北アルプスの水、と聞くと、清らかな森や豊富な地下水を思い浮かべる人は多いかもしれない。一方で水を守る取り組みは、自然だけでなく人の営みとも深く関わっている。長野県・大町市にある「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」を訪れた。そこでは、工場の水利用に加え、水源となる森、地域との連携、次世代への教育など、流域全体を視野に入れた活動が進められていた。水を使う企業は、その土地の水とどう向き合うのか。サントリーの取り組みを通して、これからの水源保全のあり方を考える。

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エレミニスト編集部
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「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」から見た景色
サントリーにとって、水は事業の根幹にある資源だ。創業者・鳥井信治郎氏が良質な水を求めて蒸留所を建設したように、水にこだわって工場を選定することが同社のDNAであり、現在の天然水事業にも受け継がれている。
1991年に「サントリー 南アルプスの天然水」を発売して以降、阿蘇、奥大山、そして4つ目の水源として選ばれたのが北アルプスだ。2021年に竣工した「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」は、同社の天然水専門工場として稼働している。
サントリーホールディングス サステナビリティ経営推進本部の瀬田玄通氏は、近年の水資源管理について、工場敷地内での取水・排水管理だけでなく、流域全体の水保全を視野に入れる考え方が重要になっていると説明した。
同社が2017年に制定した「水理念」でも、第一に掲げられているのは「水循環を知ること」だ。瀬田氏は、使用する水は「流域と呼ばれるローカルな環境によって成り立っている」とし、その土地の状況理解を重視していると話した。
一方、工場がある大町市にとっても、サントリーの進出は地域の水を見つめ直すきっかけになったという。
大町市役所の下條勉氏は、「なぜサントリーが大町に?」という素朴な疑問から、水資源の可能性に目を向けるようになったと話す。大町市には北アルプスの山々や、仁科三湖とよばれる3つの湖、豊かな森林があり、清らかな水に恵まれている。しかし、地域に暮らす人々にとって水は、長く“当たり前”のことだったのだ。
外から来た企業の視点によって、地域の水が持つ価値を客観的に知ることになった大町市は、その水をどう活かし、どう守っていくかを真剣に考え、さまざまな活動を始めている。
サントリー天然水の森。写真中央は、サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部スペシャリストの市田智之氏
北アルプス信濃の森工場では、工場内外で水資源保全の取り組みが行われている。
工場長の小山泰弘氏は、工場建設の設計コンセプトについて、「未来の子どもたちにも今と同じおいしい天然水を提供したい」という思いがあったと説明した。
サントリーでは、工場の立地選定にあたり専任部署である水科学研究所が水源調査を行う。山間部での調査や観測データ、シミュレーションモデルを組み合わせ、水循環を把握したうえで工場の立地を検討するという。「天然水の森」も、流域の水循環を持続させるように地域の行政と連携して決められる。
工場内では地下水を汲み上げ、ろ過や熱殺菌、無菌充填を経て製品化される。その過程で使う水についても、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の考え方に基づいた省水化を進めている。
たとえば「カスケード利用」では、水質レベルを用途ごとに分け、比較的きれいな洗浄水を回収して設備の冷却水などに再利用する。水を一度使って終わりにするのではなく、必要な場所に応じた水質レベルの水を使うことで、工場内での水使用量を抑えているのだ。
また使用した水の一部は、微生物処理などを経て、きれいな排水と汚泥に分離して河川へ放流される。小山氏は、地域を流れる河川の水と変わらないレベルで河川に返していると説明した。
水源を守る取り組みとしては、「サントリー天然水の森 北アルプス」での森林整備や生物多様性保全も行われている。さらに、地域の間伐材を木質チップとして活用し、工場の熱エネルギーに利用するバイオマス設備も導入している。エネルギーの地産地消だ。
カスケードタンク
こうした工場内での取水・省水・排水管理に加え、水源となる森の整備、地域との連携を含めた活動が、AWS(Alliance for Water Stewardship/持続可能な水利用を評価する国際認証)の取得にもつながっている。
同工場は2025年、AWS認証の最高位「Platinum」を取得した。サントリーは2018年にAWS認証を、2023年に「Platinum」を国内で初めて取得しており、現在、国内で同認証の最高位を取得しているのはサントリーグループのみだという。
小山氏は、流域全体を視野に入れた活動がサントリーグループの強みであり、その活動が認められたと話した。
こうした取り組みは、工場の外にも広がっている。
大町市では、水を軸にした地域づくりに取り組んでいる。そのひとつが、企業や団体、市が連携して進める「信濃大町みずのわプロジェクト」だ。水資源の保全だけではなく、学習旅行の誘致や、地域ブランドの振興にもつなげている。
次世代への教育は重要な取り組みのひとつだ。なかでも、サントリーによる次世代環境教育「水育」出張授業は、子どもたちが地域の水について学ぶ機会となっている。
下條氏によれば、工場見学などを通して、「この水があそこから出てきたんだ」「このペットボトルの水は大町の水なんだね」と話す子どもたちがいるという。また、「この水、ずっと出てくるの?」「なくなっちゃったらどうするの?」といった声も聞かれるそうだ。
蛇口をひねれば水が出る。その当たり前の背景に、大町の水の流れを知る。そうした学びを深めることは、子どもたちが早い時期から水の大切さを知り、将来水を守る人材へと成長する大事な機会だと下條氏は語る。
また大町市では、地下水の保全と利活用を考えるため、市や地下水を利用する企業など産学官が参加する協議会も設立された。北アルプス信濃の森工場の小山氏も副会長として関わっている。
水を守ることは、環境保全だけに留まらず、地域の子どもたちが自分たちの水に誇りを持つことにもつながっていく。
サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場で工場長を務める小山泰弘氏。
水を使う企業にとって、工場の中で節水排水管理を行うことは重要だ。しかし瀬田氏によれば、水の向き合い方は時代とともに変化してきたという。
1970年代は公害対策の時代であり、工場敷地内で取水や排水を管理する「ウォーターマネジメント」が主流だった。その後、工場内だけでは地域の水循環を守りきれないという認識から、流域全体で水資源を守る「ウォーター・スチュワードシップ」の考え方が、2000年以降重要視されるようになった。
そして現在は、気候変動による洪水や渇水に加え、AIなど新たな産業活動によって水の需要が増すことも見据えながら、社会や経済活動そのものの持続可能性を考える「レジリエンスの時代」に入っているという。
瀬田氏の発言で印象に残った部分があった。
「天然水の事業において、工場だけが重要なのではありません。この天然水を涵養する森も含めて工場のようなもので、我々はそれをいただいているにすぎないのです」(瀬田氏)
地下水の涵養や森の保全は、工場だけで完結するものではない。地域とともに取り組み、その輪を広げていくこと。こういった営みそのものが商品の価値につながるとサントリーは考えている。
今回北アルプスで聞いた話は、水を守るとはどういうことなのかを改めて考えさせるものだった。私たちが何気なく手にする一本の水にも、背景にはさまざまな風景や循環があるのだということを忘れずにいたい。
取材協力・写真提供/サントリー 取材・執筆・撮影(一部)/河辺さや香
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