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農家の高齢化にともない問題となっているのが耕作放棄地だ。耕作放棄地が発生する原因は何なのだろうか。また耕作放棄地が引き起こす影響や国の対策、活用方法の具体例を紹介する。
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耕作放棄地とは、5年に一度行われる調査「農林業センサス」で定義されている用語だ。以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地のことを指す。
耕作放棄地が多い場所は、中山間農業地域といわれる山に近い農地だ。中山間農業地域は、山間や谷間などにある地域で、自然条件が悪く、平地にくらべると耕作放棄地の割合が高いといわれている。
耕作放棄地と似た用語に「荒廃農地」がある。荒廃農地とは、農林水産省の「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査」において、現に耕作されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地のことを指す。
両者の違いは、耕作放棄地は農家などの耕作の意思で判断するが、荒廃農地は調査員が状況を見て判断する点にある。
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耕作放棄地となる原因は複数ある。その原因を解説しよう。
農業自体の問題に、高齢化や後継者不足がある。これは、耕作放棄地が発生している大きな原因となっている。体力が必要となる農業は、高齢になると継続することが難しく、少子化により後継者も不足している。さらに農業をはじめる敷居が高く、新規参入が困難であることも課題となっている。
農林水産省が発表した「令和4年農業総産出額及び生産農業所得(全国)」によると、主食用米の需要が減少しており、令和2年以降、主食用米の取引価格が下落している。(※1)
このような生産量の減少・価格の低下は、農業により得られる利益が少なく、採算性自体が低下していることになる。採算性の低下により農業を続けることが困難になり、農業を辞めるケースも少なくない。
耕作放棄地となる原因には、鳥獣被害などの環境による影響もある。農林水産省の「野生鳥獣による農作物被害の推移(鳥獣種類別)」によると、野生鳥獣による農作物被害金額は減少傾向にあるが、まだまだ金額的には大きい。(※2)被害額が大きくなると離農を余儀なくされ、耕作放棄地となってしまう。
土地は持っているが、農業従事者ではない人が増加していることも、耕作放棄地が増えている原因といえるだろう。これは、後継者不足も影響している。
ここでは、日本と世界の耕作放棄地の現状を紹介しよう。
農林業センサスでは2020年より耕作放棄地を調査する項目が廃止されたため、荒廃農地のデータを紹介する。令和5年の全国の耕地面積(田畑計)は429万7,000haで、このうち荒廃農地は1万4,400haであった。荒廃農地は前年より400haほど増えている。(※3)
国際誌Nature Foodに掲載された論文によると、2019年の世界の農地面積は1,244 Mhaであった。(※4)耕作放棄地面積は詳しいデータは出されていない。その理由は、耕作放棄された耕地は2・3年もすれば雑木や雑草の生えた土地になり、そこが耕地だったことを調べる術がなくなってしまうからだ。
また、世界の大部分の耕地には細かな制度上の見分け方が存在しないため、現在は、定期的に人工衛星を使った識別により、耕作放棄地を探り当てる方法が主体となっている。コペンハーゲン大学(デンマーク)やドイツのライプニッツ移行経済農業開発研究所などが中心となって取組んでいる、世界の耕作放棄地とその要因の研究(「世界の耕作放棄地の軌道と進行要因の多様性の解明」2021年)によると、概ね全耕地の10%程度は耕作放棄されていると考えられている。国連食糧農業機関(FAO)によると世界の作付可能地面積は13億8700万ヘクタールとされており、その10%では1億4000万ヘクタールに達する(※5)
