2003年、ごみゼロをめざして、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」をしたのは、徳島県の上勝町。その後、福岡県の大木町も宣言をした。ゼロ・ウェイストとは一体、何をめざした、どんな取り組みなのだろうか? ゼロ・ウェイスト・ジャパンの坂野晶さんに聞く。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
坂野晶 Sakano Akira
一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事。兵庫県西宮市出身。4歳でインコと出会い、絶滅危惧種のオウム「カカポ」(ニュージーランドにのみ生息)への思いが高じて環境問題に興味を持つ。大学で環境政策を学び、卒業後、モンゴルのNGO、フィリピンの物流企業などを経て、2015年、徳島県上勝町NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーに参画。2019年世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の共同議長を務める。2020年から現職。
Photo by ©上勝町
現在上勝町で行われているごみの分別の様子
-------ゼロ・ウェイストがめざす社会とは?
坂野 上勝町では2020年までにごみをゼロにする「ゼロ・ウェイスト宣言」を行いました。その理念は、ごみをどう処理するかではなく、ごみを出さない社会をめざす、というものです。すべてのものが無駄にされず、地球・自然から得たものがきちんと「過不足なく循環」している「持続可能」な社会です。
私は2015年からNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーに参画し、「上勝町ゼロ・ウェイストタウン計画」を策定しました。現在、私はNPOを離れましたが、2020年には上勝町は2030年をめざしてゼロ・ウェイスト再宣言を行っています。
-------具体的にはどんな実践だったのですか?
坂野 人口2000人足らずの町に、ごみステーションをつくり、住民のみなさんは、ここで家庭ごみを45分別します。ごみの分別は宣言前から取り組んでいましたが、宣言後にはリユースショップをつくったり、地域内で出る着物や鯉のぼりの生地をリメイクする拠点をつくったりしてきました。
さらに私が参画してからは、ごみの「発生抑制」に取り組み、例えば飲食店向けの「ゼロ・ウェイスト認証制度」を導入し、食品ロスを出さない、地産地消、食材の流通経路や調理の過程でごみの発生抑制に取り組むなど、計8項目で評価、認証し、町内外に広報しました。
ほかにもさまざまな試行錯誤をしてきましたが、上の取り組みに代表されるような努力を経て、リサイクル率は81%に上りました。その一方で、人口が減少しているにも関わらず、ごみ排出量は横ばいでした。ごみゼロをめざすには、元を絶つ、つまり、ごみの発生抑制が重要だったのです。
Photo by v2osk on Unsplash
-------発生抑制の取り組みについて教えてください。
坂野 身近な例としてレジ袋の削減です。分別・リサイクルには積極的なのにレジ袋は無意識にもらってしまう。お店でもあたり前に出していました。レジ袋文化の根深さを感じましたね。そこで、2015年に「ノーレジ袋キャンペーン」を始めました。
このキャンペーンにはポイント制度を導入しました。以前から一部の製品にはごみステーションでごみを分別するとポイントがつく仕組みを導入していましたが、それをレジ袋にも適用し、買い物の際にレジ袋を断ったり、容器を持参したりすればポイントがつくようにしました。発生抑制には、その入り口でのインセンティブが必要だと思ったからです。
-------最近各地で見られるようになってきた「量り売り」についてはどうでしたか?
坂野 上勝は小さな町です。そもそも商店の数は少なく、その多くは個人商店です。昔からお魚屋さんにお皿を持って行けば、その場でさばいて皿鉢料理をつくってくれる、そんな町です。魚のように必要に応じてさばけるものはいいのですが、一方で、大量に仕入れて小分けに売るような商品は、こういう小さな商店には不向きでした。
たとえば醤油はいったん開封すると、一定の期間で販売しないといけませんが、それだけの需要、人口はないわけです。けっきょく、賞味期限が来て廃棄することになり、食品ロスを増やす結果になってしまいます。
そこで私たちは、飲食店に量り売りを持ちかけました。飲食店なら大容量を開封しても使い切れるからです。上勝はゼロ・ウェイスト宣言効果もあって、国内外からの視察、観光、短期滞在客などが増え、レストランやマイクロブルワリーなど飲食店は増えていたのです。ゼロ・ウェイストに理解のあるオーナーも多く、ストックをシェアする範囲で、町民や短期滞在者などに調味料などの量り売りに対応してもらうようにしました。
Photo by Ryan Quintal on Unsplash
-------リサイクルできない物が残ります。ごみゼロは不可能な目標なのでしょうか?
坂野 リサイクル率最大81%までいきましたが、これは、かなり高い数字だと思います。残った2割は、上勝だけではどうしようもできないものです。紙おむつやゴム、皮革、塩ビ製品など、初めからリサイクルができない素材・仕様のものや、リサイクルに回すとかえって大きなコストがかかってしまうようなものです。これには生産段階からの取り組みが不可欠で、上勝のような小さな町にできることには限りがあるのです。
ゼロ・ウェイストは住民だけががんばって達成できるものではなりません。消費者、生産者、行政の三者それぞれが役割を持ち、それを果たしていかなくてはならないものです。
たとえば、製品メーカーは、リサイクルができる製品設計にする、リユース、リペアできる仕組みをつくる。企業がそうした方向に進めるような、行政からインセンティブを与える必要もあるでしょう。大きな制度を変えていく必要があります。
-------リサイクルするコストの問題も残ります。
坂野 おもしろい事例があります。上勝に続いて全国で2番目にゼロ・ウェイスト宣言を行った福岡県三猪郡の大木町の取り組みです。ここは周囲の7つの自治体と共同で焼却炉を所有し、使用していました。ごみを減らしていくために、大木町は当初から、周辺7自治体にも働きかけ、巻き込んでいこうと考えていたようです。
そして大木町は近隣のみやま市、柳川市、筑後市などと連携して廃プラスチック油化工場の建設計画を立てました。企業を誘致し、プラスチックのリサイクルを始めました。7自治体すべてのプラスチックも回収すれば利益も上がりやすい。このようにひとつの町ではできないことも周囲の自治体を巻き込むことで、リサイクル共同体が生まれる可能性を示しています。
国の政策レベルでも、大型焼却炉だけでなく、リサイクル設備にも補助金を出していこうという方向に変わりつつあります。
上勝町や大木町のゼロ・ウェイストの活動を見ると、最後に残るごみをなくすには、自治体や企業だけでなく、国の仕組みの転換が必要だと強く感じます。
次回は、私が2019年に世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)に出席した時の状況を含めて世界の経済界の環境に対する意識、サーキュラー・エコノミーについてお話しします。
取材・構成・執筆/佐藤恵菜 編集/松本麻美(ELEMINIST編集部)
ELEMINIST Recommends