生物多様性と食料問題解決の鍵 ゲランが「ミツバチ保護活動」に力を入れる理由

ゲランの「アベイユ ロイヤル トリートメント クリーム」には、ハチミツが配合されている
未来への一歩

190年以上前の創業当時からハチミツの優れた創傷治癒効果に着目し、シグネチャーラインをはじめとしたさまざまな製品に蜂由来成分を取り入れてきたゲラン。同ブランドがミツバチの保護活動を長年続けているのは、ミツバチがゲランのシンボル的存在になっていることはもちろん、ミツバチが生物多様性の中心にいる大切な存在だからだ。ゲランが精力的に進めるミツバチの保護活動の目的と、詳しい取り組みの内容について迫る。

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2023.08.23
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<SUMMARY>
取組の概要:ミツバチの保護活動を行い、ミツバチの重要性への意識を高める啓蒙活動なども幅広く実施
きっかけ:ミツバチは生物多様性の中心にいる大切な存在であること
背景にある課題:ミツバチの数が減少傾向にある

世界における植物の約8割の受粉を担う ミツバチの存在

ゲランが長年保護活動を行っているミツバチ

ゲランがミツバチに着目した理由を知るためには、まずミツバチがいかに地球や私たちにとって大切な存在であるか理解する必要があるだろう。ご存知のとおり、ミツバチは花の蜜を吸うために多くの花の間を飛びまわる。そのときに花粉も一緒に運び、植物の受粉を助けるポリネーター(花粉媒介者)としての役割を担っている

植物が受粉して子孫を残していくためには、ミツバチのようなポリネーターの存在が必要不可欠で、そのなかでも主となるのがミツバチなのだ。ゲランのサステナビリティ チーフ オフィサーを務めるセシル・ロシャール氏は、ミツバチの存在について「生態系のバランスを維持するうえで欠かせない」と表現する。

「実際、顕花植物(花を咲かせて種子をつくる植物)の8割は、ミツバチによって受粉していると考えられており、フランス国立農業研究所(INRA)ではその役割が年間1530億ユーロ(約24兆円)にもなると試算しています」(セシル氏、以下同)

つまり、私たちがふだん口にしている食材はもちろんのこと、身のまわりにある自然も、ミツバチという小さな存在によって影で支えられているのだ。

ゲランが長年保護活動を行っているミツバチと花畑

だが問題なのは、近年ミツバチの数が減少傾向にあること。とくに、1990年代初頭にアメリカで初めて、「コロニー崩壊障害(ミツバチのコロニー内のほとんどが死滅すること)」が確認されてから、過去20年間のミツバチの個体数は劇的に減少しているという。

「フランスでは、ミツバチのコロニー(群)が最大で90%も減少していると報告する養蜂家も出てきています。フランス国立科学研究センター(CNRS)のデータによると、通常生育しているミツバチの死亡率は30%前後ですから、それと比べものにならないほどの勢いでミツバチの数が減っていることがわかると思います」

その結果、フランスでの過去20年間のハチミツの生産量は半減しているそうだ。

ゲランが長年保護活動を行っているミツバチ

もしミツバチが絶滅してしまったら……。私たちの身近にある花々のほか、果物なども姿を消してしまうだろう。そこでミツバチに着目したのが、ゲランだ。

生物多様性は私たちのクリエイションの中心にあります。そしてミツバチは環境を守る存在で、生物多様性の中心にいます。自然界のすばらしさと、世界が享受するさまざまな材料の高いクオリティがなければ、ゲランが高品質のフレグランスや化粧品をつくる世界的なブランドになることはなかったでしょう。ミツバチを守ることは、持続可能なコミットメントに対する私たちのアプローチの指針なのです」

ハチミツの力に注目した、ゲランのシグネチャーライン「アベイユ ロイヤル」

ゲランのシグネチャーライン「アベイユ ロイヤル」には、ミツバチの恵みと科学の力が融合したスキンケア製品だ。

1828年創業と長い歴史を持つゲランでは、創業間もない頃からハチミツの優れた創傷治癒効果(そうしょうちゆ:組織や細胞が傷ついたときにそれを治そうとする力)に着目。シグネチャーラインをはじめとしたさまざまな製品にハチ由来成分を取り入れ、ミツバチがゲランのシンボル的存在になってきた。

同ブランドにとって、ハチミツが欠かせない存在であるのと同じように、私たちの暮らしや地球にもミツバチが必要不可欠なのだ。ゲランがミツバチの保護活動に取り組み始めたのは、そんな背景がある。

