カリフォルニア先住民族が土地の管理者に 失われた生態系・文化の回復・復興へ

カリフォルニアのユーロック族が管理するエリア

Photo by CalTrout/Michael Wier

国家の形成や産業開発の歴史の影で、住む土地や権利を奪われてきた先住民族は世界に数多くいる。その一つであるカリフォルニアのユーロック族は奪われた土地を取り戻し、政府機関と共同でその自然環境を守っていくことになった。

Kojiro Nishida

編集者・ライター

東京の出版社で雑誌編集に携わったのちフリーランスに。現在はイギリス北東部を拠点に活動中。ガーデニングとバードウォッチングが趣味。

2024.04.05
EARTH
編集部オリジナル

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政府機関を含めた4団体と協同で土地を管理

カリフォルニアのユーロック族が、国立公園局とともに土地を管理する世界初の先住民族に

Photo by CalTrout/Michael Wier

19世紀中頃に始まったアメリカのゴールドラッシュ。カリフォルニアエリアの人口が急増しサンフランシスコなどの都市が急速に成長した一方で、自然環境は破壊され先住民族は土地を奪われた。その一つがユーロック族だ。

彼らが代々暮らしていた土地に自生していたセコイアの木は木材として切り倒され、それらを加工するための工場も建設されるなど、ユーロック族はゴールドラッシュによって90%もの土地が奪われたという。

しかし2024年3月、ユーロック族と国立公園局、カリフォルニア州立公園、および非営利団体「Save the Redwoods League(セーブ・ザ・レッドウッズ・リーグ)」の4つの団体の間で史上初となる歴史的な合意が成立した。

「O Rew(オーリュー)」と呼ばれる125エーカーもの広大な土地を、もともとの住民であったユーロック族の管理下に戻すことを取り決めたのだ。O Rewは、レッドウッド国立公園および州立公園に位置し、木立の中を川が海に向かって蛇行するように流れている場所で、ユーロック族が古来より村を形成し鮭の捕獲などを行っていた土地だった。

4団体の代表者

Photo by Evan-Marie Petit

2024年3月19日に行われた、4団体による署名式。

O Rewはゴールドラッシュ時の森林伐採と木材化工場の建設などにより、生態系も文化の面でも破壊されてきたが、2013年にセーブ・ザ・レッドウッズ・リーグが125エーカーの土地を購入。それ以降ユーロック族に還すことを目指してきた。

土地の権利を移すだけでなく、ダメージを受けた生態系を再活性化させ、伝統的なユーロック族の村やハイキングコースを整備。レッドウッド国立公園および州立公園への入口として一般の人もアクセスできるようになる予定だという。

先住民族が直面する問題の解決を目指す「先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)」

国際連合ジュネーブ事務局

Photo by Mathias Reding on Unsplash

資源開発や植民地支配、政治的な排除、文化の違いによる抑圧などが背景となった、先住民族の土地や権利をめぐる議論があるのはアメリカだけではない。いまも世界各地で多くの民族がこの問題に直面しており、国際社会ではそれに対処するための取り組みが続けられている。代表的なものは2007年に国連が採択した「先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)」だ。

この宣言は先住民族の文化、アイデンティティ、言語、土地、自己決定権などの権利を認めるもので、彼らが直面する差別や不平等を是正し、その権利を保護・促進することを目的としている。

この宣言の実施は各国の政府に依存しており、実際に先住民族の権利が完全に尊重されているわけではないが、土地や領土をめぐる紛争や、文化的な権利の保護に関する政策やプログラムの開発において広く活用されている。

若木を見つめるユーロック族の二人

Photo by Evan-Marie Petit

「O Rew」に植えられた若木を見つめるユーロック族のロージー・クレイバーン氏(左)と議長のジョセフ・L・ジェームス氏(右)。

ユーロック族の文化資源ディレクターであるロージー・クレイバーン氏は125エーカーもの土地を取り戻したことについて、「ユーロック族の純粋な意志と粘り強さを示すものだ」と述べたうえで、「この土地の元の管理者として、私たちはレッドウッド国立・州立公園とともにこの土地を管理していくことを楽しみにしている」と続けた。

世界中で先住民族が直面している問題は、単なる土地や資源の問題ではなく、人類の文化遺産、生物多様性、そして地球の未来に関わる重要なものだ。自然豊かな場所で、その土地の風土に適した暮らしを営んできた彼らの知恵や伝統を守り維持することは、これからの持続可能な開発や環境の保護に不可欠ではないだろうか。

※掲載している情報は、2024年4月5日時点のものです。

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