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医療格差とは、医療機関を受診する機会や質など、医療サービスを受ける上でのさまざまな格差のことだ。発展途上国だけでなく、先進国にも医療格差は広がっている。本記事では、世界と日本の現状、原因を解説しながら、解決策を考えていく。
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医療格差とは、医療機関を受診する機会や質など、医療サービスを受ける上でのさまざまな格差のこと。発展途上国ばかりに見られる問題のようにイメージする人も多いが、発展途上国・先進国、どちらでも起きている問題である。
また医療格差は、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」にも関係する課題であるとして、解決や対策が急がれている。
実際にどのような医療格差があるのか、世界の現状を見ていこう。
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現在問題となっている医療格差のひとつが、都市部と地方の医療サービスの差である。日本を想像してもわかるように、都市部には医療機関が集中しているのに対し、地方や過疎地域ではその地域に診療所がひとつしかない、またはないことも。
実際に、厚生労働省が発表した『医療施設動態調査(令和元年5月末概数)』によると、一般診療所の数が1番多い都道府県は、東京都。次いで大阪府、神奈川県、愛知県と、大都市を有する地域が上位であった(※1)。
医療機関が身近にあっても、経済的な理由で医療を受けられない場合もあり、このケースは先進国でも見受けられる。
日本では、すべての人が公的医療保険に加入し、全員が保険料を支払うことでお互いの負担を軽減する制度「公的皆保険制度」が適用されている。これによって、入院や手術により医療費が高くなってしまう人でも、定められた負担割合で医療を受けることができている(※2)。
しかし先進国のなかには、この公的皆保険制度がない国もある。公的皆保険制度のない国のうち、医療格差が深刻といわれているのがアメリカだ。米国には、65歳以上や障害年金受給者、子どもがいるなど一定の要件を満たす低所得者にはそれぞれを対象とした公的医療保険があるが、それ以外の人々は会社の保険、または自分で民間の保険に入らなければ、高額な医療費を負担することになる(※3)。
経済的問題で民間の医療保険に加入することができない人もいる上、負担の割合や範囲は加入する保険によって異なるため医療格差が起こりやすいのだ。
2013年にワールド・ビジョンが発表した「保健医療格差ランキング」によると、医療格差の少ない国トップ10のうち9カ国がヨーロッパ諸国であるのに対し、医療格差の大きい国ワースト10のうち7カ国はサブ・サハラ地域のアフリカ諸国であった(※4)。
医療格差が起きているのは、発展途上国だけではないが、先進国と発展途上国の間には顕著な医療格差があることがわかるだろう。
発展途上国で起こる医療格差によってとくに問題になっているのが、エイズやマラリアなどの感染症蔓延や妊産婦の死亡率の高さ、子どもの死亡率の高さ、公的医療保険制度の未整備によって生まれる格差である(※5)。
なぜ医療格差は生まれてしまうのだろうか。ここでは、医療格差が生まれる原因について考えていこう。
都市部には医療機関が集中しているのに対し、地方ではその地域に診療所がひとつしかない、またはないなど、地域間の医療リソースの不均衡も医療格差が生まれる原因となっている。
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個人の所得格差や先述したアメリカの保険制度の違いように、経済的要因も医療格差が生まれる原因となっている。
医療費の自己負担が高額であることによって、必要なときに必要な医療を受けられなかったり、病気により仕事ができない状態が続くことで収入が減り、治療の継続が難しくなってしまったりするのだ。
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発展途上国では、教育水準や情報へのアクセス不足も医療格差を生む原因となっている。
教育が不十分であることによって、健康についての知識が乏しく、医療の必要性を理解できていない人々も多い。また、適切な教育を受けられないことで医師や看護師などの人材が足りていない上、患者の記録や診療データなどといった情報も不足しているのだ。
同じ国のなかでも、ジェンダーや障がいの有無、民族差別などによって医療格差が生まれている場合もある。
アメリカの報告によると、トランスジェンダーは健康保険の保有率が低く、したがって医療機関の受診率が低いという。また、受診したときの医療従事者の差別的態度やひどい扱いが、医療機関の受診からますます遠ざける結果を招いているそうだ(※6)。
