エシカルでサステナブルなライフスタイルを送る人に、一歩を踏み出すヒントを紹介していただくインタビュー連載企画「ELEMINIST TALK」。今回はプロサーファー/ReWaveアンバサダー 都築虹帆選手にサーフィンを通して日々感じている環境問題についてお話いただきました。
堂坂由香
エディター
慶應義塾大学文学部卒業後、宝島社、世界文化社にて女性誌の雑誌編集者として紙媒体の編集に携わる。制作会社を経て2021年独立。コロナ禍でのライフスタイルの変化により、エシカル、サステナブル…
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中学3年生からプロサーファーとして活動を始め、2019年にルーキーオブザイヤー、2021年にはJPSA(日本プロサーフィン連盟)シリーズチャンピオンに輝き、日本代表強化指定選手として活躍する現在19歳の都築虹帆選手。獲得賞金の一部を環境保護団体へ寄付するなど、サーフィンを通してエシカルな取り組みをされている都築選手に、国内外でのサーフトリップを通して感じた気づきや現在のサステナブルな活動についてお話を伺いました。
国内だけでなく、サーフトリップや試合を通して世界のさまざまな国の海を見ている都築選手。この日は滞在先のコスタリカからインタビューを受けていただきました。
——環境問題など、サステナブルな取り組みに興味を持ったきっかけはご両親からの影響が大きかったと伺いました。
そうですね、両親がウィンドサーフィンをやっていて自然が大好きな二人の影響で、小さい頃から遊び場は自然のなかでした。海に歩いて行けるところに住んでいたし、夏だったらエアコンを付けずに暑かったら海に行く! といった生活スタイルで。海で遊ぶ以外にも、BMXというダートコースを走る自転車競技をやっていて、コースが森のなかにあったので、その影響もあり川に遊びに行ったり深い山でキャンプをしたり、きれいな海に潜りに行ったり……といった環境で育ちました。
そういう環境のなかにいたので、「そのへんにごみを捨てちゃいけない」ということはもちろん教わるまでもなく知っていて。そこからだんだんと、さまざまな問題がいま地球に起きているんだということを感じながら成長してきたので、意識的に興味を持ったというよりは、地球環境への問題意識を持つことは、自分にとってはごく自然なことでした。
——小さな頃からそういう意識が自然と生まれやすい環境だったんですね。
ひとつ印象的なエピソードがあって。11歳の夏休みに学校から代表者として選ばれて、2週間メキシコにホームステイに行ったんです。学校と交流のあるメキシコの学校に通いながらホストファミリーの家に1人で泊まることになりました。
行く前はとにかくメキシコに行きたい! という一心でした。しかもその前の年に自分の家でホームステイを受け入れた子の家にたまたま行けることになったので、なおさらすごく楽しみで。やっと行ける! ついに行ける! やっと着いたー! と思ったら、着いた瞬間からホームシックになってしまったんです。
私の場合、ホームシックが結構ひどくて。本当は、親に電話してはいけないというルールがあったのですが、私があまりにも泣いていたのでホストファミリーがお母さんに電話をかけてくれたほどでした。先生にもたくさん慰めてもらったのですが、ずっと泣き続けているうちに、だんだんと寂しさを超えてきてしまい、最終的にはなぜか環境問題に怒りをぶつけ続けていたらしいです(笑)。
先生にあとから「最初は寂しい寂しいとか言ってたんだよ。だけどだんだんさぁ、ごみがどうだとか森がどうだとか、そんなことばっかり言ってたんだよ、覚えてる?」と言われて。それくらい小さい頃から環境への問題意識があったみたいです。
メキシコホームステイのときの都築さん。ホームシックの寂しさを通り越して、なぜか環境問題にずっと怒りをぶつけていたそう。また、その後の楽しいホームステイ生活では貴重な経験をたくさんできたそうです。
——可愛らしいエピソードですね……! 日々海に入る生活の中で何か感じることはありますか?
