「クールな選択をする人を増やしたい」 ベイカー恵利沙さんに聞いたエシカルライフのはじめ方

ベイカー恵利沙さん
ELEMINIST TALK 気になるあの人に聞いたエシカルライフ

エシカルでサステナブルなライフスタイルを送る人に、一歩を踏み出すヒントを紹介していただくインタビュー連載企画「ELEMNIST TALK」。1回目はモデルや執筆活動、ブランドとのコラボレーションなど幅広く活躍されているベイカー恵利沙さんに、ニューヨークからお話を伺いました。

堂坂由香

エディター

慶應義塾大学文学部卒業後、宝島社、世界文化社にて女性誌の雑誌編集者として紙媒体の編集に携わる。制作会社を経て2021年独立。コロナ禍でのライフスタイルの変化により、エシカル、サステナブル…

2022.04.13

現在はニューヨーク州のアップステートで暮らすベイカー恵利沙さん。インスタグラムではファッションだけでなく、サステナブルなライフスタイルについても発信されています。まずはエシカルやサステナブルに興味を持ったきっかけから聞いてみました。

はじまりはフェアトレードとの出会いから

ファーマーズマーケットを背景にしたベイカー恵利沙さん

Photo by Elisa Baker

日々の食材の買い出しのために定期的に訪れるファームスタンドやマーケットは、恵利沙さんにとってのパワースポット。

——エシカル、サステナブルというテーマに興味を持ち始めたのはいつ頃からですか?

きっかけはいくつかあるのですが、大学生のときにフェアトレードを日本に広める活動をするサークルに入ったことが、そういった活動に触れるようになったスタート地点かなと思っています。

その頃はただなんとなくぼんやりと「社会貢献がしたい」という思いがあって、自分にできることはなんだろう? と考えたときに、入学した早稲田大学にWAVOCというさまざまなボランティアの活動やサークルを取りまとめている団体があったので、ひとまず合同説明会に行ってみたんです。そのときに初めてフェアトレードの団体に出会いました。

——さまざまな社会貢献の形がある中で、フェアトレードを選んだのはどんな理由があったのでしょうか?

その説明会でいろいろな形の社会貢献の仕方があるということを知りました。例えばインドに行って学校を建てるなど、現地に行って直接体を動かすようなタイプの活動もたくさん紹介されていました。ただ当時の私は他にもやりたいことがたくさんあったので、もう少しハードルが低く、いますぐ始められて他のことと並行できる形の取り組みを探していて。

そういう意味で、フェアトレードはすでに自分が行なっている消費活動の中の選択肢なので、生活に取り入れやすくていまの自分にぴったりだなと思って。それまで自分が買った製品の裏側にいる生産者の方々のことを考えたことがほとんどなかったので、フェアトレードというものをそこで初めてちゃんと知ることで、結構ショックを受けました。

ただこうやって、“自分が選ぶものを変える”という行為で社会貢献活動に参加できる形があるんだと知り、大学生活の4年間はどっぷりとハマって活動をしていました。

大学内で“フェアトレードファッションショー”を開催

ヴィンテージショップにいるベイカー恵利沙さん

Photo by Elisa Baker

学生時代からずっと大好きなファッション。「“なんとなくものを買う”ということがほとんどなくなったので、持ち物の多くにはそれぞれエピソードがあリます」

——フェアトレードのサークル活動のなかでも、とくに思い出深いできごとはありますか?

実はキャンパス内の大隈記念講堂で、フェアトレードの服のファッションショーをやったんです。前例がないことだったので、大学からは集客数など、すごく高いハードルをいくつも与えられて。講堂内では利益を出してはいけなかったので協賛を募ることもできず、参加者全員が完全にボランティアという形でした。

そんな逆風の中での開催だったのですが、なんとモデルの冨永愛さんが歩いてくださったんです! ヘアメイクは松浦美穂さんが代表を務めるTWIGGY.のチームが入ってくださって。またトークショーにはゲストとしてファッションジャーナリストの生駒芳子さんにご出演いただきました。

私たちはファッションショーの経験もない学生で、まだ歴史の浅い団体だったので、そんな団体からの依頼はおそらく不安も大きかったと思うのですが、みなさん理念に共感してくださって。いまでもずっと感謝をしています。

——それは本当に、学生のパワーだからこそできることですね……!