ここからは、医療格差が個人や社会全体にどのような影響をおよぼすのか解説していく。
医療格差によって、必要なときに必要な医療が受けられず、症状が悪化したり重症化したりするケースも少なくない。
命の危険があるのはもちろん、寝たきりになったり、一人で生活することが難しかったり、健康寿命の短縮や生活の質の低下にもつながっていく。
医療格差によって、感染症拡大のリスクも増加する。
感染症に罹患していたとしても、医療格差によって医療機関を受診できないことで、治療も対策もできず、さらに感染症を拡大させてしまう。
また、発展途上国では医療格差によって感染症の予防接種を受けることができないため、感染症などが蔓延しやすい環境となっている。
医療格差によって、必要なときに必要な医療を受けられないことで、社会的不平等の固定化にもつながってしまう。
たとえば、病気で仕事ができない状態が続くと収入が減ってしまう。収入が減ることで、治療を続けることができなくなり、回復に時間がかかったり、仕事に復帰することが難しくなったりする。さらに、看病を続ける家族も仕事をすることが難しくなり、経済的困窮がますます進んでしまうという悪循環に陥ってしまうケースも多い。
医療格差を解決するには、どうしたらいいのだろうか。具体的な取り組みを考えていこう。
医療格差の解決のための取り組みのひとつが、物理的アクセスの改善だ。物理的アクセスとは、医療を受けられる環境があることを指し、いつでも受診できるような場所に医療施設があるように整備することが求められている。
具体的な取り組みとして、遠隔医療(テレメディスン)の活用や、医療リソースの均等分配などがおこなわれている。
遠隔医療とは、情報通信技術を活用して地理的な障壁を超えて医療サービスを提供することで、オンライン診療もこれにあたる(※7)。遠隔医療が発展することで、都市部と地方の医療サービスの差を改善することができるなど、医療格差の減少につながる。
医療格差改善のためには、経済的アクセスの改善も欠かせない。誰もが自己負担できる範囲で、適切な医療を受けられるように改善していく必要があるのだ。
そのためには、保険制度の改革や負担軽減策など、国の仕組みを変えることが求められており、医療格差を抱える各国の課題となっている。
医療格差が生まれる原因でも説明したように、医療格差と教育格差には深いつながりがある。
教育が不十分であることで、健康に関する正しい知識を得ることができないほか、病気の予防方法もわからない。そこで、誰もが医療を含む十分な教育にアクセスできるようにすることで、医療格差の改善につながっていく。
ここからは、実際に医療格差を解消するために行われている取り組み事例を紹介していく。
国境なき医師団とは、世界中のどこでも生命の危機に直面している人々に直接医療が届けられるよう、独立・中立・公平の立場で医療・人道援助活動を行っている民間医療・人道支援団体だ。
紛争や自然災害、貧困、感染症の流行など、医療が不足する地域で、外科治療や母子保健、産科医療、栄養治療など必要な医療を提供したり、予防接種率が低い地域や感染症の流行地などで予防接種を提供、また、感染予防のための衛生教育活動も行ったりしている(※8)。
すべての子どもの命と権利を守るため、もっとも支援の届きにくい子どもたちを最優先に、約190の国と地域で稼働しているユニセフ。
そんなユニセフの活動のなかでも、もっとも成果をあげてきた活動のひとつが予防接種事業だ。予防接種は、命を落としている子どもたちの数を、確実に減らせる可能性を持っており、推計200万〜300万人の子どもたちの命が、ジフテリアや破傷風、百日咳、はしかなどの命を脅かす感染症から守られているという。
ユニセフは、すべての子どもたちに予防接種を届けることが可能であると確信し、パートナーとともに課題に立ち向かっている(※9)。
フレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダーJAPANは、ラオスとカンボジアに非営利の小児病院を設立し、24時間態勢で診療を行い、医療を受けることが困難なアジアの子どもたちのために活動している。
医療活動のみならず、優秀な医療従事者を育成することにも力を注ぐなど、医療格差改善に向けて幅広い取り組みを行なっている(※10)。
認定NPO法人のジャパンハートは、「医療の届かないところに医療を届ける。」をミッションに掲げ、アジア諸国だけでなく、日本国内の僻地や離島、大規模災害の被災地など医療の届きにくい場所へ赴いて医療活動を行なっている。
医療支援はもちろんのこと、福祉・社会の仕組みを変えることや、子どもたちに安心して教育を受けさせる環境をづくりなど、さまざまな活動を行なっている団体だ(※11)。
日本は国民皆保険制度が整備されているため医療格差がないように思えるかもしれないが、 実は医療格差が存在している。ここからは、日本の医療格差の現状や、なぜ格差が生まれるのかについて解説していく。
