食関連で注目を集める身土不二とはなにを指すのか。読み方をはじめ、誰が始めた考え方か、どう伝わり、いま、なぜ受け入れられているのか。同時に語られることが多い地産地消や、マクロビオティックとの関係性や違いなどについても解説する。
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身土不二とは、なにか。まずは、二通りある読み方から知ろう。
仏教用語での読み方は「しんどふに」。これまでにしてきた行いである「身」と、その身が拠りどころとしている環境である「土」は切り離せないという考え方だ。
食分野で使われる場合は「しんどふじ」と濁る。現在の福井県出身の医師、薬剤師で玄米と食養の祖とされる石塚左玄(1851~1909年)の考え方をもとに、同氏が会長となり設立した「食養会」によって確立された。同会の活動のスローガンとしても掲げられた。
石塚氏が立ち上げた食養会には、玄米を主食とした採食を旨とするマクロビオティックの創始者・桜沢如一も所属しており、身土不二、陰陽調和、一物全体の哲学を受け継いだ。
そもそもは、明治時代に起きた食養運動に基づく考え方だった「身土不二」。その後、昭和初期にマクロビオティックなどの発展にも寄与したのは前述の通りだ。
東京都立中央図書館のデータベースによれば、「『体と土とは一つである』とし、人間が足で歩ける身近なところ(三里四方、四里四方)で育ったものを食べ、生活するのがよいとする考え方」とある(※1)。
近年において、この古風な言葉が地産地消やスローフードといったワードとともに再注目を集めている。
ユニークなことに、提唱した石塚氏らには、身土不二と地産地消を結び付ける考えはなかったとされている。それどころか、1990年代以前に身土不二を唱える者は、地産地消に対して否定的な考えを持つものも少なくなかったという(詳細は、後述)。
現代、これらが結びついて広く伝わっているのは、健康ブームが助力という点で疑う余地はないだろう。
さらには、拡大するグローバリゼーションが内包する問題点、たとえば大量生産、大量消費などを吸収し、解決へと導びく糸口になるのではという期待も込められているのかもしれない。
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「身土不二」が食の分野で注目されているのは、日本に限ったことではない。1980年代末からは、隣国、韓国でも「身土不二(韓国語読みで、シントブリ)」の概念は広く知られている。
千葉大学大学院・園芸学研究科のレポートから、それをもうかがい知ることができるだろう。韓国の身土不二について、「『郷里の食材や地元の食文化を大切にすることが、健康上も望ましいし、自然環境の保全、さらには生活の安定・向上にもつながる』という意味に解釈されている」と記載(※2)。身土不二を、わが国よりも広義にとらえているようだ。
韓国で伝播の主軸を担ったのは、韓国農協中央会だった。同会は、「身土不二」はスローガンにしている。これは、むろん前述したような農業に押し寄せるグローバル化の波と無縁ではないだろう。また、食文化の急激な欧米化により、地元食材の消費が減少したこととの関連性も見逃せない。
ちなみに、前述の千葉大レポートからは、韓国がアジア圏のなかで際立って野菜をよく食べる国であることがわかる(Food Balance Sheet参照)。しかも、「身土不二」の呼びかけの効果だろうか。1990年以降、摂取量は増えている。
日本はというと、調査当初の消費量はアジア平均値より多かったものの、減少の一途。
2000年代に入ってからは、アジア平均はおろか、世界平均も下回っている。
近年では、セットで語られることが多い「身土不二」と「地産地消」。それぞれの違いを把握しておくと、より理解が深まるだろう。
「地産地消」は、地域生産・地域消費の略。1981年ごろに生まれたといわれており、歴史は意外に浅い。
文字通り、地域でつくられた農産物や水産物を、地域で消費しようという意味で、旬の食材か、または、その土地ゆかりの伝統野菜や地域の特産、伝統食であるかは、特段に求められていなかった。
つまり、冬場に地域の農家がビニールハウスで栽培した夏野菜を食べるのも、地産地消だ。隣町の牧場で飼育され乳牛から搾乳された牛乳で、つくられたチーズを食べることも地産地消になる。
この言葉が生まれた当時、食材のつくり手である農村の食卓は、米とみそ汁、漬物という伝統的な食事で、塩分過多に陥りやすかった。
塩分過多によって引き起こされるという高血圧は、脳卒中などの病気の要因となる。
当時、脳卒中が日本人の死亡原因の第1位だったことからも、食事の偏りの深刻さがうかがえる(※3)。
そこで、食事の改善を図るため、緑黄色野菜や西洋野菜の栽培量を増やすことを計画し、実践した。これが「地産地消による食生活の向上」という表現につながったのだという。
旬や伝統に関して頓着しなかった1980年代当初の「地産地消」は、伝統食や旬を重んじる「身土不二」との考え方は、相いれない部分も多かった。
しかし、1990年代以降になると事情が変わっていった。海外からの安価な食材の流入するようになり、多くの消費者が食の安全性に対する意識に目覚めたためだ。
