アウティングとは、人のSOGI(性自認、性的指向)を本人の了承を得ずに他の人に暴露すること。2015年、アウティングをきっかけに男子大学生が校内で自死した事件が起き、その言葉の意味とともに世間の注目を集めた。2020年には、厚生労働省がアウティングをパワハラ行為と定めている。
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アウティングとは、LGBTなどのセクシュアルマイノリティであることを、本人の承諾を得ずに、第三者が勝手に他人に言いふらす行為を指す。2015年、アウティングが引き金となり一橋大学の男子学生が自死した事件が起き、同時にこの言葉も世間の注目を集めた。
アウティングはカミングアウトと似た意味に捉えられることもあるが、カミングアウトは当事者が本人の性自認や性的指向を他者に伝えること。「Come out of the closet」(クローゼットから出す)という英語が元になっている言葉で、あくまでも当事者が自分の意思で第三者に告げるか否かを選択する。
一方、本人が公にしていないセクシャリティを暴露するアウティングは、精神的苦痛を与え、その人の居場所を奪うことや、プライバシーの侵害につながり、前述のような事件へと発展しかねない。
例えば、Aさんという男性が、自身を「ゲイである」とBさんに伝えることはカミングアウト。しかし、BさんがAさんの許可なく「Aさん、実はゲイなんだって」と、同じコミュニティ内のCさんやDさんに言いふらす行為がアウティングである。
Aさんからすると、Bさんに寄せていた信頼を裏切られただけでなく、知られたくなかった人にまでセクシャリティが広まってしまう二重のショックを被ることになる。
また、当事者のセクシュアリティを知る第三者が、「カミングアウトしちゃえ」とあおることもアウティングである。軽いノリが、当事者の心を深く傷つけてしまう可能性をはらんでいることを忘れてはならない。
2020年8月にライフネット生命保険が発表したデータ(※1)によると、社会人の職場でのセクシャルマイノリティのカミングアウト率は29.7%ということが、当事者約1万人を対象にした意識調査でわかった。
これは、2017年に行った前回調査より3.8%上昇した数字だが、なかには両親や近しい人にカミングアウトしたものの理解を得られなかったという声もあった。
また同調査では、性的少数者の25.1%が、第三者からアウティングをされた経験を持つという結果に。
厚労省は、「職場におけるダイバーシティ推進事業」の報告書で、「労働者アンケート調査結果」(※2)を発表。
それによると、性的マイノリティの人の多くが、働く上で何らかの困り事があると回答。「プライベートの話をしづらい」「自認するマイノリティと異なるふるまいをしなければいけない」という声が多く見られた。
日本では、セクシュアルマイノリティに対する理解は徐々に進んでいるものの、性的マイノリティが理由で、学校や職場でいじめなど不当な扱いを受けた過去を持つ人も少なくない。就職活動で性的指向をカミングアウトしたところ、面接を打ち切られたという学生も。
周りへの影響やハラスメントの恐れから、なかなかカミングアウトできず、自らの性を偽って過ごしている人は多いのだ。
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セクシャルマイノリティにとって、カミングアウトはとても勇気のいる行為。そして、相手を信頼しているからこそできるもの。しかし、なぜアウティングは起こってしまうのだろうか。そこには、性的少数者への無理解や認知に関する問題がひそんでいる。
個人のセクシャリティは、性や恋愛に限った問題ではなく、人の尊厳やアイデンティティに関わるセンシティブな問題だ。だからこそ、打ち明けられた内容を一人では抱えきれない人や、当事者にとってむしろ良かれと思い、悪意なくアウティングしてしまっている人もいる。
しかし、カミングアウトされた人は偏見を持っていなくとも、伝え聞いた第三者は違うかもしれない。いつ、誰に、どのように伝えるかは、当事者本人が決めることである。
近年では、アウティングが引き起こした事件が表沙汰になったことも影響し、厚生労働省がアウティング行為をパワハラとして定めるなど、変化の兆しが見られる。
2020年6月より、厚労省は「パワハラ防止法」を施工。相手の性的指向や性自認に関する侮辱行為(SOGIハラスメント)はパワハラ行為にあたり、アウティングもパワハラの対象であると定めた。
SOGIハラとアウティングの防止が、パワハラ防止対策の一環として各企業に義務づけられている。また、アウティングした本人は、民事上の不法行為、場合によっては名誉毀損や侮辱罪に該当する可能性もある。
