アニマルウェルフェアとは、「動物福祉」を意味する言葉だ。動物に配慮した飼育や、アニマルウェルフェアを支える「5つの自由」について紹介しよう。さらにアニマルウェルフェアが求められる背景や日本の現状について考えよう。
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「アニマルウェルフェア(Animal Welfare)」という言葉を聞いたことはあるだろうか。
日本語では「動物福祉」「家畜福祉」と訳されるこの言葉。感受性を持つ生き物として家畜をとらえ、快適な環境のなかでストレスを減らし、人も動物も幸せな関係を結ぼうという飼育方法。
1960年代、英国で家畜をモノ、工業的に扱うことを批判した著書『アニマル・マシーン』が大きな関心を呼ぶなど、欧州では広く知られている考え方だ。
近年、アニマルウェルフェアが求められるようになってきたことに、SDGsの浸透があるだろう。SDGsの17の目標のなかには、アニマルウェルフェアにつながるものがいくつかある。
例えば、目標12の「つくる責任・つかう責任」。持続可能な消費・生産形態を確実にするために、エシカルな消費が求められ、家畜にストレスを与えず育てていくことも求められる。
また昨今注目が高まるESG投資の観点からも、企業はアニマルウェルフェアに配慮するよう社会的に求められてきていると言えるだろう。
アニマルウェルフェアを知るうえで、重要な言葉に「5つの自由」がある。
これは、英国政府が立ち上げた委員会で、すべての家畜に「立つ」「寝る」「向きを変える」「身づくろいする」「手足を伸ばす」といった自由を与えることを提唱がもとになっている。
そこから、動物に必要な配慮をまとめたものが「5つの自由」というわけだ。
・飢えや渇きからの自由
・不快からの自由
・痛み、外傷や病気からの自由
・本来の行動する自由
・恐怖や苦痛からの自由
「5つの自由」は当たり前のように見える。
しかしながら日本の畜産では、これらの自由が満たされていないケースがまだまだ多い。
たとえば、牛はどうか。飼育しやすいよう角を除去され、管理しやすいように始終つながれて飼育される。そのため、運動不足や日照不足などにおちいってしまい、関節炎や股関節脱臼を発症してしまう。不適切な栄養状態で蹄病にかかることもある。
豚の場合は、より悲惨と感じるかもしれない。子豚を産むための母豚は、「妊娠ストール(ストール)」という檻のような施設で拘束され続けるという。母豚にかぎらず、人が扱いやすいようにという理由で、歯や尾を切断したり、去勢されていることも知っておくべきだろう。
養鶏を連想するとき、大きな鶏小屋(バタリーケージ)にずらりと並べられた画を浮かべる人もいるだろう。過密な状態でいまも飼育されてるため、仲間同士が互いをつつき合わないよう、くちばしを切断する処置が行われるというから非常にショッキングだ。
さらに、気絶させないで生きたまま熱湯で処理されたり、短期間で出荷するために過度に太らされたりすることもあるのだという。
農林水産省の資料によると、日本では採卵鶏の飼養形態のうち94.1%がケージ飼い(バタリーケージ・エンリッチドケージ)だ。一方、フランスのケージ飼いの割合は47%、ドイツは5%だ。
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人が扱いやすいという身勝手な理由で、動物を工業的に飼育することは、倫理に反すると同時に、人体への悪影響として跳ね返ってくる。
ストレスで健康を害することは、いまや常識だが、それは人に限ったことではない。ストレスフルな環境で育てられた動物は、抵抗力が落ち、心身の病気にかかりやすくなる。
病気を予防するため、ワクチンを接種させ、えさなどに抗生物質を混ぜるなどして投与する。結果、食物連鎖の常として、摂取する人間の安全性も脅かされてしまう。
また、薬剤投与を続けると、薬剤耐性菌を発生させることにもつながるのだ。
アニマルウェルフェアがいいことだとわかっても、ついつい安価で容易に手に入る食材に手を伸ばしたくなる。アニマルウェルフェアのメリットをいま一度整理してみよう。
先に述べたように、ストレスなく育った動物は健康だ。そのいのちをいただく私たちの体にとっても、当然ながら健康的である。添加物を気にしたり、オーガニック食材を選ぶように、「アニマルウェルフェア」を選びたい。
薬剤を用いた飼育は、動物にはもちろん、飼育する人にもきっと影響を及ぼすだろう。
また、抗菌耐性菌のリスクも考えたい。「アニマルウェルフェア」は畜産農家にもやさしい飼育方法だ。
それに、本来育つべき環境で伸び伸びと育つ姿を想像すると気持ちがいいではないか。食の安全の観点からも、飼育される動物の幸せという視点からも「アニマルウェルフェア」は考慮するメリットが十分にあるとわかるだろう。
倫理的な観点、そして健康のためにもいいことがある「アニマルウェルフェア」。いま、世界中で広がりを見せている。