少子高齢化が進む日本では、医療における地域格差が広がっている。
とくに離島の多くでは人手が不足し、施設や機器も十分に整っていない状況だ。さらに住民の高齢化も進み、医療ニーズは拡大の一途をたどっている。
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全国の医師数は年々増加しているにも関わらず、地方の病院では医師不足が深刻な状態となっている。これは、日本の医療が抱える医師偏在が背景にある。
医師偏在には大きく分けて「地域の偏在」と「診療科の偏在」があり、「地域の偏在」は都市部で勤務することを望む医師が多く、地方での勤務を望む医師が少ないことから起きるとされている。
また、「診療科の偏在」は、外科や救急科、産科などの24時間体制が必要な診療科において、医師の確保が難しいことから起こってしまう医師偏在である(※12)。
医療費の増大も日本の医療格差を生み出す原因となっている。
個人負担が増え、経済的余裕がない層で医療費を払えない人が増えているという。実際に、令和4年度の国民医療費は46兆6,967億円、前年度の45兆359億円に比べて1兆6,608億円、3.7%の増加となっている。
人口一人当たりの国民医療費は37万3,700円、前年度の35万8,800円に比べ1万4,900円、4.2%増加している(※13)。
日本の医療格差の現状を理解したところで、解消に向けて考えられる対策法を見ていこう。
医師不足や医師偏在といった医療格差を解消するには、医療人材の確保と育成が不可欠だ。
加えて、医師が都市部だけでなく地方での勤務を選びやすいよう、地方勤務の優遇措置などを一緒に検討していく必要があるだろう。
地域医療連携を強化することも、医療格差の解消につながると考えられている。
各医療機関が独立して医療サービスを提供し、患者を自院で完結させるのではなく、医療機関同士の競争から協力へ転換することで、医療を受ける側(患者)にとってよりいい医療サービスの提供を実現することができる。
地方における医療アクセスの改善も、医療格差を解消する上で重要である。
医療施設が少ない、またはないことに加えて、インフラの整備が行き届いていないことも課題のひとつだ。過疎が進んだ山間部などでは、病院が遠いほか、公共交通機関がないため、高齢者が通うことは難しい。
このような地域には、インフラの整備や遠隔医療設備の導入が求められている。
医師と看護師が地域を診療車で巡回し、高齢者や移動が困難な患者に対して医療サービスを提供する移動診療サービス。
この移動診療サービスを展開させることで、とくに高齢化や過疎化が進む地域での医療格差をやわらげることができる。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大をきっかけに広まった、オンライン診療。スマートフォンやタブレット、パソコンなどを使って、自宅などにいながら医師の診察や薬の処方を受けることができる診療だ。
オンライン診断の拡大によって、医療アクセスが制限された地域住民の健康維持と医療サービスの質の向上が期待されている。
医療格差は、発展途上国特有の問題のように思われがちだが、本記事で紹介したように、実は日本をはじめ先進国でも起きている問題。医療格差が生まれる背景は複雑だが、まずはどのような医療格差があり、それがなぜ起きているか知ることが大切だ。しっかりと理解することで、寄付やボランティアなど、医療を受けられない人々の力になれることが見つかる。
※1 医療施設動態調査(令和元年5月末概数)|厚生労働省
※2 公的医療保険制度をわかりやすく解説!種類や仕組みを知ろう!|太陽生命ダイレクト
※3 日本と諸外国の医療水準と医療費|日本医師会
※4 世界の「保健医療格差ランキング」発表|国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン
※5 保健|日本ユニセフ協会
※6 LGBTの人々における健康格差 プライマリ・ケア医ができること|日本プライマリ・ケア連合学会
※7 遠隔医療の魅力と課題:日本の現状と展望|オンライン診療・服薬指導の導入支援なら日本調剤
※8 寄付・募金をお考えの方へ|国境なき医師団日本
※9 予防接種|日本ユニセフ協会
※10 フレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダーJAPANとは|フレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダーJAPAN
※11 活動について|ジャパンハート JAPAN HEART
※12 医師数増加なのに医師不足?原因は? 医師偏在マップで見えたこと 不足の地域は|NHK
※13 令和4(2022)年度 国民医療費の概況(3ページ目)|厚生労働省
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