エシカルでサステナブルなライフスタイルを送る人に、一歩を踏み出すヒントを紹介していただくインタビュー連載企画「ELEMINIST TALK」。今回は、ハワイのNPO団体「Sustainable Coastlines Hawaii(SCH、サステナブル・コーストラインズ・ハワイ)」のメンバーとして活動を続ける来迎秀紀(きむかいひでき)さんに、ハワイでの暮らしを通じて感じる環境問題や、SCHで取り組む活動についてお話を伺いました。
ELEMINIST Editor
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15歳の頃から約20年間をアメリカ東海岸で過ごし、結婚を機にハワイへ移住。2013年にハワイのNPO団体「サステナブル・コーストラインズ・ハワイ(以下SCH)」に出合い、コアメンバーとして10年以上にわたって活動を続けてきた来迎秀紀さん。
現在は、オアフ島で多数の清掃活動を企画・実行し、ハワイ各地の学校などで環境保護に関する啓もう活動を英語と日本語で行うなど、積極的に環境保護・意識改革の活動を行っている。また、趣味のサーフィンも、自身の環境問題に対する意識を変化させる一つのきっかけだったという。
サステナブル・コーストラインズ・ハワイでの清掃活動
————環境問題やサステナブルな取り組みに興味を持つきっかけは何だったのでしょうか?
きっかけは、サーフィンとの出合いですね。静岡で生まれ育った僕にとって、自然はいつも身近な存在でした。でも、正直なところ、それに対して特別な意識を持ってはいませんでした。
15歳の頃に、アメリカ・コネチカット州の高校に留学して、その後フロリダの大学に進学しました。アメリカでの生活の合間に日本へ一時帰国した際、友人に誘われて初めてサーフィンを体験したんですが、それが自然との関わりを深める第一歩になりました。
その後、コネチカット州に戻り、波を求めて隣のロードアイランド州に通うようになります。でも、寒い気候の影響でサーフィンを思う存分楽しむのが難しかったので、より温暖なフロリダ州に引っ越すことに。フロリダでもサーフィンを続けるなかで、波に乗るたびに、自然の美しさや力強さを感じるようになり、しだいに環境への関心が芽生えていったんです。
フロリダ在住時、東日本大震災のコミュニティ募金イベントを行ったそう。
————その後、ハワイに移住されたんですよね。ハワイへの移住が、環境問題への意識をさらに高める転機になったのでしょうか?
そうですね。2013年に、結婚を機にハワイに移住しました。当時妻が働いていた職場のマネージャーがSCHのコアメンバーだったというご縁で、初めてビーチクリーンの活動に参加することになったんです。
最初に訪れたのは、オアフ島北部のカフクビーチという場所でした。ここは、漂流ごみが大量に流れ着くことで有名なビーチなんです。その光景を目の当たりにしたとき、「こんなに美しい自然が、こんなにも汚されているのか」と強い衝撃を受けました。その経験が、環境問題に対する意識を変え、SCHの活動に本格的に関わるきっかけとなりました。
このときの清掃活動は、海から少し離れた山あい。だが、川の水にのってごみが海まで運ばれていく。
————サーフィンを通じて自然と向き合うなかで、日々どのようなことを感じていますか?
サーフィンをしていると、自然が私たちに与えてくれる恩恵を強く感じます。波に乗る瞬間って、自然と一体になるような感覚があるんですよね。でも、その海がごみで汚れるたびに、本当に心が痛みます。
フロリダでもサーフィン後にワンハンドクリーン(ビーチを訪れたときに片手で拾えるごみを持って帰る活動)を心がけていましたが、ごみの量が比較的少なく、ビーチはきれいな状態が保たれていました。
ハワイに来て驚いたのは、桁違いのごみの多さです。とくに雨が降った後の川や海岸を見ると、ごみ問題の深刻さを感じます。
この間は過去最大とも言われる大雨があって、ハワイ州から「ブラウン・ウォーター注意報」が発令されました。これは、雨で溢れた下水やマンホールからの汚水が川などに流れ込み、運河などが茶色に濁る状態について注意を呼びかけるもの。バクテリアが多くいるため、誤ってその水に入ると傷口が化膿したり、最悪の場合、命を落としたりすることもあるんです。
雨は本来、恵みをもたらすものなのに、それが汚染の原因になるなんて悲しいですよね。こうした現実を目にすると、クリーンアップ活動の必要性を改めて感じます。
缶、ペットボトルなどのごみが多い。
————オアフ島のごみ問題については、東海岸と南海岸で違いがあると耳にします。
東海岸には、北太平洋から長年かけて流れ着いた海洋漂流ごみが積もっています。これは、太平洋ごみベルトや貿易風、海流など、自然の力が大きく関係しています。一方、南海岸では、観光客が残した使い捨てプラスチックが放置されることが多く、それが風や雨によってマイクロプラスチックに変わることで、問題が深刻化しています。
とくにハワイでは、自然と文化が深く結びついているので、問題は一層デリケートです。例えば、亡くなった先祖の骨を大地に埋葬する文化があるんですが、災害でそれが露出してしまうことがあるんです。骨には力が宿るとされているので、これはすごくセンシティブな話です。他にも、島の沿岸部が浸食されるなど、島国特有の課題も肌で感じていますね。
「サステナブル・コーストラインズ・ハワイ」の清掃活動は、数百人規模で行われることもある。
————ハワイで起きている環境課題に取り組む「サステナブル・コーストラインズ・ハワイ(SCH)」の活動には、どのような思いが込められていますか?