海にごみが浮いていることもあるし浜にめちゃくちゃたくさんごみが落ちていることもあるし、海の色がすごく汚かったり、臭かったりするときもあります。いまは愛知県の外海側に住んでいるのですが、以前は内海側の常滑市という場所に住んでいました。常滑の海はとてもすてきな場所なのですが、内海側で名古屋港にわりと近いこともあり、船の行き来が多いときはちょっと臭かったり、海水が若干オイリーになっていたり。海の底がヘドロっぽくなっていることもありました。
外海側に引っ越してきてからはそういう汚さは感じませんが、流れ着くごみの量がすごく多いんです。もちろんその場で捨てられてしまっているごみもあると思いますが、台風が過ぎていくと明らかにごみがブワッと増える。例えばボーリングの球とか、「え? なんでここにあるの? 」というものも結構あります。すごく大きいタイヤとか靴や服もそうですし。それからプラスチックレジン(プラスチックの原料)がとにかくたくさん落ちてます。透明なBB弾のような見た目で意識して探さないと見つけづらいのですが、探すと本当にたくさんあります。
「なんでこんなに多いんですか?」 と一緒に活動している環境保護団体の方たちに聞いてみたら、プラスチックレジンを船で運送中に、波で船が揺れると海に大量に落ちるらしくて。その話を聞いて「え、ありえない……」と思いました。そういった意識も変わっていってほしいなって思います。
漁具や日本のものではないごみもすごく多く見かけます。中国語や韓国語、これ何語だろう? というものも流れて着たりするので、そういうことからもいろいろと感じるものはあります。
「海で拾ったプラスチックの一部。BB弾のような小さな粒がプラスチックレジンです」
「ハワイの海はきれいで、ごみが落ちていたらみんなちゃんと拾います」
——サーフトリップや試合などで海外に行かれることも多いかと思いますが、国によって海のきれいさにも違いはありますか?
いろんな国の海に行った中で一番きれいだと感じたのはハワイです。まず海の色がすごくきれいだし、海のなかに生き物がいっぱいいるのがサーフィンをしていてもわかるんです。きれいな海でのサーフィンはすごく楽しいし、海にごみが浮いていることなんて滅多になく、浜になんか一個も落ちてないし。ハワイにももちろん抱えている環境問題はいろいろあると思いますが、海のきれいさという点ではすごいなと思っています。
きれいな場所にはごみ箱が置いてある、ということに最近気づいたんです。捨てる場所がちゃんと設置されている、逆に本当にきれいだから捨てたくならない、ごみが落ちていたら拾いたくなるビーチが、きれいなビーチなのかなと思います。逆にインドネシアなどに行くと、浜にも海にもすごくたくさんのごみが落ちていたり浮いている印象があります。
今年の6月にインドネシアに行ってきたのですが、いつも空港に着いてから宿まで車で送迎をしてもらうんです。場所によっては6時間かけてドライブしてもらった島もありました。そのときのドライバーさんが運転しながらお菓子を食べていて、私たちはそのお菓子に蟻がいるのに気づいたんです。それでドライバーさんに「蟻いるよ!」と言ったら、彼はプラスチックのお菓子の袋を窓からそのまま外に捨てたんですよ、なんの悪気もなくポーイという感じで。たぶん、どこにでも捨てていいでしょ、という感覚だったんだと思います。その光景を見てカルチャーショックを受けました。
——そのドライバーさんを責めたいわけではなく、ですよね。
もちろんです。やっぱり育った環境の影響が大きいのかなと思います。またこれもインドネシアの話ですが、3〜4年前にスンバワ島という島にサーフトリップで行ったとき、空港からサーフポイントに移動するまでの景色がものすごく殺風景で、熱帯雨林のイメージのアジアな場所に来たはずなのに、なんだか寂しいなと思っていたら、「あ、山に木がない」と気づいて。移動中、山並みがずーっと続いていたのに全部はげ山になっていたんですね。それを見てすごくショックを受けて。
森が伐採されていてやばい、ということは情報として知っていたけれど、目で見て感じたことはそれまでなかったんです。日本でも、自分の住んでいる場所の周りは緑がいっぱいなので森林の伐採問題について実感はなかったけれど、はげ山を目の当たりにして、そのひどさに悲しくなりました。
そのとき地元の友達と山登りをしたんです。山の奥に滝があって、その滝つぼにジャンプしたら絶対楽しいから! と誘われて。「天気がやばそうだけど、まあ大丈夫だよ」と言ってはいたものの、結局土砂降りになって、雷や雨で結構すごかったんですよ。そのとき木がなにもない山を登っていたので歩いてきた場所が川のようにになっていました。木は全部椅子のように小さくなってしまっていたんです。「これは絶対街にも被害が出ているだろうな」と思いながら下まで降りていったら、案の定ふもとの街が雨水で冠水していました。
そういう経験から、森林伐採問題が命に関わることを肌で感じたりもしました。いろいろな場所にサーフトリップに行くと感じることがたくさんあります。
都築さんが拠点としている愛知県田原市はアカウミガメの産卵地であり、貴重な産卵場所を守らないと絶滅してしまう恐れがあるという。
——ウミガメの保護活動についても教えていただけますか?
