性にとって生理用品は生活必需品です。その考えから、生理用品は非課税となっている国もあったり、ティーンに対して無償で提供している国もある。日本をみると、生理用品は軽減税率対象外のため10%の税金がかけられています。生理の貧困という理由から、一部の地域で無料配布が行われていますが、国による制度ではありません。貧困層だけではなく、女性の権利としてあるはずだと感じました。
世界に目を向けると、女性側からニーズがあり、女性起業家たちが新たなフェムケア製品を生み出している、そんなムーブメントが同時多発的に起こっていたんです。それを知ってますます日本でもやってみるべきだと、背中をおされた気がします。
サニタリー用品を通して健康や性の話を。女性たちの意識を変え、男性の意識も変えることで社会が動く。
———もともとフェムケア市場にご興味があって、サニタリー用品をつくろう、となったわけではなかったんですね。
そうですね。最初からフェムケアにフォーカスしていたというよりは、もっと女性の生き方のようなところ。例えば、働きにくさであったり、ライフステージに応じて直面する課題であったり…。自分自身も経験したことがあったので、今後も仕事をしていくなら、なにかそういった課題解決に紐づくような事業がしたい、そう思ったんです。
サニタリー用品自体のアップデートが必要だと思ってはじめましたが、やっぱり女性が抱えている課題について、社会的な構造改革も、また消費者側のリテラシーの向上も必要。じゃあ、それを変えるためのフックになるもの、一番身近で多くの人が買うものってなんだろう、そう考えたときに「ナプキンがある!」と思いついたんです。月経って、10歳頃からはじまるんですよ。若年層にも考えるきっかけを提供するタッチポイントとしてベストだと感じました。
———わたしたち消費者側も意識を変える必要があるんですね。例えばどんなことでしょうか?
いまの時代、女性の社会進出と言われ続け、女性も男性なみに働くことを期待されている。その結果として、個人レベルで我慢しなきゃいけないことがたくさん起こっています。例えば、月経痛は薬を飲むのが当然だし、生理痛が重いのは個人差の問題で片付けられてしまう。仕事で頻繁にトイレにいけないのなら、吸収力が高くて長時間つけても漏れないナプキンを選ばざるを得ない、とか。それが当たり前になっています。
でも本当はそうじゃない。経血が出たままのナプキンを長時間つけ続けるのは気持ち悪いからすぐに変えたいし、お腹が痛かったらトイレにいきたいですよね。もっと本来は体のサインなのだから、生理現象にあった行動をとってもいいのでは、と思うんです。社会や周囲が変わる必要もあるけれど、女性側も「これはおかしいよね」、そう言えるマインドに変わっていくことも大事だと思っています。
そして、もっと月経を観察してほしい。便は健康のバロメーターといわれますが、実は女性にとって月経も健康のバロメーターだと思うんです。経血の量も色も、痛みも月によって違いますよね。目視できるものなので、何もチェックせずにナプキンを丸めてぽい、っていうのはもったいない。ストレスやホルモンバランス、病気などはないか、なんとなく察知できるのではないでしょうか。
月経を健康のバロメーターとして見ることで、自分の体を知ること、そしてもっと本質的に変われるんだよ、と伝えたいですね。
ナプキン「昼用 24cm 10枚入」のほか、夜用やパンティライナー、お得な定期便もある。
———製品について教えてください。まずは、どんなメッセージを込めたブランドなのでしょうか?
