生ごみは資源の宝庫だった––フレンチシェフと専門家が語る「循環」する暮らし

壁を背にして立つ生井祐介氏(左)と福渡和子氏(右)
ごみゼロの未来に向けて

生ごみに含まれている豊富な微量元素は、生命の維持に欠かせない要素だ。実は生ごみを焼却するということは、その貴重なミネラルの循環を断ち切ってしまうことなのだ。広尾のフレンチ「Ode」オーナーの生井氏と生ごみの専門家・福渡氏による、新たな生ごみのあり方を模索する特別対談をお届けする。

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2021.05.18
SOCIETY
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土の循環を意識した生ごみの考え方

––農家さんたちの気持ちを考えると、簡単に捨てる気持ちにはなれないですよね。福渡さんのお話では、生ごみが農地、土に還っていないということも問題だそうですね。

福渡:生ごみ、とくに植物性の生ごみというのは微量元素の宝庫なのです。植物は、光合成をするとともに根から微量元素や水分を吸収して自分の体をつくるので、健康な農作物は微量元素の豊富な農地で育てることが必要なのです。そして、その野菜が吸収した微量元素がまた土に還らなければ、土壌はどんどん痩せていきます。江戸時代では、人のし尿が肥料として重宝されていたぐらいです。健康な農作物を育てるには、野菜くずやし尿、雑草や落ち葉など微量元素を豊富に持つものを堆肥にして、絶えず土壌に施さなければなりません。

しかし、いまではそうした生ごみなど有機物は焼却されてしまい、栄養素や微量元素のサイクルが人のところで断ち切られてしまっています。でも、事業系の生ごみには「食品リサイクル法」という法律があって食品循環資源として資源化することが義務付けされています。

私たちが子どもの頃に食べていたトマトって、いまでも思い出せるぐらいにトマトの香りがプンプンと強かった。でも、いまのトマトはそんなふうに感じない。昔とはかなり違うものを食べてるんじゃないかなって思います。品種が違うのでしょうか?

生井祐介氏(左)と福渡和子氏(右)が話している様子

生井:土や環境が食材に与える影響は大きいですよね。僕が知っている農家でも、土をつくるのに何年とかけて、理想の土になってからようやく作物を育てたりしている。つくり手の性格もすごい出ますね。同じ土や同じ畑でやっても、つくる人が違うと味も変わってくると思います。何ででしょうね(笑)

取り組みという面では、Odeの隣にオープンした「BGM Coffee&Vibes」というカフェでは、業務用の生ごみ処理機を導入しています。大型の機械なのでOdeに置くことは難しかったのですが、カフェのオープンを機に導入しました。

カフェでは、Odeで出た端材を乾燥させてつくった野菜パウダーを、カヌレの生地に練り込んで提供していますね。季節によって使う野菜が違うので、風味も違う。お客様からは好評です。

またOdeのコースでは、乾燥させた葉を最後にお茶として出したりもしています。独特の風味はあるんですが、最後にコースの全部をいただくというか、料理のバックグラウンドがわかるんです。それを楽しんでいるお客様も結構いらっしゃいますね。

堆肥化した野菜を土に還すところまではできていないのですが、焼却させないような取り組みは行っています。別の土地で、コンポスト容器でつくった堆肥を活用した畑をやることも検討していますよ。

––福渡さんはそうした問題の解決手段として「カラット」という生ごみ乾燥容器を開発されていますね。

椅子に乗った生ごみカラット

生ごみカラット

福渡:「生ごみカラット」は、生ごみを入れて風通しのよい所に洗濯物を干すようにぶら下げておくことで、水分を取り、悪臭を低減する容器です。半乾燥させることで、腐敗しにくく堆肥化しやすくなります。焼却する場合も、最近の焼却炉は廃棄物発電装置を備えていますから、水分を取っておくと燃焼エネルギーを効率よく活用できることになります。

もともとはドイツの通気式保管容器を輸入しようとしたのですが、日本の家庭では大きな保管容器を置くことは難しい。そこで、小ぶりなサイズの生ごみカラットをつくりました。

カラットに入った生ごみ

新聞紙を敷いてから生ごみを入れることで、衛生的に使える。ネズミやコバエ対策も施されている

また、排水溝の深い受け皿に生ごみを入れていると水分を吸っちゃうので、受け皿は浅いものを使うとよいです。お茶殻なんかの細かい生ごみを入れておいて溜まったら、基材(土と腐葉土あるいは竹パウダーなど混ぜたもの)を入れたプランターに入れ、基材とよくよく混ぜれば、すぐに堆肥化しますよ。土中の微生物がすぐにエサに食いつけるように、茶殻や細かく刻んだスイカの皮などに基剤をよくまぶし、ときどき酸素を補うために切り返しをしてください。

廃油も堆肥化できます。みなさん新聞紙に吸わせて可燃ごみに出したりされていますが、プランターの基材に少しだけ入れてよく混ぜれば、油かすになって栄養豊富な堆肥になる。お茶殻も抗酸化物質が残っているので、堆肥にすれば大葉やネギにも虫がつきづらくなります。以前はなにもせずに大葉を育てると、虫に食べられて茎だけになっちゃいましたが、お茶殻を堆肥化して使うようにしたら、全然食べられなくなりました。

生井:油を入れてもいいっていうのは衝撃ですね。

福渡:土がベタッとするほど入れてしまうのではなくて、小分けにして土に混ぜていくと、腐敗しません。

カラットの匂いを嗅いでいる生井祐介氏

乾燥させることによって微生物の活動を抑制しているので、匂いも気にならないレベル

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生ごみを減らすための買い物術と料理法 鍵となるのは食材との向き合い方
※掲載している情報は、2021年5月18日時点のものです。

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