地元の愛知県田原市にあかばね塾という環境保護活動をしている団体さんがいて、その方々と一緒に活動させてもらっているひとつがウミガメ保護です。
団体のグループLINEがあって、例えば「どこどこで産卵した」という情報を誰かが入れたら、別の誰かが毎日散歩しながら卵が食べられてないかチェックをしたり。産卵時期に遅れてしまった卵を採って水族館でケアしてもらうこともあります。そのほか、地元の小学生たちとウミガメについての授業を行ったりしています。
ウミガメは無精卵を産卵することも。「無精卵を水族館に持って行って調査や研究をしてもらいます。そのため卵の向きをできるだけ変えず、数を数えながらケースに入れているところです」
自分も学びながら、あかばね塾さんと一緒に活動している感じです。みなさん田原の海を昔からよく知っている大先輩の方々なので、海についてたくさんのことを教えてくれます。
——他にはどんな活動をされているのでしょうか?
あかばね塾ではビーチクリーンも定期的に行っているのですが、あるときは砂浜に10平方メートルのエリアをつくって、そのなかにあるごみを全部拾うという調査に参加しました。マイクロプラスチックも何もかも拾い、それらを全部数えました。例えば漁具は何個とかレジンは何個だったとか、数を書くんです。とくにマイクロプラスチックは数えるのが本当に大変でした。
基本的にいまはサーフィンが中心の生活で、サーフィンに影響が出るほどの活動はできないため、できる範囲でいいバランスでお手伝いをさせてもらっています。あかばね塾さんは河原で地元の子どもたちと一緒に生き物の観察会などもやっているので、これからはそういう活動にも参加していけたらいいなと思っています。
あかばね塾のビーチクリーンに参加中。ちょっと流木をどけるだけでもプラスチックがたくさん隠れているそう。
「マイボトルやエコバッグを使う、地元産の食材を買う、ごみ拾いに参加するなど、小さくても自分にやれることをやるしかないのかなって思います」
——問題を知れば知るほど、その大きさに対して無力感を感じることはありませんか?
自分のいまの力ではなんともできない歯痒さというのは感じますね。例えばごみ拾いをしていると、「ほんとにやる意味あるのかな?」と思うくらい、たくさんのごみが落ちているので。ただ、先日ELEMINISTさんからサステナブルに関する世界の取り組みなどについてのラーニングを受ける機会があったんです。それを通して「小さいことだけど、“自分の目の前のできることをやる”ことは大切なんだな」と改めて感じました。
問題を突き詰めていくと、自分のいまある生活も、なんだか悪いことをしているような気がしてきますが……、そこはうまくバランスを取りながら生きていけたらいいなと思います。最近は自分で車を持って、一人で遠征に行くことも多くなり、遠征先でスーパーへ買い出しに行ったりするようになりました。そういうときは地元の野菜やお肉を買うようにしています。
「家からマイボトルに飲み物を入れていくことはお金に余裕がなくてもできることのひとつなので、どんな人にもおすすめです」
——獲得賞金の一部を環境団体に寄付されていると聞きました。
自分がプロサーファーになったらやりたいことのひとつが、活動の一部を寄付するということでした。スポンサーさんからも協賛金をいただいているので、それではなくて、自分が大会に出て勝ったことで獲得した年間賞金の約1%をプロサーファー1年目の高校1年生から寄付しています。自分の実力や成績が上がっていくごとに寄付できる金額もどんどん上がっていくので、それがひとつのモチベーションにもなっていますし、自分の夢は世界チャンピオンになることなので、その頃には賞金も高額なはず。たくさんの恩返しを地球にできる日を目標にもしています。
