古材・古道具と次の持ち主が出会う場所 ReBuilding Center JAPAN

東野唯史さん
ごみゼロの未来に向けて

長野県諏訪市にある「ReBuilding Center Japan」は、古材や古道具を扱うリサイクルショップだ。捨てられる運命にあった古材をレスキューし、次の世代へ受け継いでいくサステナブルな活動とは? そこに込められた想いに迫る。

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2021.01.20

捨てられゆくものに新たな価値を

長野県諏訪市にある「ReBuilding Center Japan」(リビルディング・センター・ジャパン:以下、リビセン)は、古材や古道具を扱うリサイクルショップだ。

アメリカ・ポートランドの本家「ReBuilding Center」に感銘を受けた空間デザイナーの東野唯史(あずの・ただふみ)さんと妻の華南子(かなこ)さんが、2016年9月に立ち上げた。店内にはショールームも兼ねる「カフェ」もあり、リビセンの世界を気軽に体感できる場になっている。

理念に掲げるのは、“REBUILD NEW CULTURE(新しい文化を再構築する)”だ。

「一度は捨てられそうになったものでも、そこに新たな価値を見出してあげられれば、また長く使ってもらえる。古材の販売事業を通じて、古いものが当たり前に再利用されて次の世代に受け継いでいく、そういう文化をつくっていきたいんです」(東野さん)

リビセンのスタッフ9人の集合写真

リビセンのメンバー。前列の右から2番目が代表の東野さん。「買いやすい、行きやすい、開かれた古材屋を目指している」と話す

最寄りのJR上諏訪駅からリビセンまでは、徒歩10分ほど。近所の人はもちろんのこと、ここを目指してわざわざ首都圏から訪れる人も少なくないという。

建築のプロが建材を買い付けに来ることもあるが、リビセンの魅力は本国の店舗と同様、一般にも門戸を広げているところだろう。古材は1本から、トタンは1枚から販売。数百円と手ごろな価格で購入できるものもあるので、DIY好きにはたまらない場所となっている。

いつ、どこで、レスキューしたかひと目でわかる

木材の山

こちらの古材は、諏訪市にあった「昔の海苔屋さん」からレスキューしたもの

リビセンを代表する活動の一つに、“レスキュー”がある。諏訪エリアを中心とする家屋や工場の解体現場や片付けの現場に赴き、不要になった梁や柱、板材といった古材や、食器や調度品といった古道具を引き取る。近場から山梨県・北杜市まで、車で1時間の距離であれば、無料でレスキューに向かう。

レスキューした古材は、スタッフがクギを抜いて、泥やホコリはブラシで掃除をして、製材をして……。古材を陳列する1階のオープンスペースには、整え直された古材がところ狭しと並べられている。

驚くのは、それらほとんどの古材のトレーサビリティが確保されているということ。どの場所のどんな建物で使われていた建材なのか、いつレスキューされたものなのかが、ラベルを見ればひと目でわかるようになっているので、次の使い手も愛着を抱きやすい。

依頼主から引き取った古材や古道具の代金は、3つのうち次のいずれかの方法で支払いされる。1つ目は現金払いで、売値の5~10%程度の価格で買い取る。少額の場合は、2つ目の方法、併設カフェで使えるコーヒーチケットと交換することも可能だ。

最後の3つ目は、引き取った古材を記念品に加工して支払う“ギフト”と呼ぶ方法。「訳あって取り壊すこととなった実家の古材でフレームをつくり、そこで生まれ育った子どもたちに贈る」なんていう買い取り方法も、リビセンならではだ。

食器類がならぶ店内

2階に設置された食器コーナー。どれも1枚、1個から購入できる

2階と3階の古道具売り場では、食器やキッチン雑貨、家具や布ものなどが売られている。商品はそれぞれ種類ごとにまとめられていて、ずらりと食器が並ぶ光景はさながら骨董市のよう。もちろん、これらもすべてレスキュー品。状態の良し悪しにもよるが、リビセンでは、「次の世代にもつなげたいものかどうか」をレスキューの基準としている。

無垢材や鉄のような天然素材ものをメインに、プラスチックやベニヤも状況によって引き取る。ただし、高価なものしかレスキューしないのかといえばそんなことはない。

「スタッフの心が動いて『すてきだな』と思えば、高級品でなくともレスキューしちゃいますね」と創設当時からのメンバー・金野涼子(こんの・りょうこ)さんは笑う。

笑う女性

スタッフにしてリビセンの大ファンを公言する金野さん。「諏訪で一番買い物をしている店はリビセンです」

「次の人につながっていくことこそがレスキュー。誰かに買ってもらわなければ結局ごみになってしまうので、価値の有無だけでなく、“いまの生活に取り入れやすいものかどうか”という軸は一本置くようにしています」(金野さん)

ものに込められた想いを、次の持ち主につなぐ

石鹸

店頭では、30年以上前から地元のおばあちゃんたちが廃油から手づくりしている石けんも販売。現在は製造がおばあちゃんたちからリビセンにバトンタッチした

店内に並ぶ陶器やガラスの食器、小皿の一枚一枚にいたるまで、ほとんどの商品にカルテ番号が振られている。こちらも古材と同様に、どこからレスキューされてきたかを辿ることができるというから驚きだ。

はるばるリビセンを訪ねてくる人たちは、ただ買い物にくるのではなく、ものに宿る“ストーリー”を求める傾向が強い。「いつどこで使われていたものなのか」を尋ねられることも多いため、元の持ち主が書いた「レスキューレター」を古道具に添えるという新たな試みもスタートさせたという。

