Photo by Nachos
エシカルでサステナブルなライフスタイルを送る人に、一歩を踏み出すヒントを紹介していただくインタビュー連載企画「ELEMINIST TALK」。今回は日本を代表するロングボーダーとして国内外で活躍する田岡なつみ選手に、海の環境問題や日々取り組むビーチクリーンなどについて伺いました。
堂坂由香
エディター
慶應義塾大学文学部卒業後、宝島社、世界文化社にて女性誌の雑誌編集者として紙媒体の編集に携わる。制作会社を経て2021年独立。コロナ禍でのライフスタイルの変化により、エシカル、サステナブル…
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16歳でプロサーファーとしてデビューし、昨年は日本でグランドチャンピオン、世界では7位と、国内外で活躍中のロングボーダーである田岡選手。SNSではサーフィンに関する発信に加えて、ビーチクリーンやプラスチックを減らすライフスタイルなど、環境問題についても積極的に発信されている姿が印象的です。
Photo by Nachos
マイボトルやマイバッグを使うことは、田岡選手にとっては子どもの頃から当たり前だったという。
——いつ頃からエシカル・サステナブルなライフスタイルに関心を持つようになりましたか?
子どもの頃からサーフィンのために海へ通っていたので、ビーチクリーンはとても身近なことでした。また飲み物は基本的に水しか飲まないため、小学生の頃からペットボトルを買うことはほぼなく、マイボトルはいまのように流行る前からずっと使っていました。ただ、「プラスチックを減らしていかないといけない」という意識は、高校生くらいまではまだ持っていませんでした。
そういう問題意識を持つようになったきっかけは大学3年生のとき。大学のプログラムで半年間オーストラリアに留学をしました。そのときホームステイをさせてもらっていたファミリーがたまたまサーファーで、環境や健康な体づくりへの意識が高い家族だったんです。キッチンを共有で使わせてもらっていたのですが、蜜蝋ラップやパンを包む布など、当時の私は見たことのないキッチン用品がいろいろあって。はじめはそれが何かわからず、ホストファミリーに質問をすると、「なるべくプラスチックを使わない生活を心がけている」と教えてくれました。
そのホストファミリーはエコバッグ、マイボトルを使うのはもちろん当たり前で、野菜は地元のマーケットでオーガニックのものを選ぶようにし、ティッシュは古着の布を使っていました。それ以外にも庭でオーガニックのレモンを育てていたり。そういう彼らのライフスタイルを見て単純にかっこいいなと思い、日本へ帰るときにオーストラリアでエシカルなキッチン用品を買って、私も少しずつ使うようになりました。
——それはいまから7、8年前のことですよね。
そうです、当時日本では蜜蝋ラップもエコバッグも全然聞いたことがない言葉でしたね。栄養士の資格を持っている母の影響もあり、小さい頃から料理がとても好きでした。アスリートの体づくりという観点から栄養面も学び始めていた自分にとって一番身近なものはキッチン用品だったので、まずは毎日使っているキッチン用品から変えていくことにしたんです。
もちろんまだ使えるものを捨ててしまうのはもったいないので、買い換えるタイミングで「次、買い換えるとしたら絶対にプラスチック製品は買わない」と決めて、プラスチック素材のものを少しずつホーローやガラス、シリコン製のものに変えていきました。いまでも、ちょっと高くても長く使えるものをなるべく選ぶように心がけています。
片手で拾える分のごみを拾って帰る、ワンハンドビーチクリーンを続けている。「同じタイミングで海から上がった人が、一緒にごみを拾ってくれることも」
——日々海に入る生活の中で、どんなことを感じていますか?
毎日海に入っているのですが、ごみを見かけない日がないくらい、毎日いろんな種類のごみが落ちています。海から流れ着くものもあれば、遊びにきた人が捨ててしまったものもあり、さまざまです。
サーフトリップで新島に毎年行っているのですが、温暖化の影響で島の砂浜が減ってきているという話や、獲れる魚の種類が変わってきているという話を聞くと、どこか他人事のように感じていた環境問題が、身近にも影響が及んできていることを肌で感じます。
個人の心がけとしては、海で目についたごみを「海から上がったら片手で拾える分だけ拾って帰る」というワンハンドビーチクリーンを続けるようにしています。片手はサーフボードを持っているので、もう片方の空いている手で2、3個ささっと拾う感じです。なるべく自分の負担にもならないように、やらなきゃ、ではなく、やれるときに自分のタイミングでやっています。
——とくにどんなごみが多いですか?