JPSAの海洋環境保全活動のプロジェクトであるReWaveのアンバサダーとしても声をかけていただいたので、一緒に活動を広げていけたらいいなと思っています。ReWaveの活動としては、大会会場でのごみ拾いはもちろん、マイボトルを選手のみなさんに配っていただいています。いままでは選手がゼッケンを着替える場所に紙コップがたくさん置いてあったのですが、それをマイボトルで飲めるようになりました。
「環境に配慮することが特別なことではなく、自然体でヘルシーに生きているかっこいい大人に、小さい頃から憧れていました」
——周りへの伝え方も難しいですよね。ともすればお説教ぽくなってしまったり……
わかります。小学生の夏休みに作文の宿題が出て、いくつかあるなかから自分でテーマを選んで文章を書くことになったんです。テーマのひとつに環境問題もあって、自分が一番書きやすいテーマはやっぱり環境問題なので、それを選んで書いたのですが、お母さんに見せたら、「虹帆怒ってるの? すっごい説教みたいになってるよ」と言われてしまい(笑)。自分の気持ちと伝え方の狭間っていうのはありますよね。
子どもの頃から両親と一緒に環境問題について考えるワークショップにたくさん参加し、環境問題がテーマの映画も時間があると観に行っていました。そういうイベントに参加していると、「楽しく地球にいいことをしよう」と思えて、その影響はいまの自分にとってもすごく大きいと思います。
親も選手で海中心の生活をしてきたこともあり、国内外いろいろな土地へ出かけました。そんな暮らしの中で、”自然に感謝し自然に生きることを大切に”という考えが暮らしの軸になっていったので、親を含めた周りの環境には大きな影響を受けていると思います。また、親だけでなく、周りの大人である知人友人もやはりそんな方ばかりで、いまになって振り返っても、いろんな意味で尊敬できる方ばかりだなと思います。しかも無理をした環境活動をしているのではなく、”楽しく地球にいいことをしよう”というような。自分にとって、それらの影響はとても大きいと思います。
ペイジ・アームズという世界でスーパートップのビッグウェーブライダーの選手がいるのですが、彼女は地元の学校で、環境問題を交えながら「夢を持とう」みたいな講演をしたり、自分の母校にウォーターサーバーと水筒をプレゼントしたりしていて。そういうプロサーファーはかっこいいなと憧れています。
「2020年からROXYにサポートしていただいています。これからはROXYともサステナブルな取り組みをしていけたらいいなと思っています」
——最後に、これから取り組みたいことはありますか?
いまはROXYにサポートをしていただいています。ROXYもサステナブルな取り組みをたくさんやっているので、これからはROXYとも一緒に活動を広げていけたらいいなと思います。
私もエシカル・サステナブルな活動についてはまだ知らないことも多いので、言えることはすごく少ないのですが、みんなで一緒に地球を守りながら、「ハッピーに地球と生きていく」という輪が広がっていってほしいと思っています。いまはまだ見て感じることしかできていないのですが、だんだんと、もう一歩広がった活動ができないかなと、日々模索しています。
都築虹帆 選手/プロサーファー。ReWaveアンバサダー。2003年生まれ、愛知県常滑市出身。星槎大学共生科学部在学中。幼少期からアクティブで、BMXやスケートボード、バスケットボール、フラダンスなどに打ち込む。小学6年生の頃に本格的にサーフィンを始め、さまざまな試合で入賞を飾る。中学3年生の時に太平洋ロングビーチのある田原市に拠点を構え、その約半年後には日本プロサーフィン連盟(JPSA)のプロテストに合格。日本サーフィン連盟強化指定選手、愛知県強化指定選手。
Instagram:@nanaho_tsuzuki
公式ウェブサイト:https://watergrainbow.wixsite.com/prosurfer-nanaho
写真提供/都築虹帆、ReWave 取材・執筆・編集/堂坂由香
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