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循環型農業とは、化学肥料や農薬の使用量を最低限に抑え、資源を循環させることで環境負荷を軽減する農業システム。本記事では、循環型農業が現在注目されている背景について説明しながら、メリット・デメリットを解説。さらに、日本国内や世界での取り組み具体例を紹介する。
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循環型農業とは、化学肥料や農薬だけに頼らず、一般家庭や畜産業、工場から出る廃棄物を肥料などとして活用し、資源を循環させ、環境負荷軽減を目指す農業システムのこと(※1)。
廃棄物とは、家畜の排せつ物のほか、米ぬかや藁などの農業副産物や食料廃棄物などだ。循環型農業では、家畜の排せつ物を堆肥化して化学肥料の代わりにするほか、廃棄する作物や食物を飼料化するなど、人間をはじめとした生態系の範囲内で農業を回していくことで、環境負荷の少ない農業の実現につながると期待されている。
従来の農業が主に化学肥料や農薬を使っているのに対し、循環型農業は自然の循環を活用して作物を栽培している点に特徴がある。
循環型農業が注目されるようになったのには、社会的・環境的背景がある。代表的な3つを紹介しよう。
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循環型農業が注目される背景としてまず挙げられるのは、環境問題が深刻化するなかで、農業分野においても、より環境によりやさしい方法が求められていることだ。
農業が抱える環境問題のひとつが、化学肥料や農薬の過剰使用による土壌汚染や水質汚染。作物に吸収されなかった分が土壌に残り、それが雨水によって河川へ流れていく。
それだけでなく、土壌に残ることで土の中の微生物が失われ、生態系が崩れてしまう。さらに、土の保水力が落ちるなど、土壌の健康にも影響がでる。また、河川へと流れた農薬によって、人間が摂取する水や作物が汚染される可能性もあるといわれている(※2)。
循環型農業を行い化学肥料や農薬の使用量を抑えることで、土壌汚染、水質汚染といった環境問題の解決が期待されているのだ。
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化学肥料や農薬以外に農業が抱える大きな問題が、残渣や余剰生産物の廃棄だ。イメージしやすいところだと、味に問題はないものの、形が悪かったり、傷がついていたりすることで商品にできない野菜などがこれに含まれる。
持続可能な社会の実現において、このような食糧廃棄をどうやって減らすかが問題視されていることも、循環型農業が注目される背景のひとつだ。
持続可能な農業への国際的な関心の高まりも、循環型農業が注目される理由のひとつ。持続可能な農業とは、一般的に今日のニーズを満たしながら、明日のニーズを犠牲にしないことを意味する。
『世界人口推計2024年版:結果の概要』によると、世界の人口は、今後60年間で増加し、2024年の82億人から2080年代半ばには103億人でピークに達する見込みだという(※3)。
つまりこれは、農業生産者は現在の食料を満たすだけの生産ではなく、将来を見据えて持続可能な農業を行う必要があることを意味している。
化学肥料や農薬の過剰散布は土壌の健康を失う可能性が高く、持続可能な農業とは言い難い。そこで、自然の循環を活用した循環型農業が注目されているのだ。
循環型農業がどのように機能するか、その仕組みと特徴を見ていこう。
循環型農業の仕組みを語る上で重要なのが、資源の循環だ。
資源を循環させて営む農業は、その昔、世界各地で行われていた伝統的な農業システムと重なるものがる。たとえば、収穫後の藁や野菜のくずを家畜の餌にして、その家畜の排せつ物から堆肥をつくる。その堆肥を使って農作物を育てる、を繰り返し循環させることで、廃棄するものを活用することができる上、化学肥料や農薬の使用を最低限に抑えられる(もしくは使わなくて済む)ので、環境にもやさしいのだ。
先述のような伝統的なシステムだけでなく、循環型農業ではさらに広範囲での循環を目指している。
そのひとつが農業副産物などの再利用である。食品廃棄物、稲わらやもみ殻などは、飼料化や堆肥化以外に、メタン発酵によりバイオガスを生成(メタン化)し、電気・熱にエネルギー利用する取り組みが進められている(※4)。
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畜産と農業の連携も、循環型農業を語る上で欠かせない。
家畜を飼い養う上で、必ず生じるのが家畜から糞尿などの排せつ物。その排せつ物を堆肥化し、その堆肥を農業に使うことで、農地の生産力を高めることができる。
そしてその堆肥を使って育てられた栄養価が高い作物で家畜の飼料をつくり、健康な家畜を育てていく。このような循環が、理想とされる持続可能な農業の姿のひとつである(※5)。
ここからは、循環型農業のメリットを解説していく。
代表的な循環型農業のメリットのひとつが、環境負荷の軽減だ。
