生ごみは資源の宝庫だった––フレンチシェフと専門家が語る「循環」する暮らし

壁を背にして立つ生井祐介氏(左)と福渡和子氏(右)
ごみゼロの未来に向けて

生ごみに含まれている豊富な微量元素は、生命の維持に欠かせない要素だ。実は生ごみを焼却するということは、その貴重なミネラルの循環を断ち切ってしまうことなのだ。広尾のフレンチ「Ode」オーナーの生井氏と生ごみの専門家・福渡氏による、新たな生ごみのあり方を模索する特別対談をお届けする。

ELEMINIST Editor

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2021.05.18
SOCIETY
学び

エシカルマーケティングとは? メリットや実例をわかりやすく紹介

生ごみを減らすための買い物術と料理法 鍵となるのは食材との向き合い方

––生ごみを出さないために、家庭の料理で取り組まれていることはありますか?

生井:無駄にしないという面では、ぜひ“マル”のままで食材を買ってほしいです。切り身ではなくて、まるまる1匹のお魚や、カット野菜ではないものをってことですね。

マルの食材を買うと、当然下処理するときにいろいろ出てくるんです。魚だったら頭も出てくるし、内臓も出てくるし、骨も出てくる。そうなったときに「これどうしようか」って考えるトレーニングをしていると、ごみは全然出ないです。

例えば、これまではかぼちゃのタネを当たり前に捨てていたのですが、繊維がついた状態で天日干しして、そのあと水で煮出すとすごく甘いスープがでるんです。そうすると、バターを入れてソースに仕上げて、かぼちゃの料理に使ったりできる。捨てるところないですよね。

先ほど話した野菜のパウダーも、天日干ししてミキサーにかければいいだけなので、とても簡単。ざらついたら目の細かいもので濾せば大丈夫です。

そう考えると、昔の日本ってすごい。切り干し大根にしたり、塩漬けにしたり、たくさん農作物が採れたときに、きちんと保存して冬を越すための知恵があるんですよね。いまではそうした知恵や日本の発酵文化が、海外の人たちに評価されていて、僕らはそれを逆輸入して新しい料理に取り入れたりしている。

生井祐介氏(左)と福渡和子氏(右)が話している様子

福渡:計画的な買い物の方法として冷蔵庫の中身を把握しておくことも重要です。家庭におけるフードロスは、年間289万トン*1にもなります。レシートや生協の配達票を利用して使い切ったものは消していくと、いま冷凍庫に何が残っているか、冷凍庫の中を調べなくてもわかります。無駄な買い物はグッと減るはずです。

生井:「季節のものを食べる」というのも意識してますね。

福渡:スーパーでは、トマトやナス、キュウリなど1年中並んでいますよね。ビニールハウスなどの施設栽培では、通常の露地栽培と比べて数倍から十数倍ものエネルギーを消費して育てている*2と言われています。ですから私は旬のものを使い、季節外れのものは買わないように心がけていますね。

––旬のものから考えるというのは無駄のない買い物につながりそうですね。

生井:夏には夏野菜が、冬には根菜類がって考えると、やはり先人は1年を通した保存と消費のサイクルを考慮しているんですよね。先人たちのそうした背景には「冬をどう越すか」とか、生き死にの問題が考えられている。僕らも、そうした知恵を大切に取り入れていくことで、ごみを減らせる。

料理人の立場から考えれば、新しいアプローチでそうした知恵を取り入れることで、身近なものが新しい形としてレストランで楽しめる。そこは両面で考えていきたいですね。

––さらにカラットやコンポスト容器を活用できれば、もう本当にゼロウェイストですね。お恥ずかしながら、私もいま導入を検討しているのですが……。

生井祐介氏(左)が話している様子

生井:単純に面白いですよ。僕も布製のコンポスト容器を使っていますが、毎日ちょっとずつごみを入れて混ぜたりしていると、前に入れたごみがいなくなったりするので「どこ行った?」って(笑)不思議で楽しいんです。

福渡:堆肥化するには、細かく刻むことが重要ですね。塊で入れても、微生物が食べづらいのですぐにはなくなりません。まさに微生物に餌をあげるようにして、細かく刻んで土と混ぜてあげる。

土を混ぜる、切り返すといいますが、理由は酸素を土中に送ってあげるためです。生ごみを早く分解する微生物たちは、酸素を取り込みながらエサを分解しますが、酸欠状態になると生ごみを臭くする微生物が活動を始めます。微生物の勉強もしてみると、堆肥化の仕組みがわかって楽しいですよ。

––これまでお話を伺ってきていると「野菜が私たちの手元にどうやって運ばれて来ているのか」「そもそもごみって何なんだろう」という疑問を持つことが、ごみをなくしていくための考え方には必要そうですね。

生井:いまはそういうことに気づく人々が増えてきていますよね。ごみっていう言葉で一緒くたにされていますが、きちんと価値を見出すことができる人たちが増えてきている。

福渡:そういう人たちが増えてくれば、リサイクルやコンポスト、ゼロウェイストといったことが、もっと当たり前になりますよね。

生井祐介氏(左)と福渡和子氏(右)が話している様子

*1 消費者庁消費者政策課「食品ロス削減関係参考資料」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/efforts/pdf/efforts_180628_0001.pdf

*2 堀 孝弘「旬の野菜の選択による環境配慮効果と主要野菜の消費実態 ─季節はずれに供給される野菜の消費実態と施設栽培の将来について─」
https://www.kyoto-seika.ac.jp/researchlab/wp/wp-content/uploads/kiyo/pdf-data/no39/hori_takahiro.pdf

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取材・文/山田勇真(ELEMINIST編集部) 写真/植松富志男(トラストリッジ)

※掲載している情報は、2021年5月18日時点のものです。

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