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「今年の夏は暑い」「例年より降水量が多い」など、天候にはその年ごとに特徴がある。こうした特徴を決める1つの要因が、エルニーニョ現象である。この記事では、エルニーニョ現象とは何か、ラニーニャ現象との違い、エルニーニョ現象が発生する仕組み、世界と日本への影響、近年の状況を紹介する。
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エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて、海面水温が平年より高くなる状態が1年程度続く現象をいう。気象庁では、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値が6か月以上続けてプラス0.5℃以上となった場合を「エルニーニョ現象」と定義している。
1949年以降の記録によると、エルニーニョ現象は数年おきに発生し、海面水温は月平均およそ1〜3℃上昇している。直近では2023年春〜2024年春にかけて起きており、月平均最大2.3℃の上昇を記録している。(※1)
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エルニーニョ現象と併せてよく説明される現象に、ラニーニャ現象がある。ラニーニャ現象は、エルニーニョ現象と同じ海域で、海面水温が平年より低い状態が続く現象をいう。気象庁では、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値が6か月以上続けてマイナス0.5℃以下となった場合を「ラニーニャ現象」と定義している。
1949年以降の記録によると、ラニーニャ現象も数年おきに発生し、海面水温は、月平均でおよそ1〜2℃低下している。直近では2021年秋〜2023年冬に起きており、月平均最大1.3℃低下を記録している(※1)
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エルニーニョ現象が発生する仕組みは、貿易風と呼ばれる東風の強さに関わっている。まずは、平常時とエルニーニョ現象時の違いを確認していこう。
【平常時】
平常時は、太平洋の熱帯域に吹く貿易風と呼ばれる東風により、海面付近の海水は太平洋の西側に吹き寄せられる。一方、東部の南米沖では、この東風と地球の自転により冷たい海水が海面近くに湧き上がる。つまり、海面水温は太平洋赤道域の西部で高く東部で低い。そして海面水温の高い太平洋西部の上空には、大気中の水蒸気により積乱雲が盛んに発生する。
【エルニーニョ現象時】
エルニーニョ現象時は、平常時よりも東風が弱くなり、西部の暖かい海水が東に広がる。そして東部で起こる冷たい水の湧き上がる力も弱るため、太平洋赤道域の中部から東部は平常時よりも海面水温が高くなる。そうなると積乱雲の発生する海域は、平常時よりも東に移動する。(※2)
このように、エルニーニョ現象は平常時に比べて東風が弱まることにより発生し、海水の温度の変化と、これに伴う積乱雲の発生場所の違いがある。
そして近年、エルニーニョ現象の発生や終息にマッデン・ジュリアン振動 (MJO) が関わっているという研究発表があった。これは熱帯域で発生する巨大な雲群のことだ。この雲群により大気の流れが変化することで、エルニーニョ現象に影響を与えているという。(※3)今後、普遍性などについての検証が進められ、エルニーニョ現象とのより詳細な関係が明らかになっていくだろう。
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次に、エルニーニョ現象が世界に与える影響を、天候の特徴とそれによる作物収穫量の変化に注目してみる。
はじめに、天候の特徴である。1948〜2021年のデータを基に、エルニーニョ現象が発生したときの天候を、北半球の春・夏・秋・冬に分けて見ていく。(※4)
1.北半球の春(3~5月)
気温が高い傾向にある地域
東日本〜フィリピン北部、オーストラリア東部〜東南アジア〜インド洋熱帯域〜南部アフリカ〜西アフリカ南部、南米〜中米〜中部太平洋熱帯域〜カナダ西部~アラスカ
気温が低い傾向にある地域
東シベリア中部、インド北西部〜北アフリカ北東部、米国中部およびその周辺、ポリネシア南部
2.北半球の夏(6~8月)
気温が高い傾向にある地域
カリマンタン島〜南アジア〜中東南東部、ヨーロッパ中部、東アフリカ西部〜西アフリカ、南米〜中米〜中部太平洋熱帯域
気温が低い傾向にある地域
中央シベリア南東部〜東アジア〜カムチャツカ半島およびその周辺海域、中国西部〜地中海東部、ロシア北西部、北アフリカ西部、カナダ東部~米国、メラネシア〜ポリネシア南西部
3.北半球の秋(9~11月)
気温が高い傾向にある地域
フィリピン南部〜ジャワ島、インドシナ半島北部~インド洋~中部アフリカ北部、ヨーロッパ中部、カナダ西部~アラスカ、南米北部〜中部太平洋熱帯域、ブラジル東部、オーストラリア東部〜南西部
気温が低い傾向にある地域
東シベリア南部~東アジア東部、中国南西部およびその周辺、東アフリカ南部~南部アフリカ北部、グリーンランド南西部~カナダ東部、カナダ北東部~メキシコ北部、南米南部~南極半島~南大西洋南部、ポリネシア南部~ニュージーランド~オーストラリア北部
