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環境にやさしい燃料として注目を集めている「バイオエタノール」。カーボンニュートラル達成が期待されるバイオエタノールとはどのようなものか。注目される背景や普及の現状、メリット・デメリット、活用事例について説明する。
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バイオエタノールとは、サトウキビやトウモロコシ、小麦、廃木材などのバイオマスから製造されたエタノールのことを指す。環境省が設置したエコ燃料利用推進会議のバイオエタノールの定義は、「サトウキビやトウモロコシなど農作物や木材・古紙等のセルロース系バイオマスといった植物由来の多糖からつくられる液体アルコール」である。
なおバイオ燃料はバイオエタノールの一種で、バイオマスから生成される燃料だ。(※1、※2)
現在、世界中で喫緊の課題となっているのが地球温暖化対策だ。バイオエタノールは、農作物や廃木材から製造できることや、化石燃料にくらべてライフサイクルにおけるCO2排出量が少ないという特徴があり、エコ燃料として注目を集めている。(※1、※2)
バイオエタノールは、おもに自動車、飛行機、船舶などの燃料や火力発電に使われている。(※3)
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バイオエタノールはどのようにしてできるのだろうか。ここでは、原料と製造方法について解説する。
バイオエタノールの主な原料は、トウモロコシやサツマイモ、ムギ、タピオカなどのデンプン質原料と、サトウキビやテンサイなどの糖質原料、木質バイオマスや稲わらのセルロース系原料がある。また食品廃棄物や建築廃木材、風倒木などを原料としたバイオエタノール生産の実証試験も進められている。(※2、※4)
サトウキビなどの糖質原料の場合、砂糖生産の副産物として発生する糖蜜にふくまれる糖分を発酵させる。発酵後、蒸留、脱水処理を行い、エタノールの濃度を高める。(※1、4)
木質バイオマスや稲わらなどのセルロース系原料の場合は、製造方法が異なる。原料を粉砕し、酵素や硫酸を使ってでんぷんやセルロースなどを糖に分解(糖化)する。それから発酵させ、蒸留、脱水処理を行いエタノールの濃度を高める。
セルロース系原料からのバイオエタノールの製造は、糖化する工程に技術的なハードルが高くコストもかかるため、技術開発の向上が期待されている。(※1、4)
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バイオエタノールにはどのようなメリットがあるのか解説する。
バイオエタノールを燃焼させるとCO2が排出されるが、バイオエタノールのおもな原料が植物であるため、植物が成長する過程でCO2を吸収する。ライフサイクル全体の炭素循環で見ると、化石燃料よりもCO2の排出量削減効果があり、地球温暖化の防止につながる。(※5)
バイオエタノールは、トウモロコシ、サトウキビ、木材廃材、食品廃棄物など、再生可能なバイオマス資源からつくられる。そのため原料が枯渇する心配が少なく、化石燃料に依存しないエネルギー供給が可能となる。(※3)
原料に麦わらやトウモロコシの茎や葉、草といった農業廃棄物や非食用作物を活用できる。これにより、廃棄物を効率的に燃料化が可能で、燃料コストの低減や環境負荷のさらなる軽減が期待される。(※6)
バイオエタノールは農作物をおもな原料とすることから、原料の枯渇の心配がない。また毎年生産可能であるため、安定した供給が可能だ。エネルギーの持続可能性を確保できるため、将来的なエネルギー危機への対策として期待されている。
農作物をおもな原料とするため、農村地域の雇用機会を創出し、経済の活性化にも貢献する。また、農業の付加価値を高める効果が期待できる。(※3)
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バイオエタノールにはメリットがある一方で、デメリットや課題もある。どのようなものがあるのか見てみよう。
バイオエタノールの主要原料であるトウモロコシやサトウキビは、食料としても利用される。そのため、バイオエタノールへの利用が進むと食料価格の上昇や供給に影響を与える懸念がある。(※2)