ミツバチ保護の重要性に対する意識を高める 世界各地の小学校でセッションを開催

ゲランの「Bee School」に参加するアンジェリーナ・ジョリー

フランスで行われた「Bee School」には、アンジェリーナ・ジョリー氏も共同参加した。

ミツバチは公園や花畑などを飛びまわる、身近な昆虫のひとつだ。それにも関わらず、「刺されると怖い」と厄介な存在に思われて、その大切な役割を知らない人も多いだろう。

ゲランでは、若い世代の意識を高めることが、人々により深く、より継続的な変化が生まれ、ミツバチを長期的に守ることにつながると考えている。そこで、小学生を対象にミツバチに関するセッションを開く「Bee School(ビー・スクール)」を2018年より開催している。

「『Bee School』では、世界にいるゲランの従業員4,000名全員に、持続可能な開発の“スポークスパーソン”になって、『Bee School』の先生になってもらいます。日本においては、6〜12歳小学生向けの約1時間のセッションを実施しています。」

フランスで行われたゲランのミツバチ保護活動の一環「Bee School」

実際の「Bee School」では、ミツバチに関するセッションのほか、ディスカッションや質疑応答、さらにワークショップを行い、最後に学んだことをゲーム形式のテストで振り返り、子どもたちには「Bee School」の修了証書を渡すという。

プログラムのなかで、ゲランのブランドについて触れられることは一切なく、あくまでもミツバチについて学び、身近に感じてもらう時間として行われているそうだ。

2023年1月には、フランス・パリの小学校で行われた「Bee School」を、俳優のアンジェリーナ・ジョリー氏が、ゲラン×ユネスコ「Women for Bees」第1期生の養蜂家であるロレーヌ・ムシェ氏と共同開催。日本では2023年5月に、ゲラン ジャパン アンバサダーを務める俳優・モデルの桐谷美玲氏が、新宿区立津久戸小学校で開かれた「Bee School」に参加した。

ゲランがミツバチの保護活動の一環で行っている「Bee School」

日本の小学校で行われた「Bee School」での一コマ。

これまで世界10か国以上、約6,000人の子どもが参加したというこのプログラム。日本で行われた「Bee School」に参加した子どもたちからは、「ミツバチがいなくなると、好きな食べものがとれなくなると知って驚いた」「ミツバチの男の子と女の子の役割の違いを知れておもしろかった」などといった感想が寄せられ、身近なミツバチの重要な役割を知るきっかけとなっているようだ。

今後は2025年までに10万人の子どもたちに参加してもらい、ミツバチに関する正しい知識を身につけて、その存在の大切さを知ってもらうことを目指している。

女性養蜂家を育てる ユネスコとの共同プログラムも

女性養蜂家を育てる、ゲランの「Women for Bees(ウーマン・フォー・ビー)」プログラムの様子

ゲランのミツバチの保護活動は、さらに幅広い。ミツバチの数が減っていると同時に、世界では養蜂家の数自体も減っているという。そこで女性の養蜂家の育成を支援するプログラム「Women for Bees(ウーマン・フォー・ビー)」を2020年より開始。

男性が多いという養蜂業界で、より多くの女性が活躍できるよう、ミツバチに関する知識から養蜂技術までを指導。

アンジェリーナ・ジョリー氏をゴッドマザーとして迎え、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)とともに、ユネスコの生物圏保護区で、地元のNGO団体などと協力しながら、女性養蜂家を育てるトレーニングを行っている。

女性養蜂家を育てる、ゲランの「ウーマン・フォー・ビー」の様子と、ゴッドマザーのアンジェリーナ・ジョリー

「Women for Beesの目的は2つあります。ひとつは、女性に起業と雇用の機会を創出し、女性をエンパワーメントすること。もうひとつは、ミツバチの個体数を回復させることです。ミツバチは先に紹介したように、植物の受粉を助けるポリネーターです。ミツバチの数を増やすことは、結果として食料安全保障につながると考えられます」

地球上にある野生の花の約90%にミツバチが関わっており、世界の食料安全保障の約30%に貢献していると言われる。ミツバチを育む人材を増やし、ミツバチの数を増やすことは、現在懸念されている世界的な食糧不足の問題において、解決の糸口になる可能性がある。

日本で開催された、ゲランによる女性養蜂家を育てる「ウーマン・フォー・ビー」プログラム

日本では、大阪で女性養蜂家を育てるプロジェクトが行われた。

この活動は世界中に広まり、現地のNGOやNPOと連携しながら、フランス、カンボジア、メキシコ、イタリアなどでも行われている。

日本では、2022年にスタート。大阪、梅田で都市養蜂活動を行うNPO、梅田ミツバチプロジェクトとパートナーシップを組み、全10回、8か月間にわたるプログラムを実施。早速6名の女性が卒業した。

2023年には、銀座ミツバチプロジェクトともパートナーシップを組み、東京と大阪の2か所でプロジェクトを開始。女性養蜂家を育てている。

さまざまな気象条件にあわせて養蜂を行うことや、ダニなどの病原菌に対応するといったことは、経験を重ねて習得しなければならないが、卒業後も経験を積んで、養蜂家としての技術を高めていくことができるという。

