豊かな自然と独自の文化が息づくハワイ。世界中から観光客が訪れるこの地では、美しい自然や文化を守り継承すべく、地域のNPO団体がさまざまな取り組みを行っている。そんなハワイ現地での活動2つを紹介する。
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エレミニスト編集部
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ハワイには、古来より「アフプアア(ahupuaʻa)」と呼ばれる、山から海までの土地をひとつの単位とした土地区分の概念が根付いている。アフプアアの区域では、自然と共生しながら土地資源を循環させて自給自足を行う仕組みがあり、山から流れる清らかな水が土地を潤し、豊かな農業と漁業を支えている。
この地で伝統的な主食として食されてきたのが、タロイモ(ハワイ語でカロ)だ。かつてはハワイ各地で盛んに栽培され、18世紀の終わりまでに300種類以上が栽培されていたとされる。
山の水が流れ込むタロイモ畑では、栄養豊富なタロイモが育ち、畦(あぜ)にはバナナが実るなど、自然の恵みが生活を支えている。海辺に近い浅瀬には古代ハワイアンによって「フィッシュポンド(養魚池)」が築かれ、川と海の水が混ざり合う場所で小魚が育てられ、地域の食糧供給を支えている。山の恩恵を受けることで豊かな農業と漁業が成り立ち、地域全体で生活に必要な食料と資源が循環しているのだ。
この精神を現代に引き継ぎ、タロイモ畑の復興を通じて自然環境の保全に取り組んでいるのがNPO法人「Kākoʻo ʻŌiwi(カコオ・オイヴィ)」だ。彼らは、山から流れる水がタロイモ畑を経て浄化され、清らかなまま海へと注がれることで、生態系全体がすこやかに保たれると考えている。水がきれいな状態で海に届かなければ、フィッシュポンドで魚が育たず、環境も損なわれてしまうだろう。
タロイモは葉も茎も食べられる無駄のない作物で、栄養価が高いことが特徴。すりつぶしてペースト状にした「ポイ」は、伝統的なハワイアンフードとして愛されてきた。現代においても、ハワイアンの家庭料理としてはもちろん、消化が良く栄養価が高いため、赤ちゃんの離乳食に活用されている。
タロイモはハワイの土地や神話との深いつながりを持つ大切な存在で、かつては主食として親しまれていたが、近年その栽培は減少していた。こうした状況を受け、カコオ・オイヴィはタロイモ畑を復興させるべく活動している。
2009年設立以来、約405エーカーにわたる湿地を保全し農地として再生するプロジェクト「Māhuahua ʻAi o Hoi (マフアフア・アイ・オ・ホイ、ホイの果実の再生)」を推進している。また、コミュニティワークデーや文化ワークショップを通じてタロイモの価値を地域に伝え、地域社会や経済の発展にも貢献している。
カコオ・オイヴィのメンバー、ナラニさん。ボランティア活動での指導を行っている。
約100年前には、この土地一面にタロイモ畑が広がっていたが、長らく放置され、雑草や雑木林が生い茂る状態となっていたという。一時期は日本人や中国人が移住してきたことで、タロイモ畑と稲作を同時に行う時期もあったというが、現在、少しずつタロイモ畑の復興が進んでいる。
「タロイモは、ハワイアンにとって土地との精神的なつながりを象徴する大切な存在です。タロイモ畑の復興を通じて、古くから受け継がれてきた知恵をコミュニティに広げ、実際に食卓に供給できる環境を増やしていきたいと考えています」と、カコオ・オイヴィのメンバーであるナラニさんは語る。
カコオ・オイヴィの理念は、ハワイアンの伝統的なライフスタイルの復興にある。農業的な観点から、地域住民やコミュニティに対する教育を行い、持続可能な生活のあり方を広めている。
そしてその活動には、地域住民から国内外の学生や観光客まで、幼児から高齢者に至る幅広い層が参加し、毎月約700〜1,000人がボランティアとして参加している。ボランティア活動はほぼ毎日行われ、年々参加者が増加しているというから驚きだ。
「タロイモ畑が復興しつつあるのは、ボランティアのみなさんの協力があってこそです。まだ手つかずの土地も多いですが、今後もみなさんの力を借りながら土地を整え、かつてのタロイモ畑を再生するために尽力していきたいと考えています」(ナラニさん)