そうなんです。学生のときって大人になったらできないこと、無知であるからこそ無茶なことをできるパワーがあると思うので、コロナ禍のいまはなかなか自由に活動ができない部分も大きいとは思うのですが、学生の方たちにはぜひ、そのときしかできないことに挑戦してほしいなと思います。

——ファッションショーという形を取ったのはどういった目的があったのでしょうか?

これはいま私がやっていることにつながる部分でもあるのですが、ファッションショーを企画したのは、いわゆる普通の人を巻き込みたいと思っていたからなんです。いまでこそ当時よりは開かれているとは思うのですが、私が大学生だった15年ほど前は、社会貢献っていまよりもっと間口が狭くて、何かしたい! と興味を持って団体の門を叩いた私ですら、敷居が高い雰囲気を感じていました。

ただ、フェアトレードは日常に選択肢が増えれば増えるほど全体の循環がよくなるシステムなので、ふだんサステナブルとか社会貢献に接点がない人を取り込んでいった方が絶対いいと思っていて。

例えば大学生のイベントで、「フェアトレードのイベントやります!」と言うのと、「ファッションショーやります!」と言うのだと、全然別の層が集まるだろうなと思って。幅広い人たちの関心を集められるのがファッションであり、フェアトレードなんじゃないかと考えて、より多くの人に興味を持ってもらうためにファッションショーをやりたかったんです。

気軽な気持ちでファッションショーに来た人にも、フェアトレードや持続可能な未来といったテーマに少しでも興味を持ってもらいたかったので二部構成にしました。一部はフェアトレードのブランドの服を着たモデルさんや学生の子たちに歩いてもらい、二部の方は生駒芳子さん、冨永愛さんと、私が所属していたフェアトレード団体の代表3名によるトークショー形式にしました。

こんなふうに大学生のときはそういった活動にどっぷりと浸かっていたのですが、その後は自分のキャリアを築くことに一生懸命で、社会に出てからはサステナブルや社会貢献についてはずっと頭から離れていたんです。

ニューヨークでの生活がサステナブルへの興味を思い出させてくれた

ニューヨークの街でワンピースを着たベイカー恵利沙さん

Photo by Elisa Baker

「ニューヨークで暮らしていると、消費者に大きなパワーがあるので、自分たちが社会を変えていけるんじゃないかという感覚を強く感じられます」

——そこからまた、どんなことがきっかけで現在のようなライフスタイルにシフトしていかれたのでしょうか?

ニューヨークに来たのをきっかけに、だんだんと思い出してきたという感じです。こっちではアクティビストの人も周りに多いですし、暮らしのなかにそういう選択肢が多い環境なので、「そうだ私、こういう暮らしとかこういう活動にあの頃あんなに興味があったのに、忘れて生きてきたな」ということを少しずつ思い出していったんです。

それからきっかけというのであれば、2019年のオーストラリアの森林火災が自分にとってはすごくショックなできごとで、亡くなった動物や人の数、失った土地とそれが環境に与えるインパクトの大きさなどが、自分の周りでとても大きなニュースになっていて、どうしてこれが起きたのかについて、自分なりに調べ始めました。

調べていくうちに、人間の活動がいろいろと関係していたんだなということがわかり、そのことを自分が知らなかったこと自体にもショックを受けて、そこからもっと具体的なアクションを起こしていくようになったんです。

家の中のエリアをひとつ決めて、改造していくのが楽しい

ベイカー恵利沙さんの自宅のキッチン

Photo by Elisa Baker

キッチンはシングルユースでプラスチックのアイテムが溢れやすい場所。「いままで使っていたものがなくなるタイミングで少しずつ変化させていくのがおすすめです」

——行動を起こしたくても、どこから手をつけていいんだろう? とあたふたしてしまう人もいると思います。恵利沙さんは具体的にどんなことから始められましたか?