4.北半球の冬(12~2月)
気温が高い傾向にある地域
北西太平洋南部〜東南アジア〜南アジア南部〜東アフリカ東部~インド洋~オーストラリア、中部アフリカ西部〜西アフリカ南部、南部アフリカ、カナダ西部~アラスカ、南米中部〜カリブ海諸国〜中部太平洋熱帯域
気温が低い傾向にある地域
ベーリング海西部~オホーツク海、米国南東部〜メキシコ北部
エルニーニョ現象発生時には、こうした気温の高低のほかに、降水量の多い・少ないといった変化が起きる。この結果、東南アジアや南アジアの各国、オーストラリアなどで深刻な干ばつが引き起こされ、山火事の発生や凶作の被害が発生する。
エルニーニョ現象が発生する年は、作物の収穫量に違いが見られることがわかっている。(※5)
上の図は、過去25年間(1982~2006年)の収穫量をエルニーニョ年、ラニーニャ年、通常年に割り振ることで、エルニーニョの発生と穀物の収穫の関連性を調べたもの。エルニーニョ年と通常年の収穫量を比較し、高い収穫量と低い収穫量の地域を色分けしている。
これにより、コメ、小麦、トウモロコシ、大豆のすべてについてエルニーニョと穀物収量に明確な関係がある地域が認められた。エルニーニョ現象の影響を受けると、アメリカ、メキシコ、中国ではトウモロコシが、インドでは大豆、ロシアやウクライナでは小麦の収穫量が低下。一方、ブラジル、アルゼンチンではトウモロコシと大豆の収穫量が増加している。
世界全体で見ると、トウモロコシと小麦の収穫量が明らかに減少し、大豆の収穫量が増加していることがわかる。
このように、エルニーニョ現象が発生すると、世界の気温とともに降水量が変化し、さらに作物の収穫量に影響を与えることがわかっている。
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エルニーニョ現象が起こると、日本は冷夏・暖冬になる傾向だ。
西太平洋熱帯域の海面水温が低下し、積乱雲の活動が活発な場所が東にずれる。このため、日本付近に張り出す太平洋高気圧も東にずれ、夏季は太平洋高気圧の日本付近への張り出しが弱くなり、気温が低く、日照時間が少なくなるのだ。また、西日本日本海側では降水量が多くなる傾向にある。
冬季は西高東低の気圧配置が弱まるため、気温が高くなり、暖冬になる。(※6)
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最後に、近年のエルニーニョ現象の状況について触れる。冒頭で紹介したように、直近では2023年春〜2024年春に起きたが、海面水温が月平均最大2.3℃の上昇を記録する大規模なものだった。そのため、このとき発生したエルニーニョ現象は、スーパーエルニーニョ現象とも呼ばれている。
このスーパーエルニーニョ現象は世界に大きな影響を及ぼした。南部アフリカ地域では深刻な雨不足が発生したほか、気温は平均を5度上回った。過去100年間でもっとも乾燥した2月となり、この期間の降雨量は例年の20%にとどまった。
この干ばつはトウモロコシをはじめとする作物の収穫量に影響を与え、凶作による農家の収入減や食料不足の危機をもたらした。アンゴラ、マラウイ、モザンビーク、ナミビア、南アフリカ、ジンバブエはいずれも干ばつの影響を受けており、ナミビア、マラウイ、ザンビア、ジンバブエは緊急事態を宣言する事態に陥った。(※7)
このスーパーエルニーニョ現象について、気象庁は終息したと見られると2024年6月に発表している。また2024年8月の速報によれば、エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない平常の状態であり、冬にかけて続く可能性は40%となっている。(※8)
エルニーニョ現象の状況については、気象庁の「エルニーニョ監視速報」(気象庁のサイトに毎月公開されている)で情報を得ることができる。
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エルニーニョ現象は、貿易風と呼ばれる東風により、世界の気温や降水量に影響を及ぼす。このことは、世界や日本の穀物をはじめとする作物の収穫、ひいては食料供給にも関係する。2024年中にエルニーニョ現象が発生する可能性は低いと見られているが、今後の発生予想などを監視しながら対処していく必要があるだろう。
※1 気象庁 | エルニーニョ現象及びラニーニャ現象の発生期間(季節単位)
※2 エルニーニョ/ラニーニャ現象とは|気象庁
※3 “マッデン・ジュリアン振動” の「引き金」を特定―世界の天候に影響する巨大雲群発生の鍵は赤道上空の大気波動―|国立研究開発法人海洋研究開発機構
※4 気象庁 | エルニーニョ現象発生時の世界の天候の特徴
※5 エルニーニョ、ラニーニャと世界の穀物収量の変動との関連性を解明|農業・食品産業技術総合研究機構
※6 日本の天候に影響を及ぼすメカニズム|気象庁
※7 南部アフリカにおける記録的に深刻なエルニーニョによる干ばつに対応するための緊急行動の要請|WFP国連世界食糧計画
※8 気象庁 | エルニーニョ監視速報
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