循環型農業の仕組みと特徴で説明したように、循環型農業では収穫後の藁や野菜のくず、食品廃棄物、生ごみ、家畜の糞などを広範囲で循環させている。通常はそのまま捨てることが多いものを活用することで、廃棄物削減につながるのだ。
また、廃棄物を削減することで、処分する際に発生する温室効果ガスも削減することができる。
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循環型農業では、自然の資源を活用して、化学肥料や農薬をできるだけ使わない農業を目指している。
化学肥料や農薬の使用量を抑えることで、土壌を豊かにし、生物多様性の損失も抑制することができる。それによって、土壌の質が向上し、持続可能な農業の実現につながっていくのだ。
循環型農業では、自農場内で発生する藁や野菜のくずを堆肥化して活用するので、化学肥料の購入費用を削減することができる。
また、農薬の使用もできるだけ抑えるため、農薬代の削減にもつながり、農業コストの削減が期待できる。
広範囲での循環を目指す循環型農業において、地域全体での協力が必要不可欠だ。
農業を起点にさまざまな分野で連携をしながら、地域の資源を最大限に活用することによって、地域内での経済循環が生まれていく。地元の農産物の消費拡大だけでなく、地域の新たなブランド商品の開発などにもつながり、地域経済の活性化に大きく貢献することが期待されている。
メリットを理解したところで、循環型農業が抱える課題やデメリットも見ていこう。
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まず課題となるのが、導入コストの高さだ。
ある程度の規模で循環型農業を行う場合には、初期費用が高くつく上、生ごみや家畜の糞を堆肥化する施設や、バイオマスエネルギーを利用する場合には専用設備を整える必要がある。
循環型農業を行う場合には、環境負荷や特殊な栽培手法についてなど従来の農業とは異なる専門的な知識が求められる。
科学的根拠に基づいた正しい知識のほか、その地域の伝統農業について、有機物の分解や堆肥化、資源の再利用などに関する知識など、さまざまな知識と技術の取得が必要となる。
循環型農業では、化学肥料や農薬などをできるだけ用いず、環境負荷軽減や土壌の健康状態などを重視するため、生産体系や生産量を安定させられるまでには、数年を要することもある。
また、化学肥料や農薬などをできるだけ使わない分、これらで抑えていたリスクや作業に必要な労力が増えるのもデメリットといえる。
ここからは、日本国内で実際に行われている循環型農業の事例を紹介していく。
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埼玉県のJA榛沢では、JA全農さいたまのブランドである「菜色美人」の認証を受けた平成2年以降、管内のすべてのブロッコリー農家が、肉用牛肥育農家から提供される堆肥を利用した生産を行っている。
この取り組みによって、ブロッコリー農家にとっては堆肥の投入でほ場の水はけが良くなり、甘みが増すなど、ブロッコリーの品質が向上する上、畜産農家にとっても堆肥の販売で糞尿の処理コストを賄えるというメリットが生まれているそうだ(※6)
さとうきび産地である鹿児島県の奄美大島では、製糖過程で発生する副産物を活用した資源循環型農業を実践している。
さとうきびから砂糖を製造する際には、さとうきびの収穫残渣や絞りかす、絞りかすの燃えカス、製糖過程で発生する不純物など、さまざまな副産物が発生する。
これらの副産物と肉用子牛の飼育が盛んな奄美大島の牛糞などを混ぜ合わせて堆肥を製造。さとうきび生産者はもちろんのこと、野菜や果樹の生産者に販売している(※6)。
2020年7月、NTT東日本はパートナー企業との共同出資を行い、「株式会社ビオストック」を設立した。
地域の畜産・酪農・養豚業の「長時間労働・担い手の不足」や「糞尿処理負担の増加」、「悪臭・水質汚染」などの課題に対して、バイオガスプラントの導入を進め、適切に廃棄物の処理を実施。処理過程で生み出されるクリーンエネルギー(バイオガス)を活用した「地域循 環型エコシステムの構築」に取り組んでいる(※7)。
導入コストがかかったり、生産が安定するまで時間を要したりと、難しい点がある循環型農業。しかし、環境問題の深刻な現状や、従来の農業における問題点を考えれば、循環型農業が持続可能な未来のためにどれだけ重要かわかるだろう。消費者側は、まずその重要性を理解して、循環型農業に関わる製品や企業、農作物を積極的に選ぶなど、できる方法で応援の気持ちを示していくことが大切だ。
※1 循環型農業って一体なに?!|共和化工株式会社
※2 農薬のメリット・デメリットを理解する!安全性と問題点の視点から|農家とスマート農業・アグリテック企業のマッチングを図る深谷DEEP VALLEY
※3 世界の人口は今世紀中にピークを迎える、と国連が予測|国連広報センター
※4 食品廃棄物のメタン化に取り組んでみませんか?|農林水産省
※5 広報誌「NARO」|農研機構
※6 ”資源循環型農業”ってなあに?|農畜産業振興機構
※7 地域産業の課題解決を通じた持続可能な循環型社会の実現|NTT東日本
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