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SDGsや6次産業との関連性から、注目度が増している「地産地消」。その特徴やメリット・デメリットを解説する。日本は地産地消で成功を収める地域も少なくない。3つの成功事例から、今後の新たな消費の形を探ってみよう。
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地産地消とは何か、わかりやすく説明するなら「地元で生産されたものを地元で消費すること」である。日本で地産地消という言葉が使われ始めたのは、1980年代のことだと言われている。農産物の自給率の低さが課題として取りあげられるようになり、「国内地域でつくられた農林水産物を、その地域内で消費することを推進しよう」という動きが活性化したのだ。
2010年には、「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等および地域の農林水産物の利用促進に関する法律」が制定された。いわゆる、6次産業化・地産地消法である。生産者と消費者の結びつきの強化、農林漁業や関連事業による地域の活性化、豊かな食生活の実現などを目的とし、必要な支援を実施するための法律であった。(※1)
そのあともさまざまな法律が整備され、地域の農林水産物を消費する仕組みが整えられていく。2016年には第3次食育推進基本計画を策定。簡単に言えば、学校給食における地場産物の使用割合を増やすための計画である。(※2)
地産地消という言葉が使われるようになってから、40年程度が経過した。国や自治体が一体となってさまざまな取り組みを続けた結果、我々一般市民にとっても非常に身近な言葉になったと言えるだろう。近年では、小学校の「食育」の授業でも積極的に扱われるテーマの一つだ。
ちなみに、地産地消という言葉を英語で伝えるなら、「local production for local consumption」という表現が近いだろう。「地元で生産された農林水産物を地元で消費する」という意味である。
地産地消は、近年注目されるSDGs(持続可能な開発目標)との関連性も深い。17のゴールと169のターゲットを掲げ、地球上の誰一人取り残さない取り組みを誓うSDGs。地域で獲れた農林水産物をその地域内で消費する取り組みは、さまざまなゴールと密接に関連している。
とくに深く関わっているのは、ゴール14「海の豊かさを守ろう」とゴール15「陸の豊かさも守ろう」という2つの目標だろう。海産物も農産物も、地域で消費する分のみを生産すれば、土地や環境に過度な負荷がかかることはない。貴重な資源の保護にもつながるだろう。
また地産地消は、世界が抱えるエネルギー問題や環境問題とも無縁ではない。遠い場所でつくられた食物を運搬するためには、多くのエネルギーが消費されCO2が発生する。SDGsのゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」やゴール13「気候変動に具体的な対策を」を達成するため、地産地消の推進は一定の効果が期待できるだろう。
近年、農村や漁村で積極的に取り組まれているのが6次産業化である。2010年の法律においても使われた6次産業という言葉。これは、「農林漁業者が食品加工や流通・販売にも積極的に取り組み、その所得を向上させていこう」というものである。
農林水産業は、いわゆる「1次産業」と呼ばれるものだ。地産地消を進めるうえで欠かせない存在ではあるものの、重労働や低所得を理由に、なり手が少ないという社会的課題を抱えている。
だからこそ必要なのが、食品加工(2次産業)や流通・販売(3次産業)の推進である。1次産業に従事する人々が2次・3次産業にも関わることで、所得は増加。地域産業の活性化につなげる狙いがある。
6次産業の「6」という数字は、1次産業と2次産業、そして3次産業のそれぞれの数字をかけ合わせたものだ。単純にプラスするのではなく、かけ合わせることで、さらに可能性を広げていこうという狙いがある。
地産地消をより一層推進していくためには、まず地域内での食料生産を安定させなければならない。そのうえで、地域の消費者が地域内の生産物に興味・関心を抱く必要があるだろう。6次産業に向けた取り組みは、両方の流れを推進するものだ。
6次産業については、以下の記事でも詳しく解説中だ。国が推進する大きな動きにも、ぜひ関心を持ってみてほしい。
地産地消には、さまざまなメリットが期待できる。具体的なポイントを5つ紹介しよう。
農林水産物は、鮮度が命と言っても過言ではない。収穫や漁獲から間がないほど、味は良く栄養価も高いと言えるだろう。近年はさまざまな保存・流通システムも発達しているが、「獲れたあとにすぐ食べられる」環境に勝るものはない。
地産地消では、地域で獲れた農林水産物が地域内でそのまま出回る。つまり、輸送にかかる時間が発生しない。「朝地元の畑で獲られたキャベツが、夕方には食卓に並んでいる」という風景も、決して珍しいものではないだろう。
地元で生産された食品を地元で消費する地産地消では、生産者と消費者の距離が自然と近づく。この距離感によって、消費者と生産者の双方にさまざまなメリットが生まれるだろう。
まず消費者にとっては、「誰がこの食品をつくっているのか?」がわかる安心感が、非常に大きなメリットである。地産地消なら、それぞれの食品がどこから来たのか、またどうやってつくられたのか、消費者それぞれで把握しやすくなるだろう。食の安全性に対する、不安軽減にもつながるはずだ。
一方で生産者にとっても、消費者の顔が見えるメリットは大きい。地元の人が地元の食材を食べるようになれば、消費者の声も直接届きやすくなる。反応や評価が直接届くことで、生産者のモチベーションアップや品質改善につながっていくだろう。