ハワイでは、同じビーチで何度も大量の漂流ごみを見ることがあります。この繰り返しを見るたびに、クリーンアップ活動の重要性を痛感します。そして、そもそもごみを出さないと、人々に意識を持ってもらうことが大切です。
そこで、僕たちは「教育」を重要視していて、ケイキ(子ども)からクプナ(年配の方)まで、学校での授業やイベントを通じて行動変容を促しています。
この教育活動は、「Connect(自然とのつながり)」、「Disconnect(自然との断絶)」、「Reconnect(自然と再びつながるアクション)」という3つのテーマを基に進めています。
かつて人々は自然と深く結びついていましたが、現代ではそのつながりが失われつつあります。僕たちの目標は、自然とのつながりを再び取り戻す手助けをすること。その結果、少しずつ人々の意識や行動が変わり、最終的には一人ひとりの変化が社会全体に波及するような、持続可能な未来を目指して活動を続けています。
自転車などの大型のごみが捨てられていることも少なくない。
————教育活動では、具体的にどのような取り組みを行っていますか?
活動の一つに「リラーニング・クリーンアップ(ReLearning clean up)」があります。これは、単なるごみ拾いではなく、参加者が学びを得る場としてのクリーンアップです。例えば、学校の授業の一環として子どもたちに参加してもらい、自然の大切さを実感してもらう取り組みを行っています。
また、ハワイの生態系を守り再生するために、原生植物を植え直す「リジェネラティブ(再生型)」の活動にも力を入れています。地元の団体や学生と連携して、ハワイの先住民が長年守ってきた原生林を復元するプログラムを通じて、自然と文化を次世代へとつなげる意識を育む手伝いをしている。
さらに、地域コミュニティを巻き込む形で大規模なクリーンアップイベントやフェスティバルも開催しています。これらのイベントでは、楽しみながら学べる体験を提供して、多くの人に参加してもらえる仕かけをつくっています。
そして、大規模イベントでのごみ分別プログラムも行っています。ここでは、ただごみを分別するのでなく、「ごみを分別することが環境にどう貢献するのか?」を理解してもらうことが軸となっています。分別された有機ごみが堆肥となり、大地を育む資源に変わる仕組みを伝えたいという思いから生まれた取り組みです。
ハワイでは映画やサーフィンの大会といった大規模イベントが頻繁に行われるので、こうした機会を活用しています。例えば、アスリートの食事で出たごみを適切に分別し、再利用につなげる取り組みもその一環です。こうした地道な活動を通じて、人々に“捨てる”という意識を変えてもらい、サステナブルな未来を一緒に築いていきたいと考えています。
清掃活動中に、地域の人から「サンキュー!」と声をかけられることも多いという。
————SCHの活動が始まって14年、コミュニティにはどのような変化がありましたか?
活動の規模は着実に大きくなっています。ボランティアとして参加してくださる人数が増えたこともそうですが、それ以上に嬉しいのは、コミュニティの人々が自発的に声をかけてくれたり、行動を起こしたりしてくれるようになったことです。
SCHの活動に共感して、一緒に動いてくれる人が増えているのは、本当にありがたいですね。その過程で、参加者自身の意識に変化が生まれているのを感じられることが、僕たちにとっても大きな励みです。
一方で、規模が大きくなるほど、活動が本来のミッションから離れてしまうリスクもあると考えています。だからこそ、ハワイという特別な場所で活動する意義を常に再確認しています。この土地の文化や自然の価値を大切にしながら、コミュニティと活動の本質的な意味をしっかり共有していくことが重要だと考えています。
清掃活動の後は、フードあり、エンターテイメントありのイベントを行うことも。
————参加者自身が主体的に企画を立ち上げる動きも生まれているんですね。
最近では、参加者が自発的にビーチクリーンを企画したり、DIYスタイルでクリーンアップを行ったりする動きが増えています。「自分たちでやってみたい」という自主性は、何にも代えられない価値があります。その動きを尊重しながら、持続可能な形でサポートしていくことが私たちの役割だと感じています。
————ハワイの文化や自然に対する価値観は、SCHの活動や生活にどのような影響を与えていますか?