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2015年に起きた「一橋大学アウティング事件」が、この言葉を世間に広めたきっかけと言われている。次のような理由から、事件は起こってしまった。
2015年、当時一橋大学に在学していた男子学生Aさんは、同級生の男子学生Bさんに告白。
告白されたBさんが、SNSグループで「Aさんはゲイである」と暴露したことで、精神的なショックを受けたAさんは、パニック発作を起こすようになり、最終的に校舎から身を投げ自殺してしまったという事件だ。
Aさんは大学のハラスメント相談室に相談したものの、性同一障害のパンフレットを渡されるなど、適切なサポ―トを受けることができなかった。
事件から翌年の2016年、死亡したAさんの遺族は、Bさんと大学の責任を追及して損害賠償を求める民事訴訟を起こしている。遺族とBさんは2018年に和解したと報道されているが、大学側は転落死を予見できなかったとして、東京地裁は2019年2月に遺族側の訴えを棄却。
しかし2020年10月、大学側が公表していない新事実が明らかになり、Aさん遺族は控訴審の判決期日を取り消し、弁論の再開を東京高裁に申し立てた。そして11月25日、控訴審判決がくだされる。
裁判長は「アウティングが人格権やプライバシー権を著しく侵害する許されない行為であるのは明らか」と言及した一方で、一橋大学の安全配慮義務違反は問えないと、遺族側の控訴を棄却。損害賠償請求は認められず、裁判は幕を閉じた。
上記の判決を受け、遺族はそれ以上上告しなかった。一審では触れられなかった「アウティングが不法行為である」という点について、裁判所が認めた形となった今回の判決は、未来に向けて意味があるものだからだ。
世間では「不当な判決である」という反対の声もある一方、「自殺はアウティングが直接の原因ではない」「Bさんも被害者である」などさまざまな声が聞かれ、議論を呼んだ。結果にかかわらず、アウティング行為の危険性を世に知らしめた事件となった。
一橋大学の所在地でもある東京都国立市では、今後アウティングによって傷つく人が増えないよう、「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」を施工。アウティングが禁止されている。
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アウティング以外にも、セクシュアルマイノリティに関する言葉には耳慣れないものが数多いかもしれない。それらについても確認しておこう。
Lesbian(女性同性愛者)、Gay(男性同性愛者)、Bisexual(両性愛者)、Transgender(性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)に加えて、「QIA(クィア)」を加えた呼び方が広まっている。
「ノンバイナリー」とは、自分の性認識に男性か女性かという枠組みをあてはめようとしない考え方。
「シスジェンダー」とは、自分自身が認識している「心の性」と、生まれ持った「体の性」が一致している人のこと。
「クロスドレッサー」とは、生物学的な性別とは異なる装いをする人のこと。
世界各国の男女格差の状況をわかりやすく数値化した「ジェンダーギャップ指数ランキング」。日本は116位と、例年と同様に低い結果になっている。
家事負担のバランス改善に向けたゲーム「FiftyFifty」。家事についての互いの考えを共有しながら「家でのジェンダー平等」を図る狙いだ。
イギリスのヴァージン・アトランティック航空は、性別による制服の着用義務を廃止。ジェンダー・ニュートラルに、自分の個性が輝く制服を選べるようになった。
もし、社会や個人が同性愛者や性的マイノリティに対して正しい知識を持っていたら、一人の命を失う事件にはならなかったかもしれない。
セクシャリティに関係なく、一人ひとりが社会を構築する大切な一員である。少数派を顧みない想像力の欠如は、被害者と加害者という関係性を生み出してしまう危険性を抱えている。
私たちは、責任を持って学び、そして行動していく必要がある。
※1 「LGBT当事者の意識調査」より(ライフネット生命保険の委託を受けて、宝塚大学看護学部の日高庸晴教授が実施)
※2 「令和元年度厚生労働省委託事業職場におけるダイバーシティ推進事業報告書」の「労働者アンケート調査結果」P177
※ 参照サイト
アウティングとは|OUT JAPAN Co.,Ltd.
性的マイノリティの25%がアウティングされた経験を持つことが、調査で明らかになりました|OUT JAPAN Co.,Ltd.
【リリース】LGBTの困難の事例リスト第3版を発表|LGBT法連合会
令和元年度職場におけるダイバーシティ推進事業について|厚生労働省
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