「limerime」の箱を開けると、「Hello! We’re newbe.」という文字があらわれます。「new + be」には「新しいあり方」というブランドビジョンを込めました。サニタリー用品を通じて、健康と環境課題に意識を向け、ジェンダーロールに縛られない社会を提案していきたい。女性も、女性じゃない方も、サニタリーの領域に足を踏み入れるみんなで、社会課題を解決していきたい、そんな想いがあります。
また、「new + be」には、スラングで「新参者」という意味もあるんですよ。数十年プレイヤーが変わらない日本のサニタリー用品市場において、ゲームチェンジャーとして新しい道を切り開いていきます!という決意も潜ませているんです。
実はサニタリー用品のなかでも、使い捨ての生理用ナプキンは新規参入障壁が高い。ほかの布ナプキン、パンティライナーなどは雑貨扱いなのに対し、使い捨ての生理用ナプキンだけは医薬部外品に位置付けられています。その承認を得るための時間的・金銭的なリスクが非常に高いのが、課題感のあるところです。
女性=フェミニンを封印。誰もが手に取りやすいビタミンカラーのスタイリッシュなデザイン。
———ジェンダーロールに縛られない選択、それがこのニュートラルなパッケージデザインにも表れているんですね。
既存製品のパッケージをみると、色使いなどもフェミニンなデザインのものが多いですよね。でも、すべての女性がピンク好きか?といったら、そうではない。とくにいまの女性たちはおしゃれなパッケージのものをたくさん見てきているので、そういう人たちのライフスタイルに入り込めるプロダクトになれたら、と思って。
社会課題として月経を考えるとき、誰もが手に取りやすい製品であることも重要です。トランスジェンダーの方から以前、「女性性を植え付けられるようなデザインではなく、もっとフラットなデザインのものがほしい」といわれたことがありました。男性のパートナーが、「ちょっとお腹いたいから生理用品かってきて」と頼まれたときも、買いやすいデザインの方がいいですよね。そこから会話が生まれて、お互いの理解や思いやりにつながればいいな、と思っています。
ブランドのシグニチャー、竹素材のシート。サラサラとしたつけ心地にファンが多い。
———製品についても、環境にも体にもやさしいという、エシカルなつくり方をされていますよね。その理由について教えてください。
サニタリー用品って、女性が数十年間使い続けるものなので、すでに売れ続けているプラットフォームがあるわけです。そう考えると、つくり手として女性の体はもちろん、地球環境にも負荷の少ないものでなければいけないと思いました。なので、素材に関しては、ケミカルフリーでオーガニック、肌にも環境にもいいことを重視しています。ただ、最初から環境に配慮したものをつくろうとしたわけではなくて。安心で健康に害のないものを追求した結果、エシカルにたどり着いた感じです。
———シートの表面は竹、内側の吸収体にはウッドパルプ、外側の包装にとうもろこし由来のバイオフィルム使用ということで、生分解性(土にかえる素材)97〜99%というのもすごいですね。
そこは前職のファッション業界で経験した、廃棄の問題が影響していて。アパレルのプロモーションイベントって、わずか数週間のプロモーションのために、莫大な費用をかけて什器やら何やらつくるんですよ。そのつくった什器がどうなるかというと、終わったらまた大金をかけて解体し廃棄する。自分の仕事としてつくったものが廃棄されることも悲しかったのですが、それ以上にお金をかけて燃やすこと、リサイクルできない事業ごみが出ていくのを目の当たりにした時に、やるせなさを感じました。
ナプキンも使い捨てですから、環境負荷の少ない捨て方ができるものがいい。日本の場合は焼却するんですが、従来の石油由来の製品は、高温でないと燃えません。これだと焼却炉も痛むし、何より有害物質がでる可能性もある。「limerime」の場合は、植物由来で生分解可能、さらに低温でも燃えるというメリットがあります。
また、最近わかったのですが、震災や災害が起きたときにも生分解性の高さって重要なんです。災害時は、焼却炉がダウンしてしまうケースが多いので、ごみを燃やせないですよね。そうなると、埋めるか、埋められない場合は使用済みの生理用品が山積みとなり、公衆衛生上よくない。そんなとき、「limerime」のように生分解性の高い生理用品だと、焼却炉がなくても焚き火レベルで燃えてくれるし、埋めてもコンポストの要領で1〜2年のうちに土にかえってくれるんです。
防災の話をするとき、生理用品が手に入らないという問題は表に出てきますが、実は使ったあとの処理の問題も課題としてある。そういった意味でも生分解性の高さは必要だと感じました。
MH Day=サニタリー用品をプレゼントする日に。バレンタインデー=チョコのように定着させたいそう。
———SNSでの発信や専門家を招いたイベントなど、啓発活動も積極的にされています。その背景にはどんな想いがあるのでしょうか?