自然とのつながりやタロイモの大切さを学ぶためには、実際にタロイモ畑でのボランティアに参加するのがもっとも良い方法だとも教えてくれた。
カコオ・オイヴィのメンバー、メリッサさん。
「ハワイに来たら、まずはその地に敬意を払うことが大切です。そして、ボランティアに参加するときは誠実な姿勢で活動に臨むこと」と、メンバーのメリッサさんは語る。
タロイモ畑での作業は泥だらけになる重労働だが、背景に広がるコオラウ山脈の絶景を眺めれば、自然や大地との深いつながりをはっきりと感じられて、疲れも消えていくだろう。
サステナビリティについて聞くと、こんな言葉が返ってきた。
「サステナビリティについて言葉を添えるなら、カコオ・オイヴィで私たちが行っている仕事に反映されています。それは、クプナ(ハワイ語で先祖の意味)から受け継いだ、その土地ならではの技術や知識を活用することであり、サステナビリティとは地球とそこに生きるすべての生命をリスペクトすること」
大地や地球への感謝と尊敬の念を忘れず、カコオ・オイヴィのスタッフたちは今日もタロイモ畑の復興に力を注いでいる。
ボランティアの参加方法
タロイモ畑での除草・植栽・収穫や、湿地での外来植物の除去、ハワイ在来種の植栽、水路の清掃などの活動を行う(ボランティアの参加はすべて英語対応のみ)。
白い砂浜とコバルトブルーが美しいハワイのビーチだが、実はプラスチックごみや空き缶が散見される。ハワイのビーチには、世界各地からごみが流れついており、東日本大震災の瓦礫までもが漂着しているという。海に流れ込むごみは多くの海洋生物やエコシステムを傷つけ、生物たちの命を脅かす存在となっている。
10月19日、カイムキエリアで開催された「SUSTAINABLE GHOSTLINES FESTIVAL 2024」の様子。およそ700名もの人が参加した大規模イベントとなった。
そうした環境問題に立ち向かうため、ハワイでは数多くのNPO団体がビーチクリーンアップなどの文化・自然環境保全のための活動を展開している。なかでも、「Sustainable Coastlines Hawai‘i(サステナブル・コーストラインズ・ハワイ、以下SCH)」は、地域に根ざしたNPO団体として、現地の人々とともに海岸の保全に取り組んでいる代表的な団体だ。
SCHの活動は、「行動(Action)」と「感動(Inspiration)」を柱に進められている。活動の根底には、ハワイの伝統的な「アフプアア」の概念が根付いている。山から海へと続く海岸線のつながりを大切に循環させるという思想のもと、具体的には大規模なクリーンアップ活動の実施、地元の子どもたちへの教育、地域住民向けの啓発キャンペーンなどを通じて、誰もが気軽に清掃活動に参加できるような取り組みを行っている。
また、オンラインメディアを活用して、海岸を美しく保つための意識を広げ、コミュニティ全体で海を守る啓発活動を進めている。
10月19日に行われたクリーンアップ活動は、川や街は海岸線の延長であるという考えにもとづき、海岸から数km程度離れたパロロ川とカイムキ周辺地域が舞台となった。
「SUSTAINABLE GHOSTLINES FESTIVAL 2024」と名付けられた一大イベントで、参加ボランティの数は約700名にものぼった。これだけ多くのボランティアが参加するというのも、ハワイならではと言えるかもしれない。
約2時間にわたるクリーンアップで回収したごみは推定2,300ポンド(約1043㎏)以上。リソース・リカバリー・プログラムにより、およそ70%のごみが埋立や焼却処分を避けて回収された。さらに、パロロ川沿いの外来植物を除去したところに、ボランティアの手で200本以上の在来植物が植えられた。
美しいハワイを未来へつなぐため、13年以上にわたって地域住民が一丸となって取り組む姿が多くの人々の心を動かし、少しずつその輪が広がっている。
SCHは他団体のビーチ清掃活動も積極的にサポートしており、「ごみの削減や海岸保全の必要性を人々に伝えることで、数千マイルも離れた海岸線同士のつながりを育て上げることができる」と信じて活動を続けている。
SCHの活動は単なる一日のごみ拾いにとどまらず、ごみの‟元栓”となるところから、ごみを減らす意識を広め、活動の輪を広げ続けている。清掃イベントへの参加はもちろん、カイムキにある事務所で清掃キットを受け取り、自分のペースでビーチクリーンに取り組むことも可能だ。
