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医療や食品、エネルギー分野への広がりが期待される「バイオファウンドリ」。このバイオファウンドリとはどのようなものなのだろうか。またメリットや課題、主要なバイオファウンドリ企業について紹介する。
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バイオファウンドリとは、生物学やバイオテクノロジーを活用して、化学物質、材料、エネルギー、医薬品などの生産プロセスを自動化・効率化するための技術パッケージのことを指す。バイオファウンドリにより、省エネルギー・抵コストでの微生物物質生産や、原料を化石資源に依存せずにものづくりができるなどの可能性が高まることから注目されている。(※1)
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バイオファウンドリは、「バイオものづくり」の高度化、実用化、産業化を支える生産システムとして注目を集めている。このバイオものづくりとは、生物の力を活用し、物質を生産する手法のことで、現在では最先端の遺伝子工学やゲノム編集技術などが用いられている。(※1、※2)
まずは、バイオものづくりの流れを把握しよう。これは「事業開発」「スマートセル創出」「スマートセルによる目的物質の生産プロセス」「目的物質(原料)の生産」「製品開発・製造・販売」という流れで行われるのが一般的だ。
この工程のなかで、バイオファウンドリのおもな担当領域が「スマートセル創出(遺伝子を操作し有用物質の生産能力を高めた微生物細胞のこと)」である。また「スマートセルによる目的物質の生産プロセス」「目的物質(原料)の生産」を請け負うケースもある。(※3)
スマートセルとは、遺伝子を操作し有用物質の生産能力を高めた微生物細胞のことを指す。このスマートセルを創出する手順は「目的物質に応じて宿主にする微生物を選ぶ」「AI技術などを用いて微生物を設計する」「設計した微生物に基づいてDNA合成技術やDNA導入技術を用いて遺伝子操作をする」となる。この手順により微生物の細胞内に代謝経路が再構築され、細胞が生産される機能が備わるようになる。(※3)
バイオファウンドリに活用される技術が、次世代シーケンサーやAIである。次世代シーケンサーとは、DNAやRNAの塩基配列を高速かつ大量に解読する装置だ。これによりゲノム解析のコスト低下や時間短縮につながり、バイオ資源情報の蓄積量、スピードに貢献している。
またAIによるディープラーニングなどによって、膨大なデータからどのデータを読み込ませるか、解析結果をどう活かすか、ゲノム配列が示す意味の解明などに活用されている。(※4、※5)
生物機能のデザインには、CRISPR/Cas9などのゲノム編集技術が使われている。このCRISPR/Cas9は、2020年にノーベル化学賞を受賞した技術で、ゲノム編集のハードルが下がった。また塩基のブロックからDNAを合成する技術により、DNA合成コストの低下も実現している。(※5)
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バイオファウンドリが応用されると考えられる、バイオものづくりの主な分野を解説する。
バイオ医薬品の開発や製造工程の効率化に、バイオファウンドリは活用できる。(※5)
細胞性食品は、動物の細胞に直接アミノ酸やグルコースなどの栄養を与えて増やすことで、比較的少ない資源での生産ができる。細胞性食品である培養肉や、代替タンパク質の開発・製造にバイオファウンドリは役立つ。(※5)
化石燃料に依存せず、生物由来の方法で化学物質を生産できる。なかでも注目されているのが生分解性バイオプラスチックだ。この生分解性バイオプラスチックの創出にも、バイオファウンドリが活用できる。(※5)
石油資源を使わない、植物や微生物由来のバイオ燃料を製造する際にもバイオファウンドリが活用できる。(※5)
植物由来の原料を用いて、微生物が産出する高機能素材もある。こういった高機能素材の開発、製造にもバイオファウンドリが活用できる。(※5)
化粧品の素材や機能性食品などの開発、製造、バイオファウンドリが応用できる。(※6)
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バイオファウンドリの技術がもたらすメリットについて解説する。
AIやITなどのデジタル技術、ロボット工学、合成生物学の技術などを活用することで、省エネルギーで原料を化学資源に依存しないものづくりが実現できる。(※1)
天然物であれば微量しか得られなかった物質が、微生物を使うことによって大量生産できるのも、バイオファウンドリがもたらすメリットだ。(※3)
自社でスマートセルの開発をおこなっていたメーカーなら、バイオファウンドリに委託することで開発コストの削減が期待できる。(※3)
バイオファウンドリを核としたスタートアップや新規事業の創出、地元の原料や労働力を活用した新産業の展開なども考えられる。
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バイオファウンドリにはメリットがある一方で、課題もある。
商用化するには、研究室レベルのスケール(100μL~100mL)から商用可能なスケール(1000L~10万L)へ、スケールアップが必要となる。このスケールアップは段階を踏んで行われるため、その都度設備が必要となり費用がかかる。(※3)
スケールアップの際には、培養環境が変わってしまう。そうすると微生物の生産能力が低下することから、最適な培養条件を見直さなければならないのも課題である。(※3)