女性養蜂家を育てる、ゲランの「ウーマン・フォー・ビー」。日本での参加者

日本でも「ウーマン・フォー・ビー」が開催されている。

日本のプログラムに参加した人からは、「研修を経てミツバチへの愛が高まったことが何よりも大きな変化です」「研修を通して養蜂家の大変さを身をもって知りました」「研修の内容を娘たちに話していました。その延長で、ミツバチという生き物が、私たちと同じように面白くてかわいい、一生懸命生きる命だと感じてもらえたら嬉しいです」といった感想が寄せられたそうだ。

ミツバチの個体数増 着々と表れ始めた成果

若年層への教育を進める「Bee School」、女性をエンパワーメントする「Women for Bees」と、多角的にミツバチの保護活動を行っているゲラン。これまでのひとつの成果が、ミツバチの個体数の増加だ。ユネスコによると、2020年以来、数百万匹のミツバチが増加したのだとか。

日本の「Women for Bees」では、最初のプログラムに参加した6名に加え、2023年にも12名の新たな女性養蜂家の育成を目指しており、今後は、ルワンダ、中国などにも拡大していく予定だ。

時間はかかる長い道のりだが、ゲランの地道なミツバチ保護活動は、着々とその成果がみのり始めているのかもしれない。

670以上の成分について、産地・生産地・納入業者も公開

ゲランでは成分の産地などの情報を開示している

このほか、ゲランでは製品のライフサイクルを開示する取り組みにも注力している。2023年5月から日本語でも展開が始まったBee Respect(ビー リスペクト)」では、ゲランの製品に使用している原料や成分について、産地、生産拠点、パッケージの構成要素、カーボンフットプリント、納入業者まで、あらゆる情報を消費者に広く一般公開しているのだ。

現在、追跡可能な成分は670以上。152以上の製品についてすべて閲覧可能だという。消費者に対する透明性は、真摯にものづくりを行うブランドの姿勢を伝え、ブランドに対する信頼を高めていくことにつながるはずだ。

ゲランの情報開示サイト「Bee Respect」

「Bee Respect」では、いま使っている製品の成分などについて、日本語で閲覧できる。

また、2021年、ゲランはUEBT協会(生物原料の流通に関する倫理組合)に、ラグジュアリーメゾンとして初めてメンバーとして認められた。生物多様性を守る取り組みを行い、調達方法についてもトレーサビリティを確立しているところが、評価されたのだろう。

さらに、メゾンを象徴するハチミツ、オーキッドなどの天然成分について、信頼ある認証を受けるための監査プロセスを開始。この認証を受けるには、生物多様性の尊重だけでなく、働く人々や地域社会の権利 を守る、優れた取り組みが行われていることが求められる。2026年までにUEBTスタンダードの認証取得を目指し、各パートナーと継続的なプロセス改善に取り組んでいくという。

私たちにできる「ミツバチを守るアクション」は?

ミツバチと花

最後に、セシル氏に私たちができるミツバチの保護活動について聞いた。

「もちろんミツバチを守ることは、私たちにとってとても重要です。でも、それだけでは十分ではありません。現在、そして未来の世界にとって、ミツバチを守ることの重要性について、その意識を高めていくことが必要」と、セシル氏は指摘している。

具体的な方法として、次のようなことを教えてくれた。

・フレグランスはオーガニックアルコールが使用されたものを選ぶ
フレグランスの主成分はアルコールであるため、とても影響が大きく、美容業界での直接的な責任につながる

・オーガニック食品(農薬不使用)を選ぶ
ミツバチへの悪影響を減らし、受粉を促す慣行農業の支援につながる

・庭で化学物質を使わない
コンポストや有機肥料などを使い、テントウムシ、カマキリなど寄生虫を寄せつけない虫の力を借りるのもいい

・ミツバチが好む花を植える
ミツバチが集まる空間をつくる

「いいアドバイスではないかもしれない」と前置きしながら、「庭の草木を自然に伸びるままにしてみるのもいい」と語っている。さまざまな種類の草花が育つエリアをつくることで、より自然に近い、ミツバチにとって住みやすい空間になるのかもしれない。

ゲランのチーフ サステナビリティ オフィサーを務めるセシル・ロシャール氏

セシル・ロシャール氏

1828年の創業から、ラグジュアリーなビューティブランドとして世界の美容業界を牽引してきたゲラン。ミツバチの保護活動をはじめとしたさまざまな取り組みによって、持続可能な世界の実現を目指し、ますますその存在感を増しているようだ。

この記事を読んだことをきっかけに、ミツバチの大切さに気付き、自分でもできるアクションを心がけることは、ミツバチや私たちの環境を守ることにつながっていくはずだ。

企画・執筆・編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2023年8月23日時点のものです。

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