ポストハーベスト農薬とは? 健康への影響と消費者ができる具体的対策

収穫されたフルーツのイメージ

Photo by LuAnn Hunt

ポストハーベスト農薬とは、収穫後の農産物に使用される殺菌剤や防カビ剤の総称だ。食品ロス削減や流通の観点から必要とされる一方で、安全性について懸念されている。本記事では、ポストハーベスト農薬について詳しく解説し、農薬の具体例や健康への影響、食べる際の対策などを紹介する。

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2025.12.17

ポストハーベスト農薬とは

収穫された野菜のイメージ

Photo by Tom Brunberg on Unsplash

ポストハーベスト農薬とは、収穫後の農産物に使用される殺菌剤や防カビ剤の総称である。「ポスト(Post)」は「後」、「ハーベスト(Harvest)」は「収穫」を意味する英語から成り立っており、文字通り収穫後処理を指す用語である。

おもな用途は輸送や保管中の防カビと防虫。海外から輸入される果物や穀物には、倉庫保管中や船便輸送中のカビや腐敗、害虫被害を防止するため、これらの薬剤が散布されるのだ(※1)。

いまポストハーベスト農薬に注目する意義

ポストハーベスト農薬に注目することで、背景にある複数の社会的要因を考えるきっかけになる。

令和6年度データによると、日本の生産額ベース食料自給率は64%で、約4割以上の食品が輸入に依存している(※2)。そして輸入食品の過半数が農産物であり、長距離輸送を前提とした収穫後処理がなされた農産物が私たちの食卓に並ぶのだ(※3)。

また、近年消費者の健康意識の高まりにともなって、食の安全性への関心が高まっている。そんななか、消費者が収穫後に直接散布される薬剤に不安を抱えているのも現状だ。

一方、ポストハーベスト農薬は農産物の消費期間を延ばすことができ、食品ロスの削減に寄与する。世界的に食品ロスが問題視されるなかで、食品安全とロス削減のバランスというSDGsや食の持続可能性の観点からも、ポストハーベスト農薬は注目される。

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ポストハーベスト農薬の具体例

収穫後の農産物に使用される薬剤には、用途や作物によって多様な種類が存在する。ここでは代表的な薬剤とその使用方法について解説する。

代表的な薬剤

カットしたバナナのイメージ

Photo by Eiliv Aceron on Unsplash

野菜や果物を長時間輸送・貯蔵するときには、虫の発生や腐敗、発芽、カビの発生が懸念されるため、ポストハーベスト農薬が使用される。

防カビ剤として使用される農薬の代表例には、みかんを除く柑橘類やバナナに使用される「イマザリル」、柑橘類におもに使用される「オルトフェニルフェノール(OPP)」、あんずや黄桃、柑橘類、キウイ、西洋なし、りんごなど多くの果物に使用される「フルジオキソニル」などがある(※4)。

使用方法と残留の特性

ポストハーベスト農薬の使用方法には、水分の蒸発を防ぎ長期間の鮮度保持を図るワックスへの添加やスプレー散布、浸漬処理などがある。

これらの薬剤はおもに表面付着型であるが、一部は果物の皮に浸透する特性を持つため、単純な水洗いでは完全に除去することが難しい。厚めに皮を剥いたり、野菜は茹でこぼしたりすると、食べる際の残留量を減らすことができる(※5)。

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日本における法制度と表示ルール

日本では、ポストハーベスト農薬に対して独自の法的位置づけと厳格な表示ルールが設けられている

「食品添加物」としての位置づけ

ポストハーベスト農薬は、収穫後の農作物に使用される農薬の総称であるが、日本では農薬としてではなく「食品添加物」として扱われる。食品衛生法において、食品添加物は「食品の製造の過程においてまたは食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用する物」と規定されており、収穫後の農作物に防カビを目的として使用されるポストハーベスト農薬は、この定義に該当するためである。

ポストハーベスト農薬は日本では食品添加物に該当するため、添加物として指定を受けたものしか使用することができない(※1)。

表示義務と対象作物

スーパーに並ぶ柑橘系のイメージ

Photo by Ishaq Robin on Unsplash

現在、食品衛生法施行規則別表第3の規定により、かんきつ類とバナナに防カビ剤を使用した場合、表示が義務づけられている。

ばら売りされる場合は容器包装に表示ができないため、表示義務はないものの「食品衛生法に基づく添加物の表示等について」などに基づき、表示を指導することとされている(※4)。

残留基準と検査体制

ポストハーベストとして使われた場合であっても、収穫前に農薬として使われた場合と同様、残留濃度が基準値以下である必要があり、基準を超える食品は販売が禁止されている。

残留基準は、ADI(許容一日摂取量)に基づいて設定されており、人の健康を損なわないレベルに管理されている。収穫後に使用する特性上、ポストハーベスト農薬は残留量が多くなりやすい傾向にある。残留農薬の検査は、国や自治体による検査が定期的に実施されおり、輸入食品についても検疫所での検査が行われている。

残留基準値は、国内基準と海外基準で違いがある。これは、農薬の使用の可否や使用方法、気候、病害虫の発生状況や栽培実態が国によって異なるためである(※6)。

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健康リスクと科学的知見

残留による健康影響

一部のポストハーベスト農薬には、発がん性や催奇形性など人体への影響が懸念される成分が含まれているとの指摘がある。しかし、残留基準は科学的な評価に基づいて設定されており、この基準値以下であれば消費者の健康への影響は無視できるほど小さいとされている。

