世界の保健医療充実を目指すユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)は、貧困を理由に適切な医療を受けられない人々の健康を守る理念を持つ。すべての人が必要な医療を負担可能な金額で受けられるこのプロジェクトは、継続可能な開発目標として推進されている。
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「ユニバーサルヘルスカバレッジ(Universal Health Coverage、UHC)」とは、主に発展途上国で推進されている活動である。すべての人が支払い可能な金額内において適切な医療を受けられることを目標とする。適切な医療とは予防、治療、リハビリなど、健康にかかわる項目全般にあたる。
ユニバーサルヘルスカバレッジが意味するところは健康を守ることだ。WHO(世界保健機関)は1948年の設立時、健康は基本的人権であると宣言した。適切な医療の充実は基本的人権を守るためにもすべての地域、すべての人に向けて実現されるべき目標だ。
医療サービスへの公平なアクセス、支払い可能であること、質の高い医療サービスの3つがユニバーサルヘルスカバレッジの主な内容だ。「すべての人がどこででも支払い可能な金額負担のみで適切な医療を受けられる状態」を理念に掲げている。
ことに発展途上国では先進国よりも医療費の自己負担割合が大きい。先進国の自己負担割合が平均17.9%であることに対し、発展途上国の平均は42.3%にもなってしまっている。支払い能力の不足が原因で適切な医療を受けられず、健康を損ねる人々が多い原因だ。
健康を損ねれば就労が難しくなり、収入も減少する。貧困の加速につながってしまう。ユニバーサルヘルスカバレッジでは貧困層の医療費負担を重く受け止め、保険サービスの充実を目指している。(※1)
Photo by Matheus Ferrero on Unsplash
SDGsとは「すべての人が平和で豊かな生活を営める世の中」を目指す普遍的行動である。持続可能な開発目標、またはグローバル・ゴールズと呼ばれることもある。2015年9月に開催の国連サミットで採択されたこのSDGsでは、17のゴールを設定し、2030年までの実現を目標として定めている。(※2)
内容は貧困や飢餓の撲滅、健康・福祉の充実、衛生環境整備、自然環境保護、ジェンダーにおける平等意識など、まさにすべての人の平和で豊かな生活の実現に至るためのゴール設定だ。
健康・福祉の充実に関する項目、3つめのゴールとして設定されている「すべての人に健康と福祉を」において、ユニバーサルヘルスカバレッジは大きな役割を果たすのである。
3つめのゴール実現のための方針として、SDGsは13のターゲットを打ち出している。その中の1つには「財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス、質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセス」、これらを含んだユニバーサルヘルスカバレッジを実現すると明記されている。(※3)
Photo by Martha Dominguez de Gouveia on Unsplash
日本はユニバーサルヘルスカバレッジにおいて注目を集めている。国民が当たり前のように利用している国民皆保険は、「負担可能な金額で適切な治療を受けられる」ユニバーサルヘルスカバレッジの成功例の一つなのである。また、「一県一医大」を推進したことも質の高い医療へのアクセスを実現させた要因だ。
世界的にも重要な成功体験を持つ日本は、2013年に国際保健外交戦略においてユニバーサルヘルスカバレッジを柱とする声明を発表した。国際的な保健活動を外交の重要な課題に据えたのである。(※4)
また、2016年に開催されたG7の首脳会談で、アジア・アフリカにおけるユニバーサルヘルスカバレッジ確立の推進・支援活動を行うこと、国際的議論の際には主導的な役割を果たすことを宣言した。(※5)
2017年には、実現に向けた取り組みを加速させる旨を盛り込んだ東京宣言も行っている。以降も前向きな姿勢で取り組みを続けている。2019年にはG20初となる財務・保健大臣会合を行い、ユニバーサルヘルスカバレッジへの財政強化に強く触れた「岡山保健大臣宣言」を採択している。(※6)
世界でも取り組み意識は高い。2012年12月12日、国連総会ではユニバーサルヘルスカバレッジが国際社会の共通目標として認識され、推進が議決された。(※7)
2013年には前述のSDGsの重要項目としてユニバーサルヘルスカバレッジの達成が位置づけられた。
2016年に発足した「UHC2030」は、ユニバーサルヘルスカバレッジを普及させる国際的パートナーシップである。国民皆保険をはじめとした保健医療をすべての人が受けられることを目標に精力的な活動を続けている。イベントやSNSを利用した啓発活動も盛んである。 2017年12月12日、国連で毎年12月12日をユニバーサルヘルスカバレッジ国際デーと定め、国連加盟国での教育、活動を奨励するに至った。
初の政治宣言である「UHC政治宣言」が採択されたのは2019年9月24日だ。国連加盟国は医療費負担軽減のための投資、同時に女性や子どもの健康促進を強化していく政治的選択を行うと示した。(※8)
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ユニバーサルヘルスカバレッジは実現した後の維持・運用も重要な課題となる。運用予算の確保や知識を持つ人材の育成も必要だ。
貧困を背景に持つ保健医療には課題が多い。しかし、国際的な継続取り組みにより解決を目指すことができる。今後も積極的な活動が期待されるSDGsとして注目していくべきである。
※1 平成27年度インフラシステム海外展開促進調査等事業 (アフリカ・サブサハラ地域への医療技術・サービスの海外 展開支援に係る基礎情報収集調査) 報告書|経済産業省
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000128.pdf
※2 持続可能な開発目標(SDGs)|総務省
https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/kokusai/02toukatsu01_04000212.html
※3 SDGs(持続可能な開発目標)17の目標と169のターゲット(外務省仮訳)|外務省
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/sdgs_target.html
※4 国際保健外交戦略の策定について|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press6_000224.html
※5 2018年世界保健デーのテーマは「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」です。|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158223_00002.html
※6 G20保健大臣会合|G20 2019 JAPAN OKAYAMA
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kokusai/g20/health/jp/g20_hmm_session_outcome.html
※7 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)|国際連合広報センター
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/social_development/universal_health_coverage/
※8 安倍総理大臣の「国連ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)ハイレベル会合」出席|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ghp/page4_005303.html
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