サステナブル・コーストラインズ・ハワイ メンバーの来迎さん。結婚式をきっかけにハワイへ移住後、SCHと出合い、2013年から正式参画。 これまでハワイの島々で多数のビーチクリーンを企画・実行。 学校での講義も行っている。
また、SCHは恵まれない環境にいる子どもたちへの教育支援も目指している。SCHの主要メンバーのひとりとして活動する来迎(きむかい)秀紀さんは、次のように語る。
「僕たちの活動資金は、奨学金や支援金が多くを占めています。現在は、地元の子どもたち、とくにTitleⅠ*指定を受けた家庭の子どもたちに無償で学びの機会を提供し、十分な教育を受けにくい子どもたちのための環境を整えています。ハワイでは地域ごとの教育格差が大きく、その差を少しでも埋めたいと考えています」
*アメリカの「小学校・中等教育法(ESEA)」に基づき、経済的に困難な地域の子どもたちへの教育支援を行う連邦資金プログラム。
サステナブル・コーストラインズ・ハワイ のメンバー。ハロウィン前だったため、仮装して参加した人も少なくなかった。
ハワイの美しいビーチを守り、未来の世代につなぐことを目指すSCHの活動は、清掃活動を超えた取り組みだ。ボランティアが主体となって行うクリーンアップ活動や、教育の機会に恵まれない子どもたちへのサポートなど、その多様な活動は、今後もハワイの自然と人々の未来を支える大切な取り組みとなっていくだろう。
「僕は、ハワイで地元の方々から多くの恩恵と学びを受けています。彼らの支えがあるからこそ、すべてに命が宿っていると尊敬・崇拝していました。この思いを、今後は日本にも届けたいと思っています。
日本もかつては自然とともに暮らし、すべてに命が宿っていると信じていました。今僕たちが直面している危機は、自然から遠ざかった生活がもたらしたもの。だからこそ、自然とのつながりをもう一度取り戻すことが、恵みがめぐるなつかしい未来につながるのではないかと思っています」(来迎さん)
クリーンアップ活動の参加方法
定期的なビーチクリーンアップを開催中。スケジュールはウェブサイトで確認可能で、オンラインで予約すれば誰でも参加できる。
背景に見えるのはコオラウ山脈。緑豊かな山々があるのも、ハワイの魅力だ。
本記事で紹介した「Kākoʻo ʻŌiwi(カコオ・オイヴィ)」と「Sustainable Coastlines Hawai‘i(サステナブル・コーストラインズ・ハワイ)」は、日本からもその活動を支援する方法がある。
ハワイへ行く航空券を選ぶ際、「JAL Mahalo運賃」を購入することで、運賃の一部相当額がハワイで環境や文化の保護に尽力するNPO団体へ、現地で自然保護活動の支援を行う機関「Mālama1(マラマ・ワン)」を通じて寄付される。冒頭で紹介した「アフプアア」の考え方にもとづき、今回紹介した2つの団体を含め、「海」と「陸」のカテゴリで3つの団体に寄付される仕組みだ。
JALはハワイ線を就航して70年もの歴史があり、ハワイと日本を結びつけてきた。そこでハワイ線就航70周年を迎えたことを機に、ハワイの豊かな自然と文化に感謝と敬意を伝える思いを込め、ハワイ語で「ありがとう」を意味する「Mahalo(マハロ)」の言葉をつけた、この取り組みを開始した。
ハワイでは、「自分たちの住む場所を自分たちで守ろう」という自然な意識が人々には根付いているようだ。
ハワイ州観光局は、訪れる人々が旅先の自然や環境を守る「レスポンシブル・ツーリズム」の実践を呼びかけている。これは、観光客一人ひとりが地域に与える影響を意識し、自らの行動に責任を持つことで、旅先の環境と社会を守る新しい観光のあり方だ。
とくに近年では、環境問題や住民とのトラブル、SDGsやパンデミックの影響から、世界の観光産業はレスポンシブル・ツーリズムの方向へ進む動きが広がっている。
観光旅行中にハワイでボランティア活動に参加するのは、現実的に難しいかもしれない。そんなときは、責任ある旅のスタイルとして、「JAL Mahalo運賃」を通じて支援するという方法を考えてみてはどうだろう。
取材協力:日本航空
写真/熊谷晃 取材・執筆/藤井由香里 編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)
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