プラスチックの小さい破片はたくさん落ちていますし、海の中でサーフィンをしていて足に当たることもあるくらい、ビニール袋も多いと思います。
日本の島にサーフトリップで結構行くのですが、よく行く宮古島や新島など、小さな島には衝撃的なくらいごみが落ちているんです。とくにペットボトルがとても多くて、ハングル文字や中国語のものも多い。日本のものより海外のラベルが貼ってあるごみがすごく多かったです。大きな発泡スチロールも結構ありました。それはつまり日本のごみもまた、どこかのビーチに流れ着いているということなんですよね。
地元の方に聞くと、小さい島は海流の関係でごみや漂流物が流れ込んでしまうビーチが多いそうです。いくらビーチクリーンをしても地形的にどうしてもごみが流れ着いてしまうという話を聞くと、自分が毎日しているワンハンドビーチクリーンなんてちっぽけなことなのかもしれない、と感じたりもします。
ビーチで拾ったごみの一部。プラスチックの破片はもちろん、夏は花火のごみがとても多かったという。
——そういった無力感に対して、どんなふうに考えられていますか?
活動を広めていくことでいろんな人が自分と同じような活動をしてくれるようになれば、できる量も変わってくると思います。なので私がいまできることは、「海にはこんなにごみがあるんだよ」ということをSNSを通してサーファー以外の人にも伝えて、なるべくプラスチックを選ばない選択や、海にペットボトルがこんなに落ちているという現実を伝えていきたいという思いがあります。
インスタグラムのストーリーズにビーチクリーンをしているときの様子を投稿すると、「いつもありがとうございます」というコメントがきたり(笑)。また、私がワンハンドビーチクリーンをやっている様子を見たサーファーの人がごみを拾ってくれるのを見たりすると、すごく心が温かくなります。そういった、“いいことの輪”が広がるといいなと思います。
サーファーにとって海は遊び場なので、その遊び場が汚かったら掃除したいと思うし、誰かがごみ拾いをしていたら自分も真似したいと自然と思うようになると思うんです。最近はエシカルやエコに興味のある若い世代の子たちがすごくたくさん増えてきていると感じます。今年からJPSA(一般社団法人日本プロサーフィン連盟)の海洋環境保全活動のプロジェクトであるReWaveのアンバサダーにも声をかけてもらったので、もっと知識を身につけてたくさんの人に伝えたり、アクションを起こしていけたらいいなと思います。
Photo by ReWave
「ReWaveのアンバサダーとしてビーチクリーンや、エシカル・サステナブルな知識を付けるための勉強会に参加させてもらっています。まだまだ自分も行動に移せていない部分もあるので、アンバサダーとしての活動を通していろいろアクションを起こしていけたらいいなと思います」
THE Farmer'sさんの畑で購入した野菜。「無農薬の新鮮な野菜を購入できるだけでなく、サーフィンの話やサステナブルな農業についての話も聞けるので、THE Farmer'sさんの畑を訪れることは、私にとって有意義な時間です」
——家庭菜園をされていると聞きました。
海外遠征もあるのでいろんな人に協力してもらいつつ、いまも自宅のプランターには枝豆ができています! コロナで海外に行けない時期が続き、試合スケジュールが全部なくなってしまい、しばらくは日本にいることを確認してから家庭菜園を始めました。最初はすごく気合いを入れて、大きなプランターを5個くらい買って、トマト、なす、唐辛子、バジル、青じそなど、毎日使えるような野菜を一気に植えました。
元はというと、アスリートの体づくりのための栄養学を少しずつ学んでいるときに、ある文献に出会ったんです。「いくら栄養面に気をつけていても農薬をたくさん摂っていたら本末転倒なのかも」ということに気がつき、試しに無農薬で野菜を育ててみることにしました。
完全無農薬でやってみたら本当に大変で、アブラムシなどの虫がすごくたくさん付くし、できる野菜の形もさまざま。スーパーに売られているようなツヤツヤで形の揃った野菜はそれなりに農薬を使わないとできないな、ということを実感しました。いまは地元の農家さんの直売所で野菜を買っています。農家さんの話を聞きながら旬のものを買えることは、すごく贅沢だなと思います。
——THE Farmer'sさんについても教えていただけますか?