具体的な評価方法としては、食品安全委員会が動物実験などの毒性試験結果に基づきリスク評価を実施。さらに、厚生労働省が薬事・食品衛生審議会での審議を経て残留基準を設定している。ただし、長期的な健康影響については未解明な部分もあり、予防的観点から適切な対策を講じることが推奨されている(※6)。

リスク評価の方法と消費者視点の解釈

農薬の安全性評価では、「ADI(Acceptable Daily Intake)」という指標が用いられる。ADIとは、人がある物質を生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量のこと。ADIは動物実験で健康に影響が見られなかった最大の量(無毒性量)を、安全係数で割って算出される。安全係数は、通常100分の1であり、これは動物と人間との差や、子どもなど 影響を受けやすい人と、そうでな い人との個人差を考慮して設定されたものである(※7)。

残留基準は、日本人の食品摂取量データに基づき、食品を通じた農薬の摂取量がADIの80%以内に収まるよう設定される。つまり、基準値ギリギリの農薬が残留した食品を毎日食べ続けても、健康への影響は生じない設計となっているのだ。

そのほか、ARfD(Acute Reference Dose)という急性参照用量の指標も設定されている。これは人がある物質を短時間(24時間以内)に摂取しても健康への悪影響がないと推定される量を示すもので、長期的・短期的どちらの摂取パターンも考慮した安全管理が行われている(※8)。

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消費者ができる具体的対策

洗い方や皮の扱い、調理のコツ

りんごを水でよく洗っているイメージ

Photo by Giorgio Trovato on Unsplash

ポストハーベスト農薬が使用された果物をより安全に食べるための具体的な方法を紹介しよう。

もっとも基本的かつ効果的な方法は、流水でしっかり洗うことだ。多くの農薬は水溶性であるため、流水で30秒以上しっかり洗うことで残留量を減らすことが期待できる。果物のヘタのくぼみ部分はとくに念入りに洗うことが重要だ。

また、農薬の多くは酸性であるため、アルカリ性の重曹水が除去に役立つ。ただし、長時間浸すと栄養素が溶け出すため注意が必要である。2%ほどの濃度の塩水に浸すことも、塩の浸透性により農薬を引き出すことに効果が期待できる。

ポストハーベスト農薬はおもに果物の表皮に付着・浸透するため、皮を剥くことも効果的だ。たとえば、りんごの場合皮を剥くことで農薬除去率は平均88%に達するというデータもあるそうだ。そのほか野菜の場合は、短時間の湯通しも残留農薬の除去に有効である(※5※9)。

購入時のチェックポイント

先述のように、かんきつ類やバナナには防カビ剤使用の表示義務がある。「防カビ剤(イマザリル)」などの表示がある場合、ポストハーベスト農薬が使用されており、表示がなければ使用されていない可能性が高い。

購入時、国産の野菜や果物を選ぶのもおすすめだ。日本国内ではポストハーベスト農薬の使用が禁止されているため、国産の野菜や果物には基本的に使用されていない。輸入果物を購入する場合は、遠距離輸送が必要な産地ほど、ポストハーベスト農薬の使用可能性が高いため、産地や輸入元の表記を確認するといいだろう。

そのほか、オーガニック食品や無農薬食品、さらには有機JASマークなどのオーガニック認証を受けた製品を選ぶのもひとつの方法だ。

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企業・流通・行政の取り組み

ポストハーベスト農薬への対応は、消費者個人の努力だけでなく、企業、流通、行政レベルでも進められている。事例と動向を解説していこう。

輸入事業者・小売の対応

輸入事業者や小売業者は、食品衛生法に基づく残留基準の遵守を徹底している。輸入時には検疫所での検査が実施され、基準を超える農薬が検出された場合は輸入が認められない。検疫所では、輸入届出を受けた後、書類審査を行い、必要に応じて検査命令やモニタリング検査を実施する体制が整備されている(※10)。

国際的な取り組みと輸出国の基準調整

国際的には、コーデックス委員会(FAOとWHOにより設置された政府間機関)が食品の安全性と品質に関する国際基準を策定している。コーデックス基準があるものについては国際基準を考慮し、各国の食品基準はこの国際基準との調和を図るよう推奨されている。日本は1966年よりコーデックス委員会に加盟し、厚生労働省は農林水産省等の関係省庁と協力して、食品の国際基準の策定に貢献している。

また、2003年の食品衛生法改正により、2006年にはポジティブリスト制度が導入された。これにより、残留基準が設定されていない農薬が一定量以上含まれる食品の流通が原則禁止され、管理体制が大幅に強化されたのだ(※11)。

このように、国際的な基準との調和を図りながら、日本独自の食品安全管理体制が構築されている(※12)。

SDGs視点でのポストハーベスト農薬

ポストハーベスト農薬の問題は、SDGsの観点から考えると、複雑なジレンマを内包している。

長距離輸送や長期保管の際にカビや腐敗、害虫被害を防ぐことで、流通過程での廃棄を大幅に減らすことができ食品ロス削減に貢献する側面があるからだ。一方で、化学物質の使用は環境負荷や健康リスクなど食品安全保障の観点から課題が残る。

厳格な残留基準の設定と遵守、より安全な代替技術の開発、消費者への正確な情報提供、そして地産地消の推進などにより、食品ロス削減と食品安全の両立を目指すのが望ましいバランスといえるだろう。

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ポストハーベスト農薬との向き合い方

ポストハーベスト農薬は、食品ロス削減の観点からも、輸入食品の安全な流通に欠かせない技術である。残留農薬などで不安を感じる消費者も少なくないが、購入時にできるだけ安心できる食品を選んだり、食べるときはしっかりと洗浄するなどの対策をとり、上手に向き合っていくことが重要だ。

※掲載している情報は、2025年12月17日時点のものです。

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