大量生産でき、なおかつ商用化に適した微生物を開発するにはコストがかかるのもネックだ。また、前述したスケールアップが成功しなければ先には進めず、微生物改良からやり直す場合もあり、膨大な時間を要することになってしまう。(※3)
遺伝子改変生物が環境に漏れた場合の影響や、意図せぬ生物的リスクへの対策が必要となる。
安全性評価・製品表示ルールの策定、技術の標準化も課題のひとつといえる。(※7)
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日揮ホールディングスと株式会社バッカス・バイオイノベーションは、共同で「統合型バイオファウンドリ®」事業を推進している。これは両社が保有する技術を統合し、将来市場の拡大が見込まれるバイオものづくりに向け、微生物の開発・改良からスケールアップ、生産プロセスの開発までをワンストップで手がけることを指す。
従来のバイオファウンドリ機能に加え、生産プロセスを開発する機能も併せ持つ統合型バイオファウンドリ®により、微生物開発の膨大な時間や費用を縮小でき、バイオものづくりの社会実装を加速できると注目されている。(※3、※8)
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国内外にはさまざまなバイオファウンドリ企業が存在する。どんな企業があるのか紹介しよう。
「Bucchus Bio innovation」は、2020年3月に創業した神戸大学発のスタートアップ企業だ。顧客のニーズに合った最終製品や企画をもとに立案し、バイオファウンドリによってハイスピードで商業化までを実現する「統合型バイオファウンドリ事業®」を行っている。(※9)
「Logomix」は2019年7月に設立された、バクテリア、酵母、動物培養細胞、ヒト幹細胞などの生物種の細胞や細胞システムを機能改変する合成生物ベンチャー企業である。ゲノムの大規模構築技術「Geno-Writing™」を活用し、パートナー企業のニーズに合った合成生物学的ソリューションを提供している。(※10)
「Green Earth Institute」は2011年9月創業の、石油化学由来ではないグリーン化学品をつくる企業だ。同社は、千葉県茂原市にバイオファウンドリ研究所を建設。ここにはスマートセルをスケールアップして検証できる設備があり、バイオ生産実証を行う企業・大学・研究機関などへ製品実用化の橋渡しを目指している。(※11、※12)
海外にも、バイオファウンドリ企業が存在する。ここでは3社のバイオファウンドリ企業を紹介しよう。
「Gingko Bioworks(ギンコ・バイオワークス)」はアメリカ・マサチューセッツ州にある、細胞プログラミング業界のリーディングカンパニーだ。食品、農業、医薬品、特殊化学品などさまざまな顧客の課題を解決するため、プラットフォーム・サービスを提供している。今後は日本の企業である双日株式会社と共同で、日本国内にてGinkgoの合成生物学分野における研究開発サービス(バイオファウンドリサービス)を展開する予定だ。(※13、※14)
カリフォルニア州にある「Amyris(アミリス)」は、2003年に設立されたバイオ分野の先端技術開発企業だ。酵母菌株を遺伝子操作し、植物の基本的な糖を炭化水素分子に変換する技術を開拓。香料、化粧品、プラスチック添加剤、ディーゼル燃料などに展開されている。(※15、※16)
「Zymergen(ザイマーゲン)」は、2013年に設立されたアメリカ・カリフォルニア州に本社を置くバイオテクノロジー企業だ。高度な分子生物学ツール、ロボットによる自動化、特許取得済みの計算・分析物に基づき、微生物の設計、構築、試験方法などを行っていた。2022年7月に Gingko Bioworksに買収された。(※17、※18)
バイオファウンドリは、バイオものづくりを支える技術パッケージである。これからのバイオものづくりによる製品の市場投入、産業化にはなくてはならない存在といえるだろう。
※1 バイオものづくりを加速させる関西のバイオファウンドリ|近畿経済産業局
※2 特集 実用化への歩み、着々 バイオものづくり拠点ととのう!|focus NEDO
※3 「バイオファウンドリ」とは?定義・役割・メリットなど基礎知識を解説|サステナビリティ ハブ
※4 生物化学産業に係る国内外動向調査|経済産業省
※5 バイオものづくり革命の実現|経済産業省
※6 我が国におけるバイオものづくりの産業化に向けて|日本政策投資銀行
※7 バイオものづくり革命の実現|経済産業省
※8 拡大するバイオものづくりに向けた「統合型バイオファウンドリ®」事業を共同で推進|PR TIMES
※9 Bucchus Bio innovation|Bucchus Bio innovation
※10 Company|Logomix
※11 Green Earth Instituteとは|Green Earth Institute
※12 千葉県茂原市にNEDOバイオファウンドリ拠点が完成、本格始動|NEDO
※13 Our Story|Gingko Bioworks
※14 双日とGinkgo Bioworks、合成生物学の研究開発サービスを日本で共同展開|双日
※15 About us|amyris
※16 新規バイオ系液状ゴムの開発を加速|クラレ
※17 zymergen|モレキュラーデバイス
※18 米Ginkgo社が同業の米Zymergen社を410億円で買収、バイオリファイナリー技術を強化|日経バイオテク
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