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耕作放棄地をそのままにしておくと、どのような影響があるのか解説する。
耕作放棄地になると、土壌の質が低下して農地として使えなくなることが多い。適切な管理をせず、一定期間土壌に手を加えないと、農地はどんどん質が悪くなり荒れ果ててしまう。放置する時間が長いほど、農地に戻す時間がかかる。
耕作放棄地は適切な管理が行われないため、雑草や病害虫が増え、鳥獣被害も発生する可能性がある。これらは耕作放棄地だけでなく、周辺の農地に悪影響を与える。
農地には、洪水を堰き止める、火災の延焼を抑えるといった機能もある。しかし適切に管理されていなければ防災機能が失われ、災害リスクを高めてしまう。
耕作放棄地は、土砂やごみの不法投棄に使われることも多い。見た目が荒れているため、抵抗なく捨ててしまうのだ。
耕作放棄地が増加すれば、自給自足率の低下を招く。意図しない水準まで自給自足率が下がると、輸入に頼らざるを得なくなり、世界情勢によっては食糧危機に陥る可能性もある。
耕作放棄地に雑草や病害虫、鳥獣被害などが発生すると、周辺農地へ悪影響がおよぶ可能性がある。これが原因で、トラブルに発展することもある。
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耕作放棄地に対する国の対策をみていこう。
政府は、耕作放棄地に対して補助金や支援を行っている。
そのひとつに「中山間地域等直接支払制度」がある。これは農業の生産条件が不利な地域での農業生産活動を継続させるため、国、または地方自治体が支援する制度だ。(※6)
また農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮を図るため、地域の共同活動を支援する「多面的機能支払交付金」や、最適土地利用対策として「農山漁村振興交付金」という支援も行っている。(※7、※8)
耕作放棄地が問題になっていることを受け、政府は改正農地法において、農地について所有権、賃借権等の権利を有する者は、適正かつ効率的な利用を確保しなければならないという責務規定を設けている。また平成29年度より、耕作放棄地である農地の固定資産税が通常農地と比較し約1.8倍かかることとなった。(※9、※10)
こうした法律の制定と改正は、農地の保全や有効利用を目的として制定され、耕作放棄地の発生を抑えて既存の耕作放棄地を再生するための枠組みとして設けられている。
2014年にすべての都道府県に設置された農地バンク(農地中間管理機構)は、農地の有効活用を目的に、耕作放棄地や利用されていない農地を一時的に預かり、農業者や新規就農者に貸し出す役割を担う機関だ。これにより農地の集約化や効率的な利用が促進され、農地の有効活用が図られる。
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現在、日本国内においてさまざまな耕作放棄地の活用の取り組みが行われている。その事例をみていこう。
耕作放棄地の活用方法のひとつに、果樹の栽培利用がある。果樹は需要が高く、比較的少ない労力でつくれるものもあるのが特徴だ。また観光農園、収穫物の加工・販売などに展開し、地域の特産物として扱っている自治体もある。福島県三春町ではブルーベリー、香川県小豆島町ではオリーブ、高知県高知市ではゆずを栽培している。(※11)
新たな特産品の栽培により、耕作放棄地の発生防止と再生利用をしている地域もある。富山県富山市では、新たな特産品としてマコモタケを栽培。京都府宮津市にある「京都宮津オリーブ」はオリーブの栽培を行い、栽培から加工、販売まで取り組んでいる。(※12、※13)
耕作放棄地の原因のひとつに、農業従事者の高齢化がある。体力が必要となる農業は、高齢になると継続が難しい。しかし比較的育てやすく手間の少ない作物を栽培することで、耕作放棄地対策を行っている事例もある。
新潟県糸魚川市、福井県あわら市、三重県伊賀市ではそばを栽培。秋田県北秋田市、岐阜県郡上市、京都府京丹後市では山菜の栽培に取り組んでいる。山菜の栽培は、軽作業で高齢者・女性にも扱いやすく、鳥獣害を受けにくいのも特徴だ。(※11)
