ワシントン条約とは? 対象の動植物や背景について解説

アフリカゾウの横顔のイメージ

Photo by Matt Bango

野生動植物種の絶滅を防止し、それらの種の保全を図ることを目的とした「ワシントン条約」。本記事では、ワシントン条約の概要について簡単に説明しながら、保護の対象となる動植物の例や、条約採択の背景も紹介していく。さらに、その重要性と現状の課題についても言及する。

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2024.11.21
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ワシントン条約とは

ゾウの親子のイメージ

Photo by Joss Woodhead on Unsplash

ワシントン条約とは、開発や管理放棄による生息地の破壊や劣化などの人為的要因や、気候変動等のさまざまな要因により、野生動植物種の多くが絶滅の危機にあることを背景に、輸出国と輸入国とが協力して国際取引の規制を実施することで、野生動植物種の絶滅を防止し、それらの種の保全を図ることを目的とした条約である。

正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)」といい、米国のワシントンD.C.で採択されたことから、ワシントン条約という通称で呼ばれている(※1)。

採択されたのは、1973年(昭和48年)3月3日。1975年(昭和50年)7月1日に発効された。日本は、1980年(昭和55年)に条約を締結し、同年11月から発効。ワシントン条約は、先進国および発展途上国の多くが加盟しており、2023年11月時点で、183か国および欧州連合(EU)が締約国になっている(※3)。

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ワシントン条約の歴史や背景

象牙のイメージ

Photo by Pawan Sharma on Unsplash

ワシントン条約が生まれたのは、多くの野生動植物が絶滅の危機に瀕していることが背景にある。

野生動植物が絶滅の危機に瀕している要因のひとつが、人間による野生動植物の”過剰な利用”だ。食用として、ペットとしての利用のほか、ゾウの牙である象牙や、ワニやヘビの皮などを使った皮革製品のような衣類や装飾物としての利用などさまざま。

過去には何の規制もなかったことにより、アフリカでは角や牙を狙ったサイやゾウなどの大規模な密猟が横行し、その結果、これらの野生動物は大きく数を減らし、絶滅の危機が一気に高まることになった。

そこで、世界の国々は国際協力のもと野生生物の国際取引(国境を越えて行なわれる取引)を規制する国際条約を採択。それがワシントン条約である。採択時、この条約に署名した国は80カ国であったが、年々増加し、現在は180カ国以上の国々が加盟している(※3)。

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ワシントン条約の対象となる動植物

ジャイアントパンダのイメージ

Photo by Yu Wang on Unsplash

ワシントン条約の概要や背景を理解したところで、ここからは対象となる動植物について説明しよう。

保護対象の分類

ワシントン条約では、国際取引の規制対象となる動植物を、「附属書(Appendix)」に掲載。掲載している動物は、およそ5,950種。植物はおよそ32,800種である(※3)。

附属書は、絶滅のおそれの程度や必要とされる規制の内容に応じて、以下附属書Ⅰ~Ⅲの3つに区分(附属書Ⅰ~Ⅲ)されている。

附属書I

附属書Iには、絶滅のおそれのある種で、取引による影響を受ける、あるいは受けるおそれのあるものが掲載されている(※4)。

・商業目的のための取引禁止
・学術目的(繁殖目的を含む)の取引は可能
・輸出国、輸入国双方の許可書が必要
と定められている。

ジャイアントパンダ、アフリカゾウ、トラ、チンパンジー、クモノスガメ、アジアアロワナなどが該当する。

附属書II

附属書IIでは、現在は、必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅の危機のおそれがあるものを掲載(※4)。

・商業目的の取引は可能
・輸出国政府が発行する輸出許可書が必要
と定められている。

ホッキョクグマ、トモエガモ、カメレオン、ピラルクなどが該当する。

附属書III

附属書IIIには、締約国が自国内の保護のため、他の締約国の協力を必要とするものを掲載している(※4)。

・商業目的の取引は可能
・輸出国政府の発行する輸出許可書、または原産地証明書などが必要
と定められている。

ワニガメ(アメリカ)、セイウチ(カナダ)、ハナガメ(中国)、タイリクイタチ(インド)などが該当する。

保護されている動植物の具体例

ワシントン条約で保護されている動植物の具体例は以下の通りだ。

保護動物の例

ホッキョクグマのイメージ

Photo by Hans-Jurgen Mager on Unsplash

ワシントン条約で保護されている動物の代表的な例として、ジャイアントパンダやアフリカゾウ、トラ、チンパンジー、ホッキョクグマ、カメレオンなどがいる。

どの附属書に掲載されているかで規制は異なる上、2~3年に一度開催されるワシントン条約締約国会議において更新される(※4)。

保護植物の例

サボテンのイメージ

Photo by Jo Jo on Unsplash

保護されている植物には、ランやサボテン、シクラメン、フロリダソテツなどがある(※5)。

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ワシントン条約の規制内容と仕組み

ワシントン条約の規制内容と仕組みについて、詳しく説明していこう。

国際取引の規制

ワシントン条約の規制内容は、附属書によって異なる。

附属書Iにおいて、商業目的のための国際取引は禁止。学術目的(繁殖目的を含む)の取引は可能であるが、輸出国・輸入国双方の政府の発行する許可証が必要だ。

附属書IIでは、商業目的の取引は可能だが、輸出国政府が発行する輸出許可書を必要としている。

附属書IIIでも、商業目的の取引が可能で、輸出国政府の発行する輸出許可書、または原産地証明書などが必要である(※4)。

ワシントン条約と国内法の連携

実は、ワシントン条約に加盟したからといって、加盟国に何かの規制やルールが自動的に発効するわけではない。

ここからは、各国がワシントン条約を国内法に反映させ、具体的にどのように取り締まりを行っているかを解説していく。

日本の「種の保存法」との関係

日本では、国内外の絶滅のおそれのある野生生物の種を保存するため、平成5年4月に「種の保存法(正式名称「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」)」を施行。種の保存法では、国内に生息・生育する、または、外国産の希少な野生生物を保全するために必要な措置を定めている(※6)。