なかでも先進的なのは、ヨーロッパだ。1997年、欧州ではEUの憲法にあたるアムステルダム条約のなかで、アニマルウェルフェアに関して法的拘束力を持った議定書が盛り込まれた。
これによって「放し飼い」「ケージフリー」「妊娠ストール(ストール)フリー」「つなぎ飼いフリー」が進んだ。
2018年の段階で、「妊娠ストール(ストール)フリー」がEUやオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、米国10州で禁止、または段階的に廃止に向かっているという(※1)
欧米では、動物保護団体などが積極的に「アニマルウェルフェア」認証制度を創設。「英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)」や、オランダの「ベター・レーベン」などがつとに知られる。
これら制度の認証を受けた製品は、大手スーパーで売り上げを伸ばし、商業的にも成功を収めている(※2)。
東アジアの諸国でも、アニマルウェルフェアは浸透してきているようだ。
中国ではここ数年、動物福祉への移行が進んでいる。「Compassion in World Farming Food Business」から85社の畜産企業が動物福祉と健康について賞が贈られた。
韓国は、2017年に養鶏場の卵から殺虫成分が検出されたことを問題視し、動物福祉にかなった飼育への変更を発表した。2018年には、韓国で最大手の鶏卵販売企業の1つが、2028年までに「ケージフリー」への移行を発表し、話題を集めた。(※3)
台湾では、2008年に動物保護法に基づき、「家禽と家畜を人道的に屠殺する準則」が制定。アニマルウェルフェアへの法的な枠組みづくりが進んでいる(※4)
動物の毛、革は、高級ファッションの代名詞的な存在だった。しかしアニマルウェルフェアの観点から、動物由来ではない代替品を開発する動きが盛んになってきている。
これまでペットショップで販売された犬や猫などの動物について、その販売を禁止する動きが世界中で出てきている。衝動買いを抑制し、責任を持って動物の命を守ろうという取り組みだ。
イルカやシャチなどの鯨類によるショーは、動物にとって残酷な行為であるとし、そのようなショーを廃止する動きもある。
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欧米諸国におくれを取っていたものの、世界的な流れを受け、アニマルウェルフェアは日本でも急速に広がり始めている。
農林水産省は、「アニマルウェルフェアの考え方」をまとめ、意見交換会を開くなど、その取り組みを広めようと試みを進めている。
多種多様な企業が「ケージフリー宣言」しており、すでにケージフリーを実現しているところも多い。
すでに「ケージフリー」へ移行を済ませている企業の一部
・エグー(外食)
・エッグレストラン東京(外食)
・コスタビスタ沖縄ホテル&スパ(ホテル)
・こだわりや(スーパー小売)
・パパカルド(外食)など
その他、宣言した企業を一覧で見られる(※5)
食以外でも、「アニマルウェルフェア」に配慮し、動物を利用しない動きは盛んだ。
その大きな流れのひとつが、ファッション業界。ハイエンドなブランド「ステラ・マッカートニー」を筆頭に、アニマルフリーを打ち出しているファッションブランドは多い。
フェイクファーやフェイクレザーは、もはやファッションアイテムとして定着した感がある。
近年は、不当に飼育された動物からつくられたウールや、ダウン、カシミアなどを使用しない企業も出現。よりアニマルウェルフェアへの意識が広がっている。
「アニマルウェルフェア」とは、私たち人間が動物を利用するうえで、尊重しなければいけないルール。いのちをいただく私たちは、動物たちが本来生きるための行動や習性、生態を守っていく倫理的な務めがある。
認知度が上がってきたとはいえ、欧米に比べると「アニマルウェルフェア」への理解度はまだまだ差が開いている日本。
まずは、消費者一人ひとりが、「アニマルウェルフェア」について学ぶ姿勢を持つことがとても大切だ。
アニマルウェルフェアは決して難しいことではない。地球に暮らす命を大切にすることは、気持ちがいいことだから。「アニマルウェルフェア」に配慮した商品を選ぶことは、未来を応援することにもつながる。
人も動物もよりよい環境でつながりあえる未来のために、「アニマルウェルフェア」な生活をはじめてみてはいかがだろう。
※1 アニマルライツセンター公式サイト
※2 一般社団法人「アニマルウェルフェア畜産協会」リーフレットより
※3 https://save-niwatori.jimdofree.com/%E6%B5%B7%E5%A4%96%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%B3%81/
※4 台湾 家禽と家畜を人道的に屠殺する準則(2008年9月25日公布)
※5 日本のケージフリー宣言企業一覧
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