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日本は、主要先進国にくらべて食料自給率が低い。その理由や食料自給率が低いことで起こるリスク、食料自給率を上げるために私たちにできることを解説する。
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食料自給率とは、国ごとの食料供給に対する国内生産の割合を示す指標のことだ。食料自給率には種類があり、重量で計算できる「品目別自給率」と、供給熱量(カロリー)や生産額で換算する「総合食料自給率」がある。(※1)
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食料自給率は計算式を用いて算出できる。ここでは品目別自給率、総合食料自給率、食料国産率の計算方法を紹介する。
品目別自給率は、重量ベースで各品目における自給率を算出する。なお、食用以外の飼料や種子などの重量も含む。
まずは、国内消費仕向量を計算する。国内消費仕向量は、以下の計算式で算出できる。
国内消費仕向量=国内生産量+輸入量-輸出量-在庫の増加量(または+在庫の減少量)
次に、国内消費仕向量を用いて、品目別自給率を算出する。
品目別自給率=国内生産量/国内消費仕向量(※1)
総合食料自給率には、供給熱量(カロリー)ベース、生産額ベースの2種類がある。カロリーベース総合食料自給率は、国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の割合を示す指標である。生産額ベース総合食料自給率は、国民に供給される食料の生産額(食料の国内消費仕向額)に対する国内生産の割合を示す指標となっている。なお畜産物については、輸入した飼料を使って国内で生産した場合、総合食料自給率における国産には算入していない。
●カロリーベース総合食料自給率の計算方法
分子および分母の供給熱量は、「日本食品標準成分表(8訂)増補2023年」に基づき、各品目の重量を熱量(カロリー)に換算したうえで、それらを足し上げて算出する。
カロリーベース総合食料自給率(令和5年度)=1人1日当たり国産供給熱量(841kcal)/1人1日当たり供給熱量(2,203kcal)=38%
●生産額ベース総合食料自給率の計算方法
分子および分母の金額は、「生産農業所得統計」の農家庭先価格等に基づき、各品目の重量を金額に換算したうえで、それらを足し上げて算出する。
生産額ベース総合食料自給率(令和5年度)=食料の国内生産額(11.1兆円)/食料の国内消費仕向額(18.2兆円)=61%(※1)
食料国産率とは、国の食料安全保障の状況を評価する「総合食料自給率」とともに、飼料が国産か輸入かにかかわらず畜産業の活動を反映し、国内生産の状況を評価する指標である。総合食料自給率では飼料自給率を反映しているが、食料国産率では飼料自給率を反映せずに算出している。
●カロリーベース食料国産率(令和5年度)
カロリーベース食料国産率(令和5年度)=1人1日当たり国産供給熱量(1,043kcal)/1人1日当たり供給熱量(2,203kcal)=47%
●生産額ベース食料国産率(令和5年度)
生産額ベース食料国産率(令和5年度)=食料の国内生産額(12.1兆円)/食料の国内消費仕向額(18.2兆円)=67%(※1)
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日本の食料自給率の現状はどうなっているのだろうか。また、食料自給率の推移や主要先進国との比較について解説しよう。
農林水産省が発表した令和5年度の食料自給率は、カロリーベースの食料自給率が前年度並みの38%、生産額ベースの食料自給率が前年度にくらべ3ポイント上がり、61%という結果であった。
カロリーベースの食料自給率のプラス要因には、小麦の生産量増加や油脂類の消費量減少が、マイナス要因にはてん菜の糖度が低下したことによる国産原料の製糖量の減少がある。
生産額ベースの要因は、国際的な穀物価格や生産資材価格の水準が前年度より落ち着いたことや、輸入総額が前年度より減少したことが影響している。(※2)
農林水産省が発表した日本における食料自給率の推移を見てみよう。生産額ベース食料自給率は、昭和40年には86%であったが、ゆるやかな低下傾向にあり、令和5年には61%まで落ちている。カロリーベース食料自給率は、昭和40年には73%であったが、その後低下傾向が続き、2000年代に入るとおおむね横ばい傾向で推移している。(※2)
日本の食料自給率は、主要先進国とくらべると低い水準にある。各国のカロリーベース食料自給率は、オーストラリアが233%、カナダが204%、フランスが121%、アメリカが104%となっている。生産額ベース食料自給率は、オーストラリアが119%、カナダが101%、フランスが72%、アメリカが77%であった。
日本のカロリーベース食料自給率は38%、生産額ベース食料自給率は61%のため、カロリーベース、生産額ベースともに低い水準にあることがわかる。(※3)
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前述したとおり、日本は主要先進国より食料自給率が低い。その理由を解説する。