種の保存法では、ワシントン条約附属書I掲載種等を「国際希少野生動植物種」として施行令で定め、その譲渡し等について規制している(※7)。

他国の国内法の例

アメリカでは、輸出入ついてはワシントン条約実施規則で規制しており、これとは別にEndangered Species Act(ESA)で国内流通を規制している。

ESAでは、Endangered と Threatened の2つのカテゴリーが設けられており、ワシントン条約附属書I〜III掲載種から対応すべき種を独自に抽出し、各カテゴリーに指定。Endangered については、国内や公海上での取得の禁止、違法に取得された種の所持や販売等の禁止、商業目的での州間の輸送の禁止等が定められている。また、Threatenedについては、必要な規制を内務長官が指定することとされている。

そのほか、カナダ、EU、オーストラリアでは、輸出入および国内流通を1つの法律で規制を行なっている(※8)。

違反した場合の罰則

ワシントン条約に違反し、規制対象となる生き物や製品を他国に持ち出したり持ち込もうとしたりすると、条件を満たしていない場合、税関で差し止められ、罰則を課せられる。

ワシントン条約の締結国は、自国内での対象種の輸出入規制に対し、ルールや罰則を整備することが求められており、日本からの輸出、日本への輸入に際してのワシントン条約に違反した場合は「外国為替及び外国貿易法(外為法:がいためほう)」が適用される。

ワシントン条約に違反した輸出入は、個人の場合は懲役1年以下または100万円以下の罰金、法人の場合は2,000万円以下の罰金。また、税関で申請・監査を受けずに輸出入(密輸入)が発覚すると、個人の場合は懲役5年以下または500万円以下の罰金、法人の場合は1億円以下の罰金が課せられる(※4)。

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ワシントン条約の重要性と課題

ワシントン条約の重要性と課題についても見ていこう。

生物多様性の保護に果たす役割

1976年に第一回の会議が開催された、ワシントン条約の締約国会議では、これまでに数々の重要な決議が行なわれてきた。たとえば、1989年には象牙目的の密猟を食い止めるため、アフリカゾウを附属書Ⅰに掲載。2013年には、フカヒレとして消費されるヒレの過剰な取引の懸念からヨゴレなど5種のサメを附属書Ⅱに掲載した。また、2019年には日本への密輸も問題となっていたコツメカワウソが、附属書Ⅰに掲載されるなど、そのときの状況に応じて内容が更新されてきた(※3)。

地球上の生物は、およそ40億年にもわたる進化の歴史でさまざまな環境に適応し、現在、世界で確認されている生物だけでも約175万種、未知の種も含めると500~3,000万種が生息しているといわれている。

地球の豊かな自然は、すべての生き物が影響し合い支え合っており、ある生き物が急激に減ってしまうと、その生き物に影響を強く受けていた生き物にも影響を与え、それが連鎖して生態系全体に影響を与えてしまう可能性がある。

これまで多くの動植物が絶滅してしまったが、一度失ってしまうと、人の手ではつくり出すことはできず、二度と元に戻すことはできない。それを防ぐためには、ワシントン条約をはじめとする国際取引の規制が非常に重要なのだ(※4)。

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現在の課題と問題点

地球温暖化のイメージ

Photo by Roxanne Desgagnés on Unsplash

ワシントン条約が誕生した20世紀後半、野生生物を脅かしていた大きな原因は、密猟や過剰な捕獲、生息環境の破壊、そして外来生物の影響であった。しかし現在ではそれらに加えて、地球温暖化、すなわち気候変動による影響も原因のひとつとなっている。密猟や乱獲を防ぎ、生息地の森や海を守ることなどに加えて、気候変動を食い止めるという活動も大事な要素となったのだ(※9)。

それだけでなく、ワシントン条約の規制が強化されているにもかかわらず、野生動物を絶滅の危機にさらす密猟はいまもなくなっていない。さらに、密猟で得た動物が違法取引されていることも問題である。

そのほか、日本においてはワシントン条約の規制以前に輸入された大量の象牙が海外へ不正輸出されているという問題が発生。さまざまな手口やルートがあり、取り締まりがむずかしいことが問題視されている。

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ワシントン条約だけに頼らず、できるアクションを

多くの動植物が絶滅の危機にあるなかで、ワシントン条約は生物多様性を守るためのひとつの防波堤になるだろう。しかし、まだ問題や課題はなくなっていないのが現状だ。大きなアクションを起こすことはむずかしいが、要因のひとつである気候変動問題は、個人単位でもすぐにアクションを起こせることがある。まずはいま起きている問題を知り、ワシントン条約だけに頼らず、自分にできる行動から始めてみよう。

※掲載している情報は、2024年11月21日時点のものです。

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