私がしたことですごく楽しかったのは、家の中でどこかエリアを決めて、そこを改造していくことです。私はキッチンから始めました。まず基本的なモットーとして、シングルユースのものをなるべく減らすことと、プラスチックのものをなるべく減らすことを念頭に置いて少しずつ変えていきました。

キッチンって、シングルユースでプラスチックのものがすごく多い場所なんですよ。例えばラップ、ジッパー付きのプラスチックバッグ、スポンジ、洗剤、洗剤の容器など……。こんなふうに変えていける場所がたくさんあるのがキッチンなんです。

日用品がなくなったタイミングで、より良いオプションを探す

——変えようと意気込むと、一気に変えたくなってしまいそうです。

最近は見た目も可愛いサステナブルなアイテムがたくさんあるのでつい買いたくなってしまいますよね。ただ私はいまでも気をつけて、“日用品がなくなったタイミングでより良いオプションを探す”というふうにしています。サステナブルなアイテムを買いまくるのも本末転倒だと思うので。

いまの自宅のキッチンはすごく気に入っているのですが、決して一晩ででき上がったわけではなくて。「もうこのスポンジ、買い替えなきゃいけないから、プラスチックフリーのスポンジに変えよう」、「ラップがなくなったから蜜蝋ラップとかシリコンラップに変えてみよう」という感じで、どんどん買っていくのではなく、“日常のアクションを、次買うときはより良いものにする”っていうのをずっと繰り返してるんです。

だからいまだに使っているプラスチック容器もあります。決して家中のプラスチックをすべて捨てて、買い替えたわけではないんです。そのほうが日常のアクションの延長線上にあるから続けやすいのかなと思います。

——以前のキッチンといまのキッチンを比べるとどんな印象ですか?

3年くらいかけてコツコツ変えてきて思うのは、3年前のキッチンよりいまのキッチンの方が見た目的にもすてきなんですよ! プラスチックのラップより蜜蝋ラップの方が絶対可愛いし、スポンジも木でできているものの方が可愛いし、シリコンバッグも色がすごく可愛いし。

それと、気がつけば日用品を買い足すことがほとんどなくなりました。蜜蝋ラップは使いかたにもよりますが6ヶ月〜1年くらいは持ちますし、シリコンラップやシリコンバッグは基本的には半永久的に使えるものですし。昔だったら頻繁にスーパーに買いに行っていたものを買わなくてよくなるって、すごく気持ちのいいことなんです。

最初はお金がかかる印象があるかもしれないけれど、長い目で見たら絶対に節約にもつながると思うし、単純に日々の「あれがなくなったから買いに行かなきゃ!」がなくなるので、気持ちがいいなと感じています。

——日本のスーパーでは野菜が個包装されて売っていることがまだまだ多いのですが、ニューヨークはどうですか?

2017年に引っ越した時から、野菜がプラスチック容器に入った状態で売られているのはほとんど見たことがないです。一緒に暮らしている私のパートナーは生まれも育ちもニューヨーク州なのですが、子どもの頃から野菜がプラスチック容器に入っているのはほとんど見たことがないと言っていて、日本のスーパーの写真を見せるとびっくりしてました。

——ニューヨークのコンポスト事情についても教えてください。

はじめの2年間住んでいたブルックリンのエリアでは、コンポストもほかのごみと同じような感じで決まった曜日に道で集めてくれるんです。生ごみが出たら瓶に入れて、そのままだと腐ってしまうので冷凍しておいて、ふだんのごみ出しの日に他のごみと一緒に出しにいくのでとても楽でした。

いま住んでいるアップステートは少しコンポストのシステムが違ってファーマーズマーケットで回収してくれるので、ファーマーズマーケットに行くときに生ごみを持って行っています。

ニューヨークの大学生たちと話して感じたこと

ベイカー恵利沙さんがFITに通っていたときの写真

Photo by Elisa Baker

「大学で出会った学生たちと話をする中で、“かっこいい”の基準がどんどん変わってきていることを実感しました」

——ニューヨークで大学に通われてたと伺いました。

ニューヨークに来てから、ファッション工科大学(FIT)というファッションの大学の社会人コースに数ヶ月、働きながら通っていたんです。FITは世界中からファッション業界を目指す、いわゆるイケてる子たちが集まる大学で、そこで私はマーケティングやブランディングのクラスを受講していました。

現役生向けの授業に参加することもできて、大体周りは18〜25歳くらいまでの若い子たちだったのですが、あるときマーケティングのクラスで「何を基準に買い物をしてる?」という行動基準についてカジュアルにディスカッションする機会があって。

そのとき全員が口を揃えて、「まず、企業が環境に対してどういうインパクトを与えているかを見て、人種差別をしていないか、インクルーシブかどうかを確認して、女性に対してどういうエンパワーメントをしている会社なのかを見て、動物の権利をちゃんと守っているのかを見てから買い物をする」と言っていて、これはすごいと驚きました。

——エシカルをテーマにした授業、というわけでもないんですよね?