また、一般の流通路には乗せられない生産物にも、販売チャンスが生まれるというメリットがある。生産者が消費者と直接やりとりするようになれば、規格外品や少量のみの収穫品も販売しやすくなるだろう。収穫したものの、販売できずに廃棄される食料を減らす効果も期待できる。
地域経済を活性化するためには、地域内でのお金の動きが必要不可欠である。地産地消は、地域内で経済を循環させるための仕組みでもある。
生産者と消費者が直接やりとりすれば、消費者の声からビジネスチャンスが生まれる可能性もある。「もっと○○な商品がほしい」という消費者の希望を生産者側が実現できれば、新たなニーズを掘り起こせるだろう。6次産業化が進めば、農林漁業者の所得は増え、地域経済の活性化につながるはずだ。
日本各地には、さまざまな食文化がある。地産地消で地域の食材が地元に根づけば、独自の文化の継承にも役立つだろう。一般家庭における自然な継承を促せるほか、旅館や民宿などにて観光資源として提供できるというメリットもある。
地産地消が進めば、食物の輸送距離は短くなる。SDGsとの関連性の項目で説明したとおり、エネルギー資源の節約やCO2排出量削減など、環境への負荷を和らげられるだろう。
一方で、残念ながら地産地消にはデメリットもある。消費者側・生産者側それぞれのデメリットについて解説しよう。
地域の生産物を地域で消費する地産地消。運搬や流通にかかるコストが下がり、価格が低くなる可能性もあるだろう。しかし反対に、大量生産の恩恵を受けられなくなり、食物の価格が上昇するリスクもある。
また地産地消の取り組みには「地域差」という課題がついて回る。地域で生産される食品以外を入手しようとすれば、当然手間や価格はアップするだろう。入手できる食材に偏りが生じやすい地域では、地産地消の推進は難しいと言わざるを得ない。
生産者にとっても、地産地消はメリットばかりではない。6次産業化とともに地産地消を進めていく場合、生産以外にもさまざまな努力を求められるだろう。コストや手間が増大する一方で、確実に収益につなげられるという保証はない。
たとえば、生産物に加工を施し販売する場合、新たな製品を生み出す努力とコストが発生するだろう。新たな設備投資や、人材確保が必要になるかもしれない。売れる商品を生み出すための企画力や発想力、売り出すための宣伝力なども求められるはずだ。
流通・販売を生産者自身が担う場合も、負担は決して少なくない。直売所に農産物を搬入するのは農家自身であり、商品のパッケージ化やブランディングも必要になるだろう。安定した売上が継続すれば、大した手間ではないかもしれない。とはいえ、そのあたりのバランスが難しい点は、デメリットの一つと言えるだろう。
地産地消の取り組みとして、近年注目されているのが学校給食である。メリットは多いものの、一定の量を安定供給するのが難しいという課題もある。「量が足りない」「種類がそろわない」といった事情を抱える生産者も多く、デメリットの一つになっている。
メリットもデメリットもある地産地消。日本全国には、成功事例が数多くある。農林水産省が発表する2021年の「地産地消の取組事例」より、3つの例を紹介するので、ぜひ参考にしてみてほしい。
株式会社 at LOCALが運営する、道の駅ピア21しほろ。2017年のリニューアルより、地元農産物の利用拡大に向けた取り組みを実施中だ。
観光客や地元客に好評なのが「農家のおすそわけ野菜市」。地元農家の自家用野菜を「おすそわけ」という形式で販売したところ、人気に火がついた。出荷農家数は16軒から28軒へと拡大。農産物を無駄にせず売り切る販売スタイルだ。
その他にも、JA士幌町のじゃがいも「ホッカイコガネ」を使用したじゃがいも大福は、道の駅の名物に。2017年の発売開始以降、累計で10万個以上を販売している。士幌高等学校と連携した商品開発も盛んだ。地域住民との協力体制の中、売上を拡大する新たな地産地消のスタイルと言えるだろう。(※3)
加賀市、能美市、小松市、川北町の3市1町からなる石川県南加賀地区。ここでは、市町の区切りにこだわることなくエリア全体で農産物を流通させることで、給食で提供できる品目を増やしている。市場と行政、JAが連携する取り組みだ。
地域全体で評議会をつくり、学校との連携を密にとることにより、食材の計画的な活用が可能に。一般消費者へもアピールし、「なんかがいい野菜」として販売している。(※4)
愛知県豊田市の押井町では、高齢化や後継者不足を背景にした離農問題を解決するため、(一社)押井営農組合を立ちあげた。集落の全水田を組合が管理できる仕組みを採用している。
そうした水田の一部で、愛知県のブランド米「ミネアサヒ」を栽培。「源流米ミネアサヒCSAプロジェクト」(米の売買ではなく自給仲間の一員となって農地を守る)という仕組みで、「地域住民」と「自給家族」がともにつながりを持っている。(※5)
日本にはもともと「身土不二」という考え方が根づいており、近年では地産地消とセットで語られることも多い。伝統食や旬を重んじる身土不二については、以下の記事も参考にしてみてほしい。
地産地消にはメリットが多く、地域内でうまく循環すれば、経済活性化につなげられる可能性もある。SDGsとの関連性も踏まえつつ、今後の農林水産業について考えてみよう。
※1 地産地消関係法令等(4ページ目)|農林水産省
※2 第3次⾷育推進基本計画 平成28年3⽉(6ページ目)|農林水産省
※3 士幌町の魅力を凝縮!地域と住民に愛される空間づくりで販売UP に繋がった直売所(1ページ目)|農林水産省
※4 市場と行政、JAが連携し、地域内で食材を供給する体制を構築した取組(6ページ目)
※5 米を売らない米農家「自給家族」で農地と集落を守る <CSAプロジェクト>(2ページ)|農林水産省
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