戦後の経済成長とともに、日本人の食生活は変化した。もともとは米を主食とした和食中心の食事であったが、肉や乳製品、小麦を多く摂取する西洋型の食事に移行した経緯がある。これらの食品は多くを輸入に依存しており、国内生産だけでは需要を満たせないため、食料自給率が低下したと考えられる。(※4)
日本の農業従事者は高齢化が進んでおり、後継者不足が深刻な問題となっている。これからさらに農業従事者が減っていけば、農地管理や生産量、生産力が低下し、食料自給率が減ることが考えられる。(※5)
令和4年の日本の農地面積は、432万5,000haであった。昭和36年には、608.6万haあったが、年を追うごとに減少している。(※6)農地面積が減少すれば当然食料の生産量も減り、食料自給率も低下してしまう。
業務用加工野菜や冷凍野菜は輸入品の割合が多い。また牛肉、豚肉、鶏肉といった肉類を生産する際に必要な飼料の多くは、海外からの輸入に頼っている。このように、食材を輸入に頼ることも食料自給率の低下を招く要因となっている。(※7)
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食料自給率が低いと、どのようなリスクがあるのか。
前述したとおり、食料自給率の低さは食料を輸入に依存していることを意味する。もし輸入先の国が天候不良や経済問題、紛争などで輸出制限をかけた場合、食料供給が急激に減少する可能性がある。これにより安定的な供給ができず、国内での食料価格の急騰が予想され、最悪の場合は食料不足が生じる。(※7)
食料を海外から輸入する際、為替レートの変動や輸送コストの増加が影響する。たとえば円安が進行すると輸入食料の価格が高騰し、消費者や国内企業に負担がかかる。そうすれば、食料の価格自体が急騰する可能性がある。(※7)
食料自給率が低い状況では、国内の農業が衰退しやすくなる。農業従事者の減少や農業技術の伝承の停滞、農地の荒廃を引き起こすためだ。(※7)農業が衰退すれば、輸入が困難になった場合に国内で食料を生産する能力が不足し、食料供給の回復に時間がかかるリスクがある。
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日本政府は、2020年(令和2年)に「食料・農業・農村基本計画」を策定した。そのなかで、2030年度(令和12年度)にカロリーベースで45%、生産額ベースで75%という食料自給率の目標を掲げている。
そのうえで食料自給率を上げるため、次のような取り組みを行っている。
・国産農作物を増やすため、作付けの団地化や機械の導入、保管施設の整備
・冷凍野菜や加工野菜の輸入品を国産に転換するため、安定供給に向けた生産・流通体系の構築、輸入小麦に代わる米粉製品用の米の品種開発
・農業の担い手の育成・確保やスマート農業の推進といった国内農業の生産基盤の強化(※7、※8)
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食料自給率を上げるために私たちにできることを3つ紹介する。
国産の食材を意識的に選び、摂取することで食料自給率を上げることにつながる。国産の食材のなかでも地域の特産品に目を向ければ、地産地消の取り組みにも貢献できるだろう。(※9)
国内でつくられた旬のものを食べることは、食料自給率を上げるきっかけになる。季節ごとにつくりやすい食べ物の需要が高まれば、生産者側の負担が減る。また味がいいことに加えて栄養価も高いため、健康面でもよい効果が得られるメリットもある。(※9)
近年では冷凍食品・加工食品などの摂取量が増えている。これらの原料の多くは輸入品で、需要が高まると国内で生産できる食材の需要が低くなってしまう。国内で採れる米や野菜を中心としたバランスのよい食事を心がけることで、国内生産の食べ物の需要を高めることにつながり、食料自給率アップに貢献できる。(※9)
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日本の食料自給率の低さが問題となっている。これは食生活の変化や農業従事者の高齢化、農地面積の減少、輸入への依存度の高さなど、複数の要因が複雑に絡み合っていることが要因だ。食料自給率を上げるために、政府はさまざまな取り組みを強化している。もちろん、私たちにもできることがある。食べ物や食事を見直して、食料自給率を上げることにつなげよう。
※1 食料自給率とは|農林水産省
※2 日本の食料自給率|農林水産省
※3 世界の食料自給率|農林水産省
※4 日本の食料自給率はなぜ低いままなのか|J-Stage
※5 第1節 食料自給率と食料自給力|農林水産省
※6 令和4年耕地面積(7月15日現在)|農林水産省
※7 知るから始める「食料自給率のはなし」|農林水産省
※8 食料自給率・食料自給力の維持向上に向けた取組|農林水産省
※9 FOOD ACTION NIPPONについて|FOOD ACTION NIPPON 推進本部
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