私より先に農業に興味を持った友達とある日農業についての話をしていたら、私が活動している千葉県の一宮で、THE Farmer'sという名前で農業をやっているサーファーの人たちがいると聞いたんです。彼らのインスタを見た瞬間、この人たちに会いたい! と思い、すぐにDMで「野菜買いたいです!」とアポを取って直接畑に行きました(笑)。
THE Farmer'sさんは、畑に実際に行き、その場で野菜を収穫してもらって購入するスタイルなので、本当に新鮮な無農薬野菜を購入することができるんです。さらにメンバー全員がサーファーなので、「今日波どうだった?」といった海の話もできて楽しい。サーファーとしてきれいな海を維持するための農業を目指しているところがかっこよく、THE Farmer'sさんに出会ってさらに農業に興味を持つようになりました。
彼らはサステナブルな農業を目指していて、自分たちの出した生ごみなどをコンポストしてできた肥料を畑で使い、その畑でできた野菜を食べてその生ごみをまたコンポストして……という循環型農業の取り組みをしているそうです。
私がいつかやりたいと思っていたことをすでに実践されている先輩たちで、行くたびにいろいろな話を聞いて、農業の知識を教えてもらったりしています。最近はサーフィンの試合と仕事が忙しく、なかなか行けていないのですが、私も将来は自分の畑を持って、THE Farmer'sさんのように農業をやりたいなという思いはあります。
最近気に入っている、stasherのスタンドアップ。「飲み切れなかったアサイースムージーなどを入れています。自立するため液体の保存にも使えて、すごく便利」
——これからどんなことを発信していきたいですか?
サーフィンやロングボードの魅力をサーファーではない人にも伝えつつ、これからもサーフィンを通して海の環境問題などを伝えていきたいです。海に遊びに来る人は多いと思うのですが、例えば海にマイクロプラスチックがたくさん落ちていることを知っている人は少ない。なので、毎日海に触れている私たちサーファーだからこそ気付くことのできる情報を伝えていけたらいいなと思います。
ごみ問題だけでなく、サンゴにダメージを与える日焼け止め成分のことなども伝えていかないといけないなと感じています。2021年にハワイでは、サンゴの白化の原因となる紫外線吸収剤が含まれる日焼け止めの販売が禁止となりました(サンスクリーン法)。私が使っているブランドの日焼け止めはプロサーファーの人たちが共同開発したもので、紫外線吸収剤が入っていないノンケミカルタイプのもの。日本ではまだ紫外線吸収剤の使用に制限がないぶん、多くの日焼け止めにはサンゴに悪い成分があること自体を知らない人も多いと思うので、きちんと私たちが発信していく必要があると思います。
一人ひとりが行動に移すことによって、少しでも環境問題の改善につながればいいですよね。これからも自分にできることを行動していくとともに、得た知識や経験を発信していきたいと思います。
Photo by Nachos
田岡なつみ 選手/プロサーファー。ReWaveアンバサダー。1994年生まれ、千葉県出身。16歳でプロデビュー。2017年、18年、21年、JPSA(日本プロサーフィン連盟)、ロングボード女子でグランドチャンピオンを獲得、3度の日本一に。2021年、世界組織であるWSL(ワールドサーフリーグ)で総合7位に輝き、2022シーズンのシード権を獲得。ReWaveのほか、海の環境保護団体サーフライダーファウンデーションのアンバサダーも務める。
Instagram:@natsumi_taoka
写真提供/Nachos、田岡なつみ、ReWave 取材・執筆・編集/堂坂由香
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