お皿

直筆のレスキューレターが添えられた食器。持ち主の想いが伝わってくる

どんな時に使っていたものなのか、どんな思い出があるものなのかが、元の持ち主の言葉と文字でしたためてあり、購入した人はリビセン経由で“返事のハガキ”を元の持ち主に送ることもできるという。

「大切に使っていたものだから、まだ使えるのに捨てるのはなんだか心苦しい」という想いを、次の持ち主へつなぐ。諸事情で泣く泣く思い出の品を手放す持ち主の思いも、大切にしてくれる誰かの手に渡るのであれば、きっと報われるはずだ。

古材が生み出す豊かな暮らしをカフェで体現

古材でできたカフェカウンター

味のあるカウンターも床板も、すべて古材でつくられている

DIYが盛んな本国の「ReBuilding Center」にはない“カフェ”を併設しているのも、リビセン独自の形態だ。そこには、「DIYに興味のない人にも、カフェをきっかけに古材や古道具のレスキューのことを知ってもらえたら」という想いが込められている。

カフェで使われているものは、床板もカウンターもテーブルもレスキューした古材でつくられたものばかり。古材置き場をガラス越しに臨む店内で、コーヒーを飲んだり、食事をしたり、買い物をしたり、思い思いに過ごすことができる。

この場所はいわば、リビセンのショールームでもある。訪れた人は、古材が生み出すオシャレな空間を体感することで、「こんなものをつくってみたい」という創作意欲や、「こんな暮らしをしてみたい」という憧れの気持ちをかき立てられる。

りんご

松本市のりんご農園からレスキューしてきた減農薬のリンゴ

店内の物販スペースには雑貨類に混ざって季節の農産物も並ぶが、実はこれらもレスキュー品。たとえば台風で落ちてしまったリンゴや、規格外で出荷のできないブドウ、キウイフルーツといった果物や野菜を、リビセンのスタッフが畑まで出向いてレスキューしている。古材も、農産物も、自分たちの手で助け出したものだからこそ、「次の誰かにつなぎたい」という想いが、一層強まる。

寒い季節は、ロシア式のペチカストーブがカフェをやさしく暖める。燃料は、レスキューはしたものの、破損していて再利用が難しい古材や、製材の時に出た端材などを使う。

ストーブに薪をくべる女性

マイナス10度を下回ることもよくある寒さが厳しい諏訪地域。カフェにあるペチカストーブは伊那市の有賀製材所が制作してくれた

「ペチカストーブがあるおかげで、建材として再利用しづらい小さな古材を、エネルギーとして最後まで有効に使い切ることができるんです。自分たちがレスキューしてきたものを“ごみ”として処分しなければならないのは忍びないので、本当に重宝していますね」(金野さん)

カップ

カフェで販売しているコーヒーは、エコなフタ付きマグでの提供を推奨。マグならコーヒーを飲みながら店内を見て回ることができる

1軒の古材屋が、まちを、人を、暮らしを変える

パン屋の店頭

太養パン店。リビセンの古材を使ってデザインした壁は、麦の穂をイメージしている

リビセンのもう一つの事業に、古材を活用した空間やオリジナル家具をつくるデザインの仕事がある。これは、空間デザイナーである東野さんの専門分野だ。

リビセンを立ち上げてからは、得意とするゲストハウスや飲食店などに加え、雑貨店やシェアオフィス、住宅、社宅など、これまで以上に手がける依頼の幅が広がった。「古いものをただ使うのではなく、いまは環境に対してのアプローチやエネルギーの側面から空間づくりにアプローチをするようになりましたね」と、リビセン創設前との意識の変化を語る東野さん。

現在は、太陽光やバイオマスなどの自然エネルギーを積極的に取り入れ、かつ高断熱なパッシブデザインを古材と併用することで、エネルギーをあまり使わない一層エコな空間づくりを追求している。

オープンから5年目を迎え、リビセンの界隈には、カフェや食堂、ベーカリーなど、リビセンがデザインしたお店が増えてきた。

創業100年を超える地元の老舗ベーカリー「太養パン店」もリビセンの手によって生まれ変わったスポットの一つ。販売形式を陳列式から対面式に切り替え、レトロな内装から古材とタイルを組み合わせたデザインにリノベーションし、小洒落た佇まいに一新した。

「いままでは地元の常連さんが多かったけれど、これまで見なかったような若いカップルの方もたくさん来てくれるようになりました」。社長の奥村透さんの表情も晴れやかだ。

「おもしろい店を増やしていけば、若い人も集まってくるし、まちがどんどん元気になっていくんじゃないですかね。最近では軽トラで荷物を持ち寄るご近所の方も増えてきて、地域に古材リサイクルの文化が浸透し始めたことを実感しています」(東野さん)

リビセンの存在とオシャレな店が増えたことによる相乗効果で、まちにやって来る若者の数が急増しているという諏訪エリア。エシカル消費の精神は、地元住民にも広まりつつある。1軒の古材屋ができたことで、まちの文化や人々の暮らし方は着実に変わり始めている。

ReBuilding Center JAPAN
〒392-0024
長野県諏訪市小和田3-8
定休日:水曜日・木曜日
営業時間:11:00~18:00
http://rebuildingcenter.jp/

文/松井さおり、撮影/古厩志帆、編集/Ayaka Toba、松本麻美(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2021年1月20日時点のものです。

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