作物の栽培以外の利用方法に、家畜の放牧がある。放牧草地として利用することで、自給飼料の確保、雑草繁茂の防止効果が期待できる。家畜の放牧利用をしている地域には、岐阜県瑞浪市、兵庫県新温泉町、広島県安芸高田市がある。(※11)
企業が耕作放棄地の再生支援を行っている事例もある。農機のトップメーカーであるクボタは、2008年より耕作放棄地の再生支援活動に取り組んでいる。具体的には、農地への復元整備(草刈り、耕うん・整地など)、作物栽培作業(播種、中間管理、収穫など)の一部に農業機械やオペレーターを提供し、農業の活性化をサポートしている。(※14)
耕作放棄地を活用し、農業に参入する企業も登場している。佐賀県佐賀市の建設業者池田建設は、耕作放棄地を整備し、ブルーベリーを栽培。のちに農園を設立し、農業に参入した。イオングループのイオンアグリ創造は耕作放棄地を借り入れ、自社店舗で販売・利用する野菜を栽培している。(※15、※16)
耕作放棄地に比較的栽培に手間がかからないひまわりを植えて、地域の活性化に役立てているところもある。この取り組みを行っている地域・団体には、愛媛県立伊予農業高校、滋賀県野洲市のみのり農園、奈良県五條市などがある。
再生可能エネルギー事業を専門に取り扱う企業であるサステナジーは、三菱HCキャピタル、大和ハウス工業とともに、耕作放棄地でソーラーシェアリング(営農型太陽光発電事業)を行っている。このソーラーシェアリングでは、太陽光発電パネルで発電しつつ、パネル下部の農地でキクラゲの栽培を行う。(※17)
新潟県にある企業の八米(HACHIBEI)では、耕作放棄地で蜜源植物を栽培し、ハチミツを生産する取り組みを行っている。(※18)
耕作放棄地問題への解決策として、ロボットやAI、IoTなどの先端技術や農業データを活用した農業であるスマート農業を取り入れる農家もいる。自動運転トラクターを使ったり、ドローンで種まきをしたりすることが、時間短縮や重労働の軽減、人材活躍の場を広げることにつながる。
都市農業とは、人口の多い都市部で行われている農業のことだ。耕作放棄地をこの都市農業への活用により、野菜や果物の地産地消、地域の食料自給率向上、雇用の創出などが期待できる。具体的な取り組みとしては、市民農園としての活用、アグリツーリズム(農業体験観光)としての観光地化、景観の確保などがある。
静岡県裾野市の特定非営利法人里山会公文名ファイブは、耕作放棄地を活用して地域のコミュニケーションづくりに取り組んでいる。耕作放棄地を再生し、水稲、ソバ、小麦などの農作物を小学生親子や市民と栽培。親子体験学習として田植えやそばの脱穀・分別・粉ひきなどを実施している。また、森林保全活動や環境学習も行っている。(※19)
耕作放棄地は放っておくと悪影響をもたらす。しかしながら、日本の少子高齢化は今後ますます進む見込みであり、それに伴う耕作放棄地の増加も避けては通れない。耕作放棄地を増やさないために、企業や農家、団体、地域コミュニティがあらゆる方法での再生利用を試みている。私たちにできることは、そういった活動を知ること、そして利用、消費で支援することだ。
※1 農業総産出額及び生産農業所得|農林水産省
※2 野生鳥獣による農作物被害の推移|農林水産省
※3 耕地面積|農林水産省
※4 農地面積は21世紀に加速度的に拡大|国際農研
※5 世界の耕作放棄地は|AERA dot.
※6 中山間地域等直接支払制度|農林水産省
※7 多面的機能支払交付金のあらまし|農林水産省
※8 農山漁村振興交付金|農林水産省
※9 耕作放棄地対策について|佐賀市
※10 遊休農地の課税の強化|農林水産省
※11 耕作放棄地への導入作物事例|農林水産省
※12 特産品の栽培による取組事例|農林水産省
※13 京都宮津オリーブについて|京都宮津オリーブ
※14 耕作放棄地再生支援|kubota
※15 企業参入による取組事例|農林水産省
※16 農場紹介|イオンアグリ創造
※17 ソーラーシェアリングを開始|大和ハウス工業
※18 受賞者紹介|環境省
※19 裾野市公文名地区|静岡県
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