バイオエタノールの製造には、多くの資源やエネルギーが必要となる。そのため、コストが高くなるのがデメリットといえる。(※8)また輸送、流通コストが高いのも課題であり、これが普及の妨げとなっている。
バイオエタノールは化石燃料に比べ環境負荷が低いとはいえ、生産時にはやはりエネルギーを消費する。原料の農作物の栽培にかかるエネルギー、製造工程でのエネルギー、輸送エネルギーなどが該当する。(※9)
バイオエタノールの作物栽培や製造過程では、多量の水が必要となる。そのため水資源の枯渇が、水資源が限られた地域で深刻な問題となる。
また原料となる農作物をつくるためには、広大な土地を必要とする。農地が燃料用作物の栽培に転用されれば、農業生産への影響や森林破壊のリスクがある。(※9)
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バイオエタノールはどのように活用されているのか。事例を紹介しよう。
バイオエタノールは、自動車の混合燃料として利用されている。バイオエタノールを10%混合したガソリンを「E10」、3%混合したガソリンを「E3」と呼んでいる。アメリカではE10燃料が広く普及しており、日本では、通常のガソリン自動車でE3の利用が認められている。(※2、※10)
バイオエタノールを燃焼させて発電に利用することも可能だ。バイオエタノール発電の例としては、日立製作所が低濃度バイオエタノールと排熱を利用した高効率なエンジン技術を開発。また日産自動車は、バイオエタノール(ソルガムバイオエタノール)を採用した定置型発電システムを開発している。(※11、※12)
バイオエタノールを原料として航空燃料に加工する技術が開発されている。航空業界は温室効果ガス削減を求められているため、SAF(持続可能な航空燃料)はその重要な解決策となる。(※13)
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日本におけるバイオエタノールの導入目標は、エネルギー供給構造高度化法に基づき、石油精製事業者に対して原油換算で年間50万kLが設定されている。2017年度の導入量は輸入量の38.3万kLのみで、2016年度の自給率は0.1%であった。(※14)
今後の普及に向けては、次のような課題が挙げられる。まずはガソリンより割高傾向にあるバイオエタノールの価格を抑えること。そして製造・供給インフラの整備、バイオエタノール自給率のアップ、セルロースや廃棄物などを活用した次世代バイオエタノールの技術開発が必要となる。これらの課題を解決するためにも、さらなる技術開発が期待される。(※3)
バイオエタノールは、CO2の削減、再生可能なエネルギー資源、経済的効果など多くのメリットをもつ次世代の燃料である。化石燃料の代替として注目される一方で、食糧生産との競合や生産コストなどの課題も抱えている。今後はさらなる技術開発によって、普及が広がることだろう。
※1 国産バイオエタノールの普及に向けて―沖縄での取り組みを中心に― |国立国会図書館
※2 環境技術解説 バイオエタノール|国立環境研究所 環境情報メディア 環境展望台
※3 バイオエタノールとは?導入するメリットや普及の現状と問題点を解説|MITSUI & CO., LTD.
※4 国産バイオ燃料の現状と今後の展開方向|農林水産省
※5 バイオエタノールとは?メリット・デメリットや日本の現状を解説|EverGreen
※6 バイオエタノールの研究動向と今後の展望|J-Stage
※7 バイオ燃料の現状分析と将来展望|国際環境経済研究所
※8 バイオエタノールとは?特徴&メリット・デメリットを徹底解説|IESAUNA
※9 バイオエタノールとは?市場の展望と問題点を深掘り|CARBON MEDIA
※10 米国がバイオ燃料を選ぶワケ|日経XTECH
※11 40%の低濃度バイオエタノールを用いた発電システムを試作|日立製作所
※12 日産自動車、バイオエタノールを使用して発電する定置型発電システムのトライアル運用を開始|日産自動車
※13 資源・燃料政策の現状と今後の方向性|経済産業省
※14 わが国のバイオエタノール導入の状況と課題|一般社団法人 日本エネルギー経済研究所
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