そうなんです。エシカルとは関係のないクラスで、ファッション業界を目指すおしゃれな子たちが「そうじゃない企業はクールじゃないから買わない、ダサい」と言っていて。インフルエンサーへの目もすごく厳しくて、そういうブランドをプロモートするインフルエンサーもクールじゃないからフォローしないと断言していて、その感じがすごくいいなって思って。

大学で出会った子たちだけじゃなくて、ニューヨークの人たちはみんな消費者としての目がすごく厳しくてパワーがあると感じています。“買い物は投票”という意識が根強くあって、日本だと意識が高い人の行動に聞こえるかもしれないのですが、こっちでは普通にみんなが当たり前にそういうことをしているんです。

ニューヨークにいると、“私たちが社会を変えていけるんじゃないか”という感覚を強く感じます。

環境に負荷をかけている、インクルーシブじゃない、人権や動物の権利を守ってないことってかっこ悪いし、ちゃんとやってるところから買うことがかっこいい。という感じが日本でも若い人を中心に広まっていくと、もっと全体に広がりやすいんじゃないかなと思います。

実際日本でも、だんだんとそういうムードになってきていますよね。厳しい視点を持ちながらも、そういう選択の方がイケてて単純にクールだっていう雰囲気がどんどん広がっていけばいいなと思います。

ベイカー恵利沙さんおすすめ いますぐできる手軽なアクション

リンゴを手に持つベイカー恵利沙さん

Photo by Elisa Baker

「気候変動やサステナブル関連のインスタアカウントをフォローし始めると、どんどん新しい世界が広がっていくと思います」

最後に、忙しい人や何から始めたらいいのかわからない人が手軽に始められるアクションについて教えていただきました。

1.気候変動やサステナブルについてのインスタや映画をチェックする

気候変動やサステナブルな生活への気づきを与えてくれるアカウントをフォローすることは、第一歩としておすすめです。

私はインスタグラムだとモデル・気候活動家の小野りりあんさんやDEPTオーナーのeriさん、国際環境NGOのグリーンピース・ジャパン、翻訳者の服部雄一郎さんのアカウントなどをフォローしています。

それから女優のTAOさんと小野りりあんさんがホストをされている「Emerald Practices-エメラルド プラクティシズ」というPodcast番組は、毎回さまざまな分野の専門家の方のお話を聞くことができてすごく勉強になります。

映画は『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』はショッキングな内容ですが、“自分が何にお金を使うか”が社会と密接に関わっているんだなということがよくわかる作品なのでおすすめです。

最近の作品だと『ドント・ルック・アップ』もおもしろかったです。何も知らずに観るとエンタメ映画に感じるかもしれませんが、少しでも環境問題に意識がある人が観たらすごく恐ろしい作品。熱心な環境活動家でもあるレオナルド・ディカプリオも出演していて、彼のインタビューも合わせて読むと、より作品への理解が深まると思います。

2.家庭で使う電力をパワーシフトする

ぜひおすすめしたいのがパワーシフト。家庭から排出されるCO2のおよそ半分は電気由来と言われていて、いままで使っていた従来の電力会社から自然エネルギーの電力を使用する会社に切り替えることで、家庭から出るCO2の大きな削減につながるんです。個人がすぐにできるアクションとしては効果がとても大きく、しかもたった一度手続きをすれば半永久的にアクションに参加できるのがいいですよね。

「パワーシフト」で検索したり、パワーシフト・キャンペーンのインスタアカウントをフォローすると詳しい切り替え方などがわかるので、ぜひチェックしてみてほしいです。

ベイカー恵利沙さんのプロフィール写真

ベイカー恵利沙/オレゴン州と千葉県育ち。モデルとして活動をはじめ、スタイリスト、ブランドとのコラボレーション、執筆など、活動の幅を広げる。ELLEgirl UNIのメンバーとしても活躍。2017年よりニューヨークに拠点を移す。現在はファッションのみならず、サステナブルなライフスタイルなどもInstagramを中心に発信している。@bakerelisa

取材・執筆・編集/堂坂由香(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2022年4月13日時点のものです。

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