ハワイには自然と深く結びついた独自の文化があります。実は、「ハワイ」という言葉自体がその象徴なんですよ。
「Ha(ハ)」は息吹や生命、「Wai(ワイ)」は水、さらに「waiwai(ワイワイまたはヴァイヴァイ)」は「財産」や「豊かさ」というニュアンスがあります。つまり、水が豊かなこと自体が宝物とされているんです。ハワイアンの人々にとって、水は単なる資源ではなく、命そのもの。それが文化のルーツになり、自然と共存する考え方が深く根付いています。
僕自身もその文化に触れるなかで、自分の考えが大きく変わりました。以前は、水は蛇口をひねれば当たり前に出てくるものとしか考えていなかったんです。でも、水が命を育む源であり、僕たちはそれに生かされているのだと気づいたとき、自分の考えが変わりました。まるで、忘れていた大切なものを思い出させてもらったような感覚でしたね。
日本にも、かつては自然崇拝の文化がありました。でも、現代では経済の発展を重視するあまり、少しずつ自然とのつながりが薄れ、水が「命を育むもの」から「経済の基盤となる資源」に変わってしまった部分があると思います。ハワイでの経験を通じて、「本当に大切なものは何か」を改めて考えさせられました。
————まさにSCHの活動は、多くの人に本質的な豊かさを再発見させる取り組みですね。
本当に未来に受け継ぐべきものは、自然との共生やその恵みに感謝する心だと思います。その価値観を行動として示し、次世代に伝えていくこと。それこそが僕たちの活動の基盤であり、大きな目標です。
来迎さんが野菜などを育てているコミュニティファーム。
————ふだんの生活のなかで、とくに意識して取り組まれていることはありますか?
水に対する敬意を持つことを大切にしています。しばらく前から、コミュニティファームの一区画を借りて野菜を育てています。雨が降り、乾いていた大地が生命力を取り戻していく様子を見ると、自然の偉大さや恵みの力を感じますね。
————コミュニティファームを通じて、どんな学びがありましたか?
僕が参加しているコミュニティファームには100区画ほどの畑があって、僕はその一区画で野菜を育てています。小さなスペースですが、自分の手で野菜を育てるのは本当に学びが多いですね。作物が成長するには水が欠かせないこと、そしてそれがどれほど貴重なのかを身をもって実感しました。
こんなふうに、自然に触れられる場所がもっと増えれば、より多くの人が水や土地の大切さを実感できると思います。自然とのつながりを取り戻すことは、僕たち自身の価値観や暮らし方を見つめ直すきっかけになるはずです。だからこそ、こうした体験や価値を次世代に伝えていきたいと思っています。
「サステナブル・コーストラインズ・ハワイ」の陽気なメンバー。
————今後、どのような活動に力を入れていきたいと考えていますか?
今はSCHでの活動に加えて、HISさんとワイキキでサステナビリティをテーマにしたウォーキングツアーを開催しています。こうした取り組みを、日本をはじめ、さまざまな場所で展開していければと思っています。自分の住む地域を少し歩くだけでも、自然とのつながりに気づくことがあるかもしれません。
また、農業や教育の現場、さらには企業にも、循環を取り入れる意識を広めていきたいと考えています。例えば、廃棄物を減らし、素材を回収して再利用する仕組みを構築することや、自然の恵みを増やす工夫を取り入れるなど。利益だけを追求するのではなく、未来を見据えた持続可能な仕組みをつくることが重要だと思います。そのためにも、SCHや教育の場での活動を通じて、この意識や循環の輪を広げ、より良い未来に向けて貢献していきたいですね。
来迎秀紀/NPO団体 Sustainable Coastlines Hawaiiのメンバー。静岡県出身。コネチカット、フロリダを経て2013年にハワイへ移住。SCHにてビーチクリーン活動を始め、ハワイ諸島の学校やビーチクリーンなどのイベントにて環境保護の講師を英語と日本語で務める。オアフ島で多数の国際ビーチクリーンを企画・実行。日本大学のリサーチチームと海洋汚染について国際会議をまわりながら化学からみた廃プラ問題などの論文を発表し、水質・地質調査などを行いながら、日本語と英語にて環境保護・意識改革の活動を主に活躍中。
Sustainable Coastlines Hawaii Instagram:@sustainablecoastlineshawaii
来迎さんの散策ツアー(HIS)
写真/熊谷晃(一部本人提供) 取材・執筆/藤井由香里 編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)
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