わたし自身社会に出てから、女性であるがゆえに感じてきた問題がたくさんあって。それは人によってさまざまで、ライフステージによってみなさん違った経験をされると思うんですよね。それを事前に知識として知っておくことで、心構えや準備ができるのでは、と感じました。
例えば妊娠や出産を通して起きる課題の例として。新卒女性が企業に入社したとします。もし彼女がこれまで家族や友人、その他環境的な要因で妊娠出産に関する予備知識が全くなかった場合。職場の先輩が妊娠して産休をとったとき、23歳からしたらどんなことが起こっているのか想像がつかないと思うんですよね。妊娠して出産して帰ってきたら、急に時短勤務になっている。子育てがあるから当然だと頭では理解しているものの、「先輩は時短でラクでいいなぁ、私は残業までしているのに……」。そういったマインドになってしまい、どこかギクシャクしたり、働きにくい職場になってしまう。これはすごく極端な話ですけど、ありえると思うんですよね。
事前に妊娠や出産とはどういうことか、どれだけ体に負担があるのか、子育てに時間が取られるということはどういうことなのか、少しでも知っていれば、他者を思いやることができるし、コミュニケーションもとれる。そう考えると教育や情報ってすごく必要だと感じます。知ること、対話をすることが、幸せなリレーションシップにつながっていくと思うんです。
わたしたちが啓発活動をしているのは、製品を売りたいとか、ブランド認知を高めたいからではなく、純粋に、知ることで、みんながお互いを思いやって、次のアクションにつながるようなきっかけづくりをしたい、そう思ってやっています。
昨年好評だった、渋谷PARCOで開催された生理にまつわる社会史をまとめた展示。
————これからどんな活動に力を入れていきたいですか?
わたしたちの会社が目指しているのは、ただ事業を大きくすることではありません。そうなるにはみなさんの力が必要です。共感してくれるユーザーさんたちと一緒につくりあげていく、そんなブランドでありたいと思っています。
実は最近、ブランドのコミュニティとして、「limerime club(ライムライム クラブ)」というInstagramのアカウントを立ち上げたんです。UNDER 30(30歳未満)のみなさんを中心に、意見交換ができる場を設けたいと思って。啓発活動のアイディアや今後のブランドのあるべき姿について、一緒に考えていけたら嬉しいです。同じタイミングでUNDER 30の方を対象にした特別割もスタートしました。
————最後に、エシカルな暮らしをはじめたいと思っている読者に向けてアドバイスをお願いします。
まずは意識を向けることが必要だと思います。その後のアクションについては、どこまでできるのか、自分のライフスタイルに合わせて考える。例えば「limerime」の生理用品を使ってみたいとします。うちのナプキンは天然素材というメリットはありますが、吸収力でいうと石油由来のポリマー製に若干おとります。なので、月経過多の方が7日間使い続けられるかというと、そうではない。漏れたりすると、かえってストレスになりますよね。
じゃあ、2日目、3日目の多い日だけは吸水性の高いものを使おう、とか。リモートワークの日は吸水ショーツだけで過ごせるかも、とか。うまく組み合わせて、自分に無理なくできることをやっていく、そういうマインドがいいんじゃないかな、と思っています。
須藤紫音/株式会社VVV代表取締役兼CEO。複数のアパレルブランドにて、マーケティング・ブランディング業務に携わり、出産を機に独立。2023年に竹の繊維を表面素材として使用した、体にも環境にもやさしいサニタリーブランド「limerime」をローンチ。商品開発・運営を行う。
WEBサイト: https://limerime.com/
Instagram(公式):@limerime_official
Instagram(ライムライム クラブ):@limerime_club
撮影/limerime 取材・執筆/村田理江 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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