国産、地元の食材は安心安全だという見方が広がり、地域で生産される食材や、伝統的な食への注目度も増した。地産される安全な食材と、身土不二の考え方が近づいていったのだ。
1999年(平成11年度)の「環境白書」では、食を支える産業の取り組みの一例として身土不二が取り上げられているという(※5)。
時期を同じくして、穀物と野菜、海藻を主とした「マクロビオティック」への関心が高まっていったのは自然な流れだろう。
さらに、2000年代には、1980年代後半にイタリアに端を発したスローフード運動が日本国内にも広まり、ブームとなった。
このころ、身土不二を地産地消と結び付けて紹介するメディアがいっきに増え、境界線があいまいになったまま、こんにちに至っている。
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時代ごとに姿かたちを少し変えながら、再び脚光を浴びている「身土不二」という思想。
わが身と土地は切り離せないとする直感的で根幹的な思いは、サステナブルな考え方や行動とどう結びつくのか。
近年各地で盛んな、有機栽培の野菜を販売するファーマーズマーケットを例に見てみよう。
朝採れのオーガニック野菜が並ぶファーマーズマーケットを想像してみよう。
そうした小さなマーケットがなぜ、サステナブルなのかは説明するまでもないかもしれないが、主な理由を下記に並べてみた。
・化学肥料を使わないオーガニック野菜は、安心で安全なものが多い。
・その土地にあった食材を育てるため、地域の伝統野菜や伝統的な農法を守ることにつながる。
・有機栽培は土壌を必要以上に傷つける心配が少なく、環境への負荷を減らせる。
・生産者自身が販売するため、近距離から持ち込まれており、輸送に伴う排出ガスを押さえることができる。
・手間ひまかけて育てる、意欲的な生産者を直接的に支援できる。
・通常の流通では規格外などではじかれてしまう商品も並べられるため、フードロス(食品ロス)の削減につながる。
これらの考え方、行動は、伝統や旬を重んじる身土不二と親和性が高いことがわかる。
食品ロスの問題は、先進国にとって大きな課題であり、わが国も例外ではない。
農林水産省「食品ロスの現状を知る」によれば、世界では年間13億トンもの食品が廃棄されている。日本国内だけで612万トン、東京ドーム約5杯分が毎年、無駄に(※5)。
日本は、食品の62%を輸入に頼っているにもかかわらず、多くを捨てていることになる。廃棄物の処分に、さらにエネルギーが使われるという悪循環も生じてしまう。
そのかたわら、世界の9人に1人が栄養不足で苦しんでいる。
この根深い矛盾を少しでも解消するため、我々はさらに食品ロス削減を推し進めなければならない。
今後、そのギャップを埋めるヒントに、「身土不二」はなりうるのではないだろうか。
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國學院大學経済学部教授の古沢広祐氏は、身土不二のルーツは仏教にあると前置きしつつ、『生態系の循環の中で人が生きている様子を感覚的にとらえた言葉です。いまこの言葉が、「エコロジカル・ダイエット」(エコ・ダイエットと略)という考え方として再生しています。』と述べている。
戦中戦後の食糧難を経て飽食の時代と言われて久しい。しかし、環境のために食材のムダをダイエットすることは、「もったいない」という感覚を備える私たち日本人には決して難しくないはずだ。
作り手は届けられる範囲に必要な量を、その土地に合ったやさしい農法でつくり、消費者は丁寧につくられた食材をむだなくいただく。これは、とてもサステナブルで、機能的でもある。
自分や自分の大切な人の体や心にとって安心安全で、環境の負荷を減らせる行動基盤にもなる、「身土不二」という古くて新しい思想を日常に取り入れてみてはいかがだろうか。
※1 レファレンス事例詳細>東京都立中央図書館(2110013)https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000013089
※2 独立行政法人・農畜産業振興機構「韓国における身土不二運動の展開」
https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigai/0806/kaigai1.html
※3 第7表 死因順位(第5位まで)別にみた死亡数・死亡率(人口10万対)の年次推移
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth7.html
※4 第2節 3 「食」を支える産業における取組
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h11/10949.html
※5 農林水産省「食品ロスの現状を